アルシャードセイヴァー・リプレイ ノベル・レイアース+a 作:椎名真白
そろーり、そろーり。結界を発動したサーラに潰されていた樹理は抜け出し、そそくさとその場を逃げ出す。
普通人からの認識を有耶無耶にし、自分が空から落ちてきた記憶を有耶無耶にする目的を達したサーラは、一先ず現状を確認しようと話を聞こうと思ったのだが、アーデルとハインツも慌てて樹理の方を追いかけて行ってしまい、ビリーと一緒に取り残されてしまった。
四、五歳くらいの子供だし、難しいことは分からなそうだが、簡単な受け答えならできるかな?
実際は十歳になるのだが、身長が105cmとあまりにも小さく、園児にしか見えないのである。
ここはどこ? とイタリア語で尋ねれば首を傾げられたので、身振り手振りで説明した結果分かったのが、ここが日本の七瀬市だということ。今の日付がサーラがいた時間よりも一ヶ月前ということも、付近を散策し得られた。
「場所も時間もだいぶ飛ばされちゃいましたねぇ……でも、ここなら炭が調達できるかも……」
未来より一か月前、世界中の子供が突然悪い子供になった結果、サンタ協会総出でその邪悪な心を抑えるべく靴下に炭を大量に入れる羽目になり、世界中で炭不足が発生。経済崩壊にまで発展した。
もちろんしれっと自分の分の炭は確保していたサーラだったが、どうやら別のサンタに発見され使われてしまったようで、用意していた炭が無くなっていた。
そして嘆いていたら過去に戻っていた――間違いない。炭を買えという世界の意思だ!
「ニッポンの……なんでしたっけ、ビンチョータン? とかいうのとか……」
ショッピングモール内の店を巡ってみれば目当ての炭が目の前に!
早速買おうと手に取ってレジに向かい財布を取り出す……取り出そうとして気づく。
「はっ……お財布がない……!?」
確かに家を出た時は財布があった。けれどいくら探しても財布は見つからず、レジのお姉さんはニコニコ、後ろのおじさんはイライラ。あははと引き攣った笑みで列を抜け出しもう一度よく確認するが、やはりない。一体どこで落としたのか。*1
「なにやるのー?」
ずっと一緒について来ているビリーがあーでもないこーでもないと店内をウロチョロするサーラの後ろを鳥のひなのようについてくる。
サーラの格好は魔女の格好なのだが、帽子は落として来た為、服装だけ見るとちょっと変わった制服。街中を歩いていてもそこまで注目はされなかったのだが、流石に店内でこうも不審な行動をしていれば目を付けられる。
店員から声をかけられ、慌てて言い訳をしてその場から逃げ出す。
ビリーと共にショッピングモールを歩きながら、手元にある物を確認する。
「手元にあるのは……ショップで買った捨て値カードの束……」
サジッタ社が開発し販売を行っているトレーニングカードゲーム『サモニング・モンスター』通称サモカ。
小学校高学年から高校生までの若年層に人気の高いこのカードゲームに、サーラもはまっている。
実はこのゲーム、サジッタ社が魔術師の隠された才能を発掘する為に開発されたという経緯があり、呪符としてサモカのカードを使う若い魔術師も最近では見かけるようになってきた。
サーラの場合は、魔女の家系で先祖代々伝わる魔術があるのだが、その修行を面倒臭がった挙句、カードを用いた召喚魔法にどはまりし、一族の中で異端の魔術師になった。
それでいてシャードに選ばれクエスターとして覚醒したのだから手に負えない。
「…おねーさんどうしましたか?」
「これを売ったところで大した金額には……いや……待てよ……ドラグーン禁止カード入りしたのって……ってことは今ならまだ……!?」
一月に入ってから禁止入りが発表され価格が暴落したカードを見ながら声を掛けられ飛び上がる。
「…おねーさん? 変態さんですか?」
「お金? お金貰うの?」
ブツブツとカードを見ながら怪しい独り言をぼやくサーラに首をかしげる
お金がどうこうという独り言に興味を示すビリー。
「あ、あなたたちは……!?」
今更になって、ずっと一緒にいた子供が誰なのか気づいてしまう。
今から一ヶ月後、サーラがいた時間軸において、凶悪な殺人犯として大々的にニュースに取り上げられた人物。
それは二人の少女で、最初の犠牲者となったのはロルフという少年で、その少女らのクラスメイトだった。
その姿は見るも無残な姿だったとされ、魔術師故に写真を見る機会があったが、思わず吐いてしまい三日三晩悪夢に魘された。
その殺人を発端とし、およそ百人規模の子供の殺害を行ったとして、魔術師界だけでなく、現実にもニュースに取り上げられた凶悪犯。
セリア、そしてビリーという少女は十歳という若さならが死刑が確定し、牢に捕えられた。
「どったのおねえちゃん?」
「…どうしたんでしょう?」
心配そうにのぞき込んでくる二人だが、真実に気づいた今となっては、殺人の標的にされたように感じてしまう。
余罪も調べられていたが、流石にまだ殺しはしていないだろう……発端となる事件も起きていないし、そういえば、奈落サンタループレヒトがドイツから逃亡したのもこの時期だったような……もしや、今は丁度
くっ、責任重大だ!?
外では不吉にも救急車のサイレンが鳴り響いているし。*2
「何かお困りごとですか?」
きょとんと、心配そうに続けるセリア。
一見すると普通の子供だが……腹の内では何を考えているのか。それとも今はまだ普通の子供なのか。
うーん、どうしましょうこれ…………ひとまず当たり障りのない話で様子を見てみましょう。
「えーっとですね、この辺りでサモカの買い取りしてるショップってご存じないですか?」
「ああ、おねーさんデュエリスの方ですね~? 良ければご案内しましょうか?」
「うーん、あんまり詳しくないけどあそこに行った人がお金持って出てきたよ?」
「お願いします! あ、そっちのお店は違うやつですね、多分」
「へー、そうなんだ」
ビリーが指したのは窓の外に見えるパチンコ屋、その景品交換所だ。
石を買ってくれる店という認識でいたが、どうやら違うらしく残念という顔をする。
「では、いきましょうか~」
「待って~」
セリアがサモカのショップに向け案内を始め、ビリーがその後に着いてく。
外からモール内に視線を戻したサーラが、もう一度外を見てふと漏らす。
「ていうか警察多いですね……なんかあったんですかこれ……」
「確か偽の殺人姫さんが追われてるらしいよ?」
殺人鬼? それは未来のキミたちの事では?
流石にそうは口に出せず、冷や汗混じりに後を追いかけるサーラだった。
※
『新たな情報が入りました! 逃亡中の容疑者は警官一名を殺害したとのこと――』
居間でテレビのニュースを見ながら、女性がほくそ笑む。
「さぁ、逃げ惑え。そして吾輩がこの体に馴染むまで、時間を稼げよクエスター」
女性に憑依した奈落は偽の情報を魔術連盟に流し、TANATOSやサジッタ社にも偽の情報を流し自分の元に辿り着けないよう攪乱を行った。
まさかここまで上手くいくとは思わず、すべてが順調。
「ただいまー」
「おお、お帰り」
「おかーさん? 何か笑い方怖いよ?」
「そうかい?」
「あと、喋り方が変?」
「気のせいさ」
帰宅したこの体の子供の母親になりきる奈落。しかし子供には分かるもので、すぐばれそうになる。
「それよりも……お友達はいたのかい?」
「ううん。いなかった!」
適当に話をはぐらかしてやれば、この年頃の子供はそっちの話題にすぐ移る。
そうかいそうかいと相槌を打ちながら、子供の話に耳を向けてやる。
子供はそれが嬉しいのか、まるでプレゼントを貰った子供のように満面の笑みで話を続ける。
「ぴんぽーん、したんだけど、誰も出てこなかったの。しょうがないからロルフのとこでも行ってくるかなー」
「ロルフ?」
日本人らしからぬ呼び名に反応を示せば、子供は勝手に続きを話す。
「そうそう、ドイツからの留学生!」
「………………へぇ……」
「行ってくるねー!」
「行ってらっしゃい……ドイツの餓鬼か。日本の人間よりも、そちらの方が馴染みやすいな。さて、しかしこの女、思ったよりも業が深い……適当に憑依した宿主にしては、良いか。アビスシードも馴染みやすそうだ」
奈落は表面だけであるが、その憑依先の女性の記憶を読み取り、自分よりも罪深い存在に酷く感心した。
ただの人間が、これほどの業をよくもまあ重ねたものだ。
しかもそれが模倣犯だというのだから片腹痛い。
奈落の憑依した女性――ヤマトノナデシコは、これから起きる絶望に大いに悦び、心の底から笑みを浮かべた。