そういや高校生のころドラゴン系のライトノベル読んでいたのを思い出し、それと組み合わせたら面白そうと思って執筆しました。
意識が急速に覚醒してくる。
まるでSFの映画で宇宙船がタイムスリップしているようなあんな感じの速度だ。
「うわぁっ!?」
勢いよく起き上がり目が覚めると、見たことのない景色が広がっていた。
私の名前は青木瑠璃、皆からはルリとか青木さんとか呼ばれている15歳の女子高校生だ。
ただ普通の女子高生ではなく、頭には軍用ナイフのような二本の角と特徴的な牙、瞳孔も人間のとはちょっと違っている。
どういうことかというと、お母さんは普通の人間だけどお父さんがドラゴン。
つまりドラゴンと人間のハーフであるのだ。
お付き合いした経緯は未だ不明だけどなんやかんやあって私が生まれたってわけ。
ハーフだからその恩恵としてとても力持ちだとかそういうことはなく、せいぜい火を吐いたり放電したり傷の治りがちょっと早いとかそれくらいで、運動が苦手で寝相がかなり悪いのが悩みの女子高生なのだ。
閑話休題、なぜここにいてこうなっているのか全く分からない。
確か学校の帰りに親友のユカと別れ自宅に向かっている道中、無意識にというか誘われるようにリサイクルショップに寄っておもちゃコーナーで子供のころに流行った∞プチプチを手に取りプチプチした途端、強烈な眠気が急に襲ってきて倒れたところまでは覚えている。
そして目が覚めたらこうなっているのが今の現状である。
「おーい、誰かいませんか?」
とりあえず真っ暗闇の中大声で叫ぶも反響が帰ってくるだけだ。
けどドラゴンの眼のおかげなのか数分で暗順応してきて完全ではないが倉庫っぽい内部は見えるようになった。
とはいえ外の風が強いのか建物が不気味な音を立てて軋んでいるのでかなり怖い。
こんなところにお化けなんて居たらたまったものではない。
するとそんな願いが通じたのか窓から月明かりが差してきたのでホッとし、内部もよく見えてきた。
高さは10mほどで天井には古めかしい水銀灯がいくつかあり、長さは100m×30mほどはありそうな広い倉庫だった。
ぐるっと周りを見回すと、あまり使われていなさそうな倉庫というか人の気配はせずガラン、としている。
そばには階段があり上を見上げると通路とちょっとした建造物も見える。ロフトというか中2階がある。
すん、と鼻を動かすとカビっぽい匂いに交じってかすかに潮の香りがしてくるので海の近くにある倉庫なのだろうと推測する。
「あっついなここ……」
倉庫の中は蒸し暑くじんわりと汗をかいてきたので制服の上着を脱ぎネクタイを外しブラウス姿になる。
袖口のボタンを外し腕まくりして半袖になり制服も破れていないかどうか確認していくも、破れもほつれもなかったので安心しうーんと背伸びする。
月明りも得たのでまずスクールバッグの中身が無事かどうか調べる。
よかった、財布やiPhone、学生手帳等々はちゃんとあったようで一安心する。
iPhoneの電源を入れようとするが、どうやら充電切れのようで画面には空っぽの電池マークがむなしく表示されている。
ならばとモバイルバッテリーを起動するも、なぜかこれも充電切れでありがっくりと肩を落とす。
「うそん……これじゃあお母さんやユカとも連絡も取れないし、時間も分からないじゃん」
あ、そういえばここ最近電気を生み出せるようになったんだった。
もしかしたらドラ〇もんのひみつ道具にある蓄電スーツみたいにプラグを摘まんで充電できるかもしれない。
物は試しと充電ケーブルをiPhoneに差しプラグを右親指と右人差し指で摘まみ、電気を生み出すイメージを膨らませるが、電気どころか静電気すら一向に発生しない。
「くうっ、まじかぁ……」
肩で大きく息をし、真っ暗の画面になっているiPhoneを見つめる。
これじゃあただの板であり今は鏡として利用するしかないじゃないか。
まぁ、ドラゴンの能力はいつ出るか分からない気まぐれなものだと思っているのでさほど慌てなかった。
「しかし……どこなんだここ?」
リサイクルショップに入ったのは確か夕方ぐらいなのでおよそ数時間は経過しているだろう。
拉致されたにしても手足が自由だしそもそも束縛されていなかった。
「水曜やドッキリ系の番組にしても雑だし……とりあえず脱出するしかないかな」
立ち上がって重そうなスチール製のシャッターに近づき力を込めて開けようと試みるが、鍵がかかってるのかびくともしなかった。
「うぐぐ……鍵がかかってるじゃん! えぇぇ、どうしようぅ……」
ぜぇぜぇと息しながらシャッターを恨めしそうに見る。
いっそのこと火炎放射で鉄を溶かすのもありかもしれない。それが出るか分からないけど。
でもスチールが溶ける温度って何℃だっけと、現代人の癖であるiPhoneを取り出しググろうとしたが充電切れでiPhoneが使えないことをすぐ思い出しそっと鞄にしまった。
それにここで炎を出してしまえば倉庫まで延焼し大騒ぎになるかもしれない。
放火犯として世間に晒されたくはなくどうしようかとやや涙目になりながら見回すと、いくつかの壁に穴が開いているのを見つけた。
そのうちの1つの穴に駆け寄るとギリギリ通れそうなのがある。
おそらく誰かが金物目当てに穴を開けて侵入したのか、劣化でこうなったかは分からないが千載一遇のチャンスだ。
まず穴から顔だけを出して周辺を警戒をすると隣にも同じような倉庫があり、右を向くと海とふ頭が見え風とともに蒸し暑い湿気と海の香りがダイレクトにくる。
暫く聞き耳を立て誰も居なさそうだと判断するとスクールバッグをえいやッ、と穴から外に放り出しここからおさらばしようとしたが角の長さを計算するのを忘れ思い切りガツン、と引っかかってしまい痛みで悶える。
「いっっつ……! 不便だなぁこの角」
今日も制服に着替えるときカーディガンにビリっと穴を開けてしまい何度ダメにしたことか。
今度こそ引っかからないよう慎重に穴をくぐり無事に脱出できた。
熱帯夜特有のじんわりとした熱が全身を包み込んだのでブラウスの腕をまくり半袖にすると
制服とスクールバッグについた埃を手でパンパンと払って立ち上がり、海が見える方へ歩き出し倉庫と倉庫の間からひょこっと顔を出すが、やはり誰もいない。
2時方向には細長い平屋建てがいくつかあり、12時方向にも同じような建物が2棟ある。
10時方向に目を向けると何も灯りが見えないので原っぱか空き地でも広がっているのだろうか。
しかしこれだけではどこなのかさっぱり分からない。
そもそもここが日本なのか外国なのかすらまだ不明だ。
そういえば確か星座を見ればおおよそどの地域にいるのか分かると本で読んだことがあり、夜空に目を向けるとそこには雲がどんよりとかかっており星座は見えなかったのでがっくりと肩を落とす。
というか風がいつの間にかぴたりと吹き止んでおり静寂が辺りを包み込んでいる。
どうしたものかと悩み、まずはこの周りをみようと踵を返して歩き出す。
すると遠くから車の走行音が聞こえてきたので、植栽に身を隠そうとするも虫の鳴き声が結構聞こえてくる。
虫は嫌いだが我慢して隠れていると、2台の黒塗りの高級車と1台のトラックが入ってくる。
止まったので注意深く観察すると6人ほどのヤクザが黒塗りの高級車から下りてきたが全員銃器を持っており、何かを守るように警戒態勢を敷いていた。
そしてトラックの扉が開けられると箱が荷台から運び出されるが良く見えなかったのでもう少し近づこうとした矢先、何か違和感を覚えたので恐る恐る目をやるとデカい虫がブラウスに引っ付いていたので思わず声にならない声をあげてしまう。
「そこに誰かいるのか!?」
悲鳴に気づいたヤクザがガチャっと自動拳銃を操作する。
これはまずい、と直感し先ほど脱出した穴に入り込もうと背を向けた途端足がもつれてしまう。
こけたのと同時に乾いた発砲音に加え左腕に金属バットで思い切り殴られたような痛みが走る。
「うっ!」
こけたそばにあの穴が眼の先にあったが幸運だった。
アドレナリンがドバドバと出ているのか体は動くようで、まずは身を隠さなければと匍匐前進で入り倉庫内に身を隠す。
膝をすりむいてしまったが、それよりも撃たれたところが熱を帯びたように痛い。
そこに目を向けると左腕の白いブラウスがべっとりの血の色に染め上げていた。
左腕は動かせなかったが指は最低限動かせるし、石でこけたおかげで蜂の巣にはならなかったので不幸中の幸いだろう
すると複数の足音と殺気がこちらに近づいてくるのが分かる。
(やばいやばい、どうしよう!?)
とりあえずスクールバッグで穴をふさごうと考えたが高さが足りない。
アドレナリンが効いている内に階段を駆け登り、通路を走り管理棟らしきところまで向かおうとしたがヤクザが入ってくる気配がしたので通路に身を伏せる。
2人のヤクザが懐中電灯を倉庫内に照らしてきたのでその場から動けなくなった。
どうかバレませんように、と息を殺して祈るが目論見が外れる。
「おい、こんなところに血痕と足跡があるぞ」
「この倉庫にいるはずだ! 探し出せ!」
ひゅっ、と息をのんだ。
洞察力ありすぎだろうと心の中でツッコんだが、このままでは蜂の巣にされるかヤクザに拉致されるかの二択だ。
足跡があるならバレるのはもう時間の問題だし、何なら足音も階段へと近づいて来ている。
玉砕覚悟で火炎放射を出そうと大きく息を吸い込もうとした矢先、幻想的で美しい蝶々が何百、いや何千何万と飛んで甘く芳醇な匂いがする鱗粉がキラキラと空中に漂っている。
確かどう森でみたモルフォ蝶やらミイロタテハ、トリバネアゲハ、アレキサンドラなんとかもいる。
(これが走馬灯ってやつ?)
にしては過去の記憶とか出てこない。
あまりにも美しい光景だったのでぼーっと見とれる。体もふわふわ浮いているような感覚で夢心地な気分だ。
これがずっと続いたらいいなぁ、と思うも終わりが突然来た。
風船が弾けるようにパチン、と一気に現実へと引き戻される。
あの沢山の蝶々はどこにいったのか、眼下に広がっているのは2人のヤクザが階段前で倒れている光景だった
「……はっ?」
信じられない光景に二度見し、目を何度もこする。
遂に私は火事場の馬鹿力的なあれで幻覚まで出せるようになったのか。
しかしこんな能力はドラゴンのお父さんやお母さんから聞いたこともない。
(ハーフだからイレギュラーな能力が発現したのかな?)
とはいえせっかくのチャンス。
倉庫に長く留まっているのは危険だ。
いつヤクザが目を覚ますか分からないので、早めにここから脱出しなければならない。
階段を下り倒れているヤクザを横目に見つつ速足であの穴に向かうと、どこからか女性と男性の声が聞こえてきた。
耳をすますと、誰かを探し出すようにも聞こえる。
穴から顔を出すと、別のヤクザが二人も倒れていてビックリしたが声の主は見えない。
もしかしたら警察官かもしれない。
イチかバチか勇気を出して穴から出たあと、痛みをこらえ声をあげる。
「ここにいまーす! 誰か居るんですかー? 助けてくださーい! 撃たれましたー!」
叫ぶとすぐに駆け寄る音が聞こえる。
その場で待っていると懐中電灯の灯りがこちらに向けられ、まぶしさのあまり右手で隠し目を細め特徴的な瞳孔がキュッと小さく縮む。
「うおっ、まぶしっ」
懐中電灯の光が地面に向けられたので見ると、そこには豊満なたわわを持つスタイル抜群の女性と男子高校生がいた。
女性のほうは緩やかなウェーブを描く茶色のロングヘアーで、長さはお尻のほうまで伸ばしてあった。
それに服装は胸の谷間ががこれでもかと見えるほど深いVラインのフリルキャミソールと、太ももが露になっているマイクロミニスカートをぴっちり着こなしているからか、魅力的なお尻が強調されている。
男子高校生のほうは白Tシャスにスラックスを穿いており、黒のショートヘアのどこにでもいそうな高校生だが、それにしては少し大人びたような雰囲気がある。
警察官ではなかったものの、味方らしき人が来た安堵からかルリは緊張から解き放たれへなへなと腰が抜けてしまった。
女性はすぐに駆け寄って介抱していく。
「うそっ、大丈夫!? アドレナリンが切れたのね……どこを撃たれたの?」
「えっと、左腕を撃たれました……」
「ちょっと見せてみて……ふむ、貫通している感じね。意識ははっきりしてそうだけど名前は言えるかしら?」
「青木瑠璃……です」
「青木瑠璃さんね。私は七尾英理子って言うわ。で、初対面で失礼なのは百も承知なんだけどこっそりでいいから体重と血液型を教えてくれるかしら?」
えっ、初対面の人にいきなり乙女のトップシークレットをばらさなきゃだめなのかとルリは怪訝そうな顔を浮かべる
「だって体重によって出血ショックのラインが変わってくるのよ。全体の30%も失うと命の危機があるからね」
命の危機という正論に観念して赤面しつつ耳打ちして答える。
「……kgで血液型はO型です」
(てことは輸血が必要となった場合O型なら問題ないわね。そしてデッドラインはおよそ1L前後か)
頭の中で計算し英里子は彼に指示を出す。
「竜司くん、車に応急処置セットがあるからとってきてくれる?」
「わ、分かりました」
奴らは銃器を持っている事が多いので、万が一のために応急処置セットを車内に置いてある。
しかしファングの持っている銃が自動拳銃よかったと英里子は思う。
もしアサルトライフルだったなら自動拳銃よりも命中率は上がりもっと被弾していたに違いない。
急所や動脈に被弾していたら噴水のように出血することもあり、わずか1分で死亡率は50%にもなるからだ。
応急処置を終えると英里子は好奇心を含んだ目で二本の角を見つめる。
「さっきから気になっていたのだけど、その角はコスプレ?」
そりゃ人間にはない部位、というか角があったらコスプレしていると思われても仕方ないなとルリは心の中で苦笑いする。
「これコスプレじゃなくドラゴンの角です……」
ルリの衝撃的な告白に一瞬時が止まったかと思うと英里子は目をひん剝いて叫ぶ。
「ど、ドラゴン!? あの伝説のドラゴン!? なんでここに……いやそれならここまで運んだのも納得できるわね……。ルリちゃん奴らから逃げてきたの?」
「いや、なんか気づいたらここにいて……あのヤクザみたいな人たちは初対面です」
「えっ、ファングに捕まって拉致されたわけじゃないの?」
こくりと頷くと、英里子は顎に手を付けブツブツと呟きながらなにかを考え込む。
「あの……ファングってヤクザとは違うんですか」
英里子はしまった、と自分の口を押えた。
ファングのことは一般人からしてみれば知らなくて当然といえるのだが、ルリがドラゴンとなれば話は変わってくる。
いつかファングに目を付けられてもおかしくはない。
英里子は少し考えて、ファングのことを知ってもらう必要があると判断し説明することにした。
「とある目的のためなら金や武力で物を言わせ力くずで奪い、各国の反社会的勢力が相手でも容赦せず弱体化や壊滅させられた組織は数えきれないと言われているわ。情報統制がしっかりしているから表にほとんど出てこないくて誰がトップでどれくらいの構成員がいるのかとかは不明。未だ実態はつかめず裏社会を牛耳っている闇ブローカー組織よ」
「とある目的?」
「それはね……」と英里子が言いかけると竜司が応急処置セットを持ってきたので話は中断された。
止血ガーゼや医療用のテープなどを取り出していくと、英里子はお礼を言いビニール手袋を装着し慣れた手つきで応急手当をしていく。
ちなみにビニール手袋は血液からの感染防止のために応急処置セットに入れてあったのだ。
「あ、そうだ竜司くん、この子も保護して私の屋敷まで運ぶわよ」
「えっ、撃たれているのに病院には行かせないのですか?」
「彼女曰くドラゴンらしいのよ。治療なんて一般の病院で出来ると思うの?」
ドラゴンというキーワードが英里子の口から出て竜司は絶句する。
嘘だろ、あのドラゴン!?
どう見ても人間じゃ、いやよく見れば人間にはない二本の角があるし八重歯というよりは牙みたいなものが口から見える。
驚愕と正論に言葉に詰まる竜司であったが、ルリは恐る恐る言う。
「あの、普通の病院でも大丈夫です。というか正確に言えば私は人間とドラゴンのハーフなんで……」
とんでもない爆弾発言に二人は宇宙猫のように固まりお互い大声でハモる。
「「ハ、ハーフ!?」」
ファングが目を覚まさないうちにこの場から脱出しようと3人はトヨタ製のミニバンに乗り込んで急発進する。
ちなみに例のブツはファングが倒れている内にちゃっかりと確保しており後ろの荷台に載せてある。
英里子は助手席に座ったルリに話しかける。
「とりあえずルリちゃんも色々と聞きたいことは山ほどあるんだろうけどまず私からね。……あんた本当に人間とドラゴンのハーフなの?」
「はい。母親は普通の人間ですが父親はドラゴンですね。父は人里離れた山奥の神社で暮らしています」
(……まずどうやってできたのかしら)
禁断の質問が喉の奥から出かけたが、すんでのところで耐えた。
「で、その角は?」
「ある日の朝起きたら突然生えてきてからずっとこのままですね。で、そのあと学校で授業中にくしゃみしたらいきなり炎が出て教科書を消し炭にして、前の席の男子生徒の髪を燃やしちゃいました」
「えぇ……大丈夫だったのそれ?」
「吐血と鼻血が結構出たので親友が保健室まで運んでくれましたが口の中を火傷した程度で済みました。男子生徒に関しては毛根死滅せず髪を短く切ったそうなので一応……セーフでした」
炎を火力はそれほど高くないのだろう。
英里子は教室が丸焼けにならなくてよかったと思うも、何か腑に落ちない表情を浮かべる
「うーん……お母さんはドラゴンと子作りしたのにそうなるとは知らなかったのかしら? というか生まれた時から何かなかったの?」
ついに英里子は耐えきれず子作りという直球な単語を口に出してしまう。
ルリはマジか目をぱちくりさせ、顔が熱くなるのを感じつつもお母さんがあの日言ってたことを思い出しす。
「お母さんは隠してたつもりはなかったそうです。本人もこうなるとは知らなかったそうで……なにせ生まれてから15年も普通の人の姿でしたし。なのに突然一晩で角が生えて果てには炎を出す……お母さん曰くすっごい動揺したそうです。そのため仕事を急遽休んでお父さんに会いに行き話し合いをしてきました」
「なるほど。15年近くも人間のままならそのままずっと成長するかとルリのお母さんも思うのも無理はないわね……。で、父に会った成果はあったのかしら」
「お父さんが言うには″体はまだ人間だが成長し新たな遺伝を含めいつか適応するはずだ。放っておけば体が勝手に覚えるし安心して待てばいい″、と。お母さんは納得せず『適当なことをほざくな!』とお父さんとちょっと喧嘩したそうですが」
生身の人間がドラゴンと喧嘩したことに驚くが、ルリ曰くお母さんはブチ切れてその辺にあった石をお父さんに向けて投げつけたそうだ。
父は人間の事情を考慮しないから私が徹底的に叩きこむしかない、と。
母って強えぇ、と二人は同じことを思う。
「遺伝ねぇ…ルリちゃんはドラゴンの遺伝をどれくらい引き継いでいるの?」
「今のところ角と火炎放射、放電ですね」
「3つあるのね。結構出る感じ?」
「いや、出るときは出るし出ないときはさっぱり出ないです。放電とかはビリっと感電する程度ですね」
よかった、と英里子はホッとする。
なにせ1人で炎や雷が出せるとなると災害、いやゴ○ラやキ○グギ○ラ並みの天変地異クラスになるのは間違いない。
「なるほどね……でもそんな遺伝あって周りとか大変じゃないの?」
「最初のころは驚かれたりしましたが、すぐに受け入れています。けど私のことが怖かったり苦手な人は少なからずいますね……でもそんなに気にしていないです」
確かに普通の人間とは異なる種族、というかドラゴンのハーフが高校生活をしている時点でそういう考えを持つ生徒がいるのは当然のことだろう。
ただルリのいる住民はおおらかすぎるのか、将又鈍感なのか麻痺しているのか、英里子は頭が痛くなってきた。
ドラゴンが一般社会に浸透している理由はもはやこれしか考えられないのでルリに質問していく。
「ルリちゃんのいた日本ってドラゴンと人間社会が共存しているの?」
「うーん、他にドラゴンがいるのかは分からないです。私のお父さんは山奥の神社にいるから共存というよりはその土地の信仰の対象、って感じかな……?」
ますます分からなくなってきて頭から熱が出そうになる。
結局SFでよくある不思議な並行世界の日本ということで英里子は無理やり納得することにした。
今度は私のターンだと意を決して質問する。
「あの英里子さん。ここって令和4年、2022年の日本……ですよね?」
「令和? 2024年? 今は2007年の日本よ。元号は確か……」
「平成ですよ英里子さん」
すかさず竜司がフォローする。
「そうそう、平成だったわ。アメリカ暮らしが長かったから忘れていたけど……元号が変わったのn」
チラリと助手席に目をやるとルリはこっちを見て絶句していた。
「に、にせんななねぇん!? しかも平成!?」
驚きのあまりW杯の某解説者ばりのカタコトの日本語が出た。
いやいやそんなはずはないと頭をフルフルと振って訴えるも、英里子が携帯を取り出しルリに渡すと、確かに画面には2007年7月15日となっている。
ここで初めてルリは過去に日本にタイムスリップしてしまったのか現実を受け入れようとするが、まだ上手く思考がまとまらない。
「タイムスリップなんてSFの世界だけかと思っていたけど本当にあるのね。けど何かしらトリガーがあるはずよ。タイムスリップする前なにかあった?」
ルリはあのことを話すと、英里子は神妙な顔つきになる。
「∞プチプチ……? 竜司くんどんなのか知っている?」
「ニュースで7月上旬に発売された大ヒット中の玩具だと報道されていました。なんでも包装材のプチプチはストレス発散になるとかでキーチェーン型と玩具として販売しています」
「物知りね。そんな玩具があるの知らなかったし買ってみようかしら。ってそれは置いといて、もしかするとルリちゃんが手に取ったのは未確認の
呪念物ときいて竜司はブワッと冷や汗が出る。
あの事件のことも思い出し呼吸が速くなり動悸が激しくなる。ペットボトルの水を飲むとだいぶ落ち着いてきた。
「
「呪詛の念や前の持ち主の強い念が籠ったものよ。意識を乗っ取って暴走し他者に危害を与える危険なものなの。でも極まれにそうでないものもあるからそれに当たったのかもね。手に取ったことで時空に歪みが発生してタイムスリップした可能性もあるわ。けどそんな呪念物は初めて聞くわね」
英里子は前を走る車をハンドルさばきで上手く躱しながら考え込む。
「ならそのお店に行って∞プチプチをまた触れば元の世界に帰れますかね?」
「うーん、お店と呪念物があればいいけどまずは
世界遺物保護協会というは
ちなみに某財団で好きな話は
火を吐いてしまい高校を休んでいる間に動画を漁っていたらたまたま目に入り視聴したが、見終わった後は枕を涙と鼻水でびしょびしょに濡らしてしまった。
目をパンパンに腫らしてしまってお母さんにギョッとされたが。
「後ろにある箱、もしくはその中身が遺物かもしれないから保護したんですか?」
あれは保護というよりも襲撃して奪ったに近いような、と竜司は心の中でツッコんだ。
そのことを口に出せば英里子は怒るだろう。
「そうよ。とある情報筋からファングが遺物を取引するらしくて行ってみたらビンゴ、ってわけ。遺物というのはそれ自体に特殊な力を宿す曰く付きのものをそう呼ぶのよ。ちなみに私が持っているステッキも遺物なの」
運転席には一見ただのステッキに見え、まるでチャップリンが生前使ったステッキみたいだ。
「そのステッキは見栄っ張りで嘘をつくマジシャンが使っていたの。周囲にはステッキを振れば雪や水を出せるだの、象を呼び出せるだのホラ吹いてたの。で、それを真にうけたマフィアのゴットファザーがマジシャンを呼び出してショーをさせたの。当然そんな奇跡は起こらず、ゴットファザーの怒りに触れたマジシャンは部下に殺され近くの川へ投げ捨てられた。彼は亡くなってもステッキだけは強く握りしめていたそうよ」
そんな重い話が出るとは思わずルリはぽかんと口を開けたまま話を聞く。
「もしかしてそのマジシャンの強い思いがステッキに宿ったから遺物になった……ってこと?」
「正解! 物分かりがいいわねルリちゃん。これを使うと奇跡を起こしているように周囲に見せるのよ。あいつらが撃ってきたとき幻舞として使ったんだけど喰らっちゃったかしら?」
「あー、あの大量の蝶々ですか?」
「そうよ。
てっきり幻覚の能力に目覚めたのかと思ったら違うのかとルリはちょっと落胆していた。
「そして遺物を扱うには選ばれし人間しか使えないの。
なるほど、とルリは某呪いの漫画のように遺物=呪物、遺物使い=呪術師の生得術式、というふうに置き換えて理解していた。
「ちなみに遺物使いもランク付けされていて、0〜10まであるの。0は一般人、1〜3は何かしらの感知能力がある。4以上から遺物使いなんだけどプロと認められるのは7からね。登録されている遺物使いの1000人の中でプロは100人しかいないんだけど私はレベル7、竜司くんはレベル10なのよ!」
おー、とルリはぱちぱちと拍手する。
プロが二人も、しかも最高ランクが彼とはなんとも心強く、あれに言い換えれば準1級呪術師と特級呪術師がいるようなものだろう。
けどバックミラー越しに写る竜司の顔が心なしか暗い。
呪念物の件といい何かあったのだろうかと心配になった。
「まぁ、私も含め過去に色々あったのよ」
あまり深入りしないほうがいいのだろうかとルリは空気感で察した。
ルリはガラケーを懐かしそうに見ながら返すと、英里子はふと気になったことがある。
「そういや令和の携帯電話ってどうなっているの?」
「まだガラケーはありますけど数は少ないです。充電が切れたので今は使えないけど、こうなっています」
ルリは鞄からiPhoneを取り出し英里子に渡すと、裏面に印字してあるリンゴマークを見て二度見する。
「嘘っ、これiPhoneじゃないの!? アメリカじゃ発売されたばかりよ!! 買いたかったけど日本じゃ使えないから断念したのよ」
「これiPhone11なんですよ」
どやぁ、とルリは誇るように自慢していく。
「じゅうぅいちぃ!?」
今度は英里子が某解説者ばりのカタコトの日本語が出てしまう。
硝子のような背面に一眼レフのようなカメラが2つもついていることに技術の進歩に驚いた。
iPhone11を見て本当に未来から来たのかと思ったが、たまたまなのかもしれないと英里子は更に追及する。
「もう一個なにか未来から来たのと証明できる物はあるかしら?」
ルリは鞄の中身をガサゴソと漁ると財布を見つけ、お金ならどうだろうかと令和4年の新500円を英里子に渡すと、まじまじと見つめる。
「確かに令和6年と印字してあるし、面白い組み合わせをしているわね」
英里子は竜司に渡し、彼も新500円を珍しいそうに観察するとルリに返す。
「けど2007年じゃ使えないですよね」
ルリは新500円を見つめながら残念そうに言う。
「使えないのもそうだけど、万が一落としたりして報道陣にリークされたらなぜ計画中の新硬貨が1枚世に漏れたのかと、政府や財務省とかは大騒ぎになるわね。円の価値が大幅に変わるかも、いや世界経済そのものがどうなるか分からないわ。だから肌身離さず持っていなさい」と英里子は警告する。
世界経済をかき乱しかねない特級呪物級の新500円にビビったのかルリはすぐ財布にしまい話題を変える。
「ちなみここってどこなんですか?」
「えーとね、木更津市にある木材港よ」
確か近くにイオンモール木更津があるはずだ。
しかしそれらしき建物は見えず、ただ広い空き地があるだけなのが車内から見えた。
「あの……あそこにイオンモールはないんですか?」
「日本に着いたばかりだしあまりこの辺の地理は詳しくないけど……竜司くんどうだったかしら?」
「すみません。僕もこの辺に来るのは初めてなのでよく……」
湾岸道路16号線を走り新桜井橋の交差点に差し掛かると赤信号になったので車が止められると、近くに【イオンモール木更津出店予定地】と看板が立っていた。
英里子はイオンモールができるのかと楽しみにしていると同時に、彼女は未来から来たんだなとより確信を持つようになった。
赤信号から青信号になり木更津南線へ入って料金所のゲートをくぐると東京湾アクアライン方面へ向かう。
「ルリちゃん、ここからちょーっと飛ばすわよ」
英里子が警告した理由はそろそろ時間的にファングの追っ手がいつ来てもおかしくないからだ。
「ちょっ、怪我人いるんですから安全運転でお願いしま……」
竜司の忠告はどこ吹く風かのように、英里子は舌なめずりしウインカーを出し巧みなハンドル操作で車線を追い越し車線へ変更しグッとアクセルを踏みこむと、エンジンが唸りスピードをグンと上げる。
彼女は高速道路では性格が変わりまるでレーサーのように車をすっ飛ばすタイプだ。
かの有名なドイツのアウトバーンでスポーツモデルのE63型クーぺを300㎞/hで飛ばしたこともあるらしい。
加速によって体がシート押し付けられて傷口を刺激したのか、ルリは痛みで顔をゆがめてしまう。
「いてて……」
「ごめんね大丈夫?」
「まだ痛みますが今のところ……大丈夫です」
大丈夫だと言っているがいつ容態が急変してもおかしくはない。
ルリは普通のところ、欲を言えば菅野病院で大丈夫だと言っていた。
その病院は母の知人がやっており龍に関する見聞が多少あることから、炎を出した時からお世話になっているところらしい。
しかしそんな病院は英里子も竜司も聞いたことがなく、後で調べるそうだがドラゴンなんてトップシークレット中のトップシークレットであり、そもそもドラゴン自体が生きる伝説である。
出血はそれほど酷くないがこのまま放っておいたら、服の繊維や粉砕された骨などの異物が傷口に入っているためそこから感染症を引き起こしてしまうだろう。
七尾家のコネを使えば都内にある名門の病院に行かせることはでき、高度な手術に加えアフターケアができるのがメリットだ。
しかし医者にその角に加え八重歯より鋭い歯に人間とは違う瞳孔をどう説明しようか悩んでいた。
そしてルリが人間ではないことが病院から世間に知れ渡ってしまい、嗅ぎ取ったファングが病院を襲撃する可能性もあり得る。
患者を巻き込むことは避けたい。
なら英里子の屋敷に呼んで往診させる手もあるが、手術が必要になった場合大がかりなものはできない。
となると世界遺物保護協会日本支部なら病院ほどではないが治療はできるかもしれない。
けど窓口が10時からで夜は対応しておらず、更に英里子が掲げた【セブン・ティルズ】という団体の申請が却下されたばかりのこともあってあまりいい印象はない。
それどころか純粋なドラゴンと同じくらい珍しいハーフとなれば検査という名の人体実験を躊躇なくするだろう。
ただ、安全は間違いなく保障される点においては強みだ。
「いっそ角を包帯で隠すとか?」
「あ、私の角ってナイフみたいなので包帯切れちゃうかも……」
「まじか……帽子も?」
「貫通しちゃいますね……特注で穴を開けてもらった帽子なら家にあったんですが」
何とも言えない沈黙が車内に流れる。
とりあえず屋敷についたらまた考えようと英里子は切り替える。
ふとバックミラーに目をやると、走行車線から急に車線変更したクラウンに違和感を覚える。
あの動きは覆面パトカーだろう。
ならば振り切ってやろうと更にアクセルを踏み込みスピードを上げると、車内はちょっとした悲鳴に包まれた。
ちなみにルリが見たSCPというのはこれです。
タイトル: SCP-1762 - ドラゴンの逝く場所
原語版タイトル: SCP-1762 - Where The Dragons Went
訳者: gnmaee
原語版作者: OZ Ouroboros
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-1762
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-1762
作成年: 2016
原語版作成年: 2014
ライセンス: CC BY-SA 3.0
(もしSCPライセンスで間違いや足りないところがあれば教えて下さい)