ある少女とタクティカル末端祓魔師   作:水無月 驟雨

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絵の才能が壊滅的なため見た目描写は待ってください




 

 タクティカル祓魔師。

 

 

 

 

 

 

 

 ───────────ってなんだろう。

 

 

 

 え? いやー、(■■■)も分かんない。

 そもそも()()()()()は祓魔隊の第十二班。百戦錬磨らしい第一班の方々と比べると、隊長さんですらない()()の戦闘員さんより弱いらしい。本人たち曰く『末端』だーって。

 それにこの組織、割と必要に応じて班が増えていくタイプだから、隊長さんだったとしても先にある班の班員さんより強いって訳ではないし……いや、これは隊長さんに悪いのかな?

 

 

 

 

 

 ◇某月某日 第十二班本部 (■■■)

 

 

「えー、出動ゥ? 今じゃなきゃダメェ?」

「当たり前じゃボケェ! とっとと狩衣(ジャケット)着んかい!」

 

 境界異常なんてものそうポンポン起きる訳でもないけれど、かといって1週間もあれば楽勝で半分以上は駆り出される皆さん曰くクソブラック職場こと境対課の祓魔隊。

 まぁ普通のサラリーマンと比べれば日数だけはホワイトだけど、これで常に命の危険と隣り合わせなのだから最悪。せめて月20日くらいは休ませてあげてほしい。

 

「せっかくアタシの愛する後輩ちゃんが情報ゲットしてきたんだから、手柄あげるためにもさっさと出る!」

 

 このプンプン怒っている人は阿笠(あがさ) 紅花(べにか)さん。第十二班の班長さんで、班長でありながら結界師であるなかなかすごい人。本当は後方支援班にいる人なのに、前線に出る結界師って時点で優秀だよね。

 あ、あんまり指揮能力はすごいとは言えないけどね……。

 

 で、面倒くさそうにしているのが紙篠(かみしの) (れい)さん。前衛を担当していて……えっと、結構ダメダメな人……。

 

「後輩ちゃんって灯墨(ひずみ)ちゃんのことでしょうが。放っておいてそのまま祓うとこまでさせて上げた方が手柄になるくない?」

「そうやって放っておいたら『形代6枚まではノーカン』なのがあの子よ」

「…………ッスねぇ……」

 

 真顔で立ち上がって、渋々ながらもテキパキと狩衣を着込むレイさん。

 今話題に出たヒズミちゃんっていうのは探査班にいる人のことで、(■■■)は詳しくは知らないけど、危ない戦い方をするから下げられちゃった人なんだって。元々はここ第十二班にいたみたい。

 

「んで場所は?」

「N県の山中よ」

「山しか無いでしょう」

「じゃあA山」

「いや分かってるよ!?」

 

 祓魔隊の出動っていうのはだいたい近くにいた班か、観測された界異の強さと特性を鑑みて相性の良い人員を擁する班が充てがわれる。だからなんでそんな田舎に、って感じだよね。

 

「なんでまたそんな辺鄙な」

「知らないわよ、探査班が優秀すぎるのが悪いの」

「そもそも探査班ってなんだよ」

「知らないわよ、いつの間にか出来てたの」

 

 ベニカさんはもう狩衣を着ていたから、レイさんに適当な相槌を返しながら奥の部屋に続くドアにも声をかけた。

 

 ……あ、(■■■)も出る準備しなくちゃ。

 

 

 ◇

 

 

「案ずるなベニカさん、レイさんへの怒鳴り声が聴こえた時点で用意は済ませていた」

「さすがねユウタ。とってもすごいからあとはズボンを履いてほしいわ」

 

 ドアを開け入ってきた青年がそう言ったタイミングで、青年の下半身を指差し視線を明後日へ向ける女性がいた。

 

 この不審者男は鎧塚(よろいづか) 雄太(ゆうた)といい、この第十二班の戦闘員だ。

 そしてあそこの女性が……ん、聞いた? 誰に?

 まぁ、聞いていたならいいのだが。

 

 第十二班は普通の班と違って、なんと全員オフェンスの全員アタッカーだ。意味が一緒だって? オフェンスのディフェンダーも偶にいるんだよ。

 

「にしても、辺鄙なのはともかく、どうしてウチなんです? もっと暇で優秀な班だってあるでしょ」

「知らないけど……手柄くれるって感じじゃない? 多分」

 

 あぁー、とレイ。

 十中八九、以前出動した際発見した赤夜児(アカヤゴ)5匹を全部羽化させてしまったことが原因だろう。四号級3匹と三号級2匹の最悪パーティーになってしまったとはいえ、結局死者は出さなかったし、挽回のチャンスをくれるのだからまだホワイトな職場である。

 だが失態は失態であり、赤夜児1匹先に始末できなかったのはとても痛い。実際は消耗していたのと、とことん相性が悪かったのもあるが、言い訳にはならない。

 

 だからか、レイが自分たち第十二班のことを『末端祓魔師』と呼ぶ回数も、この件以来なんとなく増えている気がする。

 だって第十三班はそこそこ活躍してるのに。この前だって、助力込みとはいえ一〜四号級の群れである汐羅雲(せきらうん)を相手取って撃退していたのだ。数字はこちらの方が若いのに大違いだと嘆くのも無理からぬこと。

 

 でも挽回のチャンスくれるんだから優しいな〜♪とユウタが思いながらジーンズを履けば、明後日を向いたままのベニカが手を叩いた。

 

「今日は他の奴らも出払ってるし、このスリーマンセルで行くわよ。灯墨ちゃんが形代を2枚以上減らす前に終わらせましょう!」

「了解!」

「…無理じゃね?」

 

 

 ◇

 

 

 結論から言えば、灯墨の形代は7枚とも残っていた。

 

「お待たせ、灯墨ちゃん、金樹(かなぎ)くんも」

「どうも。お早いご到着ですね」

「君たちの仕事が早いからこそだよ」

 

 出迎えたのは探査班の2人。灯墨は全員と面識があったが、金樹はベニカしか顔見知りでなかった。

 ちなみに、バカみたいに飛ばしてきたので全然見栄である。

 

「それで、肝心の界異なんだが」

「はい、あちらに」

 

 指差す方を見れば、何やら石造りの砦のような建物があるではないか。

 レイがん〜? と目を凝らすが、界異の気配は感じられない。

 

「なぁ、本当に界異いんのか?」

「莫迦、ありゃ簡易結界してあんだよ。結構良い練度とはいえ、ペラい結界越しの界異すら見えねぇとは本当にカスだなぁお前は」

「んな本職結界師に言われても微塵も悔しくねぇけどよ」

 

 人より熊の方が多そうな山中だが、一応近くに公道もある。界異を封ずる為だけでなく、認識阻害も兼ねていたのだろう。

 それはそれとして結界を褒められたのかディスられたのか分からない微妙な顔をしつつ金樹が説明する。

 

「結構なモンスターハウスです、あれ。二号級すらあまりいない程のレベルですが、さすがに周辺被害を抑えながらの殲滅は難しいので、そこは戦闘員の方にと」

 

 境界異常──界異なんぞそうポンポン湧くものでもない。それがモンスターハウスと言えば、いやでもその異常性は明らかだった。

 

「ふぅん……呪詛犯罪者が絡んでやがるな」

「そうですね、間違いないかと」

 

 人為的に集められた、ということなのだろう。そうすれば次は当然何の為にとなるが、弱いのばかりというのは本当なのだろうか。こちとら赤夜児1匹倒せない末端祓魔師集団であるというのに。

 

「それほどに多いのかい? 灯墨ちゃん覗いた?」

「はい、弱いのばっかで飽きてすぐ出ましたけど」

「ったくこの子は……」

 

 ユウタが灯墨に目線の高さを合わせながら聞けば、THE四促灯墨な答えが返ってきた。そりゃあいつでも()れる一号級にチクチク形代を削られるのは、彼女の好みではないだろうけど。

 ただまぁ、彼女の7枚の無傷の形代が、実際一体一体の脅威の無さを物語っている。要は単純に人手がいるだけのお仕事だろう。確かにそれならピッタリである。そんな程度のものに第一班サマなんて割けなかろう。

 

 すると、あ、と思い出したように灯墨が手を打った。

 

「なんかよく分からないんだけど、対呪詛犯罪者の人が1人今向かってるから、それまでに片付けとけって無線がありまして」

 

 多分それ忘れちゃダメなやつなんじゃ……と思いつつも、根が良い子なのは知っているし、もう直属の上司でもないからとベニカは何も言わない。

 ここでベニカがサボった分だけ金樹の監督責任が増すのである。やめてほしい。

 

 それにしても、対呪詛犯罪者とな。確かに呪詛犯罪者と戦うことを主にする隊とか班はあるが、そんな個人で、しかも他所の班の出動中に派遣されるなんてことあるのだろうか。

 

「なんだそりゃ、てかベニカ聞いてたん?」

「知らないわよ、そんな司令今初めて聴いたもの」

 

 しかめっ面のレイを置いて、やりますか〜と嘆息しつつベニカがモンスターハウスへ歩き出す。それをユウタが追い、嫌々ながらレイも続いた。そして最後に着いていく灯墨も見送っておっと危ない。

 

「……何してるのかな?」

「楽しそうかと思いまして」

「はい連行」

 

 そうして反対方向に遠ざかっていく2人を見ながら、レイがぼそっと口走る。

 

「あの子放り込んで6回自爆してもらえばだいぶ楽になるんじゃね?」

「捻り潰すわよ。ザコ処理なんてアンタ相性良いんだから真面目にやりなさい」

「はーいはい」

 

 ダルそうにしているタクティカル倫理観終わってる祓魔師のレイはさておき、むしろ問題はタクティカルオフェンスアタッカー祓魔師のユウタである。

 

「まぁユウタも頑張りなさい。キツいだろうけど、形代2枚以内に収めたらご褒美あげるわ」

「よっしゃ燃えてきました」

 

 ちなみに言うが、この2人は付き合ってないし全然えっちなご褒美でもない。じゃあご褒美が何かっていうとめちゃめちゃ本気でみかんゼリーとかである。大丈夫かこの成人男性。

 

 そうこう言いながら地面に描いてある結界の内に入れば、途端にブワッと押し寄せてくる界異の存在感。砦の外には出てこないが、向こうもこちらを知覚しただろう。

 

「うーわなんだよこれきっっも」

「多いな……1人100匹やればいけるか?」

「なんで俺とお前が均等に倒せると思ったんだよ、俺が180でユウタが20だ」

「ゴチャゴチャ言わない! ほらブチ開けるよ構えて!」

 

 ベニカが重そうでデカい扉にグレネードを貼っ付ける。

 それを見て慌てて戦闘用意に入るレイとユウタ。

 

「カウント──10!」

 

 

 

 ◇

 

 

「僕がお知り合いになる祓魔師って、なんであんなのばっかりなんですか?」

「急にどうしたんです?」

 

 振り返って、ちょうど自分の結界を超えた3人を遠目に見やる。

 灯墨は何のことですか?って顔をしているが、誰もあの3人だけなんて言っていない。

 

「第十二班、あなたの元所属でしょう? ベニカさんの戦い方は知ってますけど、まぁ前衛指揮の結界師って時点で珍しいのでまだ分かります」

「面白いですよね、ベニカ先輩の戦い方」

 

 正直面白いどころでは済まないのだが……まぁ確かに強キャラがビルの上に腰掛けて「面白い…」って口走りそうなベクトルの面白さがあることは否定できない。

 というか、そっち(ベニカ)への驚愕は初対面時に済ませたので別にいいのだ。問題はあっち(残り)

 

「……もう2人はなんなんです? かたや()()()()()()()()()()()()、かたや()()()()()()()()()()()()()()()

「よく分かりましたね、私も最初は驚きました」

「勘違いかとも思いましたけど……僕の結界を跨いだので確信に変わりましたよ」

 

 さっきまでと変わらぬテンションでギャースカ言いながら扉にグレネードを設置したベニカを見て、ちょうど3人の術式が見れるのかと向き直る。

 

 その横では灯墨が、どこからか取り出した折りたたみ椅子に腰掛けていた。

 

「なんでも、『自分たち末端は頭使わないと戦えないから』だそうです」

 

 

 ◇

 

 

 ベニカは縁起使いである。彼女には無二の相棒という枠の界異は居ないが、ニ〜三号級の界異を幅広く揃えている。だが、そんなに従えては出動の度にぞろぞろ引き連れ歩く訳にもいかないし、そもそもベニカは今一人だ。

 しかし、ここで彼女の術が発動する。

 

「──出でよ『蝦蛄(しゃこ)烏賊(いか)』」

 

 腕時計型デバイスに加護を通せば、そこから現れた光が実体となって、二本の角の生えた、9本腕……9本足?の烏賊の界異と化す。

 

 あまりベニカから人に語ることはないが、1度でも彼女の戦い方を見た者からはこう呼ばれている。

 

 

 …………妖怪ウォッチ(ピ──────────)と。

 

 

 ……そ、そして次にレイだが、彼の戦闘準備は至極単純だ。

 

 腰に取り付けられた機械が煌めけば、専用狩衣の胸のディスプレイに5つの青い光が灯る。

 見る者が見れば、その青い光はそれぞれ別の人物の加護を有していることが分かるだろう。

 だがそれで終い。胸の光を除けば変化は無いが、ちなみにレイはこう呼ばれている。

 

 

 ──── デュエリスト(ピ──────────)と。

 

 

 最後にユウタだが、彼は最も分かりやすい。

 

 彼はロンTにジーパンという非常にラフな服装であり、狩衣すら着用していない。とてもオフェンスアタッカーの服装には見えないが……。

 スッと取り出したるは手のひらサイズの丸いバックル。それを腰に押し当てると、帯が飛び出してガッチリ装着される。

 

「変身!」

 

 ちょっと複雑なポーズと簡素すぎる掛け声を行えば、爆発的に噴出される加護が全身を覆い、まるで金属のような質感を持つ鎧へと変貌する。

 白い全身に青いラインが縦横斜めで計12本、アスタリスクのようなマークを胸に刻んだ戦士が爆誕する。

 

 うん、もう言うまでもないが、彼もこう呼ばれている。

 

 

 ──── 仮面ライダー(ピ──────────)トゥエルヴと。

 

 

 彼ら彼女らは大真面目であるが、それはそれとして大真面目に戦うすべを求めた結果生まれてしまったパロディ集団。これが祓魔隊第十二班の班長以下二名である。

 

 

 

 

 

「よし行くよ『蝦蛄烏賊』! レイ! ユウタ!」

「「はい!」」

 

 なにやら唸ってはいるが発声器官があるか怪しい蝦蛄烏賊はともかく、レイとユウタが良い返事をした瞬間に弾け飛ぶ大扉。

 

「うわっ、これは……」

 

 飛び散る凶器と化した木片をものともせずユウタが踏み込めば、視界に映る界異、界異、界異。そして穢れのオンパレード。

 事前情報でも感じ取れた気配でも相当だったが、実際に見てみれば甘く見積もりすぎたとしか言いようがないくらいだ。

 

 突如自分たちの住処に爆破して乗り込んできた異物×4に気を悪くしない訳も無く、先鋒の、移動速度の高い昆虫型の界異がユウタへと群がる。

 

「……セイッ! ヤッ!」

 

 一瞬で目前まで迫った蜂のような界異を、これまた常人ではありえない速度で真正面から捉え、弾け飛ばすユウタの拳。

 続けざまにやってきた昆虫たちも、反対の拳、上段回し蹴り、最後にアッパーとガンガン迎撃する。

 

 しかし手数の差は凄まじく、鎧こそ纏えど無手なユウタでは捌ききれない界異が、両脇から抜けて出てくる。

 

 だが、第一陣の有象無象すら逃がすようなら祓魔隊は名乗れない。

 

解放(リリース)、『重力(グラビティ)』」

 

 レイの掌の上、カードのような光がひとつ輝けば、そこから溢れ出て来る黒い靄が両脇の界異に触れた瞬間に、砦の反対側の壁へと途轍もない勢いで押し付ける。

 上からどんどんやってくる界異も靄に触れる度に押し流されていくので、必然モヤの無いユウタの前に行くしかなくなる。

 

「レイさん! キル数分けてくれてサンキュです!」

「うっさいたまたまじゃ」

 

 誰がどう見てもなコテコテの照れ隠しをするレイをよそに、ベニカは自身の縁起へと指示を出す。

 

「ユウタを手伝ってきなさい」

「☓?※! △:#,!」

「あっオイ! 壁は壊すな!」

 

 何かを了解した蝦蛄烏賊がユウタの股下を器用に抜け、未だ重力に囚われたままの界異へと、9本の腕だか足で殴りかかる。一発一発が音速を超えるそのパンチだかキックだ到達する前に、なんとかベニカのストップが間に合った。

 え〜と言わんばかりに、ちょっとしょんぼりした様子で空中の界異を撃ち落とし始める。

 

「こりゃベニカよぉ、ちょっと数が多すぎるな。──解放(リリース)、『影縫(カゲヌイ)』」

「えぇ、思ったより舐めてたわ。こりゃ3人で祓いきれるかどうかね……」

「なんか()()()ないか?」 

「今頑張って思い出してるわ」

 

 そうしてレイとベニカが話す傍ら、レイのカードから出てきたひと振りの真っ黒なナイフ。それを塔の中へ放れば、刺さった場所から解けてタイルに沿い広がる影。元より暗い砦の中をかけめぐった直後、羽などの器官で飛んでいた界異が、動きを止められたことにより一斉に最下層へと落下してくる。

 

「うひゃーキモいね、ユウタとイカ、任せたわ」

「任せろ!」

 

 数は多くても所詮は一号級から二号級。装甲を纏ったユウタと蝦蛄パンチの破壊力でどんどん粉微塵に変わる。

 耐えれて2発。3発目にはもう死だ。

 

「なんか今日ユウタ調子いい? 最後に変身したのいつよ」

「2日前!」

「にしては結構な火力……お前また成長してんなー」

「へへっ……あざーす!」

 

 レイの援護を受けながらとはいえ、順調に界異を屠り続けるユウタ。彼は非変身時に力を貯めておくタイプの為、2日でここまでのスペックを発揮できるのは素直に成長だ。三号級は厳しいだろうが、スデゴロ系の二号級なら5体くらいは同時に相手取っても死なないだろう。

 

「まぁ、この塔全部を祓うとなったら3分じゃ足りないだろうけどな」

 

 ユウタには聞こえないようにそうボヤきつつ、残りタイムリミットを確認するレイ。ユウタの胸には残り時間に応じてアラームが鳴る装置が付いているが、敵陣ど真ん中で解除されれば加護を失ったユウタは即死だ。確認しとくに越したことはない。

 まぁ3分あれば、ボス戦前の露払いくらいの役には立つだろう。

 

 そうこうしていると、ベニカがレイの肩を叩いた。

 

「おっけーよ」

「うい」

 

 またしても妖○ウォッチを光らせるベニカ。今度出てくる界異は────3体。

 

「出でよ! 『火の鳥』! 『泥蛇(どろへび)』! 『大密蜂(おおみつばち)』!」

 

 死んで灰になっても灰の中から生まれ変わる火の鳥、穢れを食べて自身の体へと置き換える泥蛇、複数の蜂が集まって大きな1匹の蜂になっている大密蜂。

 いずれも継戦能力高めの界異であり、下手な殲滅力より戦力を欲した結果の人選……ではなく界異選である。強さは大したことない割にしぶとく厄介すぎる3匹の生体は、誰よりベニカがよく知っている。

 

「うーわ出たよ泥蛇。もう二度と見たくないと思ってたのに」

「うるさいわね、穢れがご飯だからどの子より戦意とやる気が高いのよ。正直言ってコスパ最強の縁起使いの革命児だわ」

 

 隙あらば飛び立って逃げそうな火の鳥と、今にもベニカに頬ずりしに行きそうなほど懐いている泥蛇(そんなことされたら汚染されてベニカが死ぬ)と、ベニカを上位者と認めて指示を待っている大密蜂。

 

 ユウタと蝦蛄烏賊は下げて、この面々で界異を押しとどめつつゆっくり攻略すればいいか。対呪詛犯罪者?知らんわ──そう思った瞬間だった。

 

「──え?」

 

 砦の遥か上、恐らくは天井付近から伸びてきたナニカの触手が、蝦蛄烏賊の物理耐性高そうな体を一瞬で砕く。

 これは頑丈さの問題ではない。──シンプルな攻撃力。纏う穢れの総量の問題だ。

 

「ユウタ! 戻ってこい!!」

 

 レイが叫ぶ。

 いかに普段から末端祓魔師と卑下していようが、自分と相手の格の違いくらいは見分けられる。

 ベニカやレイではなんとかなる。生き延びることくらいは出来よう。だがユウタだけは、それは叶わない。彼の戦い方は、生き延びることにあまりにも向いていない。

 

「レイさ────ん」

 

 脳天から降ってくる豪速の触手。

 極限まで加護の圧縮された、並の結界より硬い装甲は生身を傷つけさせない。が、代わりに脳震盪か何かでユウタの体から力が抜ける。

 そして仕留め損なったことを理解したのだろう。続けて降ってくる2本目、3本目。

 

解放(リリース)、『無限(ムゲン)』ッ!!」

「行け! 火の鳥!!」

 

 こうなった以上、砦から界異が出て来ることも厭っていられない。門のガードを緩めようがユウタの回収を急ぐべきだ。

 

 ちなみに気を失っていてもユウタは変身状態のままだ。とはいえ、あと1分も保たないだろう。もう少しでカラータイマーが鳴り出すはずだ。

 

 ユウタに触れようとした触手が2本、まとめて何か見えない力場に囚われる。急激に速度が失われ進むことも引くことも出来ないようになった触手。

 それらをスルーしてユウタの元へ駆けるが、見えない力場を大げさに迂回する触手がまたしてもユウタへ迫った。

 

「ッ! コイツ知能が高ェ!」

 

 その1本は火の鳥が体当たりで焼き切るも、火の鳥には視認出来ない速度の5本目に一撃ノックアウト。1分も放っておけば復活するだろうが、今は何もできない灰へと変わる。

 そして、その1本がもどかしい。

 

「タイマーが……!」

 

 今はまだゆっくりながら、どうにも焦りを生むリズムのアラームが鳴り出す。せめて変身解除+形代6枚無くなるまでにこちらの管理下にユウタを置かなければならない。

 

「泥蛇と大密蜂じゃあ矛にも盾にもならない……でもまだ召喚は……ッ」

「ベニカァ!」

 

 術式としては何もできず、だがせっかく形代紙が7枚残っているのだからと、何も出来ないなりに駆けようとしたベニカの足元へある紙が飛んでくる。

 それはとても見覚えのある……形代紙であった。そして、それが7枚、ベニカの足元で触手の風圧に煽られフワフワと舞っている。

 

「ちょ、アンタこれ……!」

()()()()! 新人の命と俺の()1()()じゃあWin-Winだろ!」

 

 言い終えるより先にユウタの元へたどり着くレイ。形代紙の無い普通の人間では、よほど頑強な祓魔師でない限り一撃で死ぬ。だが、そんなことは分かりきった上で駆けつけるのだ。

 

 触手がユウタへ巻き付く。硬くて殺せないなら上へ持ち帰るのだろうか。やはり知能の高い、レイたちの一番困る行動。

 その触手へとレイが抱き付けば、二号級にはありえない密度の穢れがレイの体を即座に蝕む。

 

「クソッ、やっぱこいつ等級が……!」

 

 なぜ存在を悟られなかったのか、なぜ今このタイミングで出てきたのか、そういった疑問を今は一切捨てて、全力で()()()()()

 

 叩き落とそうとしたのだろう。レイ目掛けて新たな触手が飛んできて────

 

 

 

 レイの体を貫いた。

 

 

 

「レイ!」

 

 形代紙も無く、高密度の穢れに晒されたレイ。

 ()()()()()()()()()()()()()、流石に毎回、肝が冷える。

 

「だいじょーぶだいじょーぶ……」

 

 いつの間にか()()()()()()レイが、そう笑った。

 

 即応解放(バースト・リリース)、『絶氷(アイスエイジ)』!!」

 

 レイの胸の5つあった光が1つ消え、代わりに、砦の上層を全て氷漬けにしてしまった。

 

 触手も、チラホラ生き残っていた低級界異も、何もかもが氷に閉じ込められる。身じろぎすることも出来ずに墜落していき砕ける低級界異。

 

「ハァ〜〜〜〜〜」

 

 白い息を吐きながら、触手と一緒に腕まで氷漬けのレイがため息を吐く。

 制御できるとは思っていなかったが、ちゃんと上下の区別くらいは出来たようだ。

 

「ベニカ? 俺とユウタ助けてくれ。俺の腕が砕けるからそーっと」

「あーーーーうん、ごめん」

 

 は? なんで今謝る?

 そう思った時には遅く、視界の端には光るグレネードがあった。

 それと、地面で無邪気に手を振るヒズミちゃん。

 

「あーあ、報われねー」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「す────────みませんでしたぁ!!!!」

「いいって、前線に新人放置してた俺ら先輩が悪い。あとケガ人×2にグレネード投げつける指示を新人に与えた先輩はもっと悪い。減給されろ」

 

 両腕はちゃんとあるものの、胸の光が残り3つになっているレイがそうぼやいた。 

 

 ユウタは五体満足で、形代が1枚減ったが、全くもって無傷だ。

 その代わり罪悪感がマッハなのだが。

 

「ヒズミちゃんはもうアタシ直属の部下じゃないから命令権無いもんね、つまりアタシが指示したんじゃないわ」

「ガチで言ってんのか……お前……」

 

 当たり前に後輩を売ったベニカへ過去イチ幻滅の視線を送りつつ、軽く診察してくれていた金樹へと話題を投げる。

 

「ところであの砦、どんな?」

 

 形としては索敵ミスみたいなものだったが、目の前に触手が来るまでベニカたちも気づけなかった。あの速度や手際といい、隠密特化で暗殺特化な界異だろうことは想像に難くなく、誰ひとり探査班の2人を責めはしない。

 

 金樹は上半分が完全に凍ってしまった砦を見上げつつ答えた。

 

「僕の探査を信用していただけるならですが、一時的に界異の活動は軒並み停止しています。生きてはいるけど動けないって感じですね。もしくは動かないか」

「なるほどねぇ、まぁ『絶氷』食らってんだから止まってくんないと困るけど」

 

 元々人為的なモンスターハウスだと目されていたこの砦だ。隠密特化な界異が出てきた以上、呪詛犯罪者本人もまだあの砦にいるかも知れない。こうなったらますますこの3人+2人では人手が足りない。

 やはり件の対呪詛犯罪者の人が来るまで待つべきだろう。あとついでに、さっき別件が終わったらしい残りの班員。

 

「あの触手、火の鳥の突進でも焼き切れたから固くはないけど、いかんせん数と速度が厄介ね。そのクセ視界に捉えるまでどこに来るか分からない隠密性と来てるわ」

「再生しないようならニジカとマコがいれば完封できるけどなぁ、間に合うかな」

「ただでさえユウタを危険な目に遭わせたんだし、正直若い子は投入したくないんだけど……」

「すみませんすみませんすみません」

 

 ユウタの謝罪は華麗にスルーするベニカとレイ。

 すると、何か通信を受け取って離席していた灯墨が駆け足で戻ってきた。

 

「みなさーん!」

「あ、ヒズミちゃん。どうしたの?」

 

 灯墨が1歩横に避ければ、旗の様な槍を背負った、ぱっと見10歳くらいの女の子がそこに居た。

 

「来ましたよ、対呪詛犯罪者の人」

 

 ……うん、どう見ても幼女。

 口に出しこそしないが、完全に皆の心境は一致しただろう。

 

 その幼女は身の丈に合わない槍を地面へ置き、深々とお辞儀した。

 

「神祇部境界対策課、対呪詛犯罪者の“一番槍”、(イロハ)です。第十二班の皆さん、短い間ですがよろしくお願いします」

 

 なんとも綺麗な敬語と綺麗なお辞儀で、全くもって似つかわしくない単語をつらつら並べるイロハ。

 

 ベニカとレイ、そして「どうしてまたこう変な……」と呟いた金樹はいっせいに目を合わせた。

 

 

 

 

 

「「「いやいやいやいや…………」」」




お借りしたやーつ

妖識さん
 界異及び呪詛犯罪探査班(探査班)
  ├水門 金樹
  └四促 灯墨

灯墨ちゃんドはまりしてしまったヤダ何可愛いこの子
という訳で今後もお借りする可能性大
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