「ごちゃごちゃと……たかがウロボロス風情がァッ!!」
メビウスの足が地面を蹴り宙へと跳び上がる。脇と思しき場所から触手が伸びてくる。
タイオンがモンドで壁を作り触手を防ぐ。触手が弾かれたと同時に他の五人が一斉に駆け出す。
ノアがエアスラッシュで一撃喰らわせ、続け様にソードストライクで崩しを与える。メビウスの重心がブレた一瞬にランツが顔面目掛けてヘヴィチャージを放った。体勢が大きく崩れ、オーの顔面側から地面に衝突した直後にセナのプレッシャードロップが地面を叩いた。ただでさえ巨大なセナの
何が起こったのか分からないようでメビウスが宙で
目も思考も追いつかない速度で地面にぶつかる。土煙が舞い、地面の亀裂が更に広がる。
「オイラのッ、絶対防御を舐めるんじゃ……!」
オーの戯言など聞いてやる暇はない。ウロボロス・ノアが地上に着地したと思ったら、今度はファントムスラッシュで薙ぎ払い再び大きくメビウスの軸をぶらした。
ピーとオーの短い悲鳴が漏れる。
ウロボロス・ランツのサドンインパクト、直後にウロボロス・ミオのシャイニングハイローが炸裂する。攻撃そのものとアーツの効果で恐らくメビウスの意識は僅かといえど確実に飛んでいる。
トドメと言わんばかりにウロボロス・タイオンの土蜘蛛がメビウスを襲う。無抵抗のままメビウスは大きく吹き飛び地面を転がっていく。
それでもメビウスの頑丈さはやはり厄介だ。まだ立ち上がりこちらを忌々しげに睨んでくる。ウロボロス・ミオ、セナ、ユーニが入れ替わり立ち替わりで、三方向から攻撃を途切れさせないように襲いかかっていく。
オーは防御が得意らしく、範囲は小さいが硬いバリアを張りウロボロスの重たい攻撃を凌いでいる。確かに優秀な守りだが、代わりに防御に専念する事となりピーからの攻撃が全く放てない。ウロボロスを一度離そうと腕を広げ大きく横回転するが、それも焼け石に水だ。回転後の硬直を付き、ミオがピーの顔面に膝蹴りを加える。逆側からはユーニの射撃が執拗にオーの顔面目掛けて放たれ続ける。
腕を地につき立ちあがろうとしてもセナのハンマーがメビウスの左側から振られる。辛うじてガードを間に合わせるがセナはそこで引く選択肢を取らない。腹の底から、ランツの想いと重なった雄叫びを上げてオーのバリアを破壊しそのままオーの頬へとハンマーを振り抜いた。
「隠れた方がいいと思いマスも!」
「そうも! リク達じゃデカいの飛んできたら防ぎきれないも!」
トワの足元でリクとマナナが叫ぶ。現状、飛んでくるのは小さいな火花ばかりで怪我を負うほどではない。この目で戦いを見て皆を信じたいのもあるが、それよりもここから離れてはいけない理由がトワにはあった。
「リクとマナナは隠れてて。ボクはここにいる」
「何言ってるも!」
「エセルさんとカムナビさんの粒子を取り戻す」
「も……!」
あんな奴らの中に二人を閉じ込めたままなんて絶対に嫌だ。狙うのなら皆がメビウスを叩きのめし、奴らが消滅する寸前しかない。だから、その一瞬を逃さない為にもここから離れる訳にはいかない。
「みんなの想いが分かるんだ。絶対にメビウスを
「それはリク達も同じも!」
「そうじゃないんだ」
怖くなかった。どんなに激しい攻防が繰り広げられていても、絶対に自分は無事だという自信があった。自惚れじゃない。響いてくる。皆の想いが、声が。
「みんなの声が聞こえる。ボクの中に響いてくるんだ」
コロニーラムダの時と同じだ。理屈は分からないがノア達六人の想いが流れ込んでくる。全員の怒りがメビウスに向けられているのが本当の感覚として伝わってくる。
ノア達の想いが分かるのなら、逆もきっと起こっている。コロニーラムダでも届くわけが無い叫びにノアとミオが答えを返してくれた。今ならばトワがエセルとカムナビの粒子を取り戻したい事も伝わっている。だから攻撃の余波やメビウスの攻撃そのものを向けさせないように立ち回ってくれている。皆がここにいる事を許してくれている。
これが今この場でのボクの戦い方だ。
不意にウロボロス達の攻撃を喰らうピーと視線が合った。直後、笑ったのも。
ピンと張られた触手が伸びて来る。トワ達を先に始末してウロボロス達の動揺を誘う魂胆なのだろう。
咄嗟にリクとマナナを抱え込んだ。縮こまる二人を強く抱きしめたままメビウスから視線を外さない。死に際の細やかな抵抗に見えるかもしれないが全く違う。
全部、聞こえてるから。
触手が届く寸前、前方に白い壁が出現した。メビウスの驚きの声がしたがそれもすぐに途切れて悲鳴に変わる。目では見えないが、再びミオがピーの顔面に膝蹴りを喰らわせた。
首を上に向ければウロボロス・タイオンがそこにいる。人間の状態とは違って表情がある訳ではないが、頷くタイオンとウィンクするユーニの顔が見える気がする。
ピーと視線が合った瞬間に広がったトワの意識をユーニが拾い、即座にタイオンへ主導権を切り替えたのだ。あとはメビウスの攻撃を防ぐ為にモンドを展開すれば良いだけ。その思考が伝わっていた事を理解していた。そして何より彼らを信じていたから。
不思議な感覚だった。まるで六人それぞれと繋がっているみたいだ。
負ける未来は視えない。メビウスの攻撃は誰にも当たらないし、ウロボロスの攻撃はメビウスを捉え続ける。
オーは情け無い声を上げ、ピーは何かの音に苛立ちを見せ始めた。時間切れとか何かを言っているが逃げ出す気配は見えない。
「こうなったらインタリンク全開よ!」
メビウスが叫び出す。コアの輝きが増し、エネルギーが両の腕に集約されていく。強大な一撃を放とうとしているがただ突っ立ってエネルギーを溜めているのは格好の的だ。
またしてもミオの蹴りがピーの顔面を蹴り飛ばす。終わらせないのはウロボロス達だって同じだ。
「あぁぁぁ!! ウロボロス如きに! メビウスがァァッ!!」
空気が変わった。エネルギーの集約は続いているが、大気の流れまでもがメビウスに吸い寄せられている。エネルギーというより最早黒い霧に似た何かが発生している。
「おい! やばくねえか!?」
「ノア! 何かがおかしい!」
ユーニとタイオンの言う通りだ。明らかに様相が今までと違う。
ウロボロスへ呪詛を吐きながらにじり寄ってくるメビウス。歩くたびに足元の空間が歪み、そこからまた黒い霧が生まれていく。
集約されていた何かが突如、爆発したかのように拡散した。
衝撃に腕で顔を覆ったのも束の間。広がったと思った衝撃は今度は一点に、またメビウスのコアへと吸い込まれていく。空気も石ころも、人もウロボロスさえもゆっくりと吸い寄せられる。
「何、これ!?」
メビウスもこの状況を理解できていない。ただ事実として今目の前で起きているのは、以前に見たのと同じ黒い霧が発生している上に集約しつつある光景だ。
消滅現象の前兆だとタイオンが理解した。
「ノア! ここにいたら巻き込まれる! 急いで退避を!」
「っ、いや! 駄目だ、間に合わない!!」
ウロボロスの脚力であれば十分な距離を確保出来るはずだが、黒い霧は尋常ではない速度でその濃度を増していく。消滅現象がいずれ起こるなど悠長な考えではいられない。直感的に分かる。もう、今すぐにでも起こってしまう。
舌打ちしながらセナから主導権を切り替えたランツがインクレディブルガードを展開し、全員の命を守り切る姿勢に入った。タイオンもモンドを壁として展開したが、ノアとミオだけは別の方法を実行しようとした。
その考えがトワにも伝播した。
「待って!」
飛び出そうとするノアとミオへ叫ぶ。
「ボクも連れてって!!」
危険だと必死に止めるリクとマナナをランツの後ろへ預けて飛び出す。二人の気持ちは分かるし大切にしたいけれどこれだけは譲れない。
時間はない、もう今しかない。
二人なら、やりたい事を理解しているはず。
「……ああ、分かった!」
「掴まって!」
ウロボロス・ミオが左手でトワを抱え込む。その大きな手を強く強く握った瞬間にミオが全速力で地面を滑っていく。息が出来ないくらいの風圧だが文句など言ってはいられない。そのまま助走をつけメビウスの十メテリ程手前で跳躍、頂点でインタリンクの解除、続け様にノアがラッキーセブンを抜刀する。
「メビウスは俺達が!!」
「トワは二人を!!」
ノアとミオがラッキーセブンの切先を下へ向け、二人で柄を握る。
トワも
落下していくノアとミオ。濃くなる黒い霧。
メビウスの中にある命の粒子をこのまま奴らと共に消滅させてなるものか。
ぐっと胸を引っ張られる感覚。落下する速度が少し増す。
——見つけた!
伸ばされた手を掴み、そのまま引き上げるイメージで奏で続ける。
ばきり。メビウスの装甲の一部が割れる。そこから漏れ出た赤い粒子は一直線へ
時間にして五秒も経たずメビウスからの粒子の流出は消え、同時にラッキーセブンが地面へと突き刺さった。突き刺さった箇所から亀裂が走り、蓄積されていたダメージによるひび割れへと繋がってメビウスのいる地面が砕けた。
トワには聞こえているし信じているが、眼下に広がる地面のない光景は恐ろしい事に変わりはない。それでも目を閉じずに顔を上げ彼らの方へ視線を向けた。瞬間、飛んできた大量のモンドがトワを球体状に包み込んだ。視界は遮られるが感覚で即座に崖際から離れていくのが分かる。
耳に飛び込んできたのはメビウスの悲鳴、そして今まで聞いたことのない爆発の轟音。反射的に耳を塞ぎ、体を丸めて力を入れた。消滅現象による衝撃が収まるまでとにかく耐える。力を一瞬でも抜けば眼球や心臓までもが飛び出してきそうだった。
少しずつ衝撃が弱まり、ある一点で急にその全てが消えた。困惑するが数秒の内に地面へ触れる感覚と共にモンドがゆっくりと消滅していく。
最初に目に飛び込んできたのはミオを庇うようにして地面へ伏せるノアの姿だった。
「ノア! ミオさん!」
状況の確認なんて考えられず、トワは立ち上がり二人の元へと走った。ウロボロス・ランツ、タイオンもインタリンクを解いて駆け寄る。リクとマナナも傷一つ見当たらない。ランツが守り切ってくれたようだ。
「っ、助かった、のか?」
ノアがゆっくりと状態を起こし、ミオに手を貸す。良かった、みんな生きている。大きな怪我も無いようでほっと一息、胸を撫で下ろした。
トワは駆けた勢いのままミオに抱きついた。ミオが小さく驚きの声を漏らし仰け反るが、後ろへ倒れ込みはせずに咄嗟にトワの背へ手を回し受け止め切る。
「ありがとう……! ボクのやりたい事、分かってくれて、それに、無事で本当に良かった……!」
「私こそありがとう。私達みんなを信じてくれて、二人の想いを取り返してくれて」
崖を切り落とす判断を咄嗟に下したノアも、それを瞬時に理解し協力したミオも、消滅現象の余波に巻き込まれないように二人を守り切ったランツたちも。全員が最善を尽くそうと力を振り絞ったから誰一人欠けずに今ここにいられる。
しかし、エセルとカムナビの命が戻ってくる訳ではない。ここにあるのは二人の粒子、想いだけ。
「……ミオさん、ノア。二人を、エセルさんとカムナビさんをおくってあげて」
ミオから離れたトワが握った笛を差し出す。笛からは赤い粒子がちらちらと舞っている。まだ何処へも行かずに笛の中に留まっている。
「トワはいいのか? 三人でおくるって言っただろ」
「ボクは大丈夫。二人の想いを引っ張る時にもう沢山乗せられたから。それにボクが演奏しちゃったら、ボク一人でおくっちゃうみたいだし。だから、お願い」
「でも……」
ノアは僅かばかり怪訝そうにしていたが、ミオはトワの言葉に素直に頷いた。
「分かった。……想いは私達全員のがちゃんとあるから大丈夫だよ」
「ミオがいいなら……」
「じゃあ決まり」
ノアの手には祈神の笛、ミオの手には聖神の笛がある。交換してから初めて見る二人のおくりの演奏。ノアには黒が、ミオには白が似合うのは確かなのに。何故だろうか、逆になっても自然とそこに収まっている。
響き出す音色はいつもの通りだ。指の動きから旋律の担当も逆になっている。ただ笛を交換しただけではなく、お互いの音も託されている。
ノアとミオのおくりへの想いで粒子が赤から白へと変化していく。笛にある粒子だけでなく、決着の瞬間で止まったままの鉄巨神からも白い粒子が溢れ出ていく。
命の粒子は人の想いそのものではないか、と以前に語った。肉体そのものの粒子は
願わくば己の戦道を歩き抜いた二人が安らかに眠れるように。
——あれ、そういえば。
おくりの粒子の色って白だったっけ。