アルシャードセイヴァー・リプレイ ノベル・レイアース+a 作:椎名真白
炎を纏った蛍に続き、嵐も手に入れた力を行使する。
それは、音楽を奏でること。何を言っているのだと思われるかもしれないが、嵐が奏でたロックな音楽を聴いた二人の力が増す。
嵐は自分のロック好きを周囲には隠して生活していた。周りからすれば、嵐の存在は高嶺の花。お嬢様にロックは似合わない。そんな先入観を崩さない為、お淑やかさを演じてきた。
だが、目の前の二人になら、この姿を隠す必要もない。そう思えたのは、シャード継承によるものなのか、それとも……。
「おめえら、やっちまえー!」
オークリーダーの声に従い、オークたちが戦いを仕掛けてくる。
ルーテシアは未来予知を行うレリクスを用いて、その戦闘の補助に回った。
「ふう…こうかしら~? いくわよ~」
嵐の周りに雷撃が迸る。
手を翳せば、閃光が駈け、オークたちの体を焼いた。
「ぶひーーー!?」
「ブぶ!」
「な……」
黒煙が漂う。肉の焼ける臭いがする。
気付けば、立っているのはオークのリーダーただ一人。
「な、なんだとぉ!?」
「なるほど~こうやるのね~」
「お見事です」
それに続くように蛍が接敵。オークリーダーの臭いに鼻がやられそうになるも我慢。
蛍に対し、ルーテシアが補助の特技を使用すれば、その剣にあった僅かなブレが修正される。
「蛍ちゃんがんばって~」
「体が……軽い!」
「こんなキモチハジメテ……!?」
オークリーダーが死の予感を覚え躱そうとするも、臭いがきついだけのオークに特別な力なんてものがそうそうあるわけがなく。
「速いッ!?」
炎を纏った剣が目の前に迫る。
「たああああぁぁぁぁぁッ!!!」
「お、おでがもくしできぐぎゃ!?」
それを目に拾い切る前に、オークの命は絶命した。
「蛍さんもお見事です……!」
「ありがとうございます~…でも、被害は出ちゃいましたね~…」
「みんな、大丈夫!?」
倒れる人々に蛍が駆け寄る。
一先ず、脅威は去った。
そう安心しきったところに、声が響き渡る。女の、それも幼さの残る子供の声だ。
「ちょっとちょっとちょっとーオークちゃんたち全滅とかありえないんですけど? あんたたち、何してくれちゃってるわけぇ?」
「誰だッ!?」
蛍が声がした方に振り返り、剣を構える。
語尾を吊り上げながら叫ぶ少女。その容姿は、金髪に碧眼、無い胸を張る少女は高台から、どこか見下した顔で蛍を見た。
「うちぃ↓?うち↑はぁ↑↑」
と言った風にどこか特徴的な口調で声を張り上げ、そして。
「アルキオネ」
今度は淡々とした口調で名乗りを上げる。
「偉大なる闇の大魔に仕える三神官が一人だよぉ」
「…………!!」
ルーテシアがそれを聞いて目を見張った。
「闇の大魔……って、シャードが教えてくれた……!」
「…! …闇の大魔」
「そこにいるのはぁ、闇の大魔のママさんだねえ?」
先のオークとは比べ物にならないほど、その小さな存在は存在感がある。ただ者じゃない、見ただけで判断できるほどに、目の前に少女、アルキオネは危険だ。そう、シャードが告げてくる。
「じゃあ、この人たちをこんなに苦しめたのも、お前が!」
「そうだよぉ」
「許さない!!」
「なあに? やる?」
「何が狙いなのかしら~?」
嵐が注意を引いた隙を見て、蛍が接敵。アルキオネに剣を振り下ろす。それを、影から現れた犬のような存在が防いだ。
「グルルルル」
「ぐ……っ!?」
「蛍さん……気を付けて! その者はさっきのオークとは比べ物になりません!」
現れた犬――リガルオンに阻まれ、蛍は一旦後退。それをリガルオンが追いかける。
「く……この! この!」
とリガルオンに剣を振るうも、悉く躱されてしまう。まるで遊ばれているようだった。
「プラウディアとディグニティもぉ、がんばって活動中だよォ……」
アルキオネがルーテシアを見てそう言った。
ルーテシアはそれを聞いて、やはり変わってしまったのだなと思い詰める。
アルキオネ、プラウディア、ディグニティ。闇の大魔の三神官は、ルーテシアの嘗ての弟子。光の勢力より、闇に与した存在だった。
「………………あなたたちを止められなかったのは私の責任です。ですから……せめて私の手で倒さなければ……!」
「ふふふ……」
アルキオネの傍にリガルオンが戻る。
ルーテシアから手ほどきを受けた存在、かなりの強敵だ。
「このォ!!」
リガルオンを追うように蛍が剣を振るう。
「蛍ちゃん! …なんとか気をそらさないと…」
「なんで……なんで、こんな酷いことするんだ! たくさんの人たちを傷つけて……苦しめて……悲しませて!」
「人々の怨嗟、それが闇の大魔復活の糧となる。あの人にまた会えるならうちは……はぁああん!」
身震いし、絶頂するアルキオネ。
頬が火照り、体が上気する。
「さっきの戦闘は見せて貰ったよぉ……」
若干赤さの残る顔で、ずっと戦いを見ていたことを明らかにするアルキオネ。
それがさらに蛍の怒りに触れた。
「それが、お前にとってどんなに嬉しいことでも……これ以上人々を苦しませなんて、絶対にさせない!」
「へえ……じゃあ、こんなのはどうかなぁ!」
アルキオネの手から、何か石のようなものがばらまかれる。
アビスシード――人の心を支配し、奈落へと転じさせる、奈落の種子だ。
「さあ、人々が奈落に変わる様、見ると良いよぉ」
ばらまかれた石から、触手のような者が現れる。
それが、傷つき、倒れる人々の身を覆わんと蠢きだした。
「!?」
「…………っ!!!!」
嵐とルーテシアがその不気味な光景にたじろぐ。
このまま、人々は奈落に呑まれてしまうのか。
しかし、そこで終わる魔法騎士ではなかった。
嵐は即座に思考を巡らせ、やがて解決策を導き出す。
「…そういうことね~まかせて~」
シャードを握り、そのゾーンを広めていく。稲妻が轟き、それが広がっていく。
周囲の景色が歪み、敵と味方以外がその空間より弾かれる。
結界。シャードにより生み出されたそれが、人々を奈落から遠ざけた。
「……! ありがとう、嵐ちゃん!!」
「やはり嵐さんは素早い判断力をしていますね……」
「は? ……まさか、魔法騎士……ッ!?」
アルキオネがその力に驚愕する。
魔法騎士、闇の大魔を封じた勇者たち、クエスター。
最大の敵ともいうべき存在が、目の前にいるのだ。警戒をより一層強める。
「…ありがとう…」
嵐がシャードを撫でながらほっと息をつく。これで一先ずは、無関係な人を巻き込まずに済む。
流れが変わった。蛍は剣に炎を纏わせると、それをさらに大きなものへと変化させ、アルキオネ、リガルオンへ向け剣先を向けた。
「ひ、ひぃ!? く……来るな……!! その炎をこっちに向けるなぁ……!!」
アルキオネは後退る。
その炎が、光が、忌々しい。
「蛍さんっ!」
「はああああぁぁぁぁッ!!」
ルーテシアの魔法支援を受け、高速の動きにて炎の剣を振りかぶる。
「せいやああああああッ!!」
遂にアルキオネの喉元を捉えた――かに思えた。
「にひ」
リガルオンが、アルキオネの前に飛び出す。
「言ったよねぇ? 戦い、見てたって。そう来るのは分かってたんだよォ?」
蛍の炎がリガルオンを包みこむも、それがリガルオンを傷つけることはなかった。
リガルオンを包んだ炎が、そのまま吸い込まれていく。思わず蛍は後退。
「剣の炎が……吸われた!?」
「そんな…」
「あの獣は炎の魔力を吸収する能力を持っているようです……!」
「ウォオオーーーーン!」
リガルオンはその吸収した炎を吐き出す。
炎の息吹は蛍を超えて、その先へ。後ろに立つルーテシアの元へ襲い掛かった。
「その程度の魔力なら……!!」
ルーテシアはその炎を自らのマナを使い弾く。
「さすがにあったんないかぁ……」
「炎が通じないなら私にお任せを……!」
「ルーテシアちゃん……お願い!!」
蛍がルーテシアへ向け叫ぶ。ルーテシアはサイネリウムのような物……レーザーソードを取り出すと、そこからピンポイントレーザーを発射。
アルキオネは気が済んだとも言わんばかりに、闇の大魔の力を使い、神の加護を行使。マリーシにより自分だけが姿を消す。
残されたリガルオンは、無惨にもその一撃を受け倒れ伏した。
「アルキオネは取り逃がしましたか……」
「でも、これでみんなは……!」
撤退したアルキオネよりも、まずは襲われた人々のことだ。
すぐさま蛍は駆け寄って、自分に何かできないか考える。
ルーテシアが魔法の力で癒せば、次々と人々から感謝の言葉が伝えられた。
「おお……」
「ありがとうございます……」
「もしやあなた様方は、伝説にうたわれるもの!?」
嵐は、犠牲者となった者たちの目を閉じ、服を整えてあげてきた。
「大丈夫?あ、怪我しちゃってるね……えーと……はい、絆創膏!」
蛍はそう言って、元の世界から持ってきていた絆創膏を怪我した子供に貼ってあげる。力を手に入れたとはいえ、できることは限られていた。
戦いは終わり、現場も落ち着いて来た。
本当ならば、犠牲者の弔いなどもしてあげたい。しかし、今はそれよりも急ぐべきことができた。
都での騒乱。そこにアルキオネが関わっている可能性が高い。ここと同じく、犠牲となる者が出ていることだろう。
急ぎ、都へ向かわねば。
幸いなことに、救われた人の中に、同じく都を目指していた商人の馬車があった。
先の馬車で貰った紹介状も必要なく、すぐに乗せてくれることになり、名残惜しくも、この場を去ることにする。
「みんな、気をつけてね!」
救った人々から感謝の言葉を受けながら、遂に始まりの街を旅立った。