アルシャードセイヴァー・リプレイ ノベル・レイアース+a   作:椎名真白

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衝撃、動揺、疑問

 

 

「馬鹿……な……」

 

 結界が解かれ、一刀両断されたベルフェゴールが塵芥と化す。真っ赤に燃え上がりながら、倒れ伏すベルフェゴールは見事自分を討ち取った仇敵、香を見上げた。

 

「へへーっ、ちゃんとママから教わってきたうちの力、舐めたらいかんよー!」

「ククク……だが……もうすぐ……援軍……が……」

「え、援軍やと!?」

「私を……追って来たの……? 分からない……」

 

 薄暮の君が酷い眩暈と頭痛を覚え、その場に蹲る。目の前の怪物が何なのか、それを倒した少女たちが何者なのか。今の彼女にそれらの知識は存在せず、ただひたすら、理解に苦しむ。

 ベルフェゴールは薄ら笑いを浮かべる。視線の先を追ってみれば、そこから駆け寄って来る人影が二つ。内一方の人物の真横、宙に罅が割れたかと思うと、そこから手が伸びてくる。

 

「……蛍さんっ!?」

「うわっ!?」

「…あ? なんだ?」

「え、あの声……ええっ、ママ!? それに、近くにおるアレ……なんや!?」

 

 後ろにいたルーテシアから抱きかかえられ、前方に跳ぶ蛍。先ほどまで蛍がいた場所を手が掠め、割れた空間さらその姿を顕現させていく。

 背後に出現した下手人を警戒するルーテシア。その一歩先にいた香と颯が、新たに表れた存在に気を引かれる。

 

「あなたたちは……!!」

 

 ルーテシアが出現した敵の顔を見て驚く。それは蛍も同様で、

 

「……! お前は……!!」

 

 巨大な影。その上に乗ったまだあどけなさの残る神官服の少女が、巨体から降り立ちルーテシアたちに対峙した。

 

「あれえ、失敗しちゃったぁ……!」

 

 奇襲に失敗した下手人――アルキオネがてへっと頭を手でこつんと叩いて舌を出す。可愛らしくもあざとい仕草は、庇護欲を掻き立てるものであったが、そんな可愛らしい相手ではないと二人は十分理解している。

 

「流石お師匠様。私の気配に気づけるだなんてねぇ……! けど今度のオベロンは一味違うよぉ……! 少しだけ、力の一部を教えてあ・げ・る♪」

「あなたたち……どういうつもりですか!」

「香! 薄暮の君を守るんだ! きっとこいつらの願いは、彼女のはず!」

 

 突然の出来事の連続に困惑しつつも、蛍が薄暮の君と呼ぶ存在が、目の前にいるお姫様のことだと理解した香が炎剣を構えながら守りの構えを取る。

 

「が、がってんやママ!」

「すげえ、話についていけねえ…」

 

 対し颯はもう何が何だか。

 

「颯ちゃん、一緒にがんばろうな! お姫様のピンチやで!」

「お、おう…まああの変なのぶっ叩けばいいんだな?」

「きっとそうや!」

「蛍さん……あちらにいるお二人はもしや」

「うん。私と嵐ちゃんの娘だよ」

「……! では……あの子が私の…………」

 

 ルーテシアが感慨深げに颯たちを見るが、今は敵が優先。まずはこの状況を脱しなければならない。

 方法は単純かつ明細。敵はとりあえず殴ればいい。難しいことはそのあとだと、颯も解こうとしていた構えを再度取って敵に対峙、発生させた電気を操り、仲間を勇気づける音楽を奏でる。それは不思議と気分を高揚させ、味方の士気を高めた。それはルーテシアたちにも効果を及ぼし、体の底から不思議な力を沸き立たせる。

 

「うおー!なんか力がみなぎるぞー!」

「ありがとうございます!」

「この感覚……嵐ちゃんを思い出すね」

 

 蛍は引退した身なれど、多少の戦いはできる。娘を前に格好悪いところも見せられない。

 ルーテシアはそんな蛍と肩を並べ戦えることに懐かしさを感じた。何せ、ルーテシアにとっては百年ぶりの邂逅である。百年、ではあるが、当時のことは今でも鮮明に思い出せる。

 嵐がこの場にいないなれど、頼りになる魔法騎士もいる。彼女たちの力を信じ、ルーテシアはレセプターの上位権限を行使。永き時を生きる為、封じていた記憶の一部を解放し、敵の行動を即座に分析、解析を行い、簡易的なれど未来予知を行う。これにより、敵の動きを瞬時に理解し、的確な指揮を執る。

 

「お二人共、力を貸してください!」

「モチのロンやで!」

 

 ルーテシアは二人の魔法騎士に対し協力を仰ぐと、過去の戦闘から判明しているアルキオネ、そしてオベロンのデータを送る。

 

「おう、さんきゅー」

 

 目の前の青髪の人物が誰かは分からないが、味方なのは間違いなさそうだ。颯がそのデータを母親譲りの頭脳を以て頭に叩き込む。

 

「さあ、オベロン。私の為にその身を削りなさい……!」

 

 巨体、オベロンが自傷したかと思うと、その体から闇の瘴気が溢れ出す。

 

「な、なんや……このヤバソーな気配!?」

「おいおい、あれまずくねーか!?」

 

 香と颯は先ほどのベルフェゴールの比ではない、見ているだけで身の毛がよだつ力に後ずさりする。

 

「この力は……! 危険です!!」

 

 その瘴気が炎のように揺らめいたかと思うと、蛍に向けて放たれた。

 

「安心してね? 痛くしないから❤」

 

 ルーテシアが蛍を庇うように前に出る。

 

「させませんっ!!」

「邪魔だよお師匠」

 ルーテシアは闇の炎に焼かれながらも、蛍を庇いその場を後退。敵との距離を保ちつつも、体勢を立て直す。

 

「あはははは! “闇の大魔”の力を前にお前たちはなすすべもなし!」

「……!! っ、ルーテシアちゃん……! アルキオネ……やはり薄暮の君を狙って、ここへ……!?」

「どうだろうねー」

 

 アルキオネはずびし、と指を突き立て煽ったかと思えば、光の宿っていない濁った瞳で蛍へ笑みを浮かべる。

 

「闇の大魔ってなんやケッタイな名前やな」

「普通に攻撃するしかねーか…厄介だな」

 

 ベルフェゴールと違い強敵であると認識を改めた颯が精神を集中し力を高める。

 

「おうそこのちびっこと大きいの…いくぜ」

「あはっ☆」

 

 颯から放たれた雷撃は、オベロンから発生した障壁により防がれる。かなり強力な一発をお見舞いしたはずが、完全に防がれてしまった。オベロンが呻きを上げていることから、そう何度もできる芸当ではなさそうだ。実際、アルキオネもこの戦闘を長引かせるつもりはなかった。

 

「さぁ、お姫様。いらっしゃい❤」

 

 発生した障壁は拡大していき、ルーテシアたちをも包み込んだ。ルーテシアがそれが自らの体に害を及ぼすものでないことを感じ取ると同時、その先の未来を予知し焦る。

 

「蛍さんっ!!」

 

 あと一歩、予知が早ければ結果は違ったかもしれない。

 障壁に包まれた蛍の体が光る。それは、百年前にも見た光景。故郷へ帰還する二人を見送った時と同じ光景――異世界への転送。

 

「な……ッ!?」

 

 考えて見れば分かることだった。

 最初から、アルキオネの狙いは薄暮の君ではなく、蛍にあったのだ。

 

「くっ……香! みんな……!」

「ママ!?」

「それじゃ、連れて帰るねー」

 

 蛍の体がこの世界より消滅する。ルーテシアが魔法を放とうとするも、オベロンの障壁により上手く魔法が撃てない。

 

「…おい、てめえ!」

 

 無視するなと言わんばかりに颯が雷撃を連続で放つも、その全てが障壁で阻まれる。その度にオベロンは傷を負い、片膝をつく。直接のダメージにはならないものの、間接的にダメージは蓄積しているはずだ。このまま戦えば勝てはするだろうが、あくまでこのまま戦えた場合の話。

 

「な、なんでや! なんでママを……!」

 

 香が炎の剣を振り回し、何度も障壁を叩く。それを障壁越しに見ながら、アルキオネがあっかんべーと、舌をだしながら光に包まれ消えていく。

 

「返して欲しくばお城までカモン~」

「ま、待ちなさいっ!!」

「鍵は、あるよね」

 

 嘗ての師の静止に対し、確認するよう言う。どこからか飛んできた炎の刃が、オベロンの障壁を完全に破ったのはその時だった。

 

「っ、たくもぉ……邪魔だなぁ」

 

 刃はアルキオネの頬を掠り、ほのかに焦がす。焼けた肌を鬱陶しく撫でながら、アルキオネもまた、オベロンと共にこの世界から消える。

 

「ま、ママが……ママが……」

「クソ…何が起こってるのかさっぱりだ」

 

 伸ばしたその手は届かず、香の手からからんと、剣が落ちる。

 

 ルーテシアは消えたアルキオネたちに呆然としながらも、最後に飛来した炎刃、それを放った人物の姿を探す。

 そこには傷だらけの愛弟子、嘗ての敵でもある闇の三神官の一人、ディグニティの姿があった。

 

「あなた……ディグニティ!」

 

 一体どうしてここに? とか、聞きたいことは山ほどあれど、その姿を見れば確認している暇がないのが分かった。

 ディグニティの体はボロボロで、血で濡れた体は立っていることもままならないようで、その場に倒れ伏してしまった。

 ルーテシアがその体を抱き起して見れば、片腕が捥げており、目も開くことができず、体は大きく裂けて、腹から大量の血を流している。体はところどころが腐りだしており、蛆虫が沸いて腐肉を貪っている。その臭いは、戦場で何度も嗅ぎなれた臭いであり、人の死期を悟らせるには十分過ぎるものだった。

 

「……はっ!? そこの人、すんごい傷だらけやん! 待ってな、今ヒールするからな!」

 

 それに気づいた香も駆け寄り、ディグニティに対し傷ついた肉体を癒す魔法を使用しようとして、そんな魔法覚えていないことに気づいた。

 マナに刻まれた負傷する前の肉体を復元する魔法は、体の欠損すらも治す魔法である。ルーテシアが代わりに魔法を使い、外傷だけは癒すことができた。

 

「……もう、手遅れ……で……げほ…………暮…………じない…………で…………大魔は…………為に…………」

 

 何か遺言を残そうとしているようだが、上手く聞き取れない。

 ルーテシアがその身を診断すれば、ヒールで治し切れないレベルの欠損があることが判明する。

 何せ、損傷は体だけに及ばず、その精神まで広がっていた。ディグニティの魂が、壊れかけているのだ。

 

「幕は…………君…………師匠…………好き…………よ……」

「あなた……マナが…………!?」

 

 霊素(マナ)。世界のあらゆる事物はマナの影響を受け、生命活動はマナを消費することで支えられている。そのマナが、ディグニティの中に欠片も残っていなかった。

 

「……くっ……だめ……か……」

 

 見様見真似でヒールの魔法を今この瞬間覚えられないかと試していた香であったが、そう簡単には行かず。仮に香が使えていたとしても、ディグニティの辿る運命に変わりはない。死者をも蘇らせる加護を使えたとしても、それでも無理なレベルの損傷がその身に起きている。

 原因を探るルーテシアは、ディグニティの体は力の代償を受けたのだと理解する。

 本来、トワイライトワールドには魔法騎士のシャード以外にシャードはなかった。ディグニティやアルキオネが使っていたシャードは、新たにトワイライトワールドに生まれたシャードかとも考えたが、そうではなかったらしい。

 ディグニティが身に着けているシャード……それは、シャードを疑似的に再現した模倣品のようで、シャードに似た力を使える代わり、大きな代償を必要とするものだった。

 奈落に囚われていた当時ならば、その奈落が代償を払っていた。しかし、奈落から解放された今、その力を使えば、ただの一介の魔術師には大きすぎる代償を求めるだろう。

 体の欠損を見るに、既に何度も交戦した後。その度に力を使い、その身を腐らせていった。

 何度も魔法を使おうとし、その度に失敗する香。何度も声を掛けるが、既に返事はない。

 ディグニティは、最期に師の顔を焼きつけたかったのだろう。目を開いてルーテシアの顔を見た後、事切れた。

 近づいてきた颯の姿に混乱しながら。

「そんな…………!」

「彼女は一体……?」

 

 戦いを見守っていた薄暮の君が、事切れるディグニティに顔をしかめる。

 

「…おう、お疲れ…誰かわからんけど頑張ったな」

 

 颯がディグニティの目に手をやって、閉じてあげる。めっちゃビックリしてがん開きだったやべえ目を。

『ふぁっ!!? え、なに、師匠と……え? 娘?何で?』

「くぅ……ママを……ママを助けに行かないと……!」

 ディグニティは颯の姿に嘗て戦った魔法騎士、嵐と、師であるルーテシアの面影を感じ取り酷く取り乱した。

 救えなかった命。俯いていた香はしかし、すぐに立ち上がり涙を拭う。立ち止まっている場合ではない。今は早く、蛍の救出に向かわなければ。

『いや、そんなことある? 女同士だよ。でもこの子から二人の面影を確かに……父親は、え、どっちが??? は? はー???』

「ディグニティ…………」

『あ、はい。何ですか師匠。というかナニしでかしたんですか師匠。マジで、え、どういった経緯で? これが――マナの神秘か……』

 ルーテシアが呼びかけるも、返事はない。

『ねーーーーー気になるんですけどーーーーーー!!』

「鍵って……なんか言っとったな、さっきのチビスケ」

「………………」

『こんな顔で死ぬなんて! 死んでも死にきれない……!』

「まあいいけどよ…その前にあんた体治さねえ?」

『てか連れ去られた蛍ちゃんの娘ちゃん……? 父親誰……流石に、師ではないか。師の面影はないし』

 ルーテシアも蛍を庇った最初の一撃で傷を負っている。自らをディグニティを癒せなかった魔法で癒しながら、言葉をつづけた。

 ルーテシアの魔法はディグニティを癒し切れなかったが、冥府へ旅立つディグニティを留まらせるくらいはできたようだ。もとい、壊れていた精神もあまりの衝撃に直ったというか……古いテレビを叩けば直るあの理論で。

「お二人共……よく聞いてください。私はルーテシア……かつてあなたたちのお母様とともに戦った者です」

「う、うん」

「…は?」

 というか颯の存在が衝撃的過ぎて死んでも死にきれなかった。この様子だとこの推定娘ちゃん師のこと知らない?

 ルーテシアの名乗りに颯が鳩が豆鉄砲でも撃たれたような顔をする。ずっとそんな顔をしているのはディグニティである。

 

「あ、やっぱ颯ちゃん知らんやったんや」

「…同姓同名か、男のはずだもんな…」

「……?」

 

 ルーテシアという名前は、颯にとって忌むべき相手の名前である。

 父親がいるにも関わらず、何度も出たその名前……実際は颯が父親だと思い込んでいる人物は、血の繋がりの無い嵐の友人の一人なのだが、そうとは知らない颯は、ルーテシアという人物が母親の浮気相手だと思い込んでいた。ルーテシアというのも本名ではなく源氏名のようなもので、颯の中でのルーテシアは、ちゃらちゃらとしたチャラ男である。

 学生時代の嵐に手をだしたルーテシアのが余計ヤバいのは気のせいである。

「いや、うちの母親誑かしたのがあんたと同じ名前でさ、ちょっと殺意が芽生えそうにな?」

「……? 似ていらっしゃいますね。とても素敵な方……」

 

 横でその流れを見ていた薄暮の君がルーテシアと颯を見比べてから、ルーテシアの方を見つめ頬を赤く染めた。記憶失えど本能は消えていないと言う事だろうか。

 

「あれ、これ修羅場ってやつやったりする?」

『はわわわわ……』

 香が思わず呟くも、颯たちの耳には入らなかったようだ。

ディグニティには届いていたが。

「魔法騎士の力を受け継いだお二人にどうかお願いします……蛍さんと……我々の世界を救うため、力をお貸しください!!」

「ああ、勿論や! ママを……助けに行かないと!」

「…似て…うん? なんだ同じ名前の兄弟でも…あれ? まってなんかついていけてないの私だけか?」

「ほら颯ちゃんも! ぶつぶつ言ってないで!」

「おいーー私の頭を整理させろーーー」

『私の頭も整理させてーーー!』

 ルーテシアの手に鍵が顕現する。その鍵は光を帯びており、トワイライトワールドへの道を示しているかのようだった。

 それを使い異界への門を開いて、五人は異世界へと飛んだ。

 

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