アルシャードセイヴァー・リプレイ ノベル・レイアース+a 作:椎名真白
常闇の森。オークの根城というだけあって、かなりの数のオークが蠢く。それらを兵たちが退けていき、ルーテシアを筆頭にした部隊が奥へ進んでいく。
オークは奥に行くほどに多くなっていく。魔法騎士がいることもあって兵たちの士気は高く、害虫駆除をするが如く敵を打倒していく。
「僕が師の弟子だった頃から、オークの対処には悩まされていましたが……本格的な攻勢に出るのはこれが初めてですね」
プラウディアの言葉にルーテシアが頷く。過去の魔法騎士がいた頃ならば、常闇の森の瘴気が濃くなる毎にこれの掃討を行っていた。しかし、闇の大魔との度重なる戦いと、その封印に力の過半数を持っていかれたことで、常闇の森を放置せざるをえない状況になっていた。
「攻勢に出るだけの状況が整った…ということよね~」
嵐の言葉にルーテシアがもう一度強く頷く。
瘴気が濃い。この瘴気はやがて人を奈落に落とすだけの濃さがある。だが、この場にはルーテシア、そして魔法騎士のシャードを持つ三人の少女たちがいる。
シャードが放つ一定のゾーンはこの瘴気から兵たちが奈落に汚染されるのを防いでいた。ルーテシア一人では限度があったが、合計四つのシャードにより、それは絶対の守りとなる。
「これは……なんだか息苦しくなる場所だね……」
「これは……瘴気がかなり濃いですね」
それでも、瘴気の濃さは異常である。ゾーンを超えて息苦しさを感じさせる。それにより、兵たちにも段々と疲れが見えてきた。奥にはオークの居城が見える。瘴気はそこから溢れ出ているようだ。
これより先はもっと瘴気が濃くなる。ただの兵士ではひとたまりもないだろう。
結果として、ルーテシアが留守の間に常闇の森に攻め込まなかったのは正解だと分かる。もしルーテシアたちが帰還する前に、薄暮の君の居場所がオークの城だと判明したとして、そこに国の兵全軍が押し寄せたところで、この瘴気に阻まれ失敗に終わったことだろう。
ルーテシアがここで一度、休憩を挟むべきかと思案していたところ、オーク掃討を行っていた法師団長がやって来る。
「ルーテシア様、これより先、私も同行致しましょう。有象無象の対処は他の兵士で十分間に合っております。それよりも危険なのが、やはりこの城の主でしょう……姫を取り戻さねば……!」
「えぇ……! 参りましょう……!!」
「心強いわね~この国の人たちは、さすがですルーテシアさま好き」
兵たちには周囲のオーク討伐を任せ、その居城にルーテシア、蛍、嵐、プラウディア、そして魔法師団長の精鋭五人が乗り込む。
森の中にぽつんとたつ城は、その造りが都のものに酷似していた。オークが見様見真似で作ったのだろうか。
城の中には思ったよりもオークがおらず、幾つかの階段を上っていく。
「あっち……なんだか嫌な気配が一番強い!」
蛍が告げる方向には大きな扉があった。
「恐らくそこにオークキングが……!」
音楽が流れてきた。
「…はい~?」
最初にそれが耳に入った嵐が首をかしげる。
近づけば近づくほどに、その音は大きくなっていく。どうやら、扉の奥で何者かがピアノを奏でているようだ。
ピアノの音色だけならまだ、理解できた。音楽を嗜むオーク。随分と風変りだが、それにより何らかの恩恵を得ている可能性はある。嵐の奏でる音楽が、力を増加させるように。
困惑したのが、その音色に合わせて歌が聞こえてきたことである。
「ここかッ、オークキング!!」
それがどうしたものかと言わんばかりに蛍が扉を勢いよく開く。
「お姫様は返してもらうぞ!!」
そこにいた。
「!!!」
薄暮の君だ。
「そうだ、歌え。我を称えよ……!」
薄暮の君が、オークの音楽に合わせて無理やり歌を歌わされている……!?
「何者か?」
「この世界を救う……魔法騎士だ!!」
「彼女に妙な歌を歌わせるなんて……なんてひどいことを!! オークキング、成敗しますっ……!!」
「ククク……」
オークキングがピアノの演奏をやめて立ち上がる。そして、身に着けていたマントを翻し、魔法騎士に向き直る。
その側面にはオークキングの側近らしきオーク二体の姿も見えた。
敵との配置を確認した嵐が、一瞬まずいという顔をしたが、どうしようもないと悟ったのか諦めその方向に行かないことを祈る。
「ならば、別の歌を歌ってもらおう」
薄暮の君の歌が止む。そして、オークキングが指をパチンと鳴らすと、どこからかオーケストラが流れ始めた。
「貴様らを地獄へ送る……死の歌を……!」
「……!!」
ルーテシアがオークキングを睨み、そして薄暮の君の方を見る。
薄暮の君の体が勝手に動き出したかと思うと、口が動き歌が始まる。どうやら、無理やり歌うことを強制されているようで、その口からは死を連想させる恐ろしい歌が……。
「そうね~じゃあ私が歌おうかしら~」
流れる直前。嵐が先に歌いだした。
それは、恋をテーマにした、慕情の歌……恋慕の歌……薄暮の君が負けじと残酷な歌を紡ぎだす。恋を巡る歌か、あの世への天使の命題か。お歌合戦、ここに開幕。
そんなBGMに合わせてルーテシアが魔法によるバフをかける。
「さ~先手いくわよ~」
「援護します!」
「あら~ありがと~」
嵐が元素掌握をし、電磁奏手を紡ぎだす。放たれた雷撃に対し、魔法師団長が魔法によるアシストを行う。雷撃は音速を超え光速へと達し、光の一撃がオークたちへ放たれる。
「小癪な……!?」
それをもろに受けるオークキング。闇への耐性を持つキングは、光の魔法に弱く、魔法師団長の補助を受け属性が変化した一撃により大ダメージを受ける。
さらにその光は二体のオークを一瞬にして消滅させた。
「貴様ら……! 俺の子を……! 許さん……」
「ん…硬いわね~」
「こちらもあなたを許すつもりはありませんので……!」
流れは来ている。オークキングと言えど、魔法騎士たちを前に勝てる要素は見当たらない。
それなのになぜか、オークキングは下卑た笑みを浮かべる。
「まずい……!」
それに気づいたプラウディアが魔法を放つが、一手遅い。オークキングはその拳で、すぐ隣にいる薄暮の君に殴りかかった。
ルーテシアがトランスポーターを発動し、薄暮の君を守ろうとするが……それは至近に別の誰かがいる時、攻撃を庇わせる特技。今、薄暮の君の至近にいるのはオークキングのみで、勿論オークキングにそれを庇う意思はない為、使ったところで意味がない。
人質をまさか殺害しにかかるとは思わず、為すすべもない。その可能性に気づいていた嵐はルーテシアのその特技で何とか凌げるかと考えていたのだが、初手にてそう動かれてはどうしようもなかった。
ともすれば、加護の力でそれを防ぐしか手立てはない……かに思われた。
「無惨に死ね」
「お姫様!!」
蛍の絶叫。
オークキングの拳が薄暮の君に辿り着く直前――魔法師団長が動いた。
変わり身、そのさらなる強化特技。変わり身Ⅱ。シーサーペントが持っていたものと同じ特技で、離れた敵の攻撃も、自らに引き付ける技。
「姫……!」
オークキングの拳が曲がる。本人の意志とは裏腹に、その攻撃が魔法師団長の方へと伸びる。
「ぐ…………ご無事…………ですか…………?」
それを受け、魔法師団長は吹き飛び、体を壁にたたきつけられる。吐血、オークキングは自らの攻撃を動かされたことを不満に思いながらも、良い一撃を入れられたので割と満足気である。
「魔法師団長……!」
薄暮の君が魔法師団長の名を叫んだ。
魔法師団長の名は、魔法師団長である。薄暮の君の名が薄暮の君であるように……長すぎて自分でも覚えられない名前を持つ二人にとっては、役職こそが呼び名なのだ。トワイライトワールド人、長い名前を付けがち、その弊害である。
魔法師団長は立ち上がる。そして、オークキングに魔法を放つ。それは一切の曲がり無く、一直線にオークキングへ到来し、クリティカルヒットする。
「おの……れ」
オークキングは魔法師団長の一撃を受け倒れた。
「ほっ…よかった~」
二人が無事だったことに嵐がほっと一息。
「皆さん……!」
解放された薄暮の君がルーテシアたちの元へ駆け寄る。
「お姫様……!! 大丈夫? 怪我はない!?」
蛍がその身を案じ、体のいたるところをぺたぺた触る。不敬である。
「ありがとうございます……そして、魔法騎士たちよ。申し訳ありません……私たちの世界の勝手な理由で、この世界に召喚してしまい……」
「ううん、そんなの良いんだよ! 困っている人は放っておけないもん!」
「ご無事ですか……?」
「ええ……私は、無事です……ですが、この方が」
ルーテシアに返事をした薄暮の君が倒れる魔法師団長に手を差し伸べる。
「騎士さんも……大丈夫?」
蛍が魔法師団長に肩を貸して立ち上がらせる。
「魔法師団長……本名は確か……」
薄暮の君がグーレスなんたらみたいな名前だったかなと名前を呼べばそうだったねと返事が返ってくる。
「よくぞ薄暮の君を守って下さいました……ありがとうございます」
「ありがとう……師よ……」
ルーテシアの魔法で魔法師団長の傷が癒されていく。この光を受けるのも懐かしい。その感触を味わうように、傷が癒えるのを待った。
深い闇の中。
そこでアルキオネは闇の大魔と対面していた。
「我らが王、お帰りを首を長くしてお待ちしておりました……ヒヒ、イヒヒ……ヒヒヒハハハハハハハハハハハ!!!!」
「…………グゥウ……オオォオ…………ォオアアアアアアアアアアアアア!!!」
闇がやがて形を持つ。
それは恐るべき竜のような姿。
遂に、闇の大魔が復活してしまった。
「さぁ……都へ進軍と行きましょう。あなたの名前は今日から オベロンよ。オベロン……ふふふふふ……」