神笛と永遠と   作:坂野

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 ノアとセナが飛び出した。セナが叫びながら大きく槌を振り上げ女王の意識を引く。その一瞬を突きノアが女王から向かって左斜め前にエアスラッシュを放った。

 だがノアの攻撃も、遅れて振り下ろされたセナの攻撃も女王には届かない。二人の攻撃は女王の目の前で何かに阻まれてしまう。見れば女王の前方にもトワを囲っている壁と同じ物が展開されている。

 攻撃を防がれたと理解した二人は着地と同時に左右に散り距離を取る。女王の視界が開けた直後にミオが双月輪を投げ、ユーニがスプラッシュブラスト、ランツがヴァリアブルタレットで追撃する。しかしそれも同じく壁に防がれてしまう。

 悔しさに歯噛みする暇もなく今度は女王が杖を掲げた。土の色をしたエーテルである地のエレメントが召喚され、ミオに向けて放たれた。弾き返された双月輪を掴み取った僅かな硬直と重なってしまい、回避に長けたミオでもエレメントを喰らうのは確実だ。地の力を持つエーテルは毒となり身体を蝕む効果がある。エーテルそのもののダメージと毒の苦しみを覚悟してミオは強く目を閉じた。

「ミオ! こっちへ!」

 タイオンの叫びで目を開いた。後ろを振り向く前に認識したのは眼前に広がるモンドの壁だ。後方で全体を把握していたタイオンがミオを的確に守ってくれた。

 タイオンの指示の通り彼の元へミオが走る。ノアとセナにも一度下がるように指示が下り、一度全員が集合する。

 

「あの壁……エーテルプロテクションと言ったところか。あれがある以上、僕らの攻撃は女王へ届かない」

「壊せる可能性は?」

「生半可な力ではまず不可能だろう」

 タイオンとノアを中心に突破口を探す。基本的に広く展開される防御壁は広範囲を防げる代わりにその耐久値は低い。しかし先程の攻撃でそれの基本は覆されている。流石はケヴェスの女王の力と言ったところか。

「同じところを何回も叩くのは……? 私のハンマーなら出来ないかな?」

 セナが柄を握りしめる。表情と声から何としても皆の役に立ちたい感情が伝わってくる。他の攻撃よりも可能性が高いこと、セナの気持ちを蔑ろに出来ないことを踏まえてタイオンがその提案を許諾した。

「それでいく。セナはとにかく一点、女王の真正面よりは少し離れた点を徹底的に攻撃し続けてくれ。他はセナの援護、ミオとノアは攻撃自体は続けてくれ。女王の注意の分散にもなる」

 作戦を把握し、セナを先頭として再び飛び出す。

 良くも悪くも真っ直ぐなセナの迫力と攻撃は女王と言えど完璧に無視するのは難しいらしい。大きく飛び上がったセナに向けてエレメントを射出しようと杖が振られるが、ミオがその視界を防ぐように立ち回る。エレメントを弾きつつ女王の視線を自身に繋ぎ止めようとグロウサークルで一時的にでも気を引く。

 一発壁を殴るごとに離れ、助走をつけて同じ箇所をセナが叩く。数回も繰り返せば女王も此方の作戦を理解しただろうが動きに変化はない。破られない自信があるのか、破られたとしてもまだ他の策があるのかは不明だが動揺の類は全く見られない。

 

 何度目かの打撃で感覚を掴んだのかセナが槌を壁へと押し込み続ける。

「おおぉりゃぁぁぁアァ!!」

 驚異的な力と強い集中で力を与え続ける。しかしその集中力が仇となった。

「セナ!!」

 ミオの悲鳴に近い叫びに顔を上げた時にはもう遅かった。

 セナ自身が理解する前に走る電撃の痛み、攻撃が当たった衝撃で左後ろへと飛ばされて身体が宙に舞う。

 女王の放つエレメントの内、雷のエーテルは純粋な攻撃に特化した物だ。威力も射出の速度も他のエレメントより高い。そうだとしても作戦の通りであればセナにまで攻撃が届くことは早々ない筈だったのだが。

 セナに攻撃が当たる直前、女王の攻撃を弾いていたミオと援護をしていたノアに風のエレメントが放たれていた。大きなダメージには至らなかったが、風の余波により二人とセナの距離が強引に開かれてしまった。二人が地面に足をつける前に女王は雷のエレメントを召喚しセナへと放っていた。

 数秒にも満たない行動であり、タイオンのモンドでも防御は追いつかなかった。地面を転がったセナにユーニが駆け寄りすかさず回復を行う。

 女王がそれを見逃す筈もない。今度はセナとユーニに向けて氷のエレメントを放つ。

「セナ! ユーニ!」

 地面に足を付けたと同時にミオが駆け出す。自分の脚力であれば間に合うと強く地面を蹴ったが、ミオが手を伸ばすよりも女王の判断と行動の方が速かった。

 ミオが自分の視界の右側に赤い光を捉えて熱を感じたと思った瞬間、右の脇腹に炎のエレメントが当たり爆発を起こした。

「ミオ!」

 ノアの肝が冷えた。自分が傷つく分には良い。けれど仲間が、ミオが倒れるなどと考えるだけで脳が揺れる感覚に襲われる。女王の追撃をノアが弾き、ミオに手を貸してその身体を起こす。

「ごめん……ちょっと油断しちゃった」

 爆風の割にダメージは少なかった。当たる直前に身を捻りダメージを可能な限り減らし、受け身も上手く取れたようだ。ミオ以外だったら下手をすれば戦闘不能にまで追い込まれていただろう。それ程にノアから見たあの攻撃は強力且つ的確だった。

「それよりセナとユーニは!?」

「大丈夫だ、ランツが割って入ってくれてる」

 ノアの指した方ではランツがシールドを展開して女王の攻撃を防いでいる。そう簡単に破られはしないだろうが、女王の苛烈な攻撃は一切の容赦がない。

 

「こうなったら……」

 ノアがヒドゥンソードを腰に当て構え直した。

「待って! 相手は女王だよ、そんな事……!」

 ミオが止めるがノアは首を横に振った。もうこれしか、魔剣ラッキーセブンを抜刀して斬るしかない。

 だがその鋭すぎる切れ味は不安でもある。エーテルプロテクションのみを破壊できれば良いが、下手をすれば女王の身体ごと真っ二つだ。いくら今敵対しているとはいえ、ケヴェスの長を斬ってしまうのはとんでもないことになる。

 

「……取り引きをしよう」

 口を開いたのは執政官だった。今の今まで女王の攻撃に加勢もせず、隣でただ戦闘を無言で見つめ続けていた彼が突如として喋り出した。

「取り引き、だと……?」

 答えたのはタイオンだった。戦場に置いて珍しい話ではない。敵に対して何かしらを見返りとして自分達を逃すように頼む例は幾らでもある。そしてその結果は大概良い方向には向かわない。

 取り引きの内容くらいは聞くつもりだが、それに乗る気はタイオン以外も含めて全くと言っていいほど無い。

「誰がお前達六人と(・・・)、などと言った?」

 

 静かに執政官が右の手で指したのは、ウロボロス達六人よりも後ろ。

「神奏の。お前だ」

 女王の拘束に囚われたままのトワだった。

「お前が己の意志でキャッスルへ戻るならばウロボロス達六人を見逃そう。無論、そこのノポンもだ」

「な……!」

「乗るな! どうせ逃がした直後に背後から撃ち抜きでもする気だ!」

 取り引きと言いつつ有利な立場は女王と執政官側だ。上手い話で釣り、内容の穴を利用して此方側に一切の利など最初から与えるつもりなどない。そんな悪意は鈍い者だろうと簡単に見抜ける。

「信頼ならぬのならばもう一つ条件をつけよう。逃げた後二ヶ月はキャッスル及び他のコロニー、メビウス、この全てはウロボロスに一切手を出さない。……どうだ?」

 首の拘束が僅かに緩む。未だ苦しいのに変わりはないが、喋るのは問題なくできるくらいには弱くなった。

 

 都合が良すぎる。手を出さないのもそうだが二ヶ月は短いように見えて、ミオの命の残り時間と同じだ。もしメビウスがウロボロスに本当に手を出さなければミオは確実に十年の命を全うできる。

 

 皆が口を揃えてやめろと叫んでいる。乗るな、口先だけだ、執政官の言葉など信頼できない、約束など簡単に破棄できる。

 皆の言う通りだと思う。エセルとカムナビを使い潰したように奴等は人の命を何とも思っていない。そんな者が本当に手を出さないなど到底思えない。頭では理解しているのだ。

 しかしほんの僅かでも約束が果たされる可能性があるのならば、今ここでウロボロス達、リクとマナナを逃す判断を取った方がまだ良いのではないか。このまま戦っていても逃げる前に負けてしまう可能性の方が高い。

 

「この場で全員が倒れるか、お前一人の犠牲で他の全てが助かるか。

 分かるだろう、神奏の。武器(ブレイド)も出せず戦えもしないお前にやれることくらい」

 足手纏いなら最後くらい役に立て。

 

 自分一人の犠牲で済むならば、自分の命の使い道は。

 ずっと守ってくれた皆への恩返しが出来るなら。

 心臓の鼓動がうるさい。

 頬を伝う汗の感覚すら邪魔くさい。

 浅い呼吸の音が思考を掻き回してくる。

 執政官は表情を変えずにトワを見据えたまま。でもその目にはトワがここに残る選択をする確信の色も見える。

 

 バレバレだよな。ボクみたいな弱い人の考えなんて。

 だからこそ言うんだ。自分の声で執政官に、仲間に。

 

「——断る!!」

 

 執政官の目が細められる。仲間達が驚きと喜びの両方の息を漏らす。

「足手纏いで邪魔ならボクはとっくに置いていかれてるんだ! でも違う! みんなはボクをここにいさせてくれた、戦い以外の道を作る為に隣に置き続けてくれた!」

 はっきり言われたから。いてくれて良かったと、役に立たないなんて事はないと。

 

 それだけではない。"残された側"の気持ちも知ってしまったから。

 ナミに助けられたタイオン、ヨランに命を救われたランツ、ミヤビに全てを託されたミオ。今の彼らは背負って生きていく覚悟を決めたり、乗り越えようと足掻いて生きている。けれどその過去を話す時は誰もが悲しい顔をしていた。悔しくて、苦しくて、生きることさえも迷いかけたとても大きな感情だ。

 今この場で彼らを助ける為に自分が犠牲になってその場をやり過ごせてもその後はどうなる? 犠牲を出してしまえば優しい彼らは心を痛ませ続けるだろう。己のせいで。

「ボクは、ボクのせいでみんなに悲しい顔をしてほしくないんだ!!」

 自分が離れるのは彼等から明確に要らないと告げられた時でいい。告げられたらその時は潔く去るから、どうかその時まで傍にいさせてほしい。

 

「よく言ったぜ!」

 ランツが踏み出してエーテルプロテクションへ一撃を与えた。未だにびくともしていないが、ランツの表情は晴れやかだった。

「犠牲なんて出させねえよ! 全部守ってやる。その為の防御役だ!!」

「ああ! アタシ達の力はきっとそういうモンだ! 犠牲も要らねえ、誰かが死ぬ戦いだって終わらせてやろうぜ!!」

 ランツに続いてユーニも連続でエーテル弾を撃ち出す。

 ノア、ミオ、タイオン、セナ、リクにマナナも笑っていた。

 ずっとボクはみんなに救われっぱなしだ。

 

「……良いだろう。撤回は認めん」

 エーテルの荊がまたトワの首へ巻きつく。それに留まらず口元までも覆い隠してきた。もう後戻りはできない。

「ならば、その選択が誤りだったと後悔するといい。何も出来ずに死に往く仲間を己の眼に映し、女王陛下の元へ帰ってこい」

 執政官の言葉を合図として女王が杖を掲げると、今までのエレメントの中でも一際巨大な火球が出現する。遠くからでも伝わってくる膨大なエネルギーから、ランツとタイオンの防御壁でも防ぎ切るのは難しいだろう。

「……俺が火球を斬る。そのまま壁だけを破壊する」

 女王と執政官に聞こえない声量で呟き、ノアがラッキーセブンに手をかけた。着弾のギリギリまで引きつけてそのままエーテルプロテクションも破壊する算段だ。

 ノアなら出来ると信じているが、万が一に備えて即座の防御と回復が出来るように他の皆も武器(ブレイド)を構え直す。

 集約するエネルギーは止まらない。腹の底に力を入れる。覚悟は決まった。

 

 しかしその作戦は遂行されなかった。

 杖を掲げていた女王の関節から火花が散り出したかと思えば、とても人間とは思えない動きを始めた。あんなの人間と言うよりは寧ろ——。

 

 からん。

 

 常に顔を隠していた女王の仮面が外れ、床にぶつかり軽い音を響かせる。ケヴェス兵ですら初めて見る女王の素顔に当人たる女王と執政官を除き、全員が驚愕する。

 

俺達(ケヴェス)の女王が……」

「機械!?」

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