アルシャードセイヴァー・リプレイ ノベル・レイアース+a 作:椎名真白
「痛い……ッ! やめて……おかあさん……」
「誰に指図しているのかしら。教育が必要ね」
「やだ……っ」
嘗て、ある親子がいました。
その親は子供を虐待していました。
父親は煙草を押し付け、背中に火傷を負わせました。
母親は首を絞め、息がいつまで続くかを見て笑っていました。
ごはんとして出されるのは、両親の食べ残しなら良い方で、酷い時はその辺のゴミを食べさせられることもありました。
唯一の心のよりどころだったのは、ベランダにやって来る猫でしょうか。
ある日のこと、珍しくお肉を出されることがありました。
お肉など食べたのはいつぶりでしょうか。娘は喜びそれを食べました。
おかあさんありがとう。感謝の言葉を伝えると、どういたしましてと言って何かを見せてきます。
それはビデオテープでした。再生される映像を言われるがままに見ると、いつもベランダに来ていた猫がいました。
その猫は父親の手で殴り、蹴られ、衰弱していきます。
母親がそんな猫を掴むと、キッチンに連れて行き、包丁でまず耳をそぎ落としました。悲鳴が上がります。
次いで手を、足を、目を。体を分解していき、やがて猫は死にました。
死んだ猫はフライパンの上で調理され、綺麗に彩られます。
娘……百合が食べたのは、心の拠り所だった猫でした。
百合の心は死にました。
継子とその夫は反応を示さない百合に対し愛情という名の痛みを注いでくれます。
百合が病気にかかった時にはお注射もしてくれました。
中身は風呂の残り湯。
百合の体にはいくつものボツボツができていました。学校も行けなくなり、適当な理由をつけて休まされました。
そんな日々が続けば子供の命は長く持ちません。
衰弱していった百合は、けれど最後に願います。
どうか、どうか力をくださいと。
その願いは届き、百合は力を得ました。
百合はその力で、自分の父親を殺しました。
夫が殺された継子は、それに恐れをなし、百合の言うことを何でも聞くようになりました。
こうして出来上がったのが、ヤマトノナデシコでした。
※
『ニュース速報です。1月16日午後3時20分、七瀬市に住む児童、
これにより、樹理の疑いは無事に晴れた。
「あははは…弱かったね、百合…しょうがないね?」
血に濡れた一室でテレビを見ながらセリアがつまらなそうに目の前の人間の息の根を止める。
別の場所でニュースを見た樹理は、疑いが晴れたのを機に家に戻る。
「……まぁ、これも人の業か」
そんな報道も、いつしか人々の記憶から忘れ去られていく。
ありふれた、少しだけ可哀そうな事件。
とある物好きたちが、ヤマトノナデシコに関するスレを掲示板に立て、人知れず盛り上がる。
そんな中出されたのは、百合が死亡した日付が五日前の十五日だということ。その日が友引であり、殺された被害者たちと同じ条件だったということ。
さらに百合は、その日に一か月ぶりのブログを更新しており、自殺を仄めかす文章だったこと。この内容が一部で拡散された結果、その日のトップブログランキング一位になっていたことなどが挙げられた。
そのブログのおかげで住所を特定していた一部層が通報。警察が動き出す事態まで発展し、ようやく発見されたようなのだが、あと少し警察が動くのが早ければ百合が助かっていたかもしれないと、警察を罵倒する声も多く上がった。
けれどその声も段々と少なくなっていき、やがて忘れ去られ、たまに思い出される程度の事件として処理されることだろう。
※
場所は黒咲家の風呂場。
惨殺された百合の遺体が沈められていた場所。
その体は四肢が捥がれ、目玉は抉られ、すべての髪が燃やされていた。
惨たらしい火傷と腐ったような異臭、体には幾つもの湿疹や炎症が起きており、肉の一部は腐っていた。
警察により遺体が運び出される中、遺体があった場所に、何かが残された。
「…………殺す」
『続いてのニュースです。先日逮捕された黒咲継子容疑者が死亡したと情報が入りました! 遺体は獄中でバラバラにされていたとされ、現在警察が調査中とのことです』