アルシャードセイヴァー・リプレイ ノベル・レイアース+a 作:椎名真白
1993年、東京。
都内の公立校に通う高校二年生、蜥堂蛍は社会科見学として東京タワーにやって来た。双眼鏡があり、有料ではあるものの、外の景色を楽しむことができる。
「ついたー! 東京タワー!」
「東京タワーってねえ……」
「もっと別の場所なかったのかなあ」
蛍はクラスメイトと和気あいあいと会話をする。
「ねえ見て、あそこ!」
「あれって!」
ざわり、騒がしくなる。蛍のクラスメイトたちが指す方を見れば、そこには他校の生徒たちの姿があった。
「これだけの人が集まっているなら……どこかに勇者となる方が……」
そんな中、ルーテシアは現在、都内の公立校である世田谷南中学の中学三年生「手島瑠々」としてブルースフィアで暮らしながら、勇者探しをする為、地球に潜伏、同じく東京タワーを訪れていた。
いろんな学校の集団をきょろきょろ見ている挙動不審な中学生になっているが、既にクラスメイトからは不思議ちゃんと認識されている為、あまり気にされていない。
「あの制服って確か……」
「〇✘▽◆よ!」
「♠ ❆もいるわ……!?」
「戦争でも始まるのかしら……?」
「えーと、お嬢様学園として有名なとこ……だっけ」
一方蛍は、クラスメイトの騒ぐ視線の先を見ながら首をかしげる。
その視線の先には都内でも有名なお嬢様学校と知られている私立校の制服の生徒たち。
見られているのに気付いたその生徒――志那都嵐は見られているのに気づいてにこやかに手を振る。
「なんかムカつくわね……」
「そ、そう?」
それを見て何故か苛立ちを覚える生徒たち。
蛍はと言うと、手を振ってもらったのに気づいてとりあえず笑顔で振り返す。
それから売店売り場の方を見て、
「あ、みんなー! お菓子売ってるよー! あとでみんなで一緒に食べようよ! えーと、わたしはこれとこれと、あとこれと……ポテトチップ、新作激辛火蜥蜴味? なんか面白そう! これも買っちゃおーっと!」
と、一風変わったお菓子などを買い漁りだす。
「ふふ…かわいいこね~中学生かしら~」
嵐はそんな蛍の様子を見て微笑ましいものを見るかのように言いながら、蛍の近くまで歩いてきた。
「こそ(ちょっと、あいつこっち来たわよ。殺していい?)」
「こそ(なんて???)」
などと言い合っている蛍のクラスメイトの裏で、ルーテシアは手に持つ二つのシャードが反応を示していることに気づく。
「…………シャードに反応が!」
赤い八角柱と黄緑の雫型のシャード。鍵を開けばすぐにでも彼女たちをトワイライトワールドに転送できるだろう。
「…………すぐにお連れしてしまってよいものか……。いえ、説明しても、いつものように空想の類と片付けられてしまうのが関の山……で、あればここは行動あるのみ…………! すみません、勇者のお二方……!」
と言って、鍵を振りかざす。
「ユーシャ?」
「は~い、私かしら~?」
と、二人が振り向くと同時。
ぐにゃり。空間が歪んだ。
気付けば蛍の嵐、そしてルーテシアの三人は見知らぬ場所に立っていた。
異界と異界の狭間、ブルースフィアとトワイライトワールドを繋ぐ道である。
「ええっ、な、なになにっ!? ここどこ!? みんなは!? 東京タワーは!?」
「どこ…かしら」
ルーテシアが改めてシャードを翳し反応を確認。
「えぇ、これで間違いはない……このお二人こそ勇者!」
「あれ、あなたたちはさっきの……」
蛍は嵐ともう一人、ルーテシアの姿を見て首をこてんと傾げる。
二人の前に立って、ルーテシアはまず頭を下げた。
「突然お連れしてしまったことをお詫び致します」
「勇者? わたしが?」
「あら~さっきの中学生の~」
嵐はと言うと、蛍に気づいてからルーテシアの方を見て動きが止まる。
そう、一目惚れの瞬間である。
尚、嵐が中学生と称したのは蛍に対してであるが、蛍はそれをルーテシアに対してだと捉えている。まさか高校生である自分を中学生と思っているとは考えていなかった。
「はじめまして、私はルーテシア。あなた方に……私の世界を救って頂きたいのです」
「世界を……救う……?」
突然の申し出に懐疑的である蛍に対し、
「はい、よろこんで~!」
と。考える間も無く返す嵐。
「はやいっ!?」
あまりの躊躇いの無さに蛍が叫ぶ。
「その決断力……! 流石は勇者……!!」
「はい、貴女のためなら勇者でもなんでも~~」
「…………? よくわかりませんが、ありがとうございます!」
「よく分かんないけど、すぐに受け入れている……!? これがお嬢様学園生徒の力……!?」
絶対違う。
ルーテシアはすぐ頷いた嵐に感謝を述べた後、蛍の方を向いて言葉を紡ぐ。嵐も合わせるように蛍に言葉を投げかけた。
「あなたも……どうか力を貸して頂けないでしょうか!」
「ふふふ…一緒にがんばりましょ~?」
「よく分かんないけど……分かった! 誰かが困ってて、わたしはそれを助けられるってことだよね! じゃあ、困ってる人は放っておけない! わたし、力になるよ!」
「! ありがとうございます……! はい、あなた方のお力があれば……私達の世界を救うことができます!」
相手がどこぞの契約を持ちかけてくるマスコットならこの後悲惨な運命が待っているところだった。相手がルーテシアだったのは幸運だったのかもしれない。
「わたし、蜥堂蛍! よろしくね!」
続く嵐もぽんと手を叩いて、
「志那都嵐、高校二年生よ~よろしくおねがいしますね~」
と名乗りを上げる。
「蛍様に、嵐様ですね……よろしくおねがいします。では……こちらを……」
と、赤いシャードを蛍に、黄緑のシャードを嵐に手渡す。
「わぁ、綺麗! これは……石?」
「…これは、どういうものでしょ~?」
受け取った二人は石を見ながらルーテシアに尋ねる。
ルーテシアはこのシャードの使い方を伝道する役目もある。嘗て共に戦った仲間たち、その戦いの記憶を一部ではあるが、彼らに継がせることができる。
「これなる石は勇者たる魔法騎士の証……かつて、私とともに戦い……その命を以て大魔を封ぜし者たちの残せし力……」
「魔法騎士……不思議……。初めて見たもののはずなのに……触っていると、なんだか暖かくて……どこか、懐かしい気持ちになるような……体の奥から熱が湧いてくるみたい……!」
「…魔法…騎士…何かが流れ込んでくるような…」
「これよりあなた方に……その力を引き出す術を身につけていただきます」
と言うと、ルーテシアの額に青い宝石……レセプターが現れる。そして、二人の中にそれらの情報が一気に流れていく。
薄暮の世界、トワイライトワールド。所謂科学発展していないファンタジーワールド。しかし、空は雲に覆われており、太陽は常に翳っている。天に星は無く、人々はわずかな既知領域以外で旅することはできない。また、空はいつでも薄暗いし、四季の変化も乏しく、冬は長く厳しい。力ある者は保身を図り、弱気民はどうすることもできずにただ神に祈る他ない。やがて訪れる救世主を待ち望んで、静かに暮らすのみだ。
「…っ…情報が~嵐のように…*1」
こうして情報を得た二人だが、巨人の塔に闇の大魔が封じられているなど、一部の情報は得られていない。
継承で得たのは戦いの記憶で、これらの情報はレセプターを通し得られた一般常識範囲の内容だからだ。
また、トワイライトワールドの言語についても継承により得ることに成功している。
「彼らの戦いの記憶の一部……そして私達の世界に関する知識……」
「体が……熱くて……自然と、やり方が分かる!」
蛍のシャードが光り輝き、同時に現れた炎から剣を創造して構える。
「…OSをインストールされたような感覚…起動キーはきっとこの石…」
「なるほど……こうやって戦えば良いんだね!」
「流石は勇者……もう理解されたのですね……!」
「わあ…蛍ちゃん格好いい~…こんな小さい子もがんばるんだもの、私もがんばらないと~」
「わたしも高校二年生だよ?」
「……え?」
「…………あら、小……いえなんでも……さて……そろそろ私達の世界に着く頃です。詳しいことはそちらで」
「うん! よろしくね嵐ちゃん、ルーテシアちゃん!」
世界が再び歪んでいき、やがて三人は、トワイライトワールドの地へ降り立った。
王の都:希望の国の都。世界の住人からはただ都と呼ばれることが多い。
尖り矢河:源流は北東にある雲隠れの山。矢のように流れが速いからこの名前で呼ばれている。氾濫しやすいが、天候の穏やかな時は、伝承にあるほど急流でもない。河での交易も行われる。
氷風山脈:高部は万年のすっごい雪に覆われ、無限にテンションが上がる。寒風を王国に吹き降ろす。もっとも高い雲隠れの山には、闇の神に仕える恐ろしい大蛇が住まっていると伝わっている。
常闇森:広大な森林。王都東部に広がる。常緑の草木が鬱蒼と茂り、昼でも夜のような明るさしかない。深部は前人未踏で何があるか分からない。奈落の軍勢が住まうとされ、オーク王の宮殿や悪鬼の集落があると言われている。
巨人の塔:王国南部の森の奥深く。遥か太古、巨人が建てたと言われる塔がある。人類の住まう領域からうっすらとその姿が見えるものの、近づいた者はいない為、何の為に建てられた塔なのかは分からない。