アルシャードセイヴァー・リプレイ ノベル・レイアース+a   作:椎名真白

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始まりの街

 宿にて。

 ルーテシアはこの世界由来の元々着ていた服装へ着替える。

 中学生としての姿ではなくなったことで、どこか威厳のある姿に見える。

 お風呂なんてものがあるわけがなく、体を雑に拭くくらいしかできない。布も雑巾のようなぼろ臭さで、水はあるが有料となっている。

 

「う~ん…この環境になれないといけないわね~」

 

 まだ一日目だからいいものの、ここからさらに数日、数週間とこの世界で過ごすことを考えれば、早く慣れねば辛いだろう。

 

「こういうのも、なんだか新鮮で楽しいね!」

「ふふ…私達だけ特別な修学旅行ね~」

 

 と蛍も表面上ははしゃいでいるものの、都の現状を知るや枕投げをする雰囲気でもないなとそれを我慢。照明もないので、寝て疲れを癒すことを優先する。

 とはいえ、その寝るベッドも現代日本とは大きく異なる質の最悪なものである。安眠は難しい。

 二人で話をしていると、ルーテシアが購入した水を手に戻ってくる。

 それに布を浸そうとしたところで、蛍が待ったをかける。

 

「シャードに教えてもらった力が役に立ちそうだね!」

 

 と言いながら、炎を灯す。継承した力を早速活用し、お湯を沸かし、さらに夜を照らす光を灯した。

 

「早速魔法を……流石ですね」

「ほら~二人共ふいてあげるから脱ぎなさい~」

「えっ、わたしも!? わたしはいいよー。自分でやるから!」

「あ、はい……ではお願いします……」

 

 ルーテシアは嵐に言われるままに服を脱ぐ。

 長きを生きてきたと言っても、その身は少女と変わりない。

 陶器のように美しく白い素肌を見て、誰かがごくり、唾を飲み込んだ気がした。

 

「そうよ~背中はふけないでしょ~?」

「うーん……じゃあ嵐ちゃんの背中は、お返しにわたしが拭くね!」

 

 やって貰うならやり返す。ビジネスライクな関係だ。

 

「では、ルーテシアさまから失礼しますね~…ふふ、とてもすべすべ」

「ひゃっ……!?」

「じゃあ、その間に嵐ちゃんの背中をー!」

「おねがいね~」

 

 ――そうして、夜は更けていた…………。

 

 

 

 

 

 夜明け、とはいえ、日が出ることはない朝がやってくる。

 始まりの街、その周囲に蠢く影があった。

 それらは少しずつ、その魔の手を伸ばして来るのだった。

 

 

 

 

「すごい人たちの跡を継いだんだ、みんなを絶対に助けないと!」

 

 一足先に早起きした蛍が宿の前で剣の素振りをしている。 

 継承したとはいえ、実戦経験はゼロ。少しでもこの感覚に慣れようと、剣を振るう。

 

 宿の部屋にて。

 

「おはようございます……」

 

 ルーテシアが目を擦りながら起き上がる。

 が、体が上手く動かないことに気づき横を見れば、ルーテシアを抱きしめたまま離さない嵐の姿があった。

 

「あら……嵐さん…………? …………困りました。これでは動けません」

 

 IT企業令嬢、育ちは良いはずなのに、育ちの悪そうな寝相だった。

 

「よしっ、こんなものかな!」

 

 と、素振りを終えた蛍が宿の部屋に戻り扉をばーん、と開け放つ。

 

「二人とも、おはようー! 朝になったよー!!」

「おはようございます、蛍さん」

 

 挨拶を返すルーテシアの隣で、嵐は未だにすやすやだ。

 

「んもー、嵐ちゃんー! 朝だよー! 朝ご飯食べて、都を助けに行くよ!」

 

 ゆさゆさ、がくがく。体を揺らせば寝ぼけ眼でやっと嵐が目を覚ます。

 

「ふわゃふわゃ…おはようございまふ…」

 

 それから、宿で朝食を頂き馬車との待合所まで向かう一行。やはりというか、現代日本に比べこの世界での朝食はあまり美味しいものではなかった。

 

 

 

 

 程なくして馬車が来た。

 交易商の男が下りてきて一言二言挨拶を交え、都へ向け出発する。

 

「都で戦闘が起きてるらしいから、都周辺についたら一度迂回し、常闇森の勢力と当たらないようにしないとな」

 

 「はい、よろしくおねがいします」

「よろしくお願いします!!」

「はふぅ……はい、よろしくお願いしますね~」

「こっちこそ期待しているぜ」

 

 元気いっぱいに挨拶をする蛍とは対照的に、嵐はぐいーっと伸びをしながら未だ眠そうに挨拶をする。

 本来ならば街道沿いに真っすぐ行くところだが、常闇森から出てきた奈落勢力とぶつかる可能性が高い。一度、河側に迂回しながら都に入る進路ルートを取る形となる。

 迂回する分時間がかかるものの、都での状況を踏まえれば、其方の方が安全なルートなのだ。

 

「……馬車とはこんなにも揺れるのですね」

 

 普段自分で飛べる為に馬車など乗ったことの無いルーテシアにとって、馬車の乗り心地は良いものではなかった。

 さらに言うならば、地球――ブルースフィアで生活を送る際、流石に人前で飛ぶことはできなかったので、バスやタクシーを利用していた。それもあって、どうしても日本とトワイライトワールドとで比較してしまう。しれっとレリクスを使い少し浮いて並走しだすあたり、よほど心地悪かったのだろう。

 蛍に至っては朝の素振りで全力を出し過ぎたせいで、馬車の揺れで残された体力を持ってかれてしまう。

 

「あいたたた…これは結構厳しいですね~」

 

 何て言ってる嵐が一番堪えられているあたりわからないものだ。

 

「大丈夫か嬢ちゃんたち……?」

「あ、ありがとう~……うぅぅ~……」

 

 とまあ、蛍の醜態を見て心配になった男だが、ルーテシアという国の上層部の人間がいることから心配はそこまでしていなかった。

 流石に、ルーテシアも身分こそ明かしたものの、それは国の重鎮としての身分だ。まさか男もルーテシアの正体が創造神だとは思いもしない。そのことを知っているのは、ほんの一握り。国の中枢を担う者たちだけだ。

 

 程なくして、馬車が始まりの街の出口付近へ近づく。

 すると、その一角から悲鳴のようなものが上がったのが耳に入った。

 

「……!? 今の、悲鳴!?」

「…今の声は~?」

「…………どこかで戦闘が起きているようですね」

「ひぃ、怖い怖い。何か争いごとでも起きてるのかねえ」

 

 怒号のようなもの、戦闘音も聞こえてくる。

 男はそんな戦闘無視してさっさと都へ向かおうとする。

 

「どうする~?」

 

 嵐が聞いた。蛍の心情としては、その争いの現場に向かいたい。きっと、困っている人がいるはずだ。

 しかし、ここでそこへ向かってしまえば、馬車から降りることを意味する。馬車側からすれば巻き込まれず済んで良かったレベルなのだ。態々巻き込まれに行く必要はない。

 

「……ごめん、おじさん! 先に行ってて! わたし、あの声の人たちを助けに行く! 途中までありがとう、おじさーん!!」

 

 遂に我慢できなくなった蛍は、ひらり馬車から飛び降りて声が聞こえた方角へ駆け走る。

 

「あらあら…ふふふ…そういうことなので~ありがとうございました~」

 

 嵐もそんな蛍を追いかけるように、馬車を飛びだす。

 

「申し訳有りません……ですが、放ってはおけませんので!」

 

 と、二人を追いかけるようにルーテシアも馬車を降りる姿勢を取った。

 

「って、嬢ちゃん!? はあ……もう知らねえぞ!! 別の馬車探すならこれもってけ!」

「…はい?」

 

 商人の男は馬車から降りた嵐に向けて何かを渡した。

 どうやらそれは紹介状のようなもので、次の馬車手配の際に活用してくれとのことだった。

 護衛前提で乗せたのに降りられたというのは、無賃乗車レベルのことなのだが、生憎と男は善人だった。

 救助こそ向かおうとは思わないものの、そこへ向かうというなら止めはしない。

 そもそも、ルーテシアはこの国の重鎮。それを乗せたというだけで、一応は男のメリットになっているのだ。

 ここで止まって三人が戻るのを待つ、というのも考えらえたが、積み荷の中には日が持たないものもある。

 元々、都には一人で向かう予定であったこともあり、仕方ないなとやれやれ顔で三人を見送る。

 

「ありがとうございます~~今度ご贔屓しますね~」

「…………! ありがとうございます。この御礼はいつか必ず……!」

「そっちも、無茶するなよー!」

 

 国家権力に恩を売れた商人には、きっとこのあとたんまりと報酬が差し出されることだろう。

 

 

 

 

 

 

 蛍が到着した視線の先に、異形の存在が見える。

 奈落種のオークの小隊だ。

 

「あれは……奈落種のオークですね。腕力の強い種族です……ご注意を!」

 

 追いついたルーテシアがその姿を見て名を叫ぶ。

 

「……! これが……!!」

 

 蛍はこの世界に来て初めて目にした敵、奈落と会敵し警戒を強めた。

 街の一角には火の手が上がっており、オークたちがそこにある商品などを奪っている。

 既に死傷者多数。略奪を繰り返すオークの手により、息絶えた者の姿も目に入った。

 

「ブヒヒヒ! 盗め、盗め!」

「略奪部隊……といったところでしょうか」

 

 冷静に状況を判断するルーテシア。

 対し蛍は、その光景を目に怒りが沸いた。

 今も、逃げ遅れた人に向け、魔の手が迫ろうとしている。

 

「助けにきたよ!!」

「まって~蛍ちゃん~」

 

 蛍のシャードが輝き、炎を放ち、それが剣の形をとる。

 駆け寄り、その人を救助。目の前のオークを斬りつける。その後ろから嵐が合流する。

 シャード継承のおかげか、死体を目撃した時の衝撃はそこまでなかった。戦力と共にメンタルも強化してくれているらしい。それでもやはり、目の前の光景は断じて許せるものではなかった。

 

「体が……熱い……。これが……シャードの力! そこの怪物たち! これ以上、人々を襲うのは許さない!」

 

 憤りを胸に、剣を構えなおす。

 斬られたオークの後ろで、オークのリーダーがぶひひと嘶いた。

 

「ここで……倒す!」

「汚らわしい奈落……これ以上私の世界の民を傷つけさせはしません……! おふたりとも、記憶を継承しているとはいえ、初の実戦……ご無理はなさらないように何かあれば私が魔術でフォロー致します!」

「ここでも、音は力になるのね~…それじゃあ…ロックにいってみましょうか~」

「うん! 嵐ちゃんとルーテシアちゃんも気をつけて!」

 

 ルーテシア、嵐もまた戦闘態勢を取り、遂に異世界での初戦闘が始まった。

 

 

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