アルシャードセイヴァー・リプレイ ノベル・レイアース+a   作:椎名真白

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イタリアのサンタ

 12月6日金曜日午前11時15分日本七瀬市――。

 

 昨年、ドイツから日本に引っ越してきた少年、ロルフ。

 まだ小学生である彼は中々に利口で、最初はたどたどしかった日本語も、今ではペラペラだ。そんなロルフが何故かクリスマスイヴもまだだと言うのにブーツを磨いて用意していた。

 ロルフと共にいるのは同い年の二人の少女。

 一人は同じドイツ人。短めの銀髪に緋色の目のビリー・ザ・リッパー。一応、妹ということになっており、ドイツの頃から共に暮らしている。

 もう一人は紫の髪に同じく赤い目をしたイタリア人の少女、セリア・カンパネルラ。日本でのクラスメイトだ。

 

 

「ドイツでは十二月六日にもプレゼントがもらえるんだぜ! お前たちはブーツ用意してあるのか? きっとサンタさんはブーツを用意していれば日本でも持ってきてくれるよ!」

 

 ドイツでは十二月六日と二十四日にそれぞれプレゼントを貰える習慣がある。

 六日の方は聖ニコラウスの日といい、サンタクロースではなく聖ニコラウスという聖人が、二十四日はクリストキントと呼ばれる天使がプレゼントを運んでくる。

 クリスマス当日よりもクリスマスマーケットの方がメインイベントとも言えるが、ここ日本ではそういったイベントが無いこともないが、大々的に行われてはいない。

 ロルフはサンタと言っているが、日本語で口にしているからサンタと呼んでいるだけで、ドイツ語で会話したのならニコラウスと答えていただろう。

 見た目が似ている為、日本ではサンタさんと呼ばれていると思っているのだ。

 

「プレゼント?」

 

 ビリーが首をかしげる。

 

「そうそう、欲しいものをくれるんだ! と言っても、六日はまだメインディッシュじゃない。前菜だからな。お菓子とかが良いんじゃないかな!」

「そうですね~私も用意しましょう」

 

 にこにこと笑顔で答えるセリアの隣で、やはりビリーは良く分かっていないようで首をかしげる。

 

「欲しいもの? 欲しいものは奪うんじゃないの?」

「奪う? いやいや、貰えるんだよ。良い子にしていた子にはプレゼントが貰えるんだぜ。悪い子には、炭とかって聞いたような……いらねー!」

「じゃあ頑張って生きてる人(私には)プレゼントが来るのね?」

「ああ!」

「ふふ…では、みんなでいい子いい子しましょう」

 

 ロルフは強く頷いてから、つけていたテレビに視線を戻す。

 先ほどまで映っていた特撮番組の再放送の画面がいつの間にか緊急ニュースに変わっていた。

 

「あ? 緊急ニュース? ちょっと、ニンニンジャー見てたのに!」

『緊急ニュースです。現在、七瀬市で殺人鬼が逃亡中とのこと。市民の皆様は……』

「殺人鬼ぃ?」

 

 ロルフはそのまま番組の視聴を続ける。

 最近巷を騒がせている殺人鬼『ヤマトノナデシコ』が遂に捕まりそうだという。

 居場所を特定されたらしく、警官隊がその人物を追っている映像に切り替わる。

 その人物が現在、街中を逃走中のようで、外出を控えるようにとニュースが続く。

 

「なるほどなるほどわかっちゃいました、あの芸術性の欠片もない人ですね~?」

 

 ぽりぽりと煎餅を食べながらセリアがヤマトノナデシコの殺害方法を思い出していた。

 著名人を殺害しては、そこに『ヤマトノナデシコ見参』という八岐大蛇のマークが入った置手紙をするという一風変わった殺人方法を取る人物。

 

「殺人鬼がニュースになるなんてこの国は平和なのね」

 

 同じく煎餅に手を伸ばしながら、ビリーが続けた。

 

「殺しってご飯の為にやるものじゃないの?」

 

 気になる発言をするも、幸いなことにロルフの耳には入っていなかった。

 映像がアップになり、逃亡している犯人の顔が映し出される。

 その人物は、井上樹理(きり)。今朝方サンタのバイトをしていたはずの少女である。

 ビリーとセリアはその顔を見て、連続殺人犯になるほどの狂気を孕んでいないことに気付く。

 

「日本って確か人を殺さなくても生きられる国なんだよね?」

「…なるほどなるほど、困りました」

 

 同じ人殺しである二人は樹理が冤罪だと分かったのだった。

 

 

 

 2014年1月6日月曜日イタリア――。

 サンタ協会イタリア支部に所属するサンタ(魔女)、サーラ=カルボーニはこれから向かうバーベキューの最終確認をしていた。

 大好きな先輩サンタ(魔女)と二人きりのバーベキューデート。ずっと楽しみにしていた。

 肉ヨシ、野菜ヨシと確認を進める中、何かが足りないことに気付きもう一度確認を行えば……

 

「あれ………炭、どこにしまってありましたっけ」

 

 バーベキューに使う炭が入っていなかった。

 どこだったかなと部屋中確認するが、どこにもない。ならばと駆け足で店に向かい確認するも、炭は品切れだと言う。

 

「どうなってるんですか!? これからBBQだってのに炭がどこにもないじゃないですかー!?」

 

 仕事着のとんがり帽を踏みつけながら空へ向かい叫ぶ。

 このままでは大好きなあの人との二人きりのいちゃらぶバーベキューに向かうことができないではないか。

 遅れは許されず、しかし炭はやはり必要不可欠……。

 

「このBBQを利用してセンパイとの距離を零距離まで縮める計画が狂ってしまうじゃないですかーーーーー!?」

 

 もう一度強く叫ぶと、不思議なことが起きた。

 空に亀裂が入ったかと思えば、そこに大きな穴が生まれ、サーラの体を吸い込んでいく。

 

「え、なに、空間断裂……いや、時空断層……!? ちょ、やば……箒もってきてな……うわあああああああっ!?」

 

 サーラは虚空に呑まれ、この世界から消失。

 

「サーラはまだ来ないんですかっ?」

 

 一人待ちぼうけを食らう先輩が残された。

 

 

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