ルリドラゴン4巻&110万部おめでとうございます
都内の高級住宅街である港区の
パトカーの追跡を振り切ったからか竜司とルリはぐったりとしていた。
「お待たせ。私の屋敷に着いたわよ」
ルリは車内から見た屋敷の全貌に目を疑う。
白を基調とした二階建ての洋風の屋敷で、広い庭を囲む壁が囲んでおり立派な門がドン、と構えている。
リモコン操作で門が開けられ庭に作られた車道を走りガレージに入庫し車を停めると英里子と竜司は車から降りてファングから奪還した箱を屋敷へと慎重に運んでいく。
ルリはあとを付いていくが地下一階の道中もまさに規格外であった。
奥行きのある長い廊下の床には真っ赤なカーペットが引かれており、壁には誰が描いたか分からないが高級な絵やドアが幾つもあるので開いた口がふさがらない。
(お金持ちすぎでしょ……)
「ルリ? 置いていくわよ~」
英里子の声でハッとし、早歩きで二人の後を追うとエレベーターに乗るのを見かけたので一緒に入り、地下一階から二階へ上がっていく。
エレベーターの中も十人以上は入るくらい広い。
到着チャイムがチン、と鳴るとルリはボタンを押してエレベーターのドアが閉まらないようにし、二人が箱を持ったままエレベーターから出たのを確認するとルリも出る。
いくつかあるうちの一つの部屋に入るとそこは英里子の自室で、白を基調としており30畳もありそうな1LDKの開放感のある部屋だ。
日本製の薄型テレビもお金持ちらしく大きく、65インチはあるだろうか。
家具も海外製の物でオシャレなテーブルや椅子、フカフカなソファーが置かれ目に入るほぼ全てが高級品ばかりのようでマンション暮らしのルリは目を輝かせていた。
床に優しく置かれた箱は金属製の銀色をしており長さは140cm前後だが重かったため、部屋まで運んだ二人の額には汗が浮かんでいた。
「あー疲れた! 竜司くん、冷蔵庫から飲み物をとって~」
「自分で取りに行けばいいのに……」
竜司の正論は英里子がギロッと睨んだせいで、しぶしぶとキッチンの冷蔵庫を開ける。
外国製のミネラルウォーターがずらりと詰め込んであり、確か健康のためにミネラルウォーターにもハマっているらしい。
ミネラルウォーターを三本取り出しキャップを開け各々に渡すと、英里子はミネラルウォーターをがぶ飲みで喉を潤していく。
「ぷはーっ! 一大仕事が終わったあとの水は生き返るわね。さて、遺物を開けたいのはやまやまだけど、まずルリちゃんの容態をチェックしないとね」
大の遺物マニアである英里子が
しかし彼の考えがお見通しだったのか英里子はむすっと頬を膨らませる。
「そりゃ今すぐにでも
英里子はルリのブレザーとブラウスを脱がせクリーニング用の籠へ入れる。
血液からの感染防止のためビニール手袋を装着し、新しいガーゼと医療用テープに交換していく。
使用済みのは二重にしたビニール袋に入れてゴミ箱へ捨てた。
「これでよし。着替えもあるからちょっとこっちへ来てくれる?」
英里子はキャミソール姿になっているルリをリビングルームに隣接しているクローゼットに連れていく。
扉を開けるとそこにはオーダーメイドのドレスや服がこれでもかと並べてある。
見たこともない光景にルリは目を丸くする。
ルリの普段の部屋着はLサイズのダボダボとしたシャツに半ズボンのラフな格好をよくしているが、クローゼットを見る限りそういうのはなさそうだ。
狼狽しているルリを横目に英里子はどの服がいいかあれこれと選んでいる。
本場英国から取り寄せたメイド服やドレス、女性用執事服など着せ替え人形のようにされてしまっている。
どの服装も似合っているようで、英里子は満足そうにうなずきながらデジタルカメラで撮っていく。
「と、撮らないでぇ……」
ルリは顔を隠し赤面しつつもまんざらでもない表情を浮かべる。
「あーっ、いいわね! ほれ、もっとその顔ちょうだい!」
ちょっとした撮影会となり竜司は止めたかったが、止めたら英里子に何言われるか分からないので心の中で謝るしかなかった。
数十分後、着せ替えに満足した英里子はルリに普通の服装ー半袖の黒オーバーサイズシャツとズボンーに着替えさせる。
この服も高級ブランド系で上下合わせて数万円は軽くするらしく、ルリは少し卒倒しかける。
「さてと、ルリちゃんのかかりつけ医は菅野病院でいいんだっけ?」
ルリは頷いて証拠として財布から診察券を出して英里子に渡す。
「確かにちゃんと菅野病院と書いてあるわね。ちょっと調べてみるか」
英里子は竜司とルリを連れて隣にある事務室に入る。
そこは事務室というよりは大学教授の研究室みたいな感じで、本棚に入りきれない本が乱雑に机の上に置かれていた。
英里子はデスクトップパソコンを起動し“菅野病院”を検索していくが、似たような病院はあるけれど完全には一致はしない。
今度は地図サイトでその病院の住所を入れ検索すると、普通の一軒家だった。
「住所だとこの辺りだけど……」
「うーん、外観も違いますね……」
菅野病院及び医者は残念ながら存在しないことが分かり、ルリはがくりと肩を落とす。
となると普通の病院か、
どうしようかと英里子が頭を悩ませていると放置している箱が突然ガタン、と大きく音を立てて動く。
三人はお互い顔を見合わせる。
まさか箱の中身は生物なのか。
「……ふーっ、よし、開けてみますか」
「ちょっ英里子さん、危険な生物だったらどうするんですか?!」
「ステッキでなんとかするわ! ルリちゃん、部屋から出ないでね」
ルリは頷き椅子の後ろに隠れると、英里子は片手にステッキを持ったまま箱に近づいてファングからこっそりと奪った鍵をポケットから取り出し、鍵穴に差し込む。
カチャリ、と捻ると鍵が解除された瞬間箱は大きな音を立てて勢いよく開けられる。
「……は?」
「……えっ??」
「……少女!?」
箱から出てきたのは長さが腰まであるさらりとした金髪の幼い少女だった。
長い間暗闇にいたのか透き通るような青い瞳は眩しそうに細めており、服は白いノースリーブの下着だけなのか、彼女の体は寒そうに少し震えている。
左手は怪我をしているようで包帯がぐるぐると巻かれており、首には美しい宝石で装飾された金色の首輪がガッチリと付けられている。
予想外の光景に呆然としていた三人だったが最初に我に帰ったのは英里子だ。
「そんな! あなた大丈夫?」
心配そうに少女に駆け寄り箱から抱っこで出そうとすると少女は突然右手をがぶり、と噛みつく。
犬のように躊躇なく噛みついたことに脳の理解が追い付かなかったが、右手の痛みでやっと現実に戻される。
「痛ったい! ちょっ、竜司くん! なんとかして!」
二人はその光景をポカンと見つめていた。
竜司は何度かしつこく誘うナンパ系をあしらうのを見たことがある。
彼女は幼い頃から古くから伝わる七尾家護身術ー柔術や合気道をベースとした護身術ーを叩き込まれた。
腕前は免許皆伝のようで、体格と筋力に勝るはずの男性もかなわず地に這いつくばせるほどだ。
最近はファングが銃火器を持っていることが多くなり彼女はCQBや軍人格闘技のクラヴマガやシステマ、シラットなどを取り入れ新しい七尾家護身術としてブラッシュアップしている。
そんな彼女も華奢な少女に手をあげるのはさすがに躊躇しているようで、右手を少女にガシガシと噛まれたままだ。
「ちょっ……痛がっているし一旦噛むのを止めて離れよう?」
竜司が少女に優しく問いかけると、綺麗で吸い込まれそうな蒼い瞳で見つめられ思わずドキッとする。
すると嚙みつきを止め勢いよくソファーに座っている竜司の胸元に向けて飛び込んでいった。
あまりにも勢いよく飛び込んだのでもんどりを打ちそうになったがなんとか堪えるが、暖かい体温と甘い香水のようないい香りがふわっと鼻に入ってくるので更に心拍数が上がってくる。
あれはたまたまかもしれないと英里子は言い聞かせて、嚙まれていない左手でこっそりと少女の頭を撫でようとする。
が、気配に気づいた少女は同じように左手もがぶりと噛んだことで英里子は小さい悲鳴を上げる。
「こ、こらっ! また噛むのをやめなさい」
竜司に言われた少女はすぐに噛むのを止めたかわりに、まるでやんのか猫のようにフシャーッと英里子に威嚇していた。
同性も振り向かせるほどのスタイルをもつ彼女にとって初対面で敵意をもって嫌われたのは初体験であり、少しショックを受けていた。
「なんでこんなに懐かれているのよ……もしや名前に竜がついているから?」
英里子は涙目で納得がいかない様子だ。両手にはくっきりと嚙まれた後が残っている。
「そんなバカな。この子とは初対面ですよ」
「納得いかないわね……とりあえずコミュニケーションがとれるか試してみますか。こんばんは。私は英里子よ。あなたのお名前は?」
英里子はソファーの前に跪いて少女と同じ目線になるよう話しかけるが伝わった様子はなく、英語やフランス語、スペイン語、中国語、アラビア語の世界五大言語だけでなくドイツ語、ロシア語、アフリカ系の言語まで駆使して話しかけるが終始無反応を貫き、飽きたのかプイっとそっぽを向く。
「だめかーっ」
疲れ切った表情で英里子が床に寝転がる。
相変わらず少女はジーっと竜司の顔を凝視している。
顔になにかついているのか不安になる竜司だが、それよりもあんなきれいな瞳で凝視し続けられるのは心臓がもたないので床に転がったままの英里子に話しかける。
「それよりどこの子なんでしょうか」
「それよ。さっきからずーっと引っかかってるのよ。ファングらの闇ブローカーは人身売買はせずもっぱら遺物を狙う。まぁ
英里子は立ち上がって工具箱を手に取り、そこから針金を出して折り曲げたことでピッキング用途の針金が出来上がった。
「竜司君、首輪に鍵穴があるか探してくれる?」
「ごめんね。ちょっといいかな?」
少しくすぐったいようで甘い吐息が少女の口から漏れるが竜司は心のなかで素数を数えながら探していくと、首輪の後方に鍵穴を見つける。
英里子が鍵穴にピッキングを試みるが手ごたえはなかった。
「うっそぉ、その手のプロに習ったから大抵のモノは開けられるんだけどな……特殊な封印でもされてるみたいね」
ピッキングをあきらめて再度事務室に向かい、パソコンで世界遺物保護協会のデータベースにアクセスし首輪類を検索していくがヒットせず。
「ある論文によると
「なるほど……未確認のものとなると
「うーん、この首輪のことまだ何もわかっていないしもう少し自分で調べたいわ」
「けど意図的に隠したり報告を怠ったりしたら目の敵に……」
「も、もちろんそんなことをするわけないわ」
ぴゅーーぴゅーと口笛を吹く英里子だが明らかに目が泳いでいる。
「あの、警察に届け出はしないんですか?」
ここまで静観していたルリが話しかける。
「それも考えたんだけど明らかに外国人風だし、そもそもコミュニケーションがとれない以上届け出は難しいかも」
ルリが改めてジッと少女を見つめると、周囲の時間がゆっくりとなるように感じられた。
ドラゴン同士のシンパシーを互いに感じ取ったのか、少女も竜司に引っ付いたままルリをじっと見つめあう。
「えっと、突然どうしたのかしら……?」
すると突然少女の口から聞いたこともない言語が聞こえ竜司はギョッとする。
様々な外国語を習得している英里子ですら何語を喋っているのか分からず、ちんぷんかんぷんのようだ。
ちらっとルリのほうに目を向けると様子がおかしく、ドラゴンらしい瞳孔と打って変わって
「えっ、ルリちゃん目が……大丈夫なの?」
英里子は慌ててルリに駆け寄るが、彼女の口からも少女と同じような意味不明の言語が聞こえてくる。
そして夢遊病のようにふらふらと立ち上がり、竜司に巻きついている少女のもとまで近づいてしゃがみ、同じ目線になって互いに会話していく。
その光景を英里子と竜司はただただ見守るしかなかった。
五分ほどが経過しただろうか。
瞳孔の
やばいと思うのも束の間、ガンガンとハンマーに叩かれたかのような頭痛と、左腕も痺れておまけに吐き気もしてくる。
鼻血もぽたぽた垂れてきて視界が暗くなりかけ世界が自分を中心にぐわんぐわんと回っているような目まいも出てふらふらと倒れこむところだったが、すんでのところで英里子が倒れないよう支えた。
「不味いわね……いったんソファーに横になりなさい」
英子はルリをお姫様抱っこしソファーに寝かせると、寝室から毛布を取ってきてと竜司に命令する。
これ以上体温が下がらないようにするために必要だからだ。
なぜか少女もカルガモのひな鳥のようにトコトコと竜司の後をついていってる。
ルリの顔色をみると少し白くなっており汗も引いていない。
(迷走神経反射かしら。救急車を呼びたいけどこの角隠さないとね。ドラゴンの少女と竜司くんをどうしようか。まぁ……あんだけべったりくっついているし問題ないか)
毛布を持ってきた竜司は英子に渡すとすぐにルリにかける。
試しに包帯を頭に巻いて角を隠そうとしたが、ルリの言う通り切れ味がいいのか包帯がスッパリと切れてしまう。
「竜司くん、彼女の容態が悪化しつつあるから救急車を呼ぶわ。私は保護者としてついていくからお留守番よろしくね」
竜司は嘘だろうと訴えかけるように眼を開いて英里子を見つめる。
あどけない少女と二人っきりで留守番なんて心臓が持たない。
「気持ちは分かるけど救急車の中は狭いし。それに少女とイチャついている光景を救急隊員には見せられないわ」
少女はずっと竜司に抱きついたままであり、無理やり剥がせば泣きわめいそうな雰囲気なので観念するしかなかった。
「分かりました……でも一般の病院で大丈夫ですか?」
「それは仕方ないわ。ステッキでルリが普通の人間に見える幻覚をかけてごまかすしかないわね」
「それで……一体何が起こったの?」
英里子は119番通報し救急隊員が来るまでの間、ルリの意識を確かめるため話しかける。
「えっとですね……少女の話し言葉が耳に入ってきた途端脳がなんかスパークを起こしたみたいに覚醒して言っていることが理解できて……所々通じないところはあったのですがあれは紛れもなくドラゴンの言語でした」
ルリは目まいのため目を閉じたままであるが受け答えができて安心したがドラゴンというキーワードが出た途端、英里子の纏う空気ピリッとが変わる。
「ドラゴン……」
「はい、少女はレッド・ドラゴンだと……そうおっしゃっていました」
ハーフだけでなく今度はレッド・ドラゴンの少女まで現れたことに竜司はどうにかしそうだった。
一体今日はなんだっていうんだと言いたげな表情を英里子に向けるが彼女からはとんでもない佇まいを感じた。
そりゃ伝説のレッド・ドラゴンとハーフが目の前にいるのだから。
しかし実際には彼女はあまりの情報の多さに処理しきれず、ソファーに座ったまま失神していたのだった。
数秒間の失神から目を覚ますと英里子は何かを思い出したようにレッドドラゴンの包帯をそっと取ろうとするも、その少女は英里子の手を払いのけて猫のようにフシャーと威嚇する。
「やっぱ嫌われているわ……竜司くん、命令よ。その子の包帯を取ってくれる?」
「は、はい。ごめんねちょっといいかな」
先ほどまで威嚇していた少女はスンとおとなしくなったので、竜司は優しく包帯を取っていく。
少女の手は華奢で柔らかく、スベスベしている。
意識すると体温がカッと上がって行きそうなので息を止めシュルシュルと包帯を全てとると、手の甲にはまるで真紅の石が埋め込まれていた。
「綺麗……だね」
首輪に装飾されていたサファイアやダイヤ、ルビー等とは比べ物にならない美しい輝きに目を奪われた竜司は思わず呟く。
「やはりそうね。それは竜紋と呼ばれるもので、この色だと間違いなくレッド・ドラゴンの証ね」
英里子はいつの間にかプリントアウトしたものを持ってきて竜司に渡す。
「ちょっ、この情報って会員しか見れない特別サイトですよね!?」
「まぁ、それはちょっと合法な手を使ってね」
「いやいや、不正アクセスがバレたら大変ですよ!」
「いいでしょ、緊急時なんだし」
悪そびれる様子もなく英里子は話題を変える。
「それにしても龍紋がバラの模様みたいに見えるわね。よし、この子の名前はローズにしましょ」
確かにいちいちレッド・ドラゴンの少女と呼ぶわけにはいかないので名前をつけるのは大事なのだが、なんだか有耶無耶にされた感じで釈然としない。
23時に救急車が屋敷に到着すると、英里子はステッキを使って幻覚をかけていく。
ただ
救急隊員達は何事もないように患者のルリに酸素マスクをつけて阿吽の呼吸でストレッチャーに載せていく。
「じゃ竜司くん、ローズとお留守番頑張って~」
英里子は手をひらひらさせ保護者として救急車に乗り込むと、救急隊員も乗り込んでサイレンを鳴らし屋敷を後にした。
ルリは生まれて初めて救急車で搬送されている間、なぜドラゴン語をいきなり理解できたのか不思議に思えた。
これで得た能力は角と火炎放射、放電、ドラゴン語となりゲームの世界だったらスキル獲得の音楽が鳴りそうな展開だ。
いったいこれからどうなるのかと不安が増す中、救急車は日本外傷学会外傷専門医がいる東京都済生会西部病院に救急搬送された。
幸いこの病院は麻布の近くにあったことから十分もしないうちに病院に到着し、すぐさま
英里子は手術室前のソファーで暫く座っていたがドラゴンが2人、いや片方はハーフだけど見つかったこともあって落ち着かない様子で立ち上がってウロウロしたりした。
(とりあえずこの状況、
少し時を戻し、サイレンの喧騒が遠ざかった屋敷は竜司とレッド・ドラゴンの少女、いや今はローズと二人っきりとなる。
ローズは救急搬送されるルリを少し心配そうに見つめていたが、それはそうと嬉しそうに近づきギュッとする。
彼の顔は一気に茹で蛸のように真っ赤になる。
いい匂いもしてくるから余計にドキドキしてくる。
このままでは耐えきれないと判断した彼は気を紛らわすためキッキンへ向かう。
やはりというかローズも僕の後をカルガモ親子のようについてくる。
まぁこの広い屋敷でウロウロして迷子になるよりはマシなのであえて何も言わなかった。
ちょうどお腹も空いてきたことだし夜食を作ろうと、大きめの冷蔵庫を開けて中身を確認すると食材はたくさんある。
どうやら家政婦さんが買ってきたのだろう。
勿論英里子さんの分も作っておく。
頭の中でメニューを考えつつ食材を冷蔵庫から出していると、カチカチという操作音が後ろから聞こえてくる。
何だろうかと竜司は振り向くとローズがガスコンロのスイッチを今まさに着けたところでバーナーに火が上がり金髪の髪に引火しかける。
「危ない!」
慌てて駆け寄りガスコンロのスイッチを操作し火を消す。
幸いどこにも燃え移らず安堵した。
コンロをチェックするとチャイルドロックがかかっていないため、簡単にスイッチを入れることができたようだ。
「えっと、これ火が付く機械だから危険なんだ」
説明をしてもローズはこてんと首を傾げるだけで、何が危険なのかよく分かっていない様子だ。
このままでは危なっかしくて料理に集中できない。
どうしようかと悩んでいると、冷凍庫にアイスがあったことを思い出す。
冷凍庫のドアを開けると英里子がハマっているアメリカ製の高級アイスクリームが数十個もあるのをみつけた。
ローズに食べさせてあげれば暫くは待ってくれるかもしれないが、英里子の許可なしにアイスクリームを手に付けることはできない。
なぜなら許可なしに食べたら最後、何されるか分かったものではない。
携帯電話を操作しメールで≪夜ご飯を作りますがなにか食べたいものはありますか? それとローズにアイスを食べさせてもいいでしょうか≫と英里子に送ると、数分も経たないうちに返事がくる。
≪冷蔵庫にあるものだったらなんでもいいわよ。アイスを食べさせてもいいけど食べた分は給与から天引きしておくわ≫と嘘か本当か分からないことが書いてある。
英里子が勝手に設立したセブン・ティルズに入団した覚えはないのに、いつのまにか隊員扱いとなっている。
後半のメール内容はさておき許可もでたのでローズにアイスとスプーンを渡してみるが、食べ方が分からないようだ。
初めてな物をみる眼差しでアイスをツンツンしてみるが、冷たかったことに驚いたのか軽くぴゃっ、と声を漏らす。
もしかしてアイスを見るのも初めてなのだろうかと思い、竜司はふたを開けスプーンでアイスをすくい、子供にご飯をあげるようにローズの口へと運ぶ。
ローズはしばらくの間アイスをジッと見つめたり匂いを嗅いだりと警戒していたが、危険な食べ物ではないと判断したのか恐る恐るアイスを口に入れる。
「くぁwせdrftgyふじこlp!」
冷たさと甘さが両立した食べ物がよほど美味しかったのかもっと頂戴とねだる。
苦笑しつつも雛に餌を運ぶ親鳥のようにせっせと食べさせてあげるが、これから料理を作らなければならない。
「えっと、これからご飯を作らないといけないから一人で食べてほしいんだ。こうやって食べるんだよ」
ジェスチャーで食べ方を伝えると、ローズはジーッと観察しそれを真似するようにスプーンでアイスを掬い口へ運ぶ。
スプーンの持ち方はまだまだ未完成であるが、アイスを美味しそうに食べるローズの様子は心がぽかぽかしてくる。
アイスに夢中になっているうちに冷蔵庫から食材を取り出し広々としたキッチンに並べる。
メニューはピラフとポテトサラダ、コンソメスープと洋食でそろえることにした。