アルシャードセイヴァー・リプレイ ノベル・レイアース+a   作:椎名真白

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ブラックサンタの野望

 結界を張りなおした一同の目に映ったのは、ロルフ少年とその手に抱えられたプレゼントボックス。その横で佇む百合の姿。

 

「そっちが本体ってわけか……」

 

 アーデルはロルフが持つプレゼントボックスから強い奈落の気配を感じ取る。

 それはループレヒトの比ではなく、最初に追いかけた時、投げて来た物が本体だったことに驚いた。

 あの時一度は凍らせたが、そのまま破壊するべきだったか。

 ヤマトノナデシコが包丁で、ループレヒトが魔法で攻撃を仕掛けてくる。

 ロルフ、百合は未だ動かず……様子見をしているのだろうか。

 

「ぜってぇゆるさない…」

 

 ビリーが虚ろな目で銃を構え……撃とうとして手が震える。

 こことは違う世界で生まれたビリーは、この世界で両親に捨てられた。四歳の時のことだ。

 その日を生き残るため、生きている別の人間から命を奪い、食べ物を得る。そんな生活を続けていたからか、命を奪う行為は生きる為に必要な行為であると考えるように。

 七歳になって、派手に殺り過ぎたせいか、この世界の守護者に目をつけられた。

 クエスターから逃れる日々の中……あの女に出会った。

 ガイアのアバターを名乗るソレは、クエスターたちが守る存在だ。にも拘わらず、彼らが狙うビリーを守護し、さらにはロルフという大切な人の妹に。

 それでも培ってきた記憶というのは強烈に体に刻まれてしまうもので、普通に生きようとしても、誰かを殺さなければという強迫観念に囚われる。

 そこでガイアは奈落なら幾らでも殺して良いと、ビリーに力を与えた。

 ビリーは奈落と戦う日々の中、ロルフという普通の少年に憧れ、恋焦がれ、そして依存していった。

 

 その依存先であるロルフが、奈落の手に堕ちている。つまり、殺しの対象になってしまった。

 

「あの箱を何とか引き剝がせれば……」

 

 サーラの言葉にハッとする。そうだ、ロルフが持っている箱。それを壊せば、ロルフは解放されるのではないか?

 

「待て。そうなるとループレヒトもスペクターなのか? でもあの姿……」

 

 アーデルが疑問を浮かべる。奈落に操られた人は、奈落本体を倒せば解放されることが多い。

 ロルフの場合はプレゼントボックスを。ヤマトノナデシコも一応は操られているだけだとして、ループレヒトも実は操られているだけなのだろうか?

 だとしても、あの悪魔のような姿。最早手遅れかもしれない。

 

「ループレヒトのださい格好の事か?」

「ださくないである!」

「あれ……」

 

 もしかして、あれ全部コスプレか!?

 衝撃の事実にアーデルの顔が引きつる。

 

 

「おかーさんだめだよ。ちゃんと殺してってお願いしたんだから、殺してくれなきゃ。ま、いっか。全員殺せばそれでいいよね」

「ごめんなさい百合ちゃん、お母さんちゃんと殺せなかったわ。ちゃんと殺すから、痛いのはやめて……これ以上痛いのは嫌なの……ッ!」

「共依存型殺人鬼?」

 

 娘のブログのランキングの邪魔になる相手を殺して来た……樹理がなるほど頷く。こいつら奈落に憑かれる前からやべー奴だな。今更か。

 

「なんですかこの街、血なまぐさい幼女多くないですか?」

 

 召喚魔法を駆使しサーラは応戦する。

 セリアがニコニコと振り返って手を振って来る。怖い。

 

「本当のロルフにぃに近づく悪い虫…って事か…」

 

 ビリーが殺意の籠った目で百合を睨めば、にっこり微笑み返される。

 ループレヒトがヤマトノナデシコに憑依する前から、百合は奈落に堕ちていた。つまり、諸悪の根源は二人いたのだ。

 銃を撃とうとするも、ロルフが前に出て百合を庇うような位置取りをする。

 上手くそこからプレゼントボックスだけを狙おうとするも、まだ上手く照準が定まらない。

 そのプレゼントボックスが開き、中から複数の何かが這い出て来る。

 動く死体……ゾンビーだ。百合がヤマトノナデシコに殺された遺体……本物は火葬されているのだから、その紛い物か。或いは遺体の方が偽物にすり替えられていたか、どちらかは分からぬが、新たな敵が増えたのは事実。その敵が召喚され踊りだす。

 

「ボクサイコホラーとか趣味じゃないので鎮圧させてもらいますね。ボクのターン! クリボーを召喚!」

「くりくり~!」

 

 召喚した次の相棒がサーラをさらに支援する。

 

「…この女じゃ駄目ですか…?」

 

 シャード会話を通し、プレゼントボックス――ブラックボックスを優先する流れになっていた為、念のために聞く。

 

「いずれにしても鎮圧する必要はあるかと~」

「そうですか…では」

「無力化するラインに留めておいていただけると助かります」

 

 サーラに一応頷いて、セリアがヤマトノナデシコに接敵する。

 

「皆、一緒だよ……温めてあげるからね……」

 

 そう言うヤマトノナデシコを刺そうとしたが、その前にループレヒトが立ち塞がる。

 ヤマトノナデシコはセリアを相手をループレヒトに任せ、一旦距離を取った。

 

「あはは…じゃあ遊びましょう?」

 

 一振りにて、セリアはループレヒトを切り伏せた。

 

「ぐ……吾輩……無念……」

「何あの子こわ……。弟よ。せめてもの冥福を祈っておくぞ……」

「あーステイステイ、それ以上やったら死んじゃいますからその辺で次の目標向かってくださいねー」

 

 ループレヒト、まさかの一撃で落ちる。今まで手こずっていたのは一体……。

 樹理がフォースシールドを展開しながら支援の音楽を奏でるアーデルを守る。

 

「おねーさんの内臓はどんな色ですか?」

「普通にピンクだ馬鹿野郎!」

「それはよかった!」

 

 怖い幼女三号もとい百合に返事をしながらビリーに支援の魔法をかける。

 

「ありがとう、あいつらは殺さなきゃだから…」

 

 深呼吸をしたビリーは、ようやく落ち着きを取り戻した。

 

「不健康な人だと黒く染まってるんですよ。うちのお父さんがそうでした。とんでもないヘビースモーカーで……」

「闇が深いにもほどがあるだろう、昨今の小学生たち」

 

 やべえのばかりで流石に引くサンタ協会日本支部バイトの樹理。これ、プレゼントを渡す先大丈夫か?

 

「これも少子化の影響なんですかねぇ~」

「子供の不法投棄で溢れかえってるんじゃないの?」

 

 相槌を打つサーラに自分の境遇からそんなことを言うビリー。

 

「…あはは、いいですね…百合…でしたっけ」

 

 偽物の模倣犯ということで、ヤマトノナデシコの殺しは気に入らなかったが、ヤマトノナデシコという駒を従え動く百合には一考の価値がある。

 百合は懐から一枚のカードを取り出すと、封じられた力を解放する。

 

「さぁ、壺よ! 魔法の理を改変し、消し去れ――っ!」

「リッ!?」

「クリ~っ!?」

 

 出現した壺はサーラの周りで補助を行っている二体のモンスターを吸い込み消し去った。

 さらには樹理の魔法により生み出した盾、アーデルが奏でる音楽の力も吸い込んでしまう。

 ヤマトノナデシコは力を失ったクエスターたちに再び接敵。今の状態ならばやれるという確信があった。

 

「おいクソ神」

 

 シャードを握ったビリーが空へ向け声を出す。その身につけたシャードがどす黒い光を放ったかと思うと、虚空から神の化身が姿を見せた。

 

「あ? ビリーか。久しぶりじゃねえか」

「あの壺を消し去れ」

「別に今の俺が協力する理由はねえが……」

「お前面倒事嫌いだよな? やれよ」

「へいへい、しゃーねーな。百合、てめえのその特技はボッシュートだ」

 

 ガイアのアバターはそう言うと闇の力を放ち、百合が生み出した壺を消し去ってしまう。

 壺が消え、奪われた魔法の力も元に戻る中、百合が信じられないものを見た顔でガイアのアバターを見る。

 現れたガイアのアバターを見てハインツがこいつ本当にガイアか? と驚いた顔をする。何だかすごく、禍々しいオーラが出ているのだ。

 

「しゃ……シャドウガイア様……!? 何故、何故かような娘に拘るのですか……!?」

「やっぱガイアじゃねえじゃん!?」

「なにこれ?」

「シャドウガイアじゃねえか!?」

「これはこれは……」

 

 ハインツ、アーデル、サーラが思わずツッコミを入れ、セリアはビリーに力を与えた存在が奈落に冒された存在であることに関心を示す。

 百合もまさか自分に力を与えた存在が敵対してくるとは思わず、目を白黒とさせ叫んだ。

 

「ええい、シャドウガイア様が私の特技を没収したのは試練に違いない。ものども、かかれぇい!」

「あははは…口調、面白くなりましたね~?」

 

 ともあれ、力は戻った。アーデルは音楽による冷気を放つが、ガイアの衝撃のせいであらぬ方向に放ってしまう。

 サーラがそれを魔法で制御し、正しい方向に戻す。

 ロルフの持つブラックボックスへの攻撃にサーラはさらに加護を乗せ威力を高める。トールの加護は一人の敵に対し強力な威力増強を行う加護で、これを受ければブラックボックスもただでは済まないだろう。

 百合の身から奈落の力が溢れる。シャドウガイアから授かった力で、その加護を使いサーラの加護を打ち消そうとする。

 その加護をサーラの持つオーディンの加護が打ち消し、ブラックボックスがさらなる加護で打ち消し、そこにアーデルの打ち消しが加わり、トールの加護が通る。

 

「チェーンの応酬ですねー」

「ちっ、厄介なコンボを」

「ま、最終的にはこっちが勝ちますけど!」

「それはどうかな?」

「オイオイ、せっかくのプレゼントだぜ、ありがたく受け取れよ」

 

 可愛かった幼女はどこへやら。顔を歪ませ百合が言う。

 到着した冷気は強がる百合たちにダメージを与える。伏せ札があるかと思ったが、ブラフだったようだ。

 実際は反射の為の加護を伏せていたが、シャドウガイアの件で心が揺れ、使うのが間に合わなかった百合である。タイミングが間に合わなかったのだ。

 

「ぐ、ぐるじぃ……」

 

 ブラックボックスが受けた冷気はロルフにも多少届いていたようで、苦痛に満ちた顔を浮かべる。

 

「殺す…ロルフ君を傷つけるやつは殺してやる…」

 

 アーデルがぎょっとしてビリーを見る。

 

「一番傷つけてるのは取りついてる奈落の使徒ですよ~ご参考までに~」

 

 サーラがそれとなく殺意の矛先を誘導する。

 奈落に操られたスペクターは基本的に超常的な力を得る。時折、一撃でも受ければ死ぬパターンがあるのが怖いが……ロルフの肉体は多少のダメージなら問題ないと判断できた。多少の流れ弾は許して欲しい。

 

「あは、あなたに私が殺せるの?」

「おーい、あまり刺激するなよ」

 

 ビリーを煽る百合に樹理が注意する。

 セリアはビリーがアーデルを狙ったら刺そうかなと思っていたので一安心。

 ビリーがインフィニティガンを放つ。ゾンビーたちが盾になるべく前に躍り出るも、

 

「グ!」

「グググ……」

「グゥオオァーーー!?」

「死ね」

 

 ゾンビーは生命活動を停止。死んだのだ。*1

 

「使えないやつらめ!」

 

 百合が叫び、ヤマトノナデシコが援護に入ろうとするも、

 

「あなたの相手は私ですよ~」

 

 セリアが邪魔をし、百合の元に向かえない。

 百合が奈落の力を解放し、ビリーの攻撃を全て跳ね返そうとするも、殺気。ばっと振り返れば、ハインツの雷遁が目前に迫っていた。それを受けるのは不味いと防御に集中した結果、銃弾への防御が疎かになる。

 ブラックボックスはロルフを通し加護を使い肉体を最大限まで強化、銃弾を躱そうとするも、

 

「だめだめ、ロルフ君…そういうのはだめですよ~」

 

 セリアの加護がロルフの肉体を弱体化させ、プラマイゼロの状態に戻る。

 

「雷神の意地通さんかい」

 

 ビリーは銃弾の一つにトールの加護を乗せ、ロルフの持つブラックボックスにそれが着弾。

 

「おのれ……っ!」

 

 神のダメージが蓄積してきたことで、ブラックボックスとロルフとの繋がりが断たれかけている。

 ブラックボックスはその力を利用した加護を使い、箱の中から同等の威力を持った銃弾を放つ。ビリーにそれが着弾。シャードが命の危機を回避させ、ブレイク状態になる。

 

「あっはは、これがロルフ君の愛なら嬉しいなぁ」

 

 攻勢は優勢。アーデルが音楽に加護を乗せ、味方にさらなる追撃を行わせようとするが、それを感じ取った百合が加護を使い自らの失った加護を回復……正しくは同じ加護を追加させる。*2

 再び使用可能になった万能神(オーディン)の加護がアーデルの芸術の女神(ミューズ)の加護を打ち消そうとするも、アーデルがさらにオーディンの加護を重ね打ち消しを無効に。

 

「……彼を救うことができれば、悲劇を減らせる……? なら、やるしかないですね!」

「あはは…だといいですね~」

 

 やっぱり未来、ダメかもしれない。

 少なくともビリーによる連続殺人は防げるだろうと、ミューズの加護を得たサーラの芸術的召喚術が輝く。

 それは金銭の為に売却した一か月後の禁止カード。デッキから消えたそれを、サーラは創造する!

 

「僕のターン! ドラグーンオブレッドアイズで攻撃!!」

「っ……!? 召喚条件無視もいい加減に……!」

 

 召喚された魔導の竜騎士が杖だか剣だか良く分からない武器を振り上げ、黒い魔法の炎球を放つ。

 

「させない……っ! ヘイトバスター!」

「待てお前それはグァーーー!?」

「くっ、道連れの罠カードですか……いいでしょう、ライフで受けます!」

 

 百合は受けたダメージを反射する加護を使いサーラへとダメージを返す。サーラはその身を焼かれながらも、シャードの力で何とか耐える。

 ブラックボックスはロルフとの繋がりを絶たれ、分離。

 

「ぁ……」

「確保!」

 

 駆け寄った樹理がロルフを抱きしめ、意識が朦朧とするロルフの性癖を破壊した。

 

「ですがこれで、奈落の使徒は分離しました!」

「これで安心…後で褒めてもらえるかなぁ」

「使えぬ駒はもういらぬわ」

「ご注意を、むしろここからが本番な気がしますよ!」

 

 分離したブラックボックスは宙に浮きあがると、樹理の抱きしめるロルフを殺害すべく奈落の瘴気を溢れさせる。

 箱から飛び出た瘴気はやがて幾つもの武器へと変化。それが一斉に放たれた。

 

「消えろ」

「とめろおおおおおおおおお――――!!」

 

 ロルフを確実に処理すべく放たれた攻撃は加護の力も乗っている。

 

「やらせるか!」

 

 樹理が警官との追いかけっこで培った逃走技術を駆使しその攻撃を躱していくが、多勢に無勢。徐々に追い詰められていく。

 

──『風遁(フウトン・ジツ)』──
──『雷遁(ライトン・ジツ)』──

 

奥義(ヒッサツ)

 

電光(ブリッツ)旋風弾(トロンべ)

 

 

「大丈夫か!」

「助かった!」

 

 ハインツのニンジャアーツ、雷光旋風弾(ブリッツトロンべ)が迫りくる凶弾を全て跳ね除ける。

 

「この……っ!」

 

 武器を失ったブラックギフトはその身を賭して樹理へ突攻。

 樹理はそれを敢えて受け止めると、勢いを活かしバックドロップ。

 

「は、箱が、箱が潰れる――!? グァーーー!」

「馬鹿野郎。人の仕事を邪魔した報いだ」

 

 潰した箱を拾い上げ、残る百合を睨む。

 百合はブラックボックスだった箱を哀れみながら、冷や汗を流した。

 

「無茶しやがって……まあいい。お前に期待はしてない。ところでこれ、私に勝ち目ありますか?」

「あきらめろ」

「速攻魔法発動! バーサーカーソール! ドロー! モンスターカード!!」

「遊戯、やめて!?」

 

 次々とモンスターを召喚してくるサーラに恐れ戦く百合。あんなの受けたら死んじゃう!

 

「トラップカード発動! 攻撃の無力化! サモカ*3は私も嗜んでいるのですよ!」

「なるほど……なかなかやるようですね! ではニンジャさん、あとお願いしますよ!」

 

 盛り上がる二人を見て、樹理がやれやれと溜息。

 

「あんなの子供のおもちゃだろうに」

 

 ちなみに、クリスマスのプレゼントで一番多いものだったりする。仕事増やしやがって。

 

「はっ。何もわかってないおばさんはこれだから」

「ぶっころ」

「いえいえ、あれはサジッタ社が召喚魔法の適性を測るために作ったマジの魔道具ですよ実は」

「私のブログを見てください。もうすぐこのサモニンぐモンスター検証ブログはトップになるのですよ」

「あぁ、あの、つまらないやつ?」

「こなくそ」

「つまらなすぎて、毎日読んでネタにしてるわ」

「あっ、それあのエアプブログって噂の……おっと、口が滑りました」

「お前ら殺す」

 

 ヤマトノナデシコがセリアとの攻防から百合の方へ加勢しようとするが、その前にハインツが立ちはだかる。

 

「さて、こんなにもあっさり片付くとはな。せめて露払いはしておくか」

「あらあら、かわいらしい子。ほら、おいで。お母さんが抱きしめてあげまちゅよー」

 

バブみの限界(母は強し)

 

「髪が灰色だったらあぶなかったかもしれません」

 

 先輩にあんなことされたら喜んじゃうとはしゃぐサーラ。

 明鏡止水――心を無とし、ハインツはバブみの限界から心をそらす。

 

「ああんっ!? 私のバブみがきかないなんて❤」

「おかあさーーーん!?」

 

 黒咲継子、ここに倒れる。

 

「っ、翻弄されている……!?」

「お前のターン、まわってこねぇから」

 

 気付けば百合はモンスターに囲まれ、絶体絶命のピンチ。樹理がそれを煽る煽る。

 ハインツの加護がまたアーデルに芸術の神の加護を与える。

 

「────ビリー! 決めてこいっ」

 

 アーデルの加護により、ビリーの動きがまるで映画で見るようなアクションに変化。

 

「そのまま一気に鎮圧してくださいっ!」

「ありがとう、止めはやっぱり零距離射撃だよね!」

 

 サーラのモンスターの合間を縫って、ビリーが接近していく。

 

「無敵結界さえ完成してしまえば……お前たちなど取るに足らない……! 邪魔させるものか!」

 

 百合は自らの手に斧を呼び出すと、それを構える。

 松明と槍、残る二つの神器が完成してしまえば――!

 

「奈落の力を……! 最後まで諦めない……! 三つの刃に込められた、奈落の力を見せてやる!」

「私ねえ、ロルフ君を愛してるし彼からも愛されたいの、それぐらい大事な人なんだよ?」

「知るか! 私よりトップのブロガーなんて!」

「そんな人に危害加えられそうになったら誰だって怒るよね?」

「夢なんだ……トップブロガーになるのが……私の……!」

「いや~小学生とは思えない昼ドラ展開ですねー」

「その夢は自分の実力で叶えてなんぼだろう」

 

 サーラは来月に発売されるポテチをつまみながら最早昼ドラ鑑賞体勢。

 アーデルとハインツは倒れた継子を縛り上げている。

 

「人を押しのけてまで叶えて何の意味がある」

 

 呆れた様子で二人のやり取りを見守る樹理。

 

「あはは…じゃあ紙面のトップ、飾ってみますか?」

 

 未来でトップ飾った子がなんか言ってる……とサーラはセリアをジト目で見つめる。

 その視線に気づいたセリアがサーラに振り返りニコニコと笑みを。その笑顔怖いからやめなさい。

 

「そう、私の夢はロルフ君と幸せになること、叶えるために散ってくれるかな?」

「……やれるものならやってみろ……! シャドウガイア様、私に寵愛を……!」

 

 手元が狂ったのか、ビリーの銃弾は百合の頬を掠めるだけに終わる。

 次の弾も無いのか、それ以上の追撃が起こらないのを見て、天は自分を見放していなかったのだと百合が悦び歓喜する。

 

「はっはっは! 神に見放されたようだな!!」

「神なんて最初っからついちゃいねーよ」

「らーらーらーらーららーらー」

「歌ってんじゃねえ! 今歌ってんのはアタシだぞ! 燃え上がれ正義のォォォオオ

「ついてたら親にし捨てられたりなんてしてないよ」

 

 百合の背後、結界の壁にぶつかった銃弾が跳ね返る。

 その銃弾は、加護の力が乗せられた神撃。

 

「あんまり神の力借りるのしゃくだけど使うね、私それぐらい怒ってるの」

 

 銃弾に気付いた百合がそれを躱そうとするが、さらにセリアの加護が加わり速度を増した銃弾を前に、躱すのが間に合わない。

 

「ダークレジェンドであるこの私が……“愛の天使”百合が負けるというのですか……!? ぁぁぁああ、寵愛をおおぉおおお!

「覚えておけ。愛とか、数の暴力の前では無力なんだよ」

 

 樹理の言葉に、おかしいなこっちの方が数は多かったんだけどなと先ほどまでの戦いを振り返る。

 所詮ゾンビーはゾンビー。全部まとめて一体くらいの計算だったというわけか……?

 胸に銃弾を真面に食らい、倒れる百合。

 血がだらだらと溢れ、苦しさが全身へと広がっていく。

 

「ガハッ………………は…………はは…………死ぬ? 私が……?」

 

 ビリーは脳天に銃口を突き付ける。

 インフィニティガン。その特性は、無限。

 無数に作り出された銃は、何度もビリーの手で交換され、使われてきた。弾切れなど何度も起きていたのだが、百合がそれに気づく素振りは終ぞ無かった。

 

「覚えておけ、クエスター……! ダークレジェンド滅べど、奈落は滅ばずゥウウウウ!!!

 

 

 一発、二発、三発。

 四発、五発、六発――何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も。

 百合の体が原型を留めなくなるまで、ビリーは銃を撃ち続けた。

 

「狂ってても愛は愛だもんね、今回は私の愛の勝ち」

 

 インフィニティガンがビリーの手元から消える。

 

「この星を守るために受け継がれてきた力だぜ────何度でも倒してやるさ」

 

 その場で支援を続けていたアーデルがギターを背負い直し、百合だったモノに向けて言ってのけた。

 

「うわぁ、こっわぁ……」

 

 サーラ、ドン引きである。

 張っていた結界が消滅し、ロルフの家に戻って来る。

 

「あぁあああ!?」

 

 意識を取り戻したヤマトノナデシコ……継子が、縄で縛られた状態で這うように百合だったモノへ近づく。

 

「百合、百合、なんで、あぁあああ! あぁぁ、ぁぁぁあ、あはははあはははははは」

「わたしもああなる所だったのかな…?」

 

 大切な人を失った者の末路。ビリーは心が哀しくなるも、次の言葉を聞いて思い直した。

 

「死んだ死んだやっと死んだ愚かな娘死んだ死んだ死んだああははははははは!」

「やっぱり親って生き物は子供が嫌いなんだね」

 

 継子は玄関を出て外へ飛び出す。

 狂った母親は、そのまま命を捨てようとでも思ったか、車道へ飛び出そうとする。

 

「あははははははは!! あははははは!」

「……はぁ、しょうがないよなぁ」

 

 その首根っこを樹理が捕まえ事なきを得た。

 ロルフの家まで引き戻したら、セリアの包丁と、ビリーのインフィニティガンが継子の命を刈り取ろうとする。

 アーデルがその二人を抑えた。

 

 運命に干渉する力を持つクエスター、レジェンドである樹理は、その力を使いこの親子の狂気の原因を問う。

 継子は夫を亡くした時から心が壊れていたようだが、百合の方の原因は、奈落にあるようだ。

 奈落は、本人の意思に関係なく干渉してくる。百合だって、奈落の力が無ければここまでおかしくはならなかったはずだ。

 

 今にも天に召されそうな百合の魂を樹理は捕まえる。

 そもそもあれだけのことをしてきて、天国にいけると思うなよ。

 サーラが加護の力を使い、その蘇生を行う。

 

「死者蘇生!」

 

 原型すら無かった百合の体が逆再生するかのように元通りになっていく。そこに樹理が捕まえた百合の魂をぶちこんで、蘇生が完了する。

 

「人命の方はこれで……あとはお母上ですね」

 

 百合が目覚めた頃には、ダークレジェンドとして行ってきた数々の行いを正確には覚えていないことだろう。

 しかし、母親を使って何かをしてきた。そんなことは覚えている。

 これから死ぬまで、百合はその罪悪感に心を蝕み続けていくのだ。

 それは即ち、奈落にまた付け込まれる可能性が高いということ。

 

「人間、生きてる限りなにかしら抱えていくものだ。チャンスはくれてやった。あとは、そっちでどうにかしろ」

 

 樹理は続けてガイアに願う。

 親子二人の心を“父親が死ぬ前に戻してくれ”と。

 

「そっから先、母親の心が壊れるかどうかは私が関知しない」

「あ……? わ、吾輩はなんてことを。おおおおお! 吾輩はなんということを。サンタにあるまじき行為! あいや、あいや。ここは潔く、切腹するでござる!」

 

 目覚めたループレヒトが切腹しようとする! 腹切り御免!

 

「はいストーップ。ハラキリ・リチュアルは禁止でーー!!」

「ああああ! 女の子、女の子に手を握られているでござる!」

 

 サーラに手を握られ喜ぶループレヒトの腹にアーデルの強烈な蹴りが炸裂。

 

「あーーーーー! がふっ! Ich danke Ihnen(ありがとうございます)!?」

「弟よ……。サンタの身でありながら奈落に付け込まれおかした数々の悪行……。到底許されるものとは思うなよ?」

「ハハー!!」

「もはや何なんだよ」

「とりあえず、協会の規定に則って本部に出頭してもらうって感じでいいですかね?」

「だな。これを機会にその妙なコスプレもやめることだ。その格好はサンタとして相応しくない」

「アニジャには言われたくないわ!」

「何を!? どう見てもこの格好はサンタであろう!?」

「何を! ならばこの姿こそ……お嬢さんはどう思う!」

「それに関してはノーコメントで」

 

 何言い争ってんだこいつらとサーラが溜息。

 ループレヒトはその手で人死が起きていないこと、奈落に操られていたことも加味すればそう重い罪には問われないだろう。

 未来でもループレヒトが起こしたのは子供たちの心を絶望で染め上げたものの、死人は出ていなかった。

 奈落よりも人間の手で殺された数が多い。悲惨な事件だった……。

 

「……あれ、僕、未来に帰れるんですかね?」

 

 残念ながら、無理である。

 サーラが過去に渡った原因は、この事件とは関係が無い。

 現状、この世界に二人のサーラがいることになるのだが、実は問題なかったりする。というのも、この時間軸のサーラもまた、別の事件に巻き込まれ過去に渡ることになるからだ。

 

 樹理の疑いはまだ晴れていない。

 真犯人である黒咲継子は捕まっていない為、未だ犯人と思われている。

 

「しゃあないから暫く隠れ家にかくまってやるよ」

「アデ姉さまとの同棲、悪くない」

「いや、アタシはドイツに帰るけど」

「なんでだよ!」

 

 こうして奈落の脅威は去った。

 それぞれの国のサンタたちも、自分たちのあるべき場所に*4帰った。

 

*1
元から生きてないけど。

*2
ブラギでのオーディンの加護追加。割と最近まで回復だと思ってたけど使用済みじゃなくてもいけたから移行の編集では大体追加として記載。

*3
元ネタもろ遊戯王だし何ならセッション中まんま遊戯王のカード名だった。ハーメルンのタグに遊戯王ついてるのこのせい。

*4
サーラ以外




サーラは炭を買い忘れた(クエスト失敗)
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