ソードアート・オンライン - 青き狂犬のリロード - 作:レモンスカッシュ
千束メインもいいけど、たきなも良いではないか。
真島との戦いを終え、逃げ出した千束を何とか捕まえたりと忙しない日々を送り、喫茶リコリコのハワイ出張も無事に終えて日本に帰ってきた私達は、今までと同じように今日も喫茶リコリコの開店のために私は作業を進める。
お店に届いた郵便物を手早く片付け、必要のないものと必要なもので分けていれば突然遠くからクルミに呼ばれた気がして、作業していた手を止めてクルミがいる部屋へと向かう。
「クルミ?今、私のこと呼びましたか?」
「あぁ、呼んだぞー」
「どうかしました?」
「これ、たきなに試して見てほしいんだ」
「……これはヘルメット?」
「違う違う、これはナーヴギアっていうVRMMOを体験するのに必要なデバイスだ。少し前に千束が騒いでたんだが覚えてないか?」
「あぁ、千束が欲しいと叫んでいたあれですか」
「それだ」
突然渡されたものはズッシリとした重さの箱で、中身を覗けばヘルメットのようなもので首を傾げた私に説明してくれるクルミ。
ハワイに行く前、千束が何かスマホを動かしながら騒いでいたのを思い出し、私は自分の手の中にあるものから目を離してクルミを見つめる。
「でもどうして私なんですか?千束が欲しがっていたのはクルミも知ってるでしょう?」
「ちゃんと千束に聞いたぞ?でも、あいつが今日はたきなの分まで仕事するからたきなに渡してくれってさー」
「…私の分まで仕事を?何故?」
「さぁな、でも迷惑かけたこと気にしてんじゃないのか?ミカとミズキも、たきながずっと働きっぱなしだったのは気にしてたしな。せっかくだ、それ使って気分転換でもしてこい」
「…でも」
「それに一個しか今回は当たらなかったんだ、また買える機会が来たら全員分揃えればいいだろ?」
「…わかりました、やってみます」
「そうだ、感想頼むぞー。ボクも仮想世界には興味あるからな」
「はい」
きっと私が働くと言っても、今度は扉越しに隠れている千束達が私を休ませるためにあれやこれやと説得させようと動くことは、私にも容易に想像がつく。
ここは有難くお休みを貰い、明日からまたいつものように仕事をすればいい。
それから私はクルミから事前情報を含め、ゲームの内容と私がやるべきことをザックリと説明を受ける。
クルミが言うには、何でも千束がやりたがっていたゲームのリリース時間がもうすぐとの事で、店長のご好意でお店の奥の部屋で千束の仕事時間中は体験し、それから千束と帰ればいいと言ってくれたので着替えて店の奥へと進む。
やりたがっていた千束とクルミのお陰でデバイスの準備は整い、私はクルミの布団を借りて横になり、ヘルメット型のナーヴギアを頭にセットして真っ直ぐに天井を見つめる。
「たきな!楽しんできてね!」
「名前は本名にするなよ、あとアバターもいじりまくれ」
「クルミ、そんな難しいこと私には出来ませんよ」
「ならなら!千束さんが考えてあげよっか!たきなのアバターネーム!」
「いえ、結構です」
「なんでぇ!?」
「…じゃあ、せめてアバターだけはいじれよ?仮想世界と現実世界で同じ姿に同じ名前って良くないんだ」
「わかりました」
「ねぇ、たっちゃんとか!きーちゃんとかどう!?」
「クルミ、千束をお願いします」
「おー。ま、楽しんでこいよー」
「無視すんな!」
怒ってる千束にクスクスと私とクルミが笑い返していれば、店長とミズキが2人を呼ぶ声が聞こえてきて、2人を見送ってから私はクルミと千束に教わったゲームの世界への合言葉を思い出す。
銃を使った戦闘ゲームならまだしも、剣という未知数な装備を使うゲームなんて私に出来るのか不安しかないが、せっかく皆が私に勧めてくれたのだからクルミと千束に教えられるように少しは実戦経験を積んでおくべきだ。
カチッと右上に表示されている時計が13時になったことを確認し、私はふぅっと軽く深呼吸してから口を開いた。
「リンク・スタート」
見慣れた天井から突然のデジタル画面に驚きつつも、クルミに言われた通りいくつかのアナウンスに従ってアバターネームとアバター作成を行いう。
およそ30分ほどで全てをクリアさせれば、次に視界に広がったのは初めて見る景色。
目の前にある噴水を覗き込んでみれば、デジタルということで水の表現はあまり得意ではなさそうだけれど、しっかり私が作ったアバターの姿が見えて感心してしまう。
私の今の姿はふと思い付いたのが千束の容姿だったこともあり、白金の髪色で肩にギリギリ付くぐらいの髪の長さ、瞳の色は何となく緑色にして現実の私とは正反対の容姿にさせることが出来た。
「……なるほど、これが仮想世界ですか。ここまで再現されてるのならば確かに現実世界と近いですね」
仮想世界というものがクルミと千束から説明されてはいたものの、イマイチ理解していなかった私でもやっとその意味を理解することが出来た。
千束の話では私はレベリングというものをやる必要があって、それをするにはクルミが事前に教えてくれた武器屋という場所で装備する武器を調達する必要がある。
私一人で辿り着けるのかと不安が過りながら、事前に教わった操作方法をもとにマップを開き、何とか辿り着いた場所には複数の武器があって私は固まる。
この世界の武器にやはり銃は無いらしい。
ここに千束がいたら間違いなく「ゲームタイトルにソードって書いてあるでしょーが!」とツッコまれただろうけど、私は銃以外なんて使ったことがないからどの武器にも不安が残ってしまう。
「……ここは無難に片手剣でしょうか」
購入前の武器は触れることは出来ても、装備することは出来ないようだけど近くにあった片手剣を手に取り、軽く振ったり持ったりしながら考える。
慣れない武器に戸惑いつつも、下手に棍棒など使うよりは片手剣の方が使いやすそうと思い、購入した片手直剣を装備すれば、先程までとは違って腰あたりに若干の重みを感じる。
クルミの話では次の街『ホルンカ』で専用クエストをクリアすると、第4層の終盤まで使える片手直剣『アニールブレード』が手に入るらしいため、そこに行くまでの間はこの初期装備で乗り越えなければならない。
コルと呼ばれるお金は初期設定では低いようで、片手剣を購入したらもう殆どないような状態になったので、その他の装備は後回しにして私は千束が言っていたレベリングを行うために外に出た。
「…何だか、本当にここが電子で作られた仮想世界なのか信じられないですね」
街を出て広がる広大な草原に私は息を飲む。
千束がいたら間違いなく走って飛び出していただろうこの景色に、私は本当にここが電子で作られた仮想世界なのかと信じられなくなる。
頬を掠める暖かい風、鼻を擽る草木の香り、ポカポカと感じる太陽の温かさは私が知ってる現実世界のものと全く同じ。
この感動を千束やクルミ達と共有出来ないことが寂しい。
クルミが言っていた通り、このナーヴギアとソフトを最低でもあと2つほど用意してもらわないとなんて高揚した気持ちを抑えられないぐらい、私はもうこの世界に虜になりつつあった。
「まずはレベリングですね。赤い豚…?あれが千束の言っていたフレンジーボアでしょうか」
遠くに見えた赤い豚のような、猪のようなモンスターは恐らく千束が沢山調べたと言っていた第一層に多くいるというモンスターの一つだろう。
装備した剣を抜いて右手に持ち、私は気配を出来るだけ悟らせないように配慮しながら静かにフレンジーボアに近付く。
だが、私が意識した気配を消すのはどうやらゲームの世界では関係ないのか、それともそれ専用のスキルや能力といったものが必要なのかすぐに存在はバレてしまい、私に目掛けて突っ込んでくる赤いモンスター。
すぐに重心を移動させて避け、剣を振り抜くものの、私自身が剣という武器に慣れていないからか上手く当たらず、再度強く握りしめて今度は身体を踏み込むように地面を強く蹴る。
キラキラと輝き出した右手で持つ剣に驚きながらモンスターに当てれば、モンスターは表示されていたHPが減少し、結晶のようになって消えていく。
「今のがソードスキルというものですか。殺傷力は高いですが、この感覚に慣れるのに時間がかかりそうですね……」
「凄いな、君もβテスターなのか?」
「え?」
身体が勝手に機械のように決まった動きへ動くような感覚は、正直慣れそうにないけれど千束はこの世界を好きになるだろうし、クルミだって気に入るだろう。
そんな二人とこれからもこの世界で遊ぶのならば、今のうちに慣れておかないと二人についていけなくなりそうだ。
そう考えながらボーッと剣を眺めていたら、聞こえてきた声に驚きながら振り返れば二人の男性の姿。
腰に手を当てて感心してる方の青年が声をかけてくれたらしく、私は違うという意味を込めて首を振れば更に驚かれる。
「ビギナーでそのセンスは凄いな。もし君が良ければだけど、今からこの赤バンダナを巻いてるコイツにレクチャーするんだ。君もどうかな?」
「いいんですか?」
「もちろん、こっちは構わないさ」
「俺も構わねーぜ!」
「おっと、まずは自己紹介だな。俺はキリト、んでこっちが」
「クラインってんだ、よろしくな」
「私はタキナです」
差し出された手を握り返し、この世界に慣れているというキリトを先生に私とクラインは共にこの世界の戦い方を教わる。
まだまだ広大な草原には赤色のモンスターが沢山いるのが見え、私はキリトにレクチャーを受けながら身体がこの違和感に慣れるまで狩りつくし、気付けばレベルも順調に上がって剣で戦うのも慣れてきた。
キリトの一声で一旦動かしていた身体を休めれば、流石にやりすぎてしまったかとモンスターがいない辺り一面の静けさで我に返り、慌てて右上の時間を確認すれば夕方の17時を少し過ぎた頃。
「結構いい時間だな、2人は大丈夫か?」
「そうですね、私はそろそろログアウトします。お夕飯を作らないといけないので」
「俺もあっつあつのピザが届くんでな!」
片手剣を鞘に戻し、キリトとクラインが話してる隣で右手を縦に振って半透明のウィンドウを出しながら千束と食べる夕飯を考えながら操作するものの、クルミに教わった場所にログアウトボタンはない。
もしかして、クルミが事前に調べてくれていたβテストバージョンのものと使用が変わったのだろうか。でも、ここにログアウトボタンがあってそれを押さないと現実世界に戻れないとも聞いてる。
「キリト、ログアウトボタンが見当たらないのですが」
「え?そんなはずは……」
「おいおい、こっちもねーぜ?こりゃ初日からGMは困ってるだろうよ」
「…それにしても遅いな、いくら何でもリリース日にこんなログアウトボタンが無いなんてかなり不味いぞ」
リリース日の初日だから何かエラーでも起きてしまったのだろうかと考えていれば、突然身体が光り出して驚く間もなく私は見慣れた草原ではなく、最初に見た街並みに驚く。
周りのユーザーも驚いてるのか、ざわざわと騒がしい中で周りを見て状況を把握していれば、キリトの声に私の視線も空に行き、浮かんだ赤いマントの出現に私は嫌な予感がする。
「プレイヤーの諸君、ようこそ私の世界へ。私の名前は茅場晶彦、今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ」
「…茅場晶彦という人は確か開発者ですよね?」
「あぁ、この世界を作った張本人だよ。多分、今からこの状況について説明されるんだと思う」
ゲームに疎い私でも知っている茅場晶彦。このゲームを制作した創造主であり、今話している茅場晶彦の声に緊張感が走る。
私はリコリスとして身に付けたこの感で、これから嫌な予感が本当に起きる気がして感じるはずのない背筋の悪寒に無意識に腰に装備してる片手剣に手を添える。
「諸君はもう気づいてはいるだろうが、メニューからログアウトボタン消失していることに。だが、これは不具合ではなくSAO本来の仕様だ」
「…本来の仕様?」
ログアウトボタンが無いということは現実世界に戻れない。
それが本来の仕様となると意味することはただ一つ、現実世界に戻ることが不可能である事実。
私の呟きはキリトとクラインにも聞こえていたのか、二人も隣で動揺しているのが伝わってくる。
「諸君は今後このゲームから自発的にログアウトできない。また外部からの干渉によるログアウトも不可能だ。もし、仮にそれが試みられた場合ナーヴギアによって諸君らの脳波焼き切れることになる」
「なっ…!」
「はは、なに言ってんだあいつ。そんなこと出来るわけ!」
「……いや、可能だ。原理的には電子レンジと同じで、脳波を焼き切るのは卵を電子レンジにいれた時と容量は一緒だ」
「…つまり、茅場晶彦は嘘を言っていないということですね?」
「……信じ難いけどな」
息を呑むクラインを横に私はキリトの言葉に黙り込む。
手の込んだテロと同じようなものだ、でも現実世界では私を含めてリコリス──DAがいるから今頃動いていないはずがない。
自体が終息するのも早いだろうと思っていた中で、目の前に出てきた記事に私は目を見開いて唖然としてしまう。
そこには見慣れた赤いリコリスの制服を着た千束やフキさん、私と同じ青色のセカンド・リコリスの制服を着たサクラ達が恐らく現場に駆けつけたであろう写真の記事。
どの現場にいるのかは分からないけれど、千束達がいる場所には他にも人が写っていて、そこにはナーヴギアをかぶった人も写っていることからリコリスが既に動いているが止められなかった事が私にも理解してしまった。
「……ちさと」
「残念ながら、私の警告を無視して、ナーヴギアの強制解除を試みた例が少なからずあり、その結果、213名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界から永久退場した」
「…うそだろ、こんなこと」
「しかし、諸君が心配することはない。現在あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を多数の死者が出ていること含め、繰り返し報道している。よって、ナーヴギアが強引に除去される危険は既に低いと言って良かろう。今後、諸君の体はナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間の内に病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護態勢の元に置かれるはずだ。諸君には安心してゲーム攻略に励んでほしい」
「…こんな状況でのんきに遊べなんて、ふざけてるんですか」
「…全くだ、てか警察は動いてねーのかよ」
「…動いてはいると思います、でもこの状況を見るにまだ茅場晶彦を見つけられていないというのが妥当でしょうね。……DAがこの事態を把握していないはずがない」
「しかし、充分に留意してもらいたい。今後ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される」
「っ!」
今、茅場晶彦はなんて言っただろうか。
ヒットポイント、つまりHPがゼロになった瞬間に脳がナーヴギアによって破壊されると言った。
先程キリトが言っていた電子レンジと同じ容量で脳を焼かれ、ゲームのログアウトと同時に現実世界の私達も死を迎える。
「諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。アインクラッド最上部、第百層までたどり着きそこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう」
「…100層までだぁ!?」
「キリト、βテスト時にクリアするのにかかった時間は?」
「…2ヶ月で第10層までだ」
「…ちっ」
今のプレイヤーたちの精神状況や置かれてる状況下を考えると、確実に2年以上はかかるのが目に見えて私は思わず舌打ちをしてしまう。
βテスト時は現実世界の死なんて関係なかったから2ヶ月で10層まで進めただろうけれど、今回は自分の死が必ずチラつく状況で全員がゲームクリアに率先して出来るとは到底思えない。
「最後に私から僅かながらプレゼントが用意してある。アイテムストレージを確認してくれたまえ」
これ以上何が起きるというのだ。
私はどうにか荒れる心を落ち着かせ、右手を動かしてウィンドウを操作してからアイテムストレージを開けば無かったはずの手鏡という名前のアイテム。
表示させて手に取れば、眩しい光に包まれるだけで光が収まると特に何も無くて首を傾げる。
「…今のはいったい」
「二人とも大丈夫か!?」
「はい、特に何も……すみません、貴方は誰ですか?」
「何言ってるんだ。俺はキリトだよ、って君も誰だ?」
「…え、キリト?私の知ってるキリトと顔も背丈も違うじゃないですか」
「え?なっ、この顔は俺の現実の顔じゃ…!じゃあ君はタキナなのか!?」
「…え、私の顔…?どうして?」
中性的な顔立ちであり、恐らく私より年下の男の子がキリトと名乗って手鏡を見て慌ててる様子を見て、私も先程まで手に持っていた鏡を覗く。
そこには、クルミに言われて作ったアバターではなく、私の現実世界の顔に驚かされる。
「お、お前らキリトとタキナさんか!?」
「その声は…!」
「…クライン、ですか?」
「あ、あぁ。でも何でリアルの顔になってんだ…?」
「…そうか!ナーヴギアは、顔を全部すっぽり覆ってるから顔の再現も可能なんだ。でも身長とかは?」
「…確か最初のナーブギアの設定でキャリブレーションというのがあったはずです。その時、体を触れたので身長も把握されたんでしょう」
「なるほど、そういうことか」
あの時は仮想世界という場所でも自分の身体や視点の距離感など、普段使ってる情報から対象者の違和感を無くすためだろうと思っていたけれど、まさかこんな理由があるとは思わなかった。
しかし、何故わざわざ現実世界の私たちの姿にする必要があったのか疑問が残る。
「諸君は今なぜはこんなことをしたのだろうと疑問に思っているだろう。私の目的はすでに達成せられた。この世界を造りだし観賞するために私はSAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた」
「…観賞」
「以上をもってソードアートオンラインチュートリアルの説明を終わる。最後にもう一度言う、このゲームはゲームであって遊びではない」
茅場晶彦が消え、プレイヤー達の中悲鳴と叫び声が飛び交う。
言いたいことはわかった。
茅場晶彦はこの世界をゲームだなんて微塵も思っていない、私達を現実世界の姿にしたのはより一層現実と同じであることを実感させ、私たちの行動を観賞するためだ。
なんて気味の悪い考えだろう、リコリスとして様々な犯罪者に出くわしてきたがこんなにも苛立たされたのは初めてだ。
私は無意識に手に力が入って茅場晶彦がいた場所を睨みつけていれば、急にキリトに腕を掴まれて走らされる。
「クライン、タキナ、聞いてくれ。俺はすぐにこの町を出て、次の村に行くお前達も一緒に来い」
「…キリト、お前」
「…この街に留まる時間が長くなることは、あまり良くないということですよね?」
「あぁ、あいつの言葉が本当ならこの世界に生き抜くためにはひたすら自分を強化しないといけない。この町の周辺はすぐにプレイヤー達によって狩り尽くされる。だから、今のうちに次の村に拠点を写した方がいい。俺は道も危険なポイントも知ってるから、レベル1でも安全にたどり着ける」
「…なるほど、わかりました。私はキリトと一緒に行きます」
「…さっきキリトには言ったんだけどよ、俺は他のゲームでダチだった奴らと一緒にログインしてるんだ。さっきの広場にいるはずだ。置いていけねえ」
「…っ」
おそらく私が彼らと合流する前にされた会話なのだろう。
クラインさんが一緒にログインしてる方が何人いるのか分からないが、悔しそうに唇を噛むキリトの様子を見る限り、いくらこの世界に私達より慣れてるとはいえ、全員を無事に守りきることは不可能に近い。
現実世界ならばリコリスの私も力になれただろうし、キリトに頼らずとも私が全員を守る事だって出来たかもしれないのに、仮想世界となってしまっては私より年下だろうキリトに頼る他ないのが悔しい。
「これ以上お前に迷惑かけるわけにゃいかねえ。心配すんな、オレだって前のゲームじゃギルドのアタマ張ってたんだ。お前の教わったテクで何とかしてみせら。だから気にしねぇで、次の村にいってくれ。悪ぃなタキナちゃん、キリトを頼むわ」
「えぇ、もちろんです。守られてばかりは好きじゃないので」
「…ならここで別れよう。何かあったらメッセージ飛ばしてくれ。……じゃあ、またなクライン」
私よりも年下に見え、一般人であるキリトにこんなにも重い決断をさせてしまう自分が悔しい。
クラインさんと別れ、背を向ける彼の姿を見て過ぎるのは数ヶ月前まで見ていた赤色の制服に身を包んだ相棒の姿。
ギュッと背中に隠した手を握りしめ、私は何もかも背負い込もうとしてる姿に現実世界にいるだろう相棒の姿が過ぎったこともあり、何か言わなければと口を開くものの、私より先にクラインさんの声が耳に届く。
「キリト!」
「…っ?」
「おめぇ、案外可愛い顔してやがんな!結構好みだぜ!それにタキナちゃんも白金色の髪と緑色の目も綺麗だけどよ、黒髪に紫の瞳もめっちゃ美人で可愛いぜ!」
あぁ、彼はしっかりとした大人だ。
私では出来なかったことを難なくこなしてしまうクラインさんに対し、私はフッと笑いながらキリトに目を向ければ、キリトも目を見開かせて驚きつつも、ニヤリと年相応の表情で笑っている。
「そっちも、その武士面の方がカッコイイぜ」
「えぇ、今の方がめっちゃいいですよ」
もう後戻りは出来ない。
勢いよく走り出したキリトを追いかけ、私もその一歩を踏み出して前を走るキリトに置いていかれないように後ろを覗くが、既にクラインさんの姿は無く、完全に別の道に進んだことを実感させられる。
後ろを振り向きかけたキリトを私は走る勢いを強め、思いっきり背中を叩けば彼は苦しそうな声を出しつつも、私の意図を理解して前を見て走り続けてくれる。
「…タキナ、ありがとう。っ、次の街まで一気に行くぞ!」
「背中は任せてください、慣れてますから」
「あぁ、頼む!」
千束ならきっとこんな状況でもこういうだろう。
いのち大事に、やりたいこと最優先と。
私はリコリスだ、この世界にいる全てのプレイヤーを救うことはとても難しいがせめて自分の前にいるこの少年は私の命を賭けてでも守らないと。
千束の相棒とは言えなくなってしまう。
装備した片手剣を抜き、キリト共に走りながらモンスターを危険なく倒していきながらふと思う。
この世界ではどうやって睡眠と食事をとるのだろうか。
ゲームとはいえ、食事は最悪水でも飲んでおけばマシになるが、睡眠はとらないと人間の三大欲求の中でも一番悪影響が出る。
「そういえば」
「どうした?」
「この世界って野営はどうするんですか?この世界にいる限り、シャワーの必要はなさそうですが街で非常食やテントの準備してませんよ?」
「や、野営…?」
「え?」
「…タキナ、君、現実世界で何してたんだ?」
「いたって普通の生活ですよ」
戸籍を持たず、銃を所持し、犯罪を未然に防ぐ生活ですけど。