「エム、ウロボロスを」
エヌはトワの手首を掴んだまま、ウロボロスと向き合っているエムに指示を出した。
頷き一つで応えたエムは静かに瞼を閉じる。同時にエムを中心とした紫の光が球状となり、直後全方位に広がった。エムの攻撃かと思ったが身体に何の異常もない。トワもノア達も単に空気の押し出される流れを肌で感じただけだ。
次にエムが瞼を開いた時、吸い込まれるような彼女の瞳から一筋の涙が伝った。メビウスであるのに彼女もまたエヌと同じで、瞳には楽しさやそれに類似する感情は見えてこない。
だがエヌと違って沈んだ色ではなかった。澱まずに透き通っている。顔や声だけではなく目の色までもがエムとミオは瓜二つだった。
その目の色からノアは話が通じる相手だと思ったのか、エムにある疑問をぶつける。何故エヌとエムがノアとミオと同じ姿をしているのか、彼等は一体何者であるのか。
それに対してエムは"私達に勝つ事が出来れば"自ずと知る事になると答えた。彼女の手にはミオの双月輪に似つつも、禍々しい紫の光を纏ったツインリングが握られている。やはり戦闘スタイルもミオと同じなのだろう。
やりにくい相手ではあるが自分達の知るミオではない。そう割り切るしかない。
まずミオが飛び出す。ツインリング同士が衝突しエーテルの火花が散る。身体の持つ力自体は同等と判断したミオが後ろへと跳び、ノアとセナが同時に
重たい攻撃を同時に加えられエムの軸がブレる。そこへランツとユーニが遠距離射撃で追撃する。生憎全ては弾かれてしまったが、エムの表情から余裕はあまり感じられない。このまま続ければ押し切れると誰もが確信したが、エムが再び紫の光を放った。先程同様にそれ単体に全く威力は無く、気にせずに目を閉じたままのエムへと攻撃をしかけようとした瞬間——。
「な……ッ、ノア!?」
ノアがタイオンへと武器を振るった。すんでのところでタイオンはノアの刃を避けるも、ノアはタイオンへの攻撃を止めない。展開したモンドで壁を張り攻撃を防いだところでやっとノアの攻撃が収まる。
ランツがノアに怒りを向けたが、ノアは何が起きたのかを把握していない。たった今タイオンへと刃を向けた事さえも覚えていないようだった。
戸惑いの中で今度はミオがノアへと襲いかかった。一切の躊躇も容赦も無く、敵を相手取る動きでミオが舞う。それでも数発攻撃したところで動きが止まり、ノアと同じく起きた事態を理解していないようだった。
そこでノアがこの現象はエムのメビウスとしての能力だと気がつく。これまでメビウスは超常的な能力を幾つも行使してきた。火時計と命の粒子による傷の回復、意思を持った泥人形の作成、空気の流れの繊細な察知。
エムの能力は他者の意識の乗っ取り。エムが意識を乗っ取っている間、対象者は乗っ取られた事にも気が付かず抵抗も出来ない。
ユーニがランツに、セナがユーニに殴りかかる。ノアの口を借りてエムがウロボロスを嘲笑う。目を閉じようとエムの能力から逃れられはしない。
「でもよ、てめぇさっきから乗っ取ってる最中に動いてねえだろ」
ランツがシールドブレードをエム本体へと向けた。恐らく、エムは能力の行使中に自分自身の身体を動かす事は出来ない。
「んなら、本体をやっちまえばいいだけだ!!」
ランツがエム本体へと襲い掛かろうとするが、右側からの射撃を喰らう。ユーニ、かと思いきや口を開いたのはタイオンだ。すぐさまノアがタイオンを一時的に気絶させようとするがタイオンはいつもの自分だと慌てて主張しそれを止めさせる。
——嘘。
ノアが吹き飛ぶ。
タイオンから今度はミオへ。何が何だか分からない。見ただけではエムが誰を乗っ取っているか分からないし、エムが嘘をついてしまえば余計に場は混乱する。
味方なのに、誰も信じられない。
エムはミオの口を借りて嘲笑い続ける。
今ミオを斬れば、ミオの命と引き換えに勝利を手にする事が出来る。だがそんな行為が今のウロボロスに出来る訳がない。
ノアが、ミオが、ユーニが、タイオンが、ランツが、セナが、互いに刃を向け合う。自分へ武器を向ける者へと武器を振りかざし、インタリンクまでも利用して仲間を殺しにかかる。
アルフェト渓谷で出会った時よりもずっと酷い。ケヴェスもアグヌスも関係無く人同士が戦い、殺し合っている。今までずっとそんな世界で生きてきて、やっと別の道を知れたのに。どうして。もう見たくなかったのに、見ないと思っていたのに。
トワは踠いた。何も出来ないけれど、戦いの力になんてなれないけれど、ただ黙ってノア達が擦り切れていくのを見ているなんて出来なかった。撃たれる方が早いと分かっていても、僅かな可能性に賭けて無防備なエムを斬り付けられるかもしれない。
「無駄だ。お前の力では私を振り払う事すら不可能だ」
そんな事分かっている。分かっているけど、本当の本当にゼロの可能性なんて無い。エヌが何かに気を取られた一瞬で、運良く抜け出して、敵の攻撃すらも偶々外れて、エムも驚愕で反応が遅れて——天文学的な確率だとしてもそれはゼロじゃない。有と無では全く違う。
「ゼロなんだよ」
エヌがトワの顎を掬い上げ強引に顔をエヌへと向かせる。
「お前達にこの先の道など無い。道は必ず潰える」
「そんな事ない! ノア達のウロボロスの力は未来を拓く力だ! 道が無いなら作れる! お前達を斃して切り拓くんだ!!」
「斃す事さえ叶わぬ願いだとしたら? お前達の持つ物よりも絶対的な力で叩き伏せられるしかないとしてもか?」
「全てが"絶対に"不可能だなんてある訳……!」
「——ぐ、あっ!!」
ノアの呻き声がする。最悪の可能性が頭を過ぎる。視線をノア達に向けると、そこには一帯を覆うかのようにタイオンのモンドが広がっていた。
ノアは右腕を押さえているがしっかりと二本の足で立っている。様子からモンドによる攻撃だと考えられるが、タイオンは焦りも困惑もしていない。寧ろ作戦が上手くいった時の顔をしている。
「……乗っ取った相手を攻撃すればエム自身にも攻撃が及ぶ。乗っ取られた者の命を奪わない程度に攻撃し、エムが離れたところで回復する。
みんな、モンドが留まっている者が
タイオンが突破口を見出した。タイオンのモンドは気配にとにかく敏感だ。初めて遭遇した時にはそのしつこさに随分と苦しめられたとユーニから聞いた事がある。
あの時向けられた脅威が今度は力になった。
「ゼロじゃない! ボクは信じてる、みんななら勝てる!」
エヌは表情を変えない。トワの声に反応もせずに黙って戦場を——エムを見つめたまま。
トワもまたノア達へと視線を戻す。傷を負った時の苦しい声は変わらないが、そこにエムの物も混ざりだした。間違いなく確実にエムの体力を削っている。回復役のユーニを乗っ取られようともタイオンも多少の回復が出来る。エムが乗っ取れるのは一人だけ。ノア達にとっても苦しい戦いだが、続けていれば必ず此方が勝てる。
そうして先に膝を付いたのはエムだった。トドメを刺そうと全員が一斉に
「そこまでだ。お前は此方を」
エヌの姿が消え、エムの隣へと瞬時に移動する。それと交代するかのように先程までエヌがいた場にはエムが立っていた。戦闘の傷は癒えていないが、それでも力の無いトワ相手ならばエムは余裕で捻り潰せるだろう。
「私なら逃げられると思わないように。逃げる素振りを見せれば、後ろにいるシティーの者の命を一人ずつ奪いましょう」
ゴンドウを逃す為に援護していたアギョウ達がいつの間にかアウリスに囲まれている。労働源である彼等はすぐに殺されずに再収容となるだろうが、下手な動きをすればこの場で命が散ってしまう。人質なのだ。
エムと向き合っていると物を斬り落とす鋭い音が耳に届く。まさか、と振り返れば悲鳴と共に翼を斬り刻まれ地へと落ちていくウロボロス・ユーニが目に飛び込んでくる。宙には剣を振り切ったエヌが見える。そのタイミングを逃さずにウロボロス・ランツが右の拳を思い切り振り下ろしたが、エヌは目を閉じたまま鞘の一点でそれを受け止め切った。逆に姿勢を崩されたウロボロス・ランツの顔面を右手で掴み、そのまま地面へと叩きつけてしまった。
起き上がったウロボロス・ユーニが羽を再生し、タイオンへと主導権を交代する。モンドを球状にしてエヌを包み込みこむようにして捕え、その状態のままモンドの全てを爆発させる。
しかしエヌは無傷のまま地面にしっかりと立っている。それに動揺したタイオンを見逃さず、今度はエヌが目にも止まらぬ速度でウロボロス・タイオンの四肢を斬り落とした。
ウロボロス・ノア、ウロボロス・セナが力も速度も充分にある攻撃を次々にエヌへと向ける。今まで戦ってきたメビウスなら到底避けられも防御も出来ない筈なのに、エヌは鞘や柄頭だけで的確に防ぎきっている。しかも防がれたノア達の武器の方が崩れてしまうほどに硬い防御だ。
エヌが剣を抜く度にウロボロスの身体が切断されていく。当然ノア達も諦めなどせずにその都度再生し、攻撃を試みる。それを繰り返す内にウロボロスの身体が赤くなり熱を帯びだした。
オーバーヒートだ。
「ウロボロスもメビウスも本体はコアにある。コアが破壊されない限り四肢はおろか、頭が砕かれ首が斬られようと何度でも再生できる
だが、それには膨大なエネルギーが必要だ」
故にインタリンクが可能な時間もあっという間に削られる。もう、限界だった。
駄目押しと言わんばかりにエヌがまたウロボロス・ノアの身体を斬り刻む。衝撃で高く打ち上げられ、そのまま限界だった躯体は崩壊してノアとミオのインタリンクが強制的に解除された。
地へと落ち、転がってもノアはまだ立ち上がる。ウロボロスの力が全く通用しない事に恐怖しつつも、エヌへと向かう足は止まらない。
エヌは容赦無くノアを衝撃波で吹き飛ばす。後ろからミオが飛びかかってくるが、それも簡単に
——勝てない。
そう思わせるには充分過ぎた。
——ランツ、付き合ってもらってもいい?
セナの声が直接頭に響く。
——ああ、気にすんな。ここしかねぇからな、俺達の命の使いどころ。
それに応じるランツの声も流れ込んでくる。
七人目としての能力。他の六人の思考や記憶が流れ込んでくる。だから今、セナとランツが何をしようとするのかトワも理解してしまった。
「駄目、やめて!! セナ、ランツ!!」
トワが叫ぶやいなや、ウロボロス・ランツがエヌへと飛びかかった。オーバーヒート状態であるにも関わらず何度も何度も。
ノアもランツにインタリンクを解くように叫ぶが、ランツはそれを聞き入れない。ランツもセナも限界を超えている事くらいとっくに知っている。知った上でまだインタリンクを続行している。
地面を叩き土煙で目眩しをする事で、ウロボロス・ランツがエヌを背後から捉える事に成功した。そのまま大きく空へと跳び上がる。
「やめて……やめてやめてやめて!!
ランツは結局こんな命の使い方しか出来ないと笑った。セナはこれが自分だから、自分らしく生きる道だからと胸を張った。自分の時間をミオに渡す方法を選んだ。
「セナ! 違う、そんなのは……そんなの、ミオさんが一番悲しむから!! ミヤビさんと同じだ!!」
「トワちゃん、この間言ったでしょ。順番を逃したくないって。だからそれが今なの。だから、ミオちゃんも私のこの時間を使って」
「駄目だよ! 要らないっ、そんな時間!! 戻って、セナァァッ!!」
ミオの喉が張り裂けんばかりの叫びさえも、セナは穏やかに笑って決して受け入れはしなかった。
ウロボロス・ランツが宙を蹴り再加速する。そのまま高く、アグヌスキャッスルすらも超えて空へと向かっていく。次第に身体から黒い霧が溢れ出す。ピーとオーの時のように消滅現象を強引に発生させてエヌを巻き込み、彼諸共消えるつもりなのだ。
地上ではミオが叫び続けている。ミオを支えるノアもランツの名を必死に呼んでいる。ユーニも、タイオンだって言葉にしなくてもそのぐちゃぐちゃの感情はトワへと流れ込み続けている。壊れそうな程に暴力的な情報の波の中で、セナとランツの想いだけが静かに澄み渡っていた。
視界が白く染まったその刹那——。
「ざぁ〜んね〜ん! ここまででしたぁ!」
二人のインタリンクが強制的に解除される。セナとランツの間には錫杖をくるりと回す少女がいた。特徴的な赤紫の鎧と蝶に似た頭部をした少女——新たなメビウスが高らかに笑った。
インタリンクを解除されたセナとランツはその場に留まる術など無く、無防備に地へと落下していく。消滅現象で消えるのは回避したが、このままでは地面に叩きつけられ死んでしまうことに変わりはない。
ウロボロス・タイオンが限界の力を振り絞りモンドで二人を受け止めた。だがそこでタイオンとユーニも限界点を超えてしまい、インタリンクが解除される。もう立つだけの力も無く、重力に引っ張られるままうつ伏せに倒れてしまった。同時にモンドが弾け、セナとランツが数メテリの高さから落とされた。
背後にエムがいるのも忘れてトワはセナ達の元へ走った。逃げ出そうとした訳ではないからか、エムは何も行動を起こさずにただトワの背を見つめるだけだった。
ミオがセナを抱え起こし、消えそうな声でセナの無事に安堵していた。トワはミオの隣でセナの右手を強く握った。
「カッコ悪いところ、見せちゃったね……」
「そんなのいい……。セナがここにいるのが一番だよ……」
「ボクも、あんなの嫌だよ……。セナも、ランツもいなくならないで……」
生きている、それだけでもう良いのだ。
新たなメビウスの名はエックス。エヌがそう呼んだ。
エヌはエックスの介入を興醒めな横槍と称した。同時に"力"を封じたとも言う。
エヌの腰の左にまたあの鞘が現れる。インタリンクが封印されようとも
「
ノアに限らない。他の皆も
「
目視出来ない斬撃がノア達へと襲いかかる。六人だけでなくリクとマナナまでの悲鳴が共鳴する。悲鳴が収まり次に聞こえたのは皆が倒れる重たい音。
「なんで……、なんで、ボクだけ……」
トワだけがその場に無傷でいた。エヌにとっては力の無いトワは斬るに値しない存在だと表しているようだった。
——甘ったれてんじゃねえ!! 『今の仲間』の命は失ったら絶対に戻ってこねえんだ!!
ふと、セインに言い放たれた言葉が頭の中で反響する。
今だ。彼から
たとえどんなに小さくても力を手にできたのならばそこに可能性が生まれる。
この力なら、人工
震える右の手首を左手で掴む。
やるんだ、ボクが。みんなの命を、零さない為に。
右手を背中へと回す。中継デバイスにアクセスし
REXは、確かに手の中にあった。
「——ほう、
エヌが微かに驚きの色を含んだ声を出す。
「あれぇ〜? 出せちゃうの? あ、手作りの
でもさぁアンタ、そのへっぴり腰は素人同然だよ。どうすんのぉ? そんなので何とかなるとでも?」
悔しいがエックスの言った通りだ。まともに鍛えだして日も浅ければ元から筋力がある訳でもない。
加えてREXの刃は人を斬れない。メビウスも斬れないのか、メビウスは人として判定されないのか。分からないなら実際に斬るしかない。もし斬れなければ拡張能力が発現するのを願うしかない。
可能性は限りなくゼロに近い。でも、ゼロではない。
「機会をやろう。一太刀だ、私を斬ってみるといい」
エヌが挑発してくる。どうせ鞘や刀で防御することくらいは余裕の無いトワでも分かる。だがセインは人以外であれば容易く斬れると説明していた。もしかしたらそちらの方が都合が良いかもしれない。
REXを握り直す。
挑発だろうと利用してみせる。REXで皆を守る道を切り拓く。
思い切り、全ての力を込めて、エヌの顔面めがけてREXを振り下ろした。
「——やはりな。随分と
振り下ろした、つもりだった。
「あ……うそ、ど、して、分かって……」
エヌが左手一つでREXの刃を止めている。青いエーテルの刃はエヌの手をすり抜け、刃ではない赤い刀身部を軽々と掴んでいる。
まるで初めから人が斬れないのを知っていたかのように。
「目を見れば分かる。お前の目はこの剣にも、お前自身にも信を置いていない。仮に人を傷つけられる性能だったとしても、私の指の一本も落とせなかっただろう」
「なら……ッ、せめて……!」
掴まれたままのREXを揺さぶる。強く祈りながら、皆を守るだけの力を現せと念じながら。
使用者の意思に応じて無限の能力が顕れるのならば、それを今ここで現さないでどうするのだ。このままでは誰も守れない。命が零れるのを泣いて見守るしかできない。
エヌを斬る力でもいい、エックスの力の封印を砕く能力でもいい、皆を回復させるエーテルでもいい、何かを、この状況を打開できる何かを。
「……してよ……、力を貸してよ! 今必要なんだ!! みんなを守らなきゃいけない! ボクしか動けない!! だから、だからァッ!!」
——ぱきん。
トワの頭の後ろで音がする。直後、何かがふわりと広がる感覚。見ずとも理解できる。髪留めが、バレッタが飛ばされた。
中継デバイスの位置に勘付かれたかと脳裏に焦りが
「ケヴェスキャッスルでの取り引きを覚えているか」
偽りの女王と交戦した時、エヌはトワにある交渉を持ちかけた。
「お前がキャッスルへ戻るならばウロボロスを見逃し、先二ヶ月はメビウスは手を出さない。私はそうお前に持ちかけた」
そうだ。あまりにも都合が良すぎるから逆に信頼ならなかった。何より残された側のランツやタイオン、ミオの気持ちを知ったから、これ以上彼等を悲しませたくないからそれを跳ね除けた。
「今はその二ヶ月の範囲だ。……分かるか?」
もしもあの時キャッスルへ戻っていたのなら。
「我々はこうしてウロボロスには手を出さなかっただろう。収容所での騒ぎにも目を瞑り、裏切り者の密告さえも約束だからと取り合わなかったかもしれぬ」
嘘だ。そんなのどうとでも言える。約束が違うと叫ぶトワを見て上手く言い逃れをし、結局こうやってウロボロスを斬り裂くのだ。
メビウスは兵士の命も想いも何も見ていない。ただ貪って啜り尽くして、空になったら捨ててまた作り直す。メビウスが楽しむ為だけに塵よりも軽い扱いで命を踏み躙る。
だから仮にトワが、ボクがキャッスルに戻ったって変わらない。この結果はメビウスが必ず作り上げる。
これはメビウスが引き起こした——。
「これは"お前"が引き起こした事態だ」
エヌの口が歪んだ弧を描く。直後にエヌの刀がREXを弾き飛ばす。その反動でトワは体勢を崩し後ろ手に腰をつく。
立ち上がる力すら入らない。はくはくと口を開閉するだけで声すらも絞り出せない。
トワを見下ろしていたエヌが膝をつき耳元へと口を寄せる。
「お前が仲間の道を潰したんだよ、
ノアと同じ声が心臓を刺す。
ノアと同じ顔が歪に笑う。
世界が揺れる。
呼吸の仕方が分からない。
身体の震えが止まらない。
とても寒くて、ひどく暑い。
「故に、素晴らしい余興でお前達をもてなしてやろう」
もうエヌの声も耳には入ってこなかった。