緋弾のアリア -Knowledge is power- 作:ピュアドライバー
あの銀行事件のあと九重とその仲間たちはやっとの思いで、念願のサイゼに行き着いた。
「えーと、俺はミラ〇風ドリアとドリンクバーで」
「あ、俺も」
「俺も」
「俺も」・・・・・・
そもそもなぜこんなにもサイゼに執着するのか?その答えがまさしくそこにはあった。そう、ミラ〇風ドリアである。恐らくサイゼに来る中高生の大多数が注文するそれにはそれ以外には無い『魅力』があった。
「えーと、みなさんミラ〇風ドリアでよろしいですね?ご一緒にパスタなどはいかがで…」
「甘い」
「…?はい?」
「甘すぎるぜあんた。それでも天下のサイゼの店員か?社長が聞いたら泣くぜ、多分。」
「はぁ、失礼かとは存じますがなぜでしょう?」
「まだわかんないのか?しょうがない教えてやろう。いいか、サイゼのモットーはなんだ?」
「イタリア産の…」
「違ぁぁぁぁぁう!もう全っ然ダメ。安さだよ安さ。俺たち中高生はさ、そこに惹かれるんだよ。まぁ、確かに、おいしいよ。ええ、おいしいとも。だけどさ、ロイヤル〇ストにおいしさという点で勝てる?これはおれの偏見もほんの少ーしはいってるかも分からんが勝てんよ。奴らには。なんたってロイヤルですから。けどサイゼには奴らにはない武器がある。…安さだ。コスパだよ。その代表選手とも言えるのが、我らがミラ〇さんだ。」
「…なるほど興味深い説明じゃな。」
「…社長!?どうしてここに!?」
突如目の前に現れた白髭の『社長』と呼ばれている男性。
…?え、今社長って聞こえなかった?気の…せいですよね?ははっ、そうだよな。マジ、ビビらせんなってホント。ホントに社長だったら営業妨害とかで訴えられちゃうよん。
「いや、今日は私情で来ていてね。先程までテニスの森で大会があったじゃろ?それを見て駅前の事件に巻き込まれて今に至るわけじゃ。それにしても九重君といったかな?実に見事な試合じゃった!それにそのあとの事件でも。テニスと並行して武偵でも目指しておるのかな?」
「おじいちゃんダメだゾ。あの偉大なるサイゼの社長の名前を借りるなんて。それから武偵は目指してないですよ。」
「…?なにを言っとるんじゃ君は。ほれ名刺。」
…ん、なになに。『株式会社サイゼ〇ヤコーポレーション 社長』おいおいこの店クーラーかけてんのか?汗がだらだら出てくるぜ…。
「ホントすんませんっした!!マジ、サイゼ愛してるんで週5、は少し盛ったか。週3通いなんで。青春サイゼに捧げてるんで!ホント許してください!!」
「ホッホッホ、愉快な少年じゃのぉ。別に気にしとらんよ。我が社への愛は君の目を見れば分かる。そんなことよりも武偵は目指しとらんのか。もったいないのぉ。」
「ありがとうございます!!武偵ですか。さっきも似たようなことをある人に言われたんですがそんなにも俺って向いてるんですか?」
「わしも、こんな年じゃ。君の5倍は生きとるよ。そんな老いぼれでも今までの人生はなかなか波乱じゃった。そんな中で育まれたこの人を見る目は誰にも引けを取らんと自負していてのぉ。その目が君を見た瞬間、ビビビッときてのぉ。わしゃ確信したよ。君は凄腕の武偵になると。」
「そうなんですか…」
「わしは将来有望な少年に投資するのが好きでの。もし君が武偵を目指すというなら資金援助をさせて欲しい。何せ武偵は金がかかるでの。まあ、無理にとは言わん。武偵に興味がないのならいままでの言葉はジジイの戯言だと思いなさい。ただ、少しでも興味があるのなら目指すことをお勧めする。その時は、その名刺の番号に電話をしてきなさい。力になろう。ではな。ホッホッホッホ…」
そう言い残して、白髭の社長は去っていった。
最後の方あのおじいちゃんやけに真剣だったな。これは俺も真剣に考えないと申し訳ないな。一人のサイゼ〇ヤーとしてな。
その後、ミラ〇風ドリアをいつも以上に味わって食べ、九重たちは各々帰路についた。
<side・木村>
帰り道、空はすっかり暗くなり、最寄り駅から家までの道のりをゆっくりと歩く一人の少年がいた。
「今日はいろんなことがあったなぁ。なんか優勝したのが遠い昔のようだなー。それにしても今日は、九重めっちゃ活躍してたなぁ。いや『今日は』じゃなくて『今日も』か。あいつとは小学校からの付き合いだけど、昔から頭が良くて、テニスが強くて、いろんなことに巻き込まれて解決して…。あと個人的に一番すげえって思うのはやっぱりここぞって時の別人になったかのような集中力かなぁ…。」
「へえー、集中力が一番特徴的なのね。他には無いのかしら?」
「うーん、他にかぁ。やっぱあれだな、大のサイゼ愛好家かな…?…ってうわっ!ビックリした。一体どちら様ですか?」
「ビックリさせてごめんなさい。あなたの独り言につい聞き入ってしまったわ。私はカナよ。」
突如現れた女性は腰あたりまで伸ばした後ろ髪を三つ編みにした絵から出てきたかのような、まさしく『絶世の美女』だった。
うわぁ、スッゲーきれいな人だなぁ。こんな人と会話出来るなんてめっちゃついてる!!
「あ、あの俺木村って言います。ていうか俺独り言、声に出てました?」
「ええ、おかげで面白いこと聞けちゃった。」
「あぁ、また悪い癖がぁ…。そうだ、面白いことって何です?」
「九重裕介君についてのことよ。」
「…?九重に何か用があるんですか?」
「ええ、少しね。あなた武偵について知ってる?」
「そりゃまあ、一般人が知っている程度には…。」
「じゃあ、その武偵に九重君がなりたいって言ったらあなたはどうする?」
「九重が武偵にですか?それは俺も口には出さないけれど常日頃思っていることですよ。あいつ、絶対ああいう仕事に向いていると思うんです。もし自主的になりたいっていうんなら、俺は全力で応援しますよ!あいつにはいつも元気貰ってるし、それに友達ですから。」
「九重君は良い友に恵まれているわね。これはますますこちらに引きこみたくなってきたわ。」
「…?引きこむ?一体何のことですか?」
「いいえ、こちらの話よ。では、情報提供感謝します。じゃあねー。」
「あ、さような…。行っちゃった…。それにしても引きこむって何だ?…っは!まさか九重とさっきの女性に何かその、人前では口に出来ないような関係があるのでは…!おのれぇ九重のやつ…、うらやまけしから…、おっとまた悪い癖で独り言が。まあいい、また今度九重に問い詰めよう。」
<side・木村 終>
「ただいまー。」
「あらお帰り裕介。今日の試合どうだったの?」
「試合…?あぁそうかそれ今日だったのか。勝ったよ。」
「あら、やったじゃない!おめでとう。それにしても今日だったのかってどういうこと?」
「いや、試合のあといろんなことがあり過ぎて…。」
「いろんなことって?」
「銀行強盗捕まえて、スカウトされて、名刺もらった。」
「あんたそれどういうことなの、銀行強盗にスカウトされて名刺を貰う?…っ、あんたもしかして悪の一味になったってことなの!?信じられない!あんたにはまだ話してなかったけれど、この九重家にはいろいろあって悪とかとは一番遠いところにいなくちゃダメなのに!あぁ、もうどうして?」
「母さん!落ち着いて違うって銀行強盗捕まえて、武偵にならないかってスカウトされたんだよ。名刺はサイゼの社長の人が武偵になるんなら資金援助させてくれって。」
「あら、そうだったの?良かったー。って武偵?もしかして武装探偵のこと?」
「何だ母さん知ってるの?」
「そりゃそうよ。なんたって九重家は…。」
「ちょっといつまで話してるのー、兄ちゃん、母さん?ご飯冷めちゃうよ。」
「はぁい、今行くわ。ほら裕介も早く着替えていらっしゃい。」
「ちょっと母さん、九重家がなんなの…?行っちゃった。まあいいか着替えてこよ。」
そうしていつも通り夕飯を取り、勉強をし、風呂に入り、ベッドに潜った。
はぁ、今日は疲れたな。それにしても九重家に何か俺の知らない秘密があるのか?まぁ考えてもしょうがないか。寝よ。
そうして長い一日が幕をとじた。
翌日。
<side・?>
(確かこのあたりのはずなんだけど…。あったわ。なかなか立派なお家ね。まあそれもそうか。何せ
ピンポーン
「はい、どちら様で?」
「私、裕介君に用があって参りました。〇〇と言います。」
「…!お待ちしておりました。どうぞ中へ。」
「はい。」
そうして来訪者が九重家の中に入っていった。
<side・? 終>
【ドキドキ、ワクワク、始めよー!キュンキュン・・・・】
「…zzz。…っうわぁ!!なんでアニソンが!?」
ふぅ、ビックリしたー。そうか、昨日の銀行事件の時からアラームの音を変えてなかったのか。こんな恥ずかしい音を誰かに聞かれて、変な誤解されたくないなぁ。
いや、まあアニメは結構好きだけどさ。そのことをあんまり知られたくはないわけですよ。
一部の人々を除いてアニメ好きの人は自分のその趣向をあまり公表したがらない。なぜなら、世の中には偏見を持った人々が多く、アニメ好きの人は三次元に興味がなさそう、とかアニメはあまり良い影響を与えない等の考えが広まっているからである。
しかし、実際には一部の人を除いて決してそんなことはなく、彼女を作るなら
聞かれてない…はずだよな。ワンフレーズで止めたし。
まぁ、大丈夫だろう。今の時間は…っと8時か。今は夏休み真っ最中だし、二度寝という奥義を発動してもいいんだが…。
そろそろ起きるか。早起きは三文の得って言うし。
そうして起き上がり、自室の扉を開けた。
…ん?この声は母さんと…誰だ?透きとおったきれいな声だなぁ。さっさと着替えて下降りてみよーっと。
「・・・ええ、そうですか。いえ、おおまかなことは聞いてはいたんですが、まさかそんなことを…。あら裕介、起きたのね。あんたにお客様よ。」
「おはよう裕介君。カナといいます。朝早くからごめんなさい。お邪魔させてもらっているわ。」
「おはようございます、カナさん。お構いなく。それにしても俺のお客さんってどういうことなんですか?」
「昨日の銀行事件の後、武偵にスカウトされたでしょ?まあ簡単に言えばその話の続きね。」
「武偵ですか。俺もあれからいろいろ考えてはみたんですが、そもそも親があまり乗り気じゃないかなーって。」
「そのことなんだけどね、裕介。あんたがやってみたいんなら、母さんと父さんはそれを応援するわ。」
「…!?えっ、てっきりダメって言われると思ってたのに!どうして?」
「それはね、九重家のことと関係があるのだけれど…。まあいいわ。少しだけ教えましょう。カナさんも少し聞いていてください。」
それから母の九重家についての話が始まった。
「九重家はね、今ではこんな漢字で書くのだけれど、元々は近衛家だったの。近衛家は平安時代には摂関家としての役割のある家で、その摂関家の中でもかなりの権力を掌握していたそうよ。そして鎌倉時代には五摂家の一つでもあって、いわゆる公家だったそうよ。その仕事は政治はもちろんのこと、裏方の仕事も引き受けていたらしいわ。そんな役割があったから近衛家は独自の武術の流派である近衛流を生み出したの。その近衛流の最大の特徴は徹底的に精神を鍛え上げて、集中力が増したときに別人のような人格を呼び起こして、瞬時に戦闘力や思考力を飛躍的に跳ね上げることにあるの。その技能は数百年がたち、本家から数十の分家に分かれた今でも遺伝子に色濃く受け継がれていると聞くわ。裕介、あんた昨日の事件で人が変わったかのようだったらしいわね。恐らくあんたにもその技能が本能に刻みこまれているんだわ。」
「…そんなこと初めて聞いたよ。九重家にそんな秘密があったなんて。」
「私も初耳です。まさか、近衛家だったとは。でも、何故漢字を変える必要があったんです?」
「さっき、裏方の仕事をしていたって言ったでしょ?要するにそれは殺しの仕事ということだから、きっと恨みなんかも買っていたんでしょう。そしてその恨みは現代にもどこかで生き続けているかもしれない。だから、名前をカムフラージュするために漢字を変えたと聞いているわ。」
その後も裕介とカナによる質問がいくらか続いた。
「・・・なるほど九重家についてよく分かりました。それと同時に裕介君、やはりあなたは武偵になった方が良い。そう思ったわ。あなた以上に武偵に向いている人間はなかなかいないわ。」
「…、そう…ですよね。今の話を聞いてる限りじゃどう考えてもそうですね。ただ・・・」
「分かっているわ。いきなりで混乱もするでしょう。結論は早いに越したことは無いけれど、最終的な決断は受動的ではなく能動的でないと意味がないわ。だからよく考えて、結論が出たら連絡して。それから、この資料も置いていくわ。」
「これは…、『東京武偵高校 入学案内』?」
「そう、武偵を育成する高等教育機関よ。武偵を目指すのならそこに入ることになるわね。入学試験は二月だから、まだ時間はあるわ。ただ、試験には実技を伴う年度もあるから、いくら才能に満ち溢れているからといって準備なしでは難しいわ。決断はなるだけ早くして、多少の特訓をお勧めするわ。流石、元近衛家だけあって設備は最高のようですし。」
「そんなことも気づいていたのね。カナさんあなた、ただの武偵じゃないようね。」
「…?なんのこと?母さん?家のどこにそんな施設があるのさ?」
「いままで秘密にしていたけれど、武偵を目指すのなら話は別ね。実はこの家には地下があって、そこには近衛の時代から受け継がれている…まぁ、道場のようなものがあるの。」
「なんかいきなりいろんな秘密が明かされて、正直処理しきれないよ…。」
「ふふっ。まあ裕介君、そんな訳だから気持ちの整理がついて覚悟がきまったら連絡よろしくね。それでは、今日はこの辺りで失礼させて頂きます。お邪魔しました。」
そう言ってカナは去っていった。
はぁ、数日前までは考えられないような非日常っぷりだ。
まあいやではないが。それにこの話、断る要素がそこまでないのも事実だ。俺には資質があって、親の同意もある。…、目指してみるか武偵。
ただ、やるってんならしっかりとやらねえと。口先だけじゃだめだ。そのためには体を鍛えて近衛流とやらを習得するのももちろんだが、あらゆる場面に対処するために学力なんかも上げておかねえと・・・
こうして今ここに、九重裕介は武偵としての第一歩を踏み出そうとしていた。
読んで頂きありがとうございます!
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