アルシャードセイヴァー・リプレイ ノベル・レイアース+a 作:椎名真白
王の都、陥落
無限の暗闇。そこを埋め尽くすのは、妬み、恨み、嫉妬、憎しみ、あと嫉妬。それから復讐心――おまけに飢餓感。
人の世の悪意、どんな人間にも存在する感情が渦巻いていた。
視点はかわり、常闇森。そこに一つの意識が再誕する。
「オノ……レ……オノレ魔法騎士タチ……ヨクモ……ヨクモこの俺様ヲ…………!」
それは嘗て倒されたオークの親玉。オークキング。その憎しみの心。
さらに視点は変わり、無限牢獄――。封印措置をされた者の内、その一人。
「オベロン……うちは…………」
※
闇の大魔との戦いから百年が過ぎた。
王の都。薄暮の君が暮らす城に、この世界の創造主たるアルフ、ルーテシアはいた。その隣には今代の薄暮の君が佇んでいる。
「ルーテシア様 」
うっとりとした目。紅潮した頬。甘えた声でルーテシアへとすり寄る姿は、恋をした令嬢のよう。
ある時ルーテシアに命を救われた彼女は、それ以来創造主たるルーテシアを崇めるを通り越したとんでもない感情を抱くようになってしまった。
「どうしました?」
「今日のお昼は私が作ってみたのですが……お口にあいましたでしょうか❤」
「えぇ……美味しかったですよ」
「そうですか❤」
百点満点中十八点。それがルーテシアの正直な感想だったが、流石に口にはしない。
耐える心でそれをやり過ごす。料理を作っているところを覗き見たら、生き血のようなものを垂らしていたのはきっと見間違いだろう。
「今日も空は薄暗い……けれど、きっと私たちの未来は幸せに溢れていますね❤」
「えぇ……この世界の未来、幸福なものであるとよいですね……」
離れようとするルーテシアをぎゅっと握りしめて離さない。
そんな風にここ最近の日常を過ごしていると、突然大きな揺れが起き、外から怒号が響き渡った。
「!?」
ルーテシアが何事かと薄暮の君を引っ張って窓の外へ目を向けると、城の外、都の方に雪崩れ込むオークの軍勢が目に入る。
それらは人々を襲い、時に建物を薙ぎ倒しながら、城の中へ攻め込んできた。
「オークの軍勢!? そんな……いつの間に!?」
兵士たちが応戦するも、多勢に無勢。オークだけではなく、他の奈落種も混じっているようで、それらの奇襲を前に次々と兵が、民が倒れていく。
「一体……何が起きているというの…………一人くらいなら抱えて飛べます! こちらへ!」
個人移動用の浮遊装置であるアストラルヴィークルを起動し、薄暮の君をその手に抱いて脱出すべく王座を抜け出す。
既に城内は奈落で溢れていた。その合間を上手く切り抜け脱出し、上空から都を見下ろす。
都は陥落していた。倒れた人々は死を迎えず、奈落の種を宿し彼らの兵、アビズマルディゾナンスと化す。
「そんな…………都が………………」
悲惨な状況。その都の中で、一際大きな奈落の気配を感じ取ったルーテシア。第六感とも言うべき危険察知能力が働いた彼女は、その場から横へ即座へ飛ぶ。
そこに、巨大な奈落が降ってきた。
「見つけた……見つけた見つけた見つけたァ!」
ルーテシアはその風貌に見覚えがあった。
百年前、魔法騎士たちと共に討伐した常闇森の主――。
「お前はオークの王…………!!」
「ルーテシアァ……! 魔法騎士ィッ……! そして薄暮ノ君ィッ……!」
「それも当代の王ではなく……百年前の……蘇ったというの!?」
「俺様は、蘇った……地獄の底から……! 力を手にして……!」
オークキングの内側から闇が溢れ出す。
ルーテシアはその闇に覚えがあった。ただの奈落の気配ではない。それは、封じたはずの強大な力……“闇の大魔”の力。
「それ…………は………………!?」
「力ヲォゥ! オォオオ……オォオオオ!!」
「大魔の…………どうして…………」
オークキングの見た目が変貌する。恐るべき闇の大魔王――“闇の大魔”の姿へと。
「封印は……綻びてはいないはずなのに!」
オークキング……“闇の大魔”の手により、多くのオークが生み出される。それらは浮遊するルーテシア目掛け弾丸のように放たれた。
「っ……!!」
戦って抗える数ではない。ルーテシアは陥落する都を後目に逃げだす他選択肢が無かった。
魔法により敵を蹴散らせながら、何とか都を脱する。
こうして、王の都は奈落の手に落ちた。