神笛と永遠と   作:坂野

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 辿り着いたグラ・フラバ低地では、墜落した輸送機付近目掛けてケヴェスとアグヌスの両軍が攻撃をし続けている。瞳を通して確認すれば強いエネルギーを発している物体が確認できた。エネルギーは僅かばかり緑を落とした明るい黄色の光となって立ち昇っている。

「あれか……」

 今回の目標である謎のエーテル源だ。破壊命令が出ているのだから恐らくはこちら側にとって害のある存在の筈。

 ——でもなんだろう。なんとなく温かいような……。

 トワは不思議とエーテル源に対して害意は湧いてこなかった。回収して調査をすれば何か利点すらあるのでは、急いで破壊などしなくても良いのでは? 理由は分からない。本当にただなんとなくの感覚だ。

 ——そうだ、ボクの笛みたいだ。

 人でもないし意志など持たぬ単なる物体でしかない。けれども何故か寄り添ってくれている気がする、そんな光。

 

 木に身を隠し様子を窺う。輸送機付近には三人の男らしき人物が銃と思しき見たことのない兵器で戦っている。だが内二人は両軍の砲撃を喰らい地面に倒れ伏してしまう。残されたのは特に体格の良い男一人だけだ。

「俺たちは何と……。いや、俺たちもアグヌス軍も一体何と戦っているんだ」

 ノアが呟く。同じ人らしき存在であるのに何も分からない。アグヌス軍でなければ他に何の勢力が存在すると言うのか。

 確認の為に足音を殺し男へと近づく。一歩、二歩、三歩。

 

「ノア! 右!!」

 気付かれることなど考えていられなかった。トワが叫び、同時にユーニが飛び出す。ノアの右から突如として紙を折ったような物体が大量に襲いかかってきた。ノアに襲い掛かろうとしていた紙の軍勢をユーニが撃ち抜き、すぐにそれを操っていた存在を特定する。

 正面からまた別の人物が向かってくる。一人はノアへ、もう一人はランツへ。辛うじて防ぐもその一撃は人ほどの落石を受け止めたかのように重たい。

 兜を被っていて顔は分からないが服装からしてアグヌス兵だ。それも三人。

「……トワ、リクと一緒にいろ。多分守りながらはキツい。代わりに絶対そっちに攻撃を向けさせない。リクもいいな」

「任せろも。リクだってユーシューなノポンも、軽い攻撃なら弾き返してやるも」

「ユーニ、死なないでね」

「ああ、絶対に負けねえよ」

 リクと共に比較的大きな岩陰を目指す。当然だがアグヌス兵は離れるトワを見逃すことなどなく、再び紙の軍勢を放ってきた。

「させるかよ!」

 しかしユーニがそれを撃ち落としてくれる。爆風に怯えながらもなんとか身を隠すのに成功する。リクがいてくれるおかげで幾分か心強いが、それでも怖いことに全く変わりはない。頭を抱えて縮こまり、ただ震えているしか出来ない。

 

 終わるまでひたすら待つ。武器同士がぶつかる、遠くであがる悲鳴、発砲音、レウニスの駆動音、爆発。戦場は耳障りで大きな音ばかりだ。それでも兵士たちは戦うしかない、戦うしか出来ない。音など気にしてはいられない。それよりも優先すべき敵が目の前にいるから。

 どうかノア、ランツ、ユーニが事切れる声だけは聞きませんように。そう祈った。

 

 数分、数十分。時間など数えていない。早く終われと念じていた。

 ふと、気づく。

 ——音が、しない。

 あんなに騒がしく響いていた音がいつの間にか止んでいる。厳密にはまだ武器の衝突音は聞こえてくるが、他大勢の戦闘音がしないせいで相対的に静かだ。静かすぎてむしろ耳が痛いくらいには。

 トワは顔を上げ、ゆっくりと岩陰から顔を出して周囲を見た。

 いない。影の上にあったはずのレウニスが、散っていた火花が。ノアたちを見る。ランツとユーニ、そして彼らが相対していた兵士は息を切らして膝をついている。いつの間にかアグヌス兵の兜はなくなっている。恐らく戦いの中でノアたちの攻撃により破壊されたのだろう。

 今も戦っているのはノアとツインリング状の武器(ブレイド)、双月輪を持ったアグヌスの兵士——服装からしておくりびと——だけだ。今見える範囲にはトワたちを除けばケヴェス兵もアグヌス兵もいない。

 変だ。兵が途絶えれば後続部隊が来るはず。任務はまだ達成されていないのだから、其処彼処で戦火が上がるはず。

 逃げたい。

 この作戦が開始してから常にそう思ってはいた。しかし傷つきたくないとか死にたくないとは違うベクトルのものだ。ここにいてはいけない。ここにいたら、何か、とんでもないことが。

 

「アグヌスの、おくりびとだな」

 ノアが声を出した。己が剣を振るいかざす相手に向かって何かを伝えている。何故戦うのかと、どうあっても戦うのかと。アグヌスのおくりびとの答えは決まりきっていた。全ての兵士がそう思っていることを、敵がいるから戦う。ただそれだけだ。

 それでもノアは伝えることを止めない。そんな問答はこの世界で幾度となく繰り返され、考えることすら無意味だと切り捨てられてきた筈。それなのにやめないのは、きっと彼は別の何かを伝えたがっている。

 もしかしたら、ノアもトワと同じで——。

 

「ぅわっ!」

 突如として閃光弾が宙に上がる。トワも、ノアやアグヌス兵たちも驚きそれに一瞬気を取られる。

 怖々とトワが目を開くと、ノアとアグヌスのおくりびとが押さえつけられて地に臥していた。ランツたちも駆け寄ってきている。押さえているのは目標物と一緒にいたあの男だ。

「お前ら、何故戦う」

 男が問うた。つい先程までのノアと同じように。アグヌスのおくりびとも同じくそれに答えた。怒りを滲ませて男の手を振り払い襲い掛かろうとするが、腹に拳を喰らい蹲ってしまう。

 

「目ぇ曇らせてんじゃねぇよ。お前らの目的は『アレ』だろう! 俺だろう!!」

 

 そうだ、この任務は謎のエーテル源の破壊だ。だがここにいる兵士全員がそれを忘れ、目の前の敵を倒すことに全てを尽くそうとしている。

「なのに、敵だからだ?」

 敵は、倒さなければならない。

「その敵ってなぁ、一体誰が決めたぁ!!」

 叫びと共に男の右の拳が地面に振り下ろされる。衝撃は大きくノアたちが軽く後ろに吹き飛ばされる程だ。

「なあ、それでいいのか。本当に」

 再び男が問う。

 それでも兵士たちの答えは変わらない。多くの仲間の命が互いによって失われて、奪われてきた。少しやり返した程度じゃ治らない感情が今も溢れかえっている。命の火時計が満タンになろうとも、無くした気持ちは満たされなどしない。だから奪う。だから戦う。それが当たり前の世界。

 

「……戦いたくて戦ってる訳じゃない」

 ノアが静かに口を挟んだ。自分たちは好きで戦ってなどいない。明日を生きる為に戦っている。明日の命が目の前にあるから、それを掴み取らなければ生きられない。失うのも奪うのもそれで生じたものに過ぎない。

 生きる為には戦うしか方法がない。

「決めた奴がいるってんなら教えてくれよ。そいつを、その居場所を!」

 ノアはずっとこの世界に違和感を感じていたのだろう。出会って間もないトワから見ても、あんなに気持ちを乱して今にも泣き出しそうに叫ぶノアはとても彼らしくは見えない。

 

「知っている、と言ったら? ……そこにいるお前も来い。そう、そこの金髪のお前だ」

 男がトワも呼ぶ。膝が震えているが、岩陰からゆっくりと身体を出す。逃げたい気持ちは全く小さくならない。でも、この男から重要なことが聞けるかもしれない。

「おくりびと、か。黒いのと金のと、白いの。託してみてもいいかもな」

 

 男がノアの胸に指を当てる。

「いいかよく聞け、お前らの本当の敵は」

 刹那。黄色。何か。飛んできた。男の胸。地面に抜ける。男の悲鳴。倒れゆく体。

「ひ……!」

 悲鳴も出なかった。

 撃たれたのだ。

 飛んできた方向はトワの後ろ側、反射的に全員がそちらを向く。立ちこめる白煙の中から何かがやって来る。

 

 赤黒い巨体と頭部から角のように伸びた二本の突起。人型ではあるが口にはあまりにも細く鋭い牙がびっしりと生えている。明らかに異形の化け物、人ともモンスターとも違う。全身が総毛立つくらいの何かが。

 その右手にはケヴェス兵、左にはアグヌス兵が。

「……ムンバ!」

「ハクト!」

 あの時見送ったムンバが、成人の儀でおくると約束した彼がいた。

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