アルシャードセイヴァー・リプレイ ノベル・レイアース+a   作:椎名真白

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破滅齎す闇の神(デボネイラ)

 

「よっし!」

 

 邪魔者が消え去ったことをヒカルは喜んだ。これでやっと蛍のもとに向かうことができる。

 

「その力……ぜってーヤバイやつやろ! さっきの連中みたく、誰かを傷つけるためにそのヤバ気な力を使おうってんなら、うちは正面から止めさせてもらうけんな!」

 

 びしぃっとヒカルを指さして香が叫んだ。

 ヒカルはザ・ガードから姿を見せると、香に見えて歪な笑みを浮かべる。

 その背後に闇が集結、デボネイラの本体が姿を見せる。

 

「…まだあんのか…」

「よくぞ邪魔者を倒した」

「…………!!」

「ああっ! またオバハン!」

 

 デボネイラが手を躍らせるように動かせば、その指先へとアルキオネの罅割れたシャードを転送する。

 それをもう一方の手で優しく撫で上げれば、綺麗だった翡翠の宝玉は色を失い、黒く染まっていく。

 

「何やっとるんや、それはルーテシアさんの弟子のもんや! 返せ!」

「それは違うな」

 

 デボネイラに斬りかかる香を、ザ・ガードに再び搭乗したヒカルが邪魔立てする。

 シャードが黒色に染まるのに合わせ、倒れ伏したアルキオネから絶叫が響いた。

 失っていた意識は急速に覚醒し、目を大きく見開きながら涙を流す。その涙は血が混じっており、口から、鼻から、体中の穴という穴から血を噴き出す。体内の血液は体外へと放出され、綺麗だった肌は青白く変色。やがて土色へと変わり、まるで弾けた風船のように萎んでいく。

 

「―――ぁ」

 

 最期に、何か声のようなものを発し、アルキオネは死んだ。

 

「アルキオネ…………っ!」

 

 急ぎルーテシアが治療を施そうとするも、既に手遅れ。如何なる魔法も、その身は受け付けず。

 

「…ちっ…」

「これこそ、神の齎した秘石」

 

 颯が雷撃を放つも、ザ・ガードにまた防がれ、デボネイラに対し、再び斬りかかろうとする香も、神経加速剤の効果が切れてしまい、先ほどまでと比べ遥かに行動が劣ってしまう。

 

 

「ようやく、ようやくだ。永き時を経て、ようやく手にしたぞ。あの時の力を……!」

 

 デボネイラの発言、そして翡翠色のシャード。それを受け、ルーテシアはようやくデボネイラの存在を、その手に握られたシャードの正体を思い出す。

 

「まさか……エメロードのシャード!?」

 

 嘗て、大きな戦いがあった。

 それはルーテシアが生みだした神々と、奈落勢力との衝突より始まる。

 奈落勢力は次々と近き特性を持つ闇の神を取り込んでいき、残された光の神もその戦いで存在を砕かれていった。

 奈落を率いるは始まりにして最初の闇の神、デボネイラ。もう一人のアルフにより生み出された神は、レクサスを取り込んだ存在であり、闇の神を次々と沈めた戦犯。

 相対するは光の神エメロード。彼女はデボネイラとの相打ちにより砕け散り、神々の時代が終わりを告げた。

 デボネイラは完全に砕けてはおらず、世界を写す鏡として、負の感情が膨大に溢れた今、この時代に蘇り、相打ちとなった神、光神エメロードの力を手にしたのだ。

 

「んなッ!? そいつが、あのオバハンの手に!?」

「いけない……っ!!」

「…あー状況は最悪だな?」

「さあ、可愛い私の娘。こっちへおいで」

「はい! お母さま!」

「待ていやヒカル!! 言うたやろ、力は悪いことに使うもんやないって!!! うちのママだってそうや! 絶対、アンタがそんなヤツの言いなりになって悪いコトなんてやって欲しくないはずや!」

「ダメ……いってはいけない!! それは闇の神……全てに破滅をもたらす存在……!!」

 

 ルーテシアの声に、ぴたりとヒカルの歩みが止まる。

 その声はヒカルが搭乗する魔神、ザ・ガードを通しヒカルへと確かに届いた。

 ザ・ガード、デボネイラが生み出した魔神は、その依り代として自らが吸収した闇の神、レクサスの魂を使用している。ザ・ガードに残されたレクサスの心が、母たるルーテシアの声を受け、確かにヒカルへと届いたのだ。

 

「闇? 蛍は……光……私は……光……蛍の……」

「蛍さんのシャードから生まれたあなたが……闇に落ちてはいけませんっ!!」

「そう! そうやで! ヤバイ闇の存在なんて、ママなら絶対に許せん相手や!」

 

 一方その頃――。

 “闇の大魔”が作り出した可愛いデコレーションの結界内に囚われた蛍。

 その蛍の内側から、あたたかな炎が溢れ出す。

 

「……!? これ……は……!?」

 

 “闇の大魔”が倒されたことで、闇の可愛いデコ牢獄が綻び始める。

 

「この力なら……! 行ける!!」

 

 炎はやがて宝石のような形を取る。

 それこそ、蛍の中に眠っていた本当のシャード。

 その卵は蛍に助けを求めるように、泣いていた。

 蛍は泣いているその誰かを助ける為、その力を使い闇を振り払う!

 

「感じる……私を呼んでいる……誰かが困っているって! そんなの、放っておけないよ!」

 

 その炎は大きな光となり、闇を砕いた。

 きらきらと、仄かな光を残しながら、その部屋から脱した蛍は向かう。助けを呼ぶ声の元へ。

 

 

 

 

 

「何故拒む。力を手にせよ。それがお前の運命だ」

 

 デボネイラの甘い囁き。それをヒカルは振り払う。

 そこに、しゅたたたー!? と物凄い足音が響き、誰かが扉を突き破り入ってきた。

 ヒカルはその人物を見ると、驚いた顔をした後、破顔する。

 

「蛍!? やっと会えた……!」

「はぁっ!? ママ!?」

「蛍さんっ!」

「君が……私を呼んでいたんだね」

 

 蛍はヒカルを見て一目でわかった。彼女こそ、蛍が持つ新たな力、シャードのアバターであると。

 

「だが遅い!」

 

 最早用済みであるとヒカルを始末しようとするデボネイラだが、

 

「……ッ」

 

 ザ・ガード……レクサスの手で拒まれる。

 

「レクサス…………」

 

 生み出してしまったことを後悔していた。

 闇の神など生むべきではなかったと、何度思ったことだろう。

 レクサス、キーラ、生み出した闇の神たちは、何れも奈落の手に堕ちていった。

 そのことに後悔し、デボネイラやエメロードの記憶に蓋をして、忘れ去ろうとしていた。

 ふと、暖かな感触。

 自らを抱きしめるその幻は、確かに自らが生み出した神であり、我が子であるレクサスのものだった。

 

「以前ルーテシアちゃんから受け取って、香に預けたものとは違う……私の……力……!」

「蛍……もう、私を置いていかないでね……」

「助けるよ、私が……! もう苦しませたりなんてしない!」

 

 ヒカルの正体は、地球に帰還する際、蛍の体から離れてしまったもの。

 蛍の心に最初からあったシャードは、今この時をもってようやく真の力を発揮する。

 

「ならば闇の力で……オーーーッ!!」

 

 凝縮した闇が放たれる。

 

「ええい、やらせるかぁ!!! 感動のシーンを邪魔すんなやオバハンー!!!」

 

 間に入り込んだ香がその闇を振り払う。

 その隙を縫って稲妻が迸り、デボネイラの身に雷撃が叩き込まれる。

 ルーテシアもまた、三騎の魔神を指揮し前へ躍り出た。

 三騎の魔神による攻撃。デボネイラはそれを躱しながら、宙を舞う。その身はやがて一帯にある闇の力を完全に取り込み、変貌を遂げる。

 一見すると姿見の鏡のような姿。その鏡にデボネイラの姿が映し出されたかと思えば、鏡から手と足が生え、尻尾が生えた怪物が生まれる。

 

「愚かなり、クエスター。死ね……!」

「じゃっかーしいわー!! ホンッマお前は許せん! ぜってーぶっとばーーす!!」

「しょうがねえな、付き合ってやるよ」

 

 味方を勇気づける颯の音楽が、ここぞとばかりに響き渡る。

 それは香、ルーテシア、颯、蛍、ついでに未だに連れているディグニティの遺体に力を与えた。

 

「デボネイラ…………エメロードに代わってあなたを討ちますっ!」

「光の神か、忌々しい。奈落の闇が、世界を染め上げるのだ。今こそ、世界に門を開く時。アルキマヤツオロキン

 

 宙に闇の扉が出現したかと思うと、蛇のような黒い龍が無数に出現し魔法騎士たちに絡みつく。

 

「うっわ、なんやこれキモチワル!?」

「うわ、気持ちわりぃ」

『気を付けて! お母さま……ううん、闇の神のそれは、あらゆる力をすり減らせる!』

「……! 助言ありがとう、ヒカル!」

「つ、つまり気持ちを強く持てっちゅーことやな! ふんぬおおおおーー!!」

 

 ここぞとばかりに根性論! だがそれで全員防いだ。ここにいるのは根性のある勇者だけ。黒い龍もこれには吃驚。噛みついたはいいが硬すぎて歯がボロボロよとしおしおになりながら門へ戻っていく。

 デボネイラは絶対防御壁を展開し、完全に守りの姿勢に入っている。

 攻めて来ないのならば今が好機とルーテシアが颯に回復魔法を使い先の戦いの傷を癒す。

 

「颯さん……どうぞ!」

「…さんきゅ」

『気を付けて……! 次の攻撃に向けて防御を固めている……!』

「ならその間に可能な限り敵の力を削ぎましょう……!」

「それなら……今のうちに、少しでも力を削がせてもらう!」

 

 ここからが決戦だと蛍はザ・ガードに搭乗し、障壁に対し自らの障壁をぶつけだす。

 防御の壁に対し、闘神の闘気により生み出される防御の壁をぶつけることで、二つの防御の力は重なり合う。それは同質の力だからこそ共調し、やがて二つの壁の間に小さな点が生まれた。

 

「チッ……小賢しい!」

 

 デボネイラは城の天井を突き破り空へ逃げ出す。

 それをザ・ガードと共に蛍が追う。

 

「乗って乗ってーーー!」

「よっしゃ、うちも続くやでぇ!」

 

 戦いで疲弊した人の身では、あの戦いについていくことはできない。

 蛍に倣い魔神に搭乗した三人は、デボネイラと蛍を追って空へ駆ける。

 香を通しフラムへ伝わる炎のマナ。フラムの手には巨大な炎剣が握られ、それを一気に振るう。

 目指すは点。逃げようとするデボネイラの行く手をメールの生み出す氷が阻み、トネールの稲妻が視界を阻む明かりを生み出す。

 夜闇に赤く燃え上がる炎剣が、デボネイラの障壁を突き破った。

 

「ふっ、どうやぁ!!」

「ふふ。やるね、香!」

 

 親子二人が互いに誉め合う。

 

「ん……、なんか……見えたで!」

「あん?」

 

 香は攻撃の際、デボネイラの中に輝く光の存在を知る。

 

「あれは……さっきのアルキオネが持っとった光や!」

 

 先ほど吸収された光のシャード。その輝きは完全に失われていないようだ。

 

「エメロードのシャード…………それをデボネイラから引き離すことができれば!」

「はぁ、生き返る…やっぱこれだよな、んでんで」

 

 トネールの中でナパームチェリーを口に含みながら颯が話を促す。

 戦いで疲れた頭に弾けるような果汁の味わいが広がり続ける五秒間。一個だけ激辛ナパーム弾が混ざっている。

 その辛さを今度は甘い蜂蜜酒を飲み中和する。完璧である。

 

「ぷは~やっぱこれだよなあ…さてと、なんか光だっけ?」

「…………お母さんには内緒にしておきましょうね」

「…頼んだ…」

 

 未成年飲酒の現場に居合わせた香の母親蛍氏。わざと大きくよそ見して気づいていないフリをする。

 

『いーけないんだーいけないんだーせーーん、せいにーいっちゃっおー』

「く…敵でもうざいけど味方だとかしましい…!」

「大丈夫です。ここでは私が法律です」

 

 創造者からのお許しを得つつ、酒を飲んで魔神を駆る。飲酒運転ダメ、絶対。

 そんなの飲みながら空飛ぶ乗り物かっ飛ばすから、段々気分が悪くなる颯。

 ルーテシアがそっと魔法を飛ばしアルコール成分を緩和する。

 

「…お、おうちょっと戻しそうだったぜ…セーフ」

「う、うん! うちもなんも見んかった! 見んかったで!」

 

 香が母親と同じくよそ見をしながらそう言った。

 そういうしている間にも、ルーテシアによるデボネイラの解析は行われており、右手の付け根に光があることが判明。

 

「満足したか? ならば散れ。光の力で」

 

 デボネイラはまだ余裕と言わんばかりに、光の力を用いた攻撃を行ってくる……が、発動する場所の検討はついた。

 

「香、右に!」

「ほ、ほいやぁっ!!」

 

 最も接近していた香を狙った光の一撃は、蛍に見抜かれて躱される。

 

「お、やるなあいつら」

「さすがは親子……」

 

 と言いつつ颯を見るルーテシア。

 

「…な、なんだよ、うちらも別に悪くはないだろ?」

「えぇ、そうですね……」

 

 気恥ずかしそうにする姿を、魔神たちが微笑ましく見守る。

 そこにまた闇の扉から龍が現れ拘束を試みて来る。

 ルーテシアと颯はそれを躱すが、同じく微笑ましそうに見ていた蛍と香は油断したせいで拘束を許してしまう。

 

「っと、あああー!? うにょうにょが来たー!?」

「くっ……! こっちにも……!」

 

 完全に阻害されたわけではないものの、動きが鈍くなる。

 それを傍目に未だに食べたり飲んだりしている颯。自由過ぎる。

 

「おし、トネールいけ!」

 

 命令すればトネールの雷撃が線となり、デボネイラの右手の付け根を傷つける。その線は焼き切った付け根から抜け落ちたシャードを香の方へ飛ばす。

 

「おし、キャッチは任せた獅子原!」

「ほいさー!!」

 

 香がフラムから体を出してそれを受け取り、蛍とルーテシアがデボネイラへさらなる追撃を行う。

 空中でのバランスを崩したデボネイラへそれらの攻撃が当たり、鏡を打ち砕いた。

 

「おのれ……魔法騎士(マジックナイト)……オノレェエエエエエエエエエエエ!!」

「や、やったか!?」

 

 香が怖いことを言うが、やってないフラグになることもなく無事倒せたようだ。

 

「消滅……したか」

 

 炎を纏った拳を振り払った蛍は、ザ・ガードから降りる。

 同じく他の三騎の魔神も地上に降り立てば、薄暮の君が迎えてくれる。

 

「闇が、消えました……! それに……ルーテシア様❤」

 

 情欲に燃える瞳でルーテシアを見つめる薄暮の君。どうやら記憶が戻ったようだ。

 

「良かった! 姫さん、無事やったんやな!」

「はい♪」

「よかった……」

「良かった……。これでまた平和は取り戻せた……かな」

 

 香、ルーテシア、蛍が戦いの終わりを喜ぶ。

 颯は突然地上に戻ったせいでまた酔いが回って気持ち悪そうにしていた。

 

「光のシャードを、本来の姿に戻してあげなければなりませんね」

「わわ、そうや! 今にも割れそうや、こいつ!」

「……! お願いします」

「おう、直せるなら頼むわ」

「はい♪」

「…いやなんか姫さんキャラが変わってなれねぇ…」

 

 元々こっちが素だが、颯たちからすれば会った時とはまるで別人だろう。

 蛍も今代の薄暮の君の性格に驚いているところだ。

 香がしゅたたたーと薄暮の君のところに罅の入った光のシャードを渡せば、薄暮の君は光の力でぺかーっとシャードを修復する。

 

「おおー、見事なモンやなー!」

 

 ぺかーっと――オベロンが、薄暮の君の背後に出現し、その命を刈り取ろうと手を伸ばす。

 

「な……!?」

「っ……危ない!!」

「じゃまだお前」

 

 げしっ、と。颯が稲妻が如き速さで接敵し回し蹴りをすれば吹き飛ばされ、倒される。

 

「ありがとうございます♪これでようやく、目的が達せられました❤」

 

 おかげで完全に光のシャードの修復が完了する。

 

「ほっ……何事もなくて良かったわぁ……」

「最後まで油断は禁物ですね……」

「……?」

 

 今度こそ終わったと安心する香とルーテシア。しかし蛍は、何か言い知れない違和感を覚えていた。

 まだ終わっていない。そんな気がする。

 そんな蛍の様子に気付いたルーテシアも、何か、重要な何かを見落としてないかと記憶を探る。

 

 ルーテシアは見ている。

 レクサスの力により、薄暮の君が蒼き星(ブルースフィア)に飛ばされるところを。

 何故、地球に薄暮の君を飛ばしたのか。

 魔法騎士(マジックナイト)たちは聞いている。

 ディグニティの遺言を。

 

 

 

 

 

「暮…………じない…………で…………大魔は…………為に…………幕は…………君…………師匠…………好き…………よ……」

 

 

 

 

 

 薄暮の君を信じないで。“闇の大魔”はお師匠の為に。黒幕は薄暮の君。師匠の作った杏仁豆腐が大好きだったよ。

 

 

 

 

 

 

 

「これでようやく、やり直せますね❤」

「……ん? 姫さん……?」

「あん?」

「やり……直す…………?」

「この世界のイデアとして、この世界の守護する者として。この世界の、神として――。汚染されたこの世界を一度壊し、作り直します❤」

「…………あなたは、“誰”ですか?」

「私は、私ですよ? アルキオネにはその為に、このシャードを育ててもらいました」

「………………は、はぁッ!?」

 

 突然のカミングアウトに驚きを隠せないでいる香。

 蛍と颯は早いもので既に臨戦態勢に入っている。

 ルーテシアはその正体を確かめるべく、返事を待つ。

 

「ルーテシア様❤あなたを愛する、光の神、エメロードですよ❤」

「なっ…………!?」

「な、何を言うとるんや、姫さん!? 世界を……壊す!?」

「ご安心ください❤皆さんには一切、害はおよびませんから!」

「何を言って…………」

「そのためにアルキオネやヒカルを利用して……いや、彼女たちは利用されていた……のか……!?」

 

 蛍の激昂。人の感情を踏みにじったその行いが本当だとすれば、到底許せるものではない。

 薄暮の君は語る。この世界に終末――ラグナロクを起こす。今ある力を使えば、この世界を一度壊し、再構成するだけの可能性(イデア)は残っているだろう。戦いによりこの地にはマナが溢れ、三騎の魔神も存在し、デボネイラという世界の負の感情の塊も消え去った。それら幾つもの条件が満たされたのが今なのだ。これまでの戦いは、儀式を完遂するまでの過程に過ぎない。

 

「…世界をまるごとクリアするってことか…そこまでもうこの世界は手遅れなのか?」

「そんなことはありません……!!」

 

 ルーテシアが颯に強く反論する。

 大声で怒鳴られて委縮した颯に、気持ちを抑えられていなかったなと冷静になる。

 

「な、な……そ、それでええんか!? この世界の人たちを……今を一所懸命生きてる人たちをバッサリ見捨てるなんて、そんな!」

 

 黙って聞いている蛍の横で、香が悲痛な叫びをあげた。

 薄暮の君は続ける。

 

「この世界の人たちが滅びるわけではありませんよ。一度、まっさらな状態となって、新たな存在として、産み落とされるのです❤何も恐れることはありません。嘗て、世界はそうして、再構成されたのですから。今、ここに理想郷(アズガルド)を成しましょう!」

「そのために……ルーテシアさんの弟子たちは、この都に住んどった人たちは、犠牲になったんか!?」

 

 一瞬、再構成なら何も問題ないのかと思った香だが、犠牲になった人々のこと、その時に受けた痛みや苦しみのことを考え、やはり許せるものではないと結論づける。

 

「…言いたいことはわかったけどよ」

「ただ、魔法騎士のシャードから生み出された颯さんだけ、消える必要があるのが残念ですが」

 

 続けようとした颯を遮り、薄暮の君が言葉を挟んだ。

 

「………………は?」

 

 同じく反論を続けようとした香の目が点となり、颯を見た。

 

「ルーテシア様と嵐様という魔法騎士により生み出されたあなたは、この世界が再構成されると共に、消えてしまうのです。ですが、本来あなたという命は、生み出されるはずがないものでした。正しい状態に戻るのですから、恐れることなどありませんよ❤」

「…そりゃご丁寧にどうも…」

 

 ぽりぽりと頬をかきながら聞いている颯。

 対し香は動揺を抑えきれないでいた。

 

「は、はーーっ!!??? そ、そないなこと! はいそうですかなんて認められるワケがないやんけ!!」

「……………………なら、あなたを止める理由には十分ですね」

 

 ルーテシアが戦いの構えを取る。

 続き、蛍も拳を前に出し、戦いの意を取る。

 

「私も……それは看過できないな。嵐ちゃんがどれだけルーテシアちゃんのことを大事に想って、二人が、どれだけ颯ちゃんのことを大切に想っているか、しっかりと目にしてきたんだから。私だって、香が同じ立場になると止める。黙って受け入れるなんてことはできない。嵐ちゃんもきっとそうだ。それに……」

「私はこの世界の守護者ではなく…………我が子を守る親として、あなたを止めます」

「しょうがないですね❤なら一度、皆さんには死んで貰います♪安心してください。最後に蘇生(イドゥン)しますよ❤」

 

 その中に颯は含まれていないのだろう。

 件の颯はというと、その話を聞くのが辛いのか、耳を塞いで聞かないようにしている。

 それだけ、衝撃的な会話だった。

 

「…なんか死ぬ云々より獅子原のかーちゃんと…えーとーかーちゃん(ルーテシア)の台詞のほうが恥ずかしくて、逆の意味で死にたくなってきた…」

「これ以上…………我が子を失わせはしない……!!!」

 

 

 蛍は反抗期な年頃の子供らしい反応の颯を見てにこにこしている。

 

「う、うちだって! 颯ちゃんは友達や!! だから……黙ってなんておれへん!!」

「…あーもーいいよ!! 早く叱りつけて終わらせようぜ! 恥ずかしんだよ!!」

「ふふ……」

 

 薄暮の君の姿が変貌する。

 光のシャードをその身に宿し、真の姿――光神(こうしん)エメロードが姿を見せた。

 

EMERGENCY! EMERGENCY! EMERGENCY!

光神(こうしん)エメロード

 

 

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