アルシャードセイヴァー・リプレイ ノベル・レイアース+a 作:椎名真白
「………………? ここは………………?」
ルーテシアは気づくと見知らぬ場所にいた。
どこかの店の中のようで、棚には複数の酒が並んでいる。バーのようだ。
椅子に座る女性が一人、棚の上にある酒を取ろうとしている長身の女性が一人おり、ひょーいとそれを取った女性は振り返ると、ルーテシアの姿を見て驚いた顔をする。
「……あれ!? ルーテシアちゃん!?」
「………………!?」
その女性の顔立ちに見覚えがあったものだからルーテシアは物凄く驚いた。
「え、ほ……蛍…………さん?」
「だ、だよねルーテシアちゃんだよね!?」
長身の女性……
その声で酒を飲んでいた女性も顔を上げて、同じく驚いた顔をする。
「ん~…ルーテシアさま~~~~~~」
「きゃっ!? ら、嵐さんっ……!」
がしぃっ! 椅子から立ち上がって即座に抱き着くのは、同じく魔法騎士だった
「あああああ本物のルーテシアさま~~~」
「わぁ夢じゃないんだぁ!! 久しぶりだねー!!」
「では……私は…………これたのですね…………あなたたちの世界に」
「ふふふ、嵐ちゃんのこんな感じを見るのも久しぶりだぁ」
「こっちの世界に永住しにきたのかしら~?」
手に持っていた酒をテーブルに置いてから、同じように後ろから抱き着く蛍。三人は嘗て共に戦った仲間との再会を喜び合うが、ふとルーテシアの頭に疑問が浮かぶ。
あの戦いから百年が経っているはず。それなのにただの人間であるはずの蛍や嵐が生きているのはおかしいのだ。仮に生きていたとしても、当時の面影を色濃く残した美しい姿であるはずがない。
「………………どういうことでしょう。お二人は……今、おいくつですか?」
蛍の身長が伸びていたり、お酒が飲める年齢になっていることから、少なくとも数十年は経過しているはずだが……。
「三十七だよー」
「え~と~三十七歳よ~」
同時に答える二人。よく目を凝らして見れば、皴があり、若い頃のままという訳ではなさそうだ。
「二十年……?」
「ルーテシアちゃんは全然変わってないねぇ!」
「私は……既に向こうであれから百年を過ごしたのですが……」
「百年!?」
「あら~…どういうことかしら~」
「まさか……二つの世界は時間の流れが……!?」
時間の流れが異なる。このことについて蛍や嵐の話も合わせて聞いて見たところ、以下の内容が判明する。
ルーテシアが勇者探索から帰還までが等倍、その異世界での戦いから日本への帰還は数秒の出来事になっていた。対しルーテシアが百年を過ごし地球に来るまでに二十年が経過。
「時間の流れが変化し続けているということ…………でしょうか」
「そうなると~こまるわね~」
「やっぱり世界が違うと、色々勝手も違ったりするんだねー」
時間の流れが違うと言っても、世の中には未来から過去にやって来た、なんて事例もあると聞くし、そこまで不思議なことではない。
思い返してみれば、異世界に渡るのに使ったのは薄暮の君より渡された鍵だった。今回地球に戻ってきたのは別の要因によるものだが、同じような力が働いたことで、ある程度望んだ時間に繋がった可能性は高い。
「薄暮の君の鍵……そのおかげでしたか」
一人納得するルーテシア。鍵の力で渡って来ていれば、二十年前に繋がっていたのだろうか? 今回の要員が何であったにせよ、折角再会できたのだから喜ぶべきだ。……そういえば、
「それで~…ルーテシアさまはどうしてこちらに~?」
と、嵐は疑問を投げかけた。もう会えないと思っていただけに、何故今会いに来てくれたのかが気になる。
「…………! そうです、お二人にお話しなければならないことが。闇の大魔が再び復活しました……! 王都は陥落し、今代の薄暮の君がこちらの世界へ飛ばされてしまい……」
「…………!?」
「…それは~レクサス本人が~ということです~?」
「いえ……レクサスはむしろ…………私達を助けてくれたように感じます。レクサスではない何か……おぞましいものが、大魔を支配しているように思うのです。お願いします! 今一度、魔法騎士として私に力を貸してください!!」
必死に懇願するルーテシア。蛍も嵐ももちろん協力したいし、助けになってあげたいと考える。だが、その為にはまず問題があった。
「そ、それは大変だ……」
「あ~…え~と~…」
蛍も嵐も返答に行き詰まる。彼女たちにも今の生活があるに違いない。あれから二十年経過しているのだから、結婚もしているかもしれない……その平穏を崩そうとする己を恥じつつも、ルーテシアはもう一度強く懇願した。何度も頭を下げるルーテシアに対し、蛍が何とも言えぬ表情で答える。
「でも……わたし、今は……シャードを持っていないんだ」
「………………!?」
「娘の方に渡しててね」
「……そうですか、お子さんが……」
「そうなのよ~…」
ルーテシアの目が嵐と合う。
嵐はにこやかな笑みでルーテシアの目を見つめる。
その間、僅か数秒、脳裏に蘇るあの日の記憶――。
「嵐さん…………その、まさか」
「…そうなのよね~~」
「だから、すぐにでも動いて協力したいところだけど……ごめんね、まずは娘に事情を説明しなきゃ!」
携帯を取り出し連絡をする蛍。対し嵐はあわあわしていた。遂にこの日が来てしまったと、覚悟を決めているところだ。
だって、まさか――。
一夜の過ちで子を孕むなど、誰が考えようか。
女性同士、最初の晩に宿で
ルーテシアは神を生み出した創造主であるが、その意思の介入しないところで子を産ませてしまった事に酷く困惑し、そしてやっちまったという顔をする。やっちまったのだからやっちまっているのだが、確かに当時を記憶を探れば、パパになった記憶がある。無いはずの息子がこんにちはしていたのだ。一体何が起きたのか、やっちまった自分でも理解が及ばぬ恐るべき真実がそこにあるはずだが、深く思い出している暇はない。
「…………では、次代の魔法騎士を、お呼びして下さい」
「もちろん、すぐにでも!」
「あなた方の子供を巻き込むのは心苦しいところではありますが……もはや頼れるのは魔法騎士しかいないのです」
「…だ、だいじょうぶと…思うのだけれども~」
嵐が何か言うたびにびくりとするルーテシア。大丈夫、そっちの話ではない。
「うーん……出ないなぁ」
「架空の旦那作り上げたせいで~…」
お子さんそのこと知らないんですか!? え、これ会ったらどうなるのとがくがくぶるぶるなルーテシア。
蛍が何度かコールをして、やはりだめだと振り返ると、青ざめた顔のルーテシアが目に入る。そうだよね、魔法騎士の助けが必要なのに、肝心の魔法騎士と連絡がつかないんじゃあ……。
因みに嵐も電話をかけているが、やはり繋がらない。
現在、二人はベルフェゴールと交戦中で、その際に生じた結界が電波を遮断してしまったのだ。
クエスター同士なら、シャードを通じた会話が可能なのだが、残念なことに二人は既にクエスターではない。よって、シャードによる念話もできない。
「……うーん……なんか嫌な予感がする」
蛍の第六感が告げた。その嫌な予感が何に対してのものかは分からぬが。
「今日は東京の一番高い塔にいく! って。張り切った様子で家を出て行ったけど……」
「一番高い塔…………あの時の東京タワーですか?」
「そ~夢をみたというから東京タワーすすめたのよ~」
「あははっ。今はもっと高い塔ができてるんだよ」
「…………!? そうなのですね…………では娘さんはそちらに?」
「スカイツリーっていう……あれ、香は一体どっちの塔に行ったんだろ」
「でも嵐さんの娘さんは……東京タワーへ?」
「だと思うの~」
自分の子だと思うと娘さん、と呼ぶのも妙な感じだなと思いつつ、二人の子の行き場所を考える。
蛍は香がスカイツリーに行ったものだと思っていたが、もしかすると東京タワーの方に行ったかもしれない。颯と香に交流は無かったと記憶しているが、二人が同じ場所に向かったのなら、東京タワーの可能性は高い……実際はスカイツリーに二人とも行っているのだが、そこまで娘の感情が分かる母親ではなかった。
今飲んでいる店は蛍の旦那の店で、場所は浅草にある。東京タワーまでそう遠くはない為、直接向かった方が早いだろう。
早速店を飛び出そうとする蛍に対し、嵐が待ったをかけた。手にはパソコンを持っており、それを操作している。
何をしているのかと、ルーテシアがその画面を覗く。
どうやら、どこかの映像を見ているらしい。
それは東京タワー周辺、それから東京スカイツリー周辺に設置されたライブカメラの映像だ。
画面を覗いていたルーテシアが、そこに映るある人物の姿を発見する。
「今映っていのは間違いなく薄暮の君……!」
どうやらスカイツリー周辺の方にいるようだ。粗い映像なのと、遠目での映像である為、細かくは分からないが、あの特徴的な服装はまず間違いないだろう。
そこに二人の少女が駆け寄っていく。どちらも蛍と嵐の面影のある少女で、今代の魔法騎士だ。
「香!? 颯ちゃんも……薄簿の君と一緒に……」
「…香ちゃんと颯もいるわね~」
「まさか薄簿の君もこっちに来ていただなんて。でもわたしたちの娘と一緒なら少しは安心……かな」
「ではあの二人が……お二人の子……! あれが…………私の………………」
颯の方を見てルーテシアがぼそりと言ったのを耳にした嵐がもじもじする。
「……………………」
ルーテシアはレクサスのことを思い出して色々と考え込んでいる。
レクサスだけではない。他の生み出した神も、奈落勢力に呑まれ、闇の軍勢に加わってしまっている。
ルーテシアが生んだ子の辿る運命――果たして、あの子は生かしていて良いのだろうか。
「その~できれば仲良くしてあげてくださると~~」
嵐の声を聞いて俯いていた顔を上げ頭を振る。
「…………いえ、物思いにふけっている場合ではありませんね。すぐに向かいましょう……! 今シャードが使えないお二人は危険ですが……どうしますか?」
「もちろん、わたしも行くよ!! 困っている人は放っておけないもんね! 人探しくらいなら、わたしたちにも手伝えると思うし!」
「…いえ、私達はここにいましょ~」
にっこり笑みを浮かべてすぐ飛び出そうとする蛍に対し、嵐が再び待ったをかけた。
先ほどの映像は数分前までの映像だったらしく、現在の映像に切り替えたところ、三人の姿が消えてしまったのである。
恐らくは、結界の展開によるもの。辛うじてそうだと認識できたのは、過去には二人もクエスターであったからだろうか。とはいえ、結界に突入できはしないのだろう。
「もう、私達は~結界を認識できないと思うの」
「認識できなくたって良いんだ。気づけなくたって、見えなくたって。目にとめることさえできなくっても、その場に向かって、探すことだけでもしたいんだ! だって、このまま動かないで待ち続けるなんて、わたしにはできないから!」
「も~~…じゃあ携帯もっていってね~…監視カメラの映像見て、情報そっちにおくるわ~」
「へへ……ありがとう、嵐ちゃん!」
「ありがとうございます……蛍さん、危険を感じたらすぐにその場を離れて下さいね」
結界の中では戦いが起きているのだろう。向かっている間に、その戦いが終わってどこかに向かうかもしれない。そうなった場合、結界から出てきた三人はまた別の場所に現れる可能性が高い。
細かく映像を見ていき、小さな違和感を見つける。嵐にできるせめてもの手伝いだ。
「お金もわたしておくわね~」
嵐の手から諭吉さんが数枚蛍の手に渡る。軍資金だ。
「えっえっ、わたしは大丈夫だよ! それより、わたしよりも、これはルーテシアちゃんの方が必要だよね!」
「そうね~じゃあこちらを~気をつけてくださいね~」
と言って、ルーテシアにそのお金を渡す。違う見方をすれば、妻が夫にお金を貢いでいるような……きっと気のせいだろう。
「……確かに、こちらの貨幣は持ち合わせがありません。お借りします……いつか何らかの形でお返しします」
「いえもうもらってるというか」
ぽっと頬を染めてあわあわと慌てる嵐。こんな時でなければ、また体を重ねていたに違いない。
店から二人が出ていくのを見送って、そっと自分のお腹を撫でる嵐だった。