緋弾のアリア -Knowledge is power-   作:ピュアドライバー

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03話 修行

いろんな秘密を明かされたあの日から数日がたった。正直まだ全てを理解できた…なんてことは無いが、それでも気持ちの整理はついてきた。

数日前まではこのまま受験勉強を続けて高校,大学と進学し、安定した職に就いて人生勝ち組!

…なんて考えていたが、いまでは違う。

そう、俺はカナさんが言っていたように受動的じゃなく能動的に武偵になることを決めたんだ。もちろんその覚悟もある!

…あったはずなんだが。

 

「痛っ!これが修行なのかよ!ただ痛めつけられてるだけな気がするんだが…。俺はもっとこうスマートな感じを想像してたんだが…」

 

「お前が近衛流を習得したいと言うからやっているのだ。嫌ならやめておいた方がいい。まだこの修行は前置きにしか過ぎない。」

 

そう言ってもう一時間以上も裕介に竹刀を振りかざしているのは近江茂人(しげひと)、現代の近衛の分家の中でも特に『武』の家としての近衛家を守り続けている近江家の者だった。裕介にとっては少し遠い親戚ということになる。

 

「…いや、すまない。気が緩んでいた。続けてくれ、茂兄。」

 

「うむ、それでいい。近衛流において根本的かつ最大の業は極限にまで高めた集中力にある。この修行はその集中力をいつ、いかなる時にでも発現させるのを可能にするためのものだ。その意味をよく考えて効率的に業を身につけろ。そうすることが今お前の出来る最善のことだ。では続けるぞ。」

 

…っ!早く業を身につけないと俺の体がもたなそうだ。やっぱりかなり手加減してるとはいえ、現役の武偵の一撃はめちゃくそ重いな。

それに武偵の中で格付けされてるランクとやらもSらしいし。それにしても、思った以上に身近にいたんだな、武偵。

まあ茂兄なら納得だけど。さ、集中集中・・・

 

その後も茂人によるスパルタ指導は二時間も続いた。

 

「今日はここまでだ。やはり流石と才能を金一先輩から見込まれているだけはある。この調子なら一週間とかからずに次の段階に進めそうだな。」

 

「…はぁはぁ、ありがとうございました。次の段階って何なんだ?」

 

「近衛流は鎌倉時代から明治時代あたりに発展した流派だから、主に流派の技として継承されているのは刀を使うものが大半だ。よって、俺がお前に教えるのも刀ということになる。だが今の世では刀では対処しきれない場面が数多くある。そんな場面で俺たちの武器となるのは銃だ。そちらも教えられる限りは教えよう。」

 

「なるほど、刀と銃か。ホント、恩に着るぜ茂兄!」

 

「お前への指導は金一先輩からの直々の頼みごとでもあったからな。時間の許す限りお前の相手をしてやる。明日も修行はあるんだ。今日はしっかり休め、ではな。」

 

今は七月の終り。二月の試験まで茂兄が修行に付き合ってくれるから技能の面では大丈夫そうだな。知力の面も勉強は嫌いじゃないし、大丈夫だろう。それにしても茂兄には感謝してもしきれないな。今度サイゼでも行って奢って差し上げよう。

…あっ、そうだ!サイゼで思い出した。武偵になる意思が固まったから電話しねえと。

 

プルルルル、プルルルル・・・

 

「もしもし社長ですか?先日お会いした九重裕介です。」

 

「おぉ、九重君かね。わしに電話をしてくるとは、気が変わって武偵になる意思が固まったのかな?」

 

「はい、その通りです。あの日からいろいろなことを知り考えた末に決めました。」

 

「それは良かった。では、約束通り君の可能性に投資しよう。もう装備は一式そろえたかね?」

 

「いえ、まだです。」

 

「そうか、ならこちらの方で用意して構わないかな?銃に関してはそちらの道のプロが知り合いにいてね。きっと君にぴったりの物を選んでくれると思うのじゃが。」

 

「はい!是非お願いします!」

 

「よしよし、オーケーじゃ。では数日以内に君の元に届くように手配しておこう。楽しみに待っていると良い。ではな。」

 

いやぁ、ホント頼りになるなあの人。流石天下のサイゼのドンだけはある。

あとは金一さんとカナさんにも連絡しないと。まずはカナさんにかけるか。

 

プルルルル、プルルルル・・・・

 

「もしもしカナさんですか?九重裕介です。」

 

「九重か。茂人の修行はどうだ?」

 

「??あれ、金一さんですか?おかしいなぁ、カナさんに電話したはずなのに・・・」

 

「…!!ああ!すまんな、カナのやつは今いなくてな。俺でよければ用件を聞こう。」

 

「え?この番号って携帯ですよね?ていうか金一さんとカナさんって知り合いだったんですか?ってあれ?…はっ、すいません。そうか、そういうことだったんですか。どおりでカナさんがあの事件のことに詳しかったわ訳だ。」

 

「おい、九重。お前一体何を勘違いしているんだ?」

 

「あれ、違うんですか?てっきりお二人はお付き合いをしているのかと…。」

 

「殺すぞ」

 

「?はい?」

 

「次にそんなふざけたことを口にしてみろ。そのときはお前を八つ裂きにしてやる。」

 

え?いや、なんでっすかーー!?え、もしかしてめっちゃ照れ屋なのか?うわー、金一さん外見とは違って意外と可愛いんだなー!

って、そんな感じじゃ…なさそうだよな。じゃあどうして?

…っ!まさか!もしそうだとしたら俺はとんでもない地雷を踏んでしまったんじゃ…。

いや、あの怒りようは絶対そうだ!それなら全力で謝らないと!

 

「すいませんでしたっ!!!お二人が今喧嘩中だと知らずに…。でも大丈夫ですよ金一さん!ほら、喧嘩するほど仲が良いって言うし。それにあんな綺麗で優しい人なんて滅多にいませんよ。俺、お二人の幸せを願ってますから!」

 

「ここまで愚弄されたのは久しぶり、いや生涯で初めてかもしれない。今からお前のところへ行く。首を洗って待っていろ。」

 

「え、生涯首を洗っていろ?ちょっと何のことですか?ってもしもーし?…切れてる。結局カナさんには伝えられなかったな。まあいいか。そのうち気づくだろうし。それにお二人の中を邪魔するなんてことはこのジェントルマン九重裕介はしないぜ!」

 

その後鬼のような形相でやってきた金一に修行とは比べられないほどの痛手を負わされたのは言うまでも無い。

 

「…!?マジ、洒落になんねえっす!ホント勘弁してください!」

 

「うるさい!お前が俺を挑発したんだろうが!」

 

正直、金一さんが何で怒ってるのかマジで分かんねえ。でもこれ以上いらないことをいうと命までもっていかれそうだ。ここは秘儀『すいませんの一点張り』でいこう。

 

「すいませんでした!」

 

「それで済むとでもおもっているのか!?」

 

しょうがない出血大サービスだ!土の下に座るあれをやろう!

 

「ホント、すいませんでした!金一さんの言うこと、なんでも聞くんで!ハチ公もビックらこくくらい忠犬になるんで!」

 

「…なら、今から俺の言うことを何があっても笑うなよ?そして他人にも言うな。必要以上にこの秘密を明かしたくはないのだが仕方ない。」

 

「…?はい!すいませんでした!笑ったりしません!そして誰にも言いません!このことは墓場まで持っていきます!」

 

「…。実はな俺、というか正確には遠山家には秘密があってな。お前、遠山の金さんって知っているか?」

 

「はい!すいません!知っています!」

 

「…すいませんはもういい。その遠山の金さんだが本名は遠山金四郎景元といって、まあ俺たち遠山家の人間にとっては先祖にあたる。その遠山金四郎景元にはある特殊な体質があってな。それは性的興奮、あの人は肌を露出することで感じたらしいが、それを得ることで思考力・判断力・反射神経などが通常の約30倍にもなる、ヒステリア・サヴァン・シンドロームと呼ばれる体質みたいなものだ。そしてその体質は遺伝的に俺たち遠山一族に代々受け継がれていて、俺もそうだった。ここからが本題なんだが俺の場合、女性の恰好をする、要するに女装をするとその体質を発現させることができるんだ。そうしてその体質を発現させている間の女の恰好の俺がカナという人物だ。」

 

うーんと。金一さん、頭でも打ちましたか?怒り過ぎておかしくなっちゃったのかな?

 

「おい、九重。お前もう一度殺られたいのか?言っておくが、俺は頭もぶつけて無いし、おかしくもなっていない。」

 

って、見透かされてる!?しかも『やる』って言う字ヤバいほうになってますよ!

…え?もしかしてさっきの話、マジなの?

 

「マジ…なんすか?」

 

「残念ながらな。だから俺が知っていることはカナも知っているし、もちろんその逆もだ。」

 

「そう…ですか。いろいろ大変ですね。」

 

「そんな哀れんだ目でみるのはやめろ。それから、さっきも言ったがこのことは口外するな。墓場までもっていけ。いいな?」

 

「はい、もちろんです!」

 

「そうか、ならいい。では、俺はこの後も仕事があるので悠長にしている暇は無い。ではな。」

 

「はい、さようなら。」

 

はぁ、とんでもないことを聞いちまった。九重家の秘密のそれこそ30倍はビックリしたね。どんどん周りが非日常色に染まってきたな。まあ、武偵になるってそういうことか。え?ちょっと違う?

 

そうして金一の秘密を知った裕介は精神的にフルマラソンを走ったかのような疲労に襲われ、眠りについた。その後一週間がたち、社長から例の物が届いた。

 

「これは…『SIG P220』?ちょっと調べてみるか。…ええっと、スイスとドイツによる共同開発によって・・・・うーんよくわかんないな。まあ茂兄に使い方を教わるか。一応これからずっと使うわけだしアダ名くらいつけとくか。…そうだな、『シグ』でいいか!これからよろしくな相棒!」

 

それから試験までの5か月俺は毎日のように茂兄に修行してもらい、刀の扱い方、拳銃の使い方、さらにいくつか奥義まで教えてもらった。もちろん近衛流のな。

あと、いずれは俺専用の刀を作って貰えるらしいが、今はこれで十分だと、固有名称の特にない刀を茂兄からもらった。

でも、こいつ次第で俺が生きるか死ぬかを分けるかもしれねえんだ。この刀にも名前をつけたぜ。

『時雨』って名前をな。中二病とでも何とでも言いたきゃ言いやがれ!拳銃がシグで刀はシグレ、良い感じだろ?

 

 

<side・?>

「もうそろそろ2月か。試験当日も迫ってきているな。」

 

「そうだな、兄さん。」

 

「どうだ、調子は?」

 

「俺だって三年間武偵中で遊んでいたわけじゃないさ。そこらへんの奴らには負けるわけがない。ましてや一般中(パンチュー)出身なんて同じ土俵にすら立っていないさ。」

 

「ふっ、確かに大多数の者はそうだろう。ただ、俺の知り合いで一人面白いやつがいてな。そいつは他とは一味違うはずだ。」

 

「そいつってあの銀行事件の、名前は確かこの・・・」

 

「九重裕介だ。」

 

「そう、九重裕介だ。いくら凄い才能を持っていても、その才能を扱えるだけの腕がなければただの宝の持ち腐れだ。少なくともその腕があの事件からのこの半年でどうこうなるとは思えない。高校在学中なら分からないけれど。」

 

「まあ何にせよ、俺からお前へのアドバイスはあの体質にはなるべく頼るな。それから九重裕介には気をつけろ。以上だ。」

 

「兄さん、だいぶそいつに肩入れしてるみたいだな。まあどれほどなのかは試験当日に嫌でもわかるさ。もし()の俺に遅れをとる程度なら、兄さんの目を覚まさせてやるよ。」

<side・? 終>

 

 

そうして試験当日は着々と迫っていった。




次回はとうとう入学試験です!!
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