緋弾のアリア -Knowledge is power- 作:ピュアドライバー
星伽さんも行ったことだし、俺もそろそろ行くかな。
それにしても武偵中の奴らの試験ってのはどんなのなんだ?
ほとんどが3年間武偵のいろはをしっかり勉強してきてるような奴らの試験だから、俺がさっき受けたのとは比べるまでもなく厳しいってことは想像がつくんだけど…。
あれかな?『今から君たちには殺し合いをしてもらいます』的な?…いや冗談だからね?うん。
「ほな、わいらも行くか。」
「はい。」
「そういえば聞き忘れてたんですけど、アサルトの試験ってどんな内容なんですか?」
「ぁん?武偵ならそんくらい推理してみせろや。まぁ、ええわ。ほら、あれ見てみい。あそこでやるんや。」
そう言って蘭豹が指差した先はコンクリートむき出しのおよそ5、6階建ての廃ビル群だった。
…って何だあれ!?さっきまでの建物とは雰囲気が明らかに違うぞ。一体あそこで何やるってんだ?
…いや、まさかな。流石に武偵高一の戦闘集団のアサルトでもそれはない…よな?
「今にも崩れそうなあんな廃ビルで一体何の試験をするっていうんですか?」
「そんなん決まっとるやろ。・・・『殺し合い』しかあらへんやんか。ってゆうても、死者出すと後々めんどいからなぁ。気絶とかで戦闘不能になったらそこで終了や。残念やったのぉ。」
…『残念やったのぉ』じゃねえよ!!何だそれ!殺し合いって、まだ実践経験も無い俺なんか敵と鉢合わせた瞬間オーマイゴッドじゃねえか!
…冗談じゃねえ。半殺しにされるなんて御免だ!逃げなきゃダメだ、逃げなきゃダメだ、逃げなきゃダメだ・・・
「おらぁ、九重ぇ!どこ行くんや!っておい!…ちっ!」
やった!追って来てないみたいだ!実戦でどこまで通用するのか少しは気ににるが…。この際そんな贅沢は言ってられん。帰って茂兄に修行してもら・・・
ズドン!!
うわっ!何だ!?…って足元に穴が…?これは、もしかして銃痕?撃ったのは・・・
「九重ぇ。トイレはそっちとちゃうでぇ。それとも何や、逃げようとしたなんてことはあれへんよなぁ?」
…やっぱりか!
って、そうだよな。普通逃げられませんよね、はい。
「…は、はは!まさかぁ!逃げてなんてませんよー。あー、トイレトイレ。」
「今から30分後に始めるから、準備しとけやぁ。それから、くれぐれも変なことすんなよ。さっきのは見なかったことにしてやるけど、次はあらへんでぇ。」
「…は、はーい。」
怖えぇぇ!次逃げようとしたらマジで殺されかねないぞ、俺。どんだけ野蛮なんだここの教師は…。
はぁ、腹括るしかねえのか。そうと決まればこの30分、少しでも生き残る可能性が高くなるようにしっかり準備しておかねえと。ええっと、
「すまん、少し聞きたいんだが。トイレの場所ってわかるか?」
「あぁ、それならこの角を右に…。良かったら一緒に行くか?」
「いいのか?悪いな。いろいろ準備してるみたいだったのに。俺は遠山金次だ。キンジでいい。」
「…ん?遠山?もしかして…。お前、遠山金一さんって知ってるか?」
「…!兄さんを知ってるのか!?」
「あぁ、少しお世話になってな。それにしてもやっぱり弟だったのか!じゃああの時金一さんが言ってたもう一人の遠山ってのは弟のことだったのか。申し遅れたな、おれは九重裕介だ。よろしくな、キンジ!」
「な…!?九重裕介だと?パンチュー出身じゃなかったのか?何でここに?」
「あー、それはだな。なんつーか、パンチュー向けの試験受けてたら先生に拉致されたみたいな感じだ。」
「…パンチュー向けの簡単な試験だけで見出されたということか。なるほど、どうやら兄さんの見込んだだけはあるらしい。」
…?いやー、それにしても驚きだな。まさか金一さんの弟とこんなとこで出会うなんて。というか金一さん、俺と同い年の弟がいたのか。どうりで金一さんからお兄さん臭がプンプンしてたわけだ。
「兄さんから色々聞いてるぜ。銀行事件のときは大変だったらしいな。」
「あぁ、あの時か…。正直途中からは必死すぎてあんまり自分が犯人を追い詰めたっていう実感がないんだよなぁ。まあその時よりも実際は金一さん事件の時の方が死にかけたような気がするが…。」
「金一さん事件?」
「あれは、勘違いと思い込みから生まれた不幸な事件だった…。多分分かるとは思うがカナさんがらみの事件だ。」
「あー、そういうことか。大体想像はついた。それは大変だったな。」
「今思い出してもゾッとするぜ…。」
その後も、そんな感じの自分自身やその周囲に関する何気ない話を交わした。
「おらぁ!お前ら!試験始めるでぇ!」
「お、始まるみたいだぞ九重。」
「そうみたいだな。あー、緊張してきたー…。」
「おし、全員集まったみたいやな。これからお前らには1から6の番号が書いてあるくじを引いてもらう。引いたくじの番号が同じ約15人が一グループゆう訳や。んでグループに分かれたら、グループごとにそれぞれあの建物ん中に入ってもらう。そのあとは簡単やぁ。合図があったら、好きなだけ殺りまくれや。以上や。」
そうして指示の通りくじを引いた。
なるべく楽なグループでありますように…!
・・・2か。
「九重、何番だった?」
「2番だったぞ。キンジは?」
「マジか…。生憎俺も同じく2だった。」
「マジかよ!」
「…そうみたいだな。知り合いが相手ってのも少々気が引けるが、しょうがない。九重、もし俺たちがあの中で鉢合わせたら躊躇することなく本気で闘ってくれないか?でなきゃ、不完全燃焼で終わっちまいそうだ。」
「…そうだな。もうここまできたらどんなものでもドンとこいだ!いいぜ、鉢合わせたら正々堂々闘おう。」
「もしかして、君たちも2番なのかな、なのかな?おー、やっぱり!おんなじだね!峰理子って言います!理子かりこりんって呼んでね!」
おー、なんか元気なのが来たな。ていうか、めっちゃ可愛いくね?この娘。こんな娘も武偵高志望なのか。しかもアサルトかよ。
「俺は九重裕介だ。よろしくな峰さ…理子。」
「おやおや、随分と可愛い娘が来たもんだね。俺は遠山金次だ。」
ん、なんだキンジの奴。俺の時と口調が全然違うような…。
「くふふっ、じゃあユーくんとキーくんだね!」
それからも2番のくじを引いたやつらがぞろぞろと集まってきた。なんかみんな強そうに見えるな…。いかんいかん、弱気になるな、俺!
「全員引くじをき終わったようやな。ほなお前らぁ、さっさと中入りぃ。始めるでえ。」
「じゃあ行くか。」
「あぁ。」
「いえっさー!」
そうして裕介にとって初めての実戦となる、武偵中出身生向けのアサルト試験が始まろうとしていた。
* * * * *
そうして俺たちはお互いの位置が把握できないように一定の時間ごとにこの廃ビルの中に入った。
とりあえず、この建物の中間である3階に陣取れた。まだ俺の実力がどこまで通用するのか分からない以上、序盤は様子見でいこう。実際まだ少し怖いが、俺だって仮にも現役の武偵にみっちり半年の間、武偵の基礎から近衛流まで修行してもらったんだ。自信を持とう。
・・・おしっ!集中だ。まずはある程度集中力を高めておこう。集中はまさに近衛流の根幹の技術。これに関してはしっかりとマスターした、というかさせられとからな。まだ周囲の警戒だけだから、とりあえずは3割くらいで抑えておこう。
「んじゃ、始めろやぁ!!」
高らかに鳴り響く銃声とともにアサルトの試験は始まった。
…始まってすぐは流石に誰もしかけないか。と思ったが上の階じゃもう始まってるみたいだな。俺はもう少しこの物陰に潜んでおこう。
・・・ん、この音は…近いな。恐らくこの階だ。1人近づいてきてるぞ。足音が一定の間隔じゃないことから察するに、あたりを見回しているようだな。気づかれないように少し見てみるか。
…ふぅ、良かった。キンジではないようだ。さっき集まったときにずっと装備の点検をしてたメガネかけた男だ。
流石は武偵中出身だな。足音も最小限に抑えてある。だけど近衛の集中力には聞こえちまったがな。まだこちらの位置に気づいていないみたいだし、もう少し隠れてたかったがこれ以上近づかれる前にこっちから仕掛けるしかないか。
なら、どうやって仕掛ける?罠か、それとも直接か?
…っ、考えてる間にも近づいてきてやがる。罠張ってる時間は無さそうだ。なら直接だ。とりあえずあいつの気を引いて隙を作らねえと。
…あいつの後ろに立て掛けてあんのは鉄骨か?ラッキーだな。あれをつかわせてもらおう。シグ、頼むぜ!
ドン!
「…銃声?このフロアか?なっ、鉄骨が!危機一髪だった。うっ!」
「もらったぁ!」
「…!そうか全てお前の作戦か!だが俺も負けるわけにはいかない!」
「これで終わりだっ!」
そうして勢いよくシグの銃口から飛び出した銃弾は・・・命中することなく後方のコンクリートの壁にめり込んだ。
避けられた!?この至近距離でか!?…流石は武偵中出身ってとこか。
「銃口の射線にブレがあるな。そうか、お前が噂のパンチュー上がりか。大したものだけど、所詮はパンチューのそれだ。」
クソッ!一発避けたくらいで・・・!
やむを得ない。もう一つの相棒で一気に片をつけるぜ!
「言ってくれるじゃねえか。だけど、残念。俺の武器はこいつだけじゃないんでね!行くぜっ!」
「なっ、刀だと!?くっ…!」
「遅ぇ!近衛流一の型、
刀を両手で持ち脇を締めながら地を蹴り飛び出した裕介は、相手との接触の瞬間脇を締めていた肩の筋肉を一気に解放した。
「くっ!!…ガハッ!」
ふぅ、決まったか。こいつの着てる武偵中の制服は防刃・防弾加工された繊維で編んであるらしいから気絶してるだけだろうし、死んじまったとかそういう心配も大丈夫だろう。
思ってたよりも手荒な感じになったが、1人目撃破だな!少々不意打ちっぽかったが、通用するなこの半年の努力は。俺の予想以上に。
・・・さて相手は今のやつだけじゃねえんだ。次の策を考えねえと。
時間は…開始の合図から10分ってとこか。そろそろ最初に鉢合わせた敵との交戦も大方終わってるころだから、単純計算で今残ってんのは半分ちょいか。この階は中間である3階、一戦交えて気が高ぶってる奴らが上からも下からも来かねない。一気にこのフロアに大人数が集まったら厄介だな…。
よし、下に移動しよう。っとその前に余裕のある内にあれでも使っとくか。実は茂兄から役にたつだろうってもらってたんだ。ええっと、あったあった。でもこんな縄が本当に…?いや茂兄がくれたものだ。きっと凄いに違いない。
・・・よしこの階段付近でいいか。円形を描くようにっと。
・・・おし、完了だ!
<side・?>
はぁ、なんてめんどくさい仕事なんだ。試験官なんて引き受けなければ良かった。あ、でも引き受けなかったら蘭豹さんにボコられてたか…。あの人に頼まれた時点で詰んでたってわけだな。
それにしてもまさか試験官の内容が受験生に紛れ込んで監視することとは…。神経も使うし、もう帰りたい。
ドン!
…!始まったか。ん、でも見たところ交戦してるってわけじゃ・・・鉄骨がいきなり…!
そうかあれを狙ってたのか!なかなか頭のキレるやつらしいな。てことは・・・やはり物陰に隠れていたか。この調子なら一撃で…。
外したっ!?銃口がブレブレじゃないか!あんなの素人に毛が生えた程度だ。明らかに場数を踏んでない感じだ。途中までは良かったんだがな、これじゃあ相手に反撃されて終了か。もったいねえなぁ。
・・・ん?刀?相手がうろたえている間に一気にいきやがった!躊躇うことなく
それにしてもあの剣技。あんまり見ない型だな。自己流か?それにしてはどこか型にハマっているような…。
ん?なぜ、周囲を回り始めたんだ?
…そうか、さっきの過激な動きで疲労物質を貯めないようにってことか。長期戦も見据えているとは、それだけ自信があるのか?
いや、多分さっきまでの頭のキレからして恐らくあいつは起こりうるすべての可能性に対して最高の状態で対処しようとしてるんだ。どこまでも抜かりの無い奴だ。
…っと、無意識の内にあいつの分析をしちまっった。意外と悪くないのかもな試験官。それに蘭豹さんには、『受験生の中に紛れて監視しろ』としか言われてない。そう、介入するなとは言われてないんだ。ちょっとばかし退屈しのぎにでもあいつを試してみるか。
<side・? 終>
それじゃあ下に降りるか。
ドン!
…!?あ、危ねえ。間一髪だ階段を一段降りてなかったら確実に当たってたぞ、今の。それにしてもどこから?まさかこのフロアに誰かいたのか!?
ドン!
くっ、もう一発撃って来やがった。しかも狙いは足元かよ。誘ってんのか?
いやいや、落ち着け俺よ。こっちにはさっき仕掛けたアレがある。もし仕掛けてる一部始終を見られていたとしてもアレの本質には気づいてないはずだ。なら、敵をこちらにおびき寄せるまで。さっきの二発で大体、敵の位置の予想はついた。恐らく…そこだっ!
「くっ!流石だな。たった二発で場所を割り出して正確に狙ってくるとは。」
「やっぱりあんただったのか、さっきの。」
ん?この人さっきくじ引いたときにいたか?
「その通りだ。俺は石垣淳だ。お前は?」
「…九重裕介だ。」
「九重…?そうか!蘭豹さんが推薦したパンチュー生ってのはお前のことだったか!」
「あんた実戦中に名前を聞くなんて随分と余裕なんだな。」
「いや、余裕とかでは無くてな。入学したらみっちりお前をしごいてやろうと思ってな。」
さっきから何言ってるんだ?この人。あんまり悠長にしすぎると他の奴らが来かねない。その前にやっちまおう。そのためにはこのエリアに近づけないと…。時雨を少し抜いて近接でやろうってアピールをするか。乗ってくるか?
「…そうか、次は近接戦をご所望か。いいだろう、その勝負付き合ってやる!」
よし!乗ってきた!やつが手にしてるのはサバイバルナイフだ。投擲してくる心配もこの感じだと多分無さそうだ。奴がエリアに入るギリギリまでそれっぽく構えておこう。
「その構えは…カウンター狙いか!つくづく面白い奴だ!うるぁぁぁぁ!!」
よし!縄に足が触れた!巻き込まれないように避難だ!
「…っ、どこへ行く!?ん?足元のこの感触は…?」
すると瞬間・・・轟音を立てながら縄が、正確には縄に編みこまれていた爆薬が炸裂した。
「クソ!地面が!何!?縄が足に絡まって…!」
「…想像以上だ・・・まさかここまでのものだったなんて。それに縄は特殊繊維で出来ていて爆薬の爆発でも切れることなく拘束具として機能するなんて…。」
そこにあったのは3階の階段付近の地面、すなわち2階の階段付近の天井が破壊され崩れ落ち、その開いた2階の天井の穴から縄で吊るされている1人の男の姿だった。
「くっ、まさか罠を張っていたなんて。俺はまんまとはめられたわけか。しまいには拳銃とナイフまで落としちまう始末だ。しごかれたのは俺の方だったな。情けねえ。」
「いや、今回はたまたま俺の運が良かっただけだ。あの罠だってあんた用に張ってたわけじゃないし。」
「経過はどうであれ、結果は誰が見てもお前の勝ちだ。そしてお前の闘いはこれで終わったわけではない。もたもたしてると他の奴に狙われるぞ。それに勝者ってのは言葉少なに去るもんだ。だから早く行け!」
「…そうだな。試験も大方半分は過ぎたはずだ。だからもう少しその体勢で辛抱してくれ!」
「…ははっ。あの技量で敵の心配までする器のデカさ。まったくホントに面白い奴だ。」
そうして裕介は相手が試験官とも知らずに闘いを乗り越え、この場を後にした。
* * * * *
一方その頃、武偵高
「どうです?蘭豹先生、アサルトの試験の方は?」
「あぁ、それがのぉ…。この2班がちっとなぁ。」
「…?これは!試験官がやられたんですか!それも紛れ込ませていた4人全員!?一体誰に?」
「1人はわいがパンチュー組から引っこ抜いてきた九重にや。やっぱりあいつただ者じゃなかったみたいやな。それから1人は峰理子。こっちも何かありそうやな。そしてそれ以外の2人を殺って、現在全体でも倒した数が一番多いのが・・・遠山キンジや。」
「…すごいですね。今年はどうやら豊作のようですね。ちなみにそれ以外で残っている2班の受験生は?」
「…ゼロや。」
「…はい?」
「だからあの3人以外教師も受験生も全滅や。…まったく、他の班はまだ半分も減っとらへんゆうのに…。」
東京武偵高、武偵中出身向けアサルト試験第2班の試験終了は刻一刻と近づいていた。
ご読了ありがとうございます!
いかがだったでしょうか?
次回で入学試験編完結です!