「"瞳"に別の
その通りである。
「だから別のデバイスを中継点にする。"瞳"から
肝心の中継デバイスだがサイズとしてはかなり小さい。指の先に乗る程で、ビーズ一粒くらいのサイズしかない。
普段から身につけている物に埋め込む形を取りたいとセインに頼まれ、トワはバレッタを提示した。裏面なら目立たず邪魔にもならないから軽く削って固定する方式を取る。
「そしたら俺作業するからさ、座って待っててくれ」
セインが引っ張り出してきた折り畳み椅子を広げて、作業机から少し離れた位置で座る。
「待ってんのも暇だろうし、俺のお喋りにでも付き合ってくれよ。適当に相槌打ってくれりゃいいから」
そう言うとセインは手を動かしながら、少し悩むような声を漏らしてからまた喋り出した。
この人工
「俺さ、それ出来ねぇの」
セインの瞳には不具合があった。彼には彼自身の
但し一種類としか接続出来ない。初めから持っている物しか武器として扱えない。故に自分で完成させたは良いが簡単に持ち運べない。
更にもう一つ、戦闘においては致命的な欠陥が存在した。顕現させようと起動しても必ず成功する訳ではなかった。一回で成功する時もあれば、何度やっても抜刀できない時もある。咄嗟の時に必ず抜刀できないのは戦場においてあまりにも危険である。
中継デバイスも元はセインが自分の為に作った物だった。けれどやはり人を斬れない剣を持って戦いに赴く訳にもいかなかった。
だから別の誰かを待たなければならなかった。自分の代わりに剣を持っていってくれる人を探してきた。
「幸い、俺はこうやって機械に強いから整備面で貢献はしてる。オーツ家は技術屋の家系だからな」
「確か始祖は
「……表向きは、な」
セインの声が少し低くなる。けれど先程のような怒りやもどかしさではなく、どちらかと言えば寂しげな色を含んでいた。
「オーツ本家にだけ伝わってる事がある」
作業の速度を落とさずにセインは語り続ける。
「オーツ家の始祖は
オーツ家は先祖から代々「偏見を持たずに、使えるモノは何でも使え」と教わってきた。技術者として知識に貪欲であり続けるだけでなく、必死にこの世界で抗って生き続けた始祖の想いも受け継がれてきた。
「始祖の影響か知らんけど、オーツ家には何十年かのペースで"瞳"に機能不全を起こすやつが生まれる。俺もそうだ。……君よりは軽いけど、少しは君の悔しさが分かるつもりだ」
だからトワが人工
「今の話は内緒な、始祖と同じ君だからつい話しちまったけどオーツでも分家は知らない話だからな。他の六氏族当主にだって教えてねえし、モニカおばさんも知らないだろうよ。
——さぁて、出来たぜ」
セインが振り向きバレッタを差し出してくる。見た目は作業前と大差ないが、裏面をよく覗き込むと極一部が僅かに盛り上がっている。
作業の間にセインは人工
早速"瞳"を中継デバイスに接続するとポータルに新たな項目が現れた。それを選択する事で
「出してみな」
一つ頷き"瞳"を起動させる。緊張で心臓の鼓動が速い。大丈夫と自分に言い聞かせ、大きく息を吸いゆっくりと吐き出す。意を決し、
"瞳"に橙色の粒子が集い、
「っと……! お、おも……い」
右手で柄を握ったまでは良かったが想像していたよりも重量があり、咄嗟に両手で握りしめた。重心も上手く取れずにふらつき切先が下へと向き、床と接触してしまう。
誤魔化せないくらいに情け無い姿だ。でも今両手には間違いなく"何か"が存在している。
「ちゃぁんと出たぜ。……君が出した『
トワの右肩をセインが優しく叩く。そこでやっと自分の手とその先にある物の姿をしっかり見つめた。
「出せ、た……。出せました! ボクが、ボク……、
この世界で当たり前の事が出来なかった。別の世界に放り出されていた自分が、やっとその当たり前の手を掴む事が出来た。胸の奥が、身体が、手の先がどうしようもなく熱い。
「ありがとうございます……! 本当に、こんな、夢みたいな……」
「いいんだよ、結局俺の我儘で託したようなモンだしな。それはそれとして、出し方とパワーアシストだけどうにかしねぇと」
セインは
パワーアシストはその場でセインの手で調整された。多少の重みを感じる程度にしつつ、両手で振るには難しくない程度まで出力を上げられる。ただしパワーアシストに頼り切らずに、自身の筋力も少しは上げるようにと額を指でつつかれた。
「あとデバイスが髪留めにある事は味方だろうと簡単に話すなよ」
人工だからこその強みという物がある。それを活かすのならばどこに武器を納めているかの情報すらも重要になる。敵に教えるのは言語道断だが、味方からもうっかり漏れてしまう可能性がある。情報を握る人間は少ない方が良い。
「これが君の力になるなら嬉しい。でも別に気負う必要はない。もしも人を斬れる条件や、拡張能力が現れなくても俺は君を一切責めない。君が試した事が条件ではなかったという大切な情報が手に入るから。
あんな事言ったけどよ、マジで軽い気持ちでこいつと一緒にいてくれたらいいんだ。数パーセントでも君の可能性になれてるだけで俺は嬉しいんだ」
第一印象とは随分変わった。彼は周りと同じような力を持ち得ないから努力する人だ。境遇故に様々な壁にもぶつかり乗り越えてきたから、きっと恵まれた立場に甘えて勘違いしている者が許せないのだろう。
「ま、俺は
前言撤回。普通に性格も良くない。
「あの、この
ノアなら鞘がヒドゥンソード、本体はラッキーセブン、ミオは双月輪……のように基本的に
「設計図には一応書いてんだけどさ……」
——レプリカ・EX/改 弍式。
オーツ家に伝わってきた設計図にはそう書かれている。変な名前だがレプリカの前には何かが書かれていた痕跡があった。だがそこだけが見事に汚れており今は読めなくなってしまった。
レプリカとあるから本来はオリジナルとなる存在があったと考えられる。仮にこのオリジナルを「アルファ」と呼ぶ。アルファがあり、次にそれを模して「アルファレプリカ」が作られた。それを何本か作る内に
そうしてオーツ家始祖は「アルファREX/改」を模してこの設計図を残した。だから弍式なのだろう。
「ただなぁ、俺でも分かる。これ改良じゃなくて劣化なんだわ。一番性能がいいのは間違いなくオリジナルの奴。だって次がレプリカなんだぜ、模造品は本物に勝てねーの。だからだろうな〜、人が斬れねえとかそういうのも」
つまりこの
「俺が呼ぶなら"
何か分かれば遠慮なく連絡をくれ、と伝えられてトワはマキナ工房区を後にする。随分と時間も過ぎているし、皆は移動手段の件をもう解決しているだろうか。司令室に戻るべきか迷ったが、宿舎にいれば必ず出会えるだろうと判断して其方へと向かう。
宿舎が見えてきたあたりで見慣れた色をした集団も目に飛び込んできた。
右手を掲げて声を上げながら小走りで向かう。トワの存在に気がついたユーニが全速力で駆けてくるのを確認し、思わずその場で足が止まる。
「大丈夫だったか!? あのクソムカつく野郎に殴られたり脅されたりしてねぇか!?」
両肩を掴まれたかと思うと遠慮なく揺らされる。慌てて追いかけてきたセナが止めてくれたが少し目が回った。
「大丈夫だよ。物渡されただけだから」
「物?」
「うん。見てて」
まだ緊張するが、今度は背中側から引き抜くイメージで
「ぶ、
「貰ったってこれ!? ちょ、全部説明して!」
「どういう経緯でそれ貰ったも! リクにも教えるも!!」
「落ち着けみんな! トワが目回してるから!」
揉みくちゃにされつつ
「実戦にならないと不明点も多いが、戦い方は今まで通りでいこう。仮に拡張能力が発現してもトワは前に出るよりも後方支援に徹した方が難しくないだろう。僕らもその方が負担が少ない」
「うん。ボクも剣振り回すの駄目だからね……」
「同じ剣だし俺も力になれるなら手伝うよ。少しでもいい結果出したいもんな」
「ありがとう。ノアのやってる練習とかボクも教えてほしい。そっちはどうだった?」
ノア達の方も準備は整ったようだった。バウンダリーという船でエルティア海を進んでいく。エルティア海はあちこちで黒い霧が発生している為、それに紛れて進めば空中の探索レーダーには見つからない。ノア達は燃料となるエーテルシリンダー300本の調達に走り回った。ミネという女性に頼み何とか用意してもらったらしい。
そういえばセインがそんな名前を言っていた気がする。婆ちゃんであり、オーツ家の現当主とかなんとか。ノア達にもオーツ家は力を貸してくれていたようだ。
出発は明日だ。