【完結】逆転ヤンデレ変身ヒロインと洗脳闇堕ち復帰済みサド改造人間の勘違いドッカンバトルon地球空洞説ファンタジーSF異世界インモラルラブコメ   作:所羅門ヒトリモン

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Episode 2 「熱暴走人型戦闘機」

 

 

 ヤンデレの心に寄り添いたい。

 前世でオタクだった俺は、ラブコメもよく嗜んだ。

 サブカル大国HENTAI国家ニッポンには、世界に誇れるヒロインが、それこそ数え切れないくらい存在している。

 しかし、ことヤンデレヒロインについて、我々は誰しも、一度はこう思わなかっただろうか?

 

〝自分のコトをこんなに好きになってくれる女の子がいるなら、心配なんかさせずにマジLOVE1000%で応えてあげたい〟

 

 いっそ向こうが、引くくらいの愛情でズブズブに。

 だって、オタクは女の子にモテないし、非リア充(死語)がデフォルトだろう?

 俺たちは本当は優しい心の持ち主だけど、なかなか周囲には魅力を伝えられない悲しい獣。

 

 要はシュ●ックみたいなものなので、一度でも愛されたのなら、その(奇跡)に報いたい。

 

 ヤンデレヒロインが特に好きだと云う人には、もしかするとこの主張は「ヤンデレはそういうんじゃねえ! オタクに優しいギャルとは違ぇ!」と怒られてしまうかもしれないけれど。

 

 そんな誰かも、胸に手を置いて自分の心の深いところを振り返ってみてくれ。

 俺たちはただ、愛されたいだけなんだ。

 こんな自分でも、受け入れてくれる女の子がいる。

 そんな幸せを、いつの日もずっと夢に思い描いている。

 ヤンデレもオタクに優しいギャルも、他のどんなヒロインにも、貴賤なんか存在しない。

 ただ愛してくれるなら、答えはいつだってひとつに決まっている。

 なあ、そうだろう?

 

 ──オ、オデを愛じでぐれて、あでぃがどお……!

 

 ほら、言えた。

 と、言うワケでだ。

 

 『変身ヒロインとSMプレイしたい』

 

 そんな願望を持つ俺も、幼馴染にして理想の変身ヒロイン──白星クロエに愛されてしまったからには、とことん愛情表現を示そうと考えている。

 好きだの愛してるだの、きちんとした言葉で告白を受けたワケじゃない半ばなし崩し的な関係だが、自我を取り戻してからの約三ヶ月間。

 金髪巨乳のハーフ美少女と日夜生活を共にし、あんな風にほぼ毎晩、高湿度なキスをされまくる日々を送っている以上、向こうからの好意は言葉にされずとも確定している。

 

 ──白星クロエは、丸木戸サトルが好き!

 

 で、丸木戸サトルも白星クロエが好き。

 

 ……ん?

 なんだこれ?

 夢?

 

(──なんて、戯れ言はさておいて)

 

 しかしながら、俺たちの間には何点か、愛の問題が発生している。

 そのひとつが、現状のクロエの精神状態だ。

 暗黒面(ダークサイド)ならぬ病蕩面(ヤンデレサイド)に陥落してしまった我が麗しの星。

 クロエほか数人の少女たちは、現在まったく変身ヒロイン活動をしていない。

 

「 な ん で だ よ ッ ! 」

 

 思わず憤りが声に漏れてしまったが、原因は分かっている。

 俺だ。

 丸木戸サトルが、悪の組織に捕まって、洗脳と人体改造。

 あと、たぶんだけどエッチな拷問とか調教とかもされて、一年ものあいだ闇堕ちしていたため。

 この世界は価値観がところどころ逆転しているから、クロエたちからすると俺は、きっとハードでダークなエロゲヒロインみたいな目に遭った認識なのだろう。

 そのせいで、ここ三ヶ月間、クロエたちはほとんど俺にベッタリピッタリ付きっきりだった。

 いや、それはそれで、嬉しくはあったんですけどね?

 

「違うんだよ……」

 

 こんな俺に、重たい愛情を抱いてくれるのは、そりゃ心の底からありがたいし感動している。

 嗜虐性癖を打ち明けた後でも、同じように愛してくれるのか。

 そこはちょっとだけ、いや、まぁまぁ不安視しているが、それでも現時点で好意が分かっただけで、かなり幸せだ。

 

 だけど、俺には『過程』が無い。

 

 クロエたちが病蕩面(ヤンデレサイド)に陥落したのは構わない。

 繰り返すようだが、令和のオタクは湿度が高いヒロインとか大好物だし、重い愛情バッチ来いと受け止める覚悟はとっくにできている。

 

(でも、それはできれば、他ならぬ自分自身の手で引き摺り出したかった……!)

 

 洗脳されて自分を失っていた一年間の『俺』ではなく。

 ありのままの()の手で、少女たちの心を掻き乱して狂わしたい。

 カラダがワナワナと震えてしまう。

 

「俺は──」

 

 マゾメスが好きです。

 異性の心や肉体に苦痛を与え、相手が悶え喘いで身をよじる姿に興奮します。

 AVやエロ漫画なら別にいい。

 最初からドMの女の子が出てきた方が、どう考えても好都合だ。

 

 けれども、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 変態が今さら、何を取り繕っているんだと笑わてしまうかもしれないが。

 男なら、分かるだろう?

 少年の日の純心と、大人としての素直な性欲。

 天使と悪魔。

 変身ヒロインを「そんな目で見ちゃダメだ!」って気持ちもあれば、「いやエッッッッドッ!」と股間にビリビリ電流が走ってしまう気持ち。

 矛盾した精神と欲望に、葛藤が終わらない。

 だからこそ、思春期の俺は苦しんだ。

 今もちょっぴり、苦しんではいる。

 

 それでも。

 

(クロエを筆頭に、ほかの女の子たち含め──)

 

 本物の『変身ヒロイン』には、やはりいつまで経とうと、永遠に煌めき輝く『一番星』であっていただきたいと心から願う。

 変態性欲の異常加虐趣味男が言うセリフじゃないが、そんな彼女たちだからこそ、俺は蛾のように惹かれたのであって。

 

 絶対に折れない、負けない、屈しない。

 

 強くてカッコ良くて可愛い。

 最高に魅力的なヒロインだから、堕とす快感もひとしお。

 このワクワクとドキドキは止められねぇ……

 なのに、他ならぬ自分のせいで、変身ヒロインが活動休止とかッ……!

 

「 耐 え ら れ な い !」

 

 その闇を払い、何としてでも少女たちを救わなければ。

 健全な精神と健全な肉体を。

 俺は好きな子の心に寄り添う理解ある彼くん。

 ヤンデレはなぜヤンデレなのか?

 専門家ではないので、たしかなコトは断言できないものの、クロエに限っては〝不安〟が原因だと分かっている。

 ならば、問題解決のための糸口──如何にしてクロエの心の病みを払い、元の星たる輝きを取り戻させるか?

 

 ヒントは……『キス』にあると、感じている。

 

 幼馴染という関係性は、幼い頃からの長付き合いもあって、知らず知らずの内にパーソナルスペースを曖昧にしてしまうものだ。

 朝目覚まし時計代わりに起こしに来てくれる、やたら面倒見のいい幼馴染とか、よくいるだろう? いや実際はいないけど。

 とは言え、現実でもアレに似たある程度の親愛関係──他人とは隔絶した〝どの程度の踏み込みを許可するか〟の線引きのコトだが、幼馴染であれば、単なる友人や親友と比べても、その辺はかなり緩々な境界になる。

 

(そうだな。俺とクロエの例であれば……)

 

 本来は〝禁止しているはずの寝室への立ち入りを、思わず毎晩お咎め無しにしてしまう〟といった感じで、緩々に。

 特殊なケースではあるが、要は距離感が近しい間柄に特有の、無意識下における『所有感』について言いたい。

 

 俺の女。

 私の男。

 

 カップルが互いについて、そういう風に呼び合うのは珍しい話ではない。

 男女間の感情に限らずとも、人間は普段から〝自分の〟場所を選択している。

 行きつけの喫茶店でよく座る、お気に入りのテーブル座席。

 お昼のランチを食べるのに使用する公園のベンチ。

 普段は自分が使っているのに、たまに誰かに先を越されると、〝奪われた〟と感じてしまうよな。

 クロエも俺に、そんな感情を爆発させている気がする。

 夜毎のキスによるマーキング行為が、何よりの証。

 

 ゆえに。

 

「何があっても……何をされても……!」

 

 丸木戸サトルは、必ず白星クロエの元に戻る。

 その確信を、安心こそを、与えてあげられれば。

 我が麗しのエトワール。

 〈龍騎士(ドラグナー)〉ミッドナイトサンは、必ずやかつてのように、変身ヒロイン活動に舞い戻ってくれるはずだ。

 

 ポータルを通過した俺は、チラリと後方を確認し、辺りの様子をうかがう。

 

 今頃、俺がこうして変身後の姿でホロウ・アースに飛んできたコトで、クロエは元より、王国の魔法省にもけたたましい警報(サイレン)が鳴っているはずだ。

 あまり詳しくは知らないが、〈龍騎士(ドラグナー)〉ミッドヴィンターメルカーは、およそ一年間とんでもない大事件を起こし続けていたらしいし。

 すでに治安維持部隊である精鋭の〈龍騎士(ドラグナー)〉によって、千里眼の監視を受けている可能性は高い。

 

「……さて」

 

 どう芝居を打ったものか?

 とりあえず、犯罪者としてしょっぴかれるのは勘弁なので、また洗脳された(てい)で動くのは確定として。

 誰かの前ではボロが出ないよう、ここはあまり口を開かない方がいいとは思っている。

 一年間の俺が、どんな悪役ムーブをかましていたのか。

 尋ねても皆んな、口を閉ざすばかりでイマイチ分かっていないんだよな……

 

「──」

 

 首をコキリと鳴らし、しばし思案。

 が、考えても分からないものは仕方がない。

 多少は出たとこ勝負で、場当たり的に動いてみよう。

 計画的には、

 

 フェーズ1:俺、闇堕ち。

 フェーズ2:都合のいい隠れ蓑及びスケープゴートとして悪役擁立。

 フェーズ3:対立構造ができたのでクロエと敵としてバトル! (お楽しみもあるよ!)

 フェーズ4:途中でなんかいい感じに洗脳に抗ってるムーブを披露。

 フェーズ5:自力で自分を取り戻し()、②で擁立した悪役を倒す。

 フェーズ6:クロエの元に戻り、愛を誓う。ふたりは幸せなキスをしてハッピーエンド。

 

 ──素晴らしい。

 パーフェクトすぎる。

 我ながら、なんて頭の悪いプランなんだ。

 クロエに愛情を示すためだけに、これはかなりの大人を振り回すコトになるぞ……絶対にバレるワケにはいかない。

 

「…………フゥ」

 

 ちょっとだけ日和りそうになった自分を、深呼吸で落ち着かせる。

 ここでやっぱやーめた、だけは男として情けなさすぎるからな。

 

「アーレア・ヤクタ・エスト……」

 

 すでに賽は投げられた。

 今さら止められはしない。

 SMプレイもしたいし。

 千里眼を発動した俺は、おもむろにフェーズ2を開始した。

 

 

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 

 鳴り響く警報(サイレン)に、魔法省が赤く染まる。

 ホロウ・アースにて、国際的な治安維持機構を擁するアステリア王国の、此処は中央政府区画セントラル。

 突如として発報された緊急事態を報せる警報に、省内は慌ただしく喧騒に満たされていた。

 省職員は誰も、皆が緊張に顔を強ばらせ、なかには動揺のあまり、パニック発作を起こしかけている者までいる。

 混乱と恐慌。

 ホロウ・アースの治安維持を司る特務機関として、無論、常ならばありえない醜態である。

 

 治安維持管制室、室長。

 

 オンドゥール・ラギタデスカは、道中、眉間の皺を堪え切れないままに自身の職場に戻った。

 

「──それで、『極夜』が出たというのは?」

「事実です……!」

「映像、出します!」

 

 確認の問いに、優秀な部下たちが状況を展開する。

 その姿に、オンドゥールは少しばかりの安心を得た。

 ホロウ・アースの平和と秩序を守るため、〈龍騎士(ドラグナー)〉という最高位の暴力装置(魔法使い)に出動要請をかけられるのが、この治安維持管制室。

 室長であるオンドゥールも含めて、この部屋に入れる者は、非常時にこそ冷静でなければならない。

 どうやら自分の部下たちは、他の省職員と違って胆力があるようだ。

 

(フン……それも、当然ではあるがな)

 

 ここ数年、オンドゥールとその部下たちは、ホロウ・アースの長きに亘る歴史のなかでも、有数の大事件に当たってきた。

 地上世界と繋がるポータルの開通事変を皮切りに、白夜の星剣の適合者発見、地上征服を目論む愚かな怪人組織の討滅、大魔法犯罪者による〈龍騎士(ドラグナー)〉強制暴走悲劇、古龍教会爆破テロ。

 例を挙げれば、まだまだこんなものじゃない。

 

(ああ……そうだ。私も、私の部下たちも、胃痛にはとっくに慣れている!)

 

 オンドゥール・ラギタデスカ。

 三十八歳、バツイチ子持ち、不眠症。

 治安維持管制室とは、私生活を犠牲にし、世界平和のためそれでも身を粉にして働く、生粋の叩き上げ集団の別名である。

 

 ……なので、たとえ三ヶ月ほど前まで、ホロウ・アースを恐怖に陥れていた最凶の〈龍騎士(ドラグナー)〉が再び姿を現したと耳にしても、オンドゥールたちは胃薬を常飲することで、何の問題もなく職務を遂行できる。

 

 と、その時。

 

 ──ブォン。

 

 管制室のスクリーンに、映像が投射された。

 映像はポータル警備隊の隊長である〈龍騎士(ドラグナー)〉からの、千里眼の共有。

 魔法による擬似拡張視覚が、時空間の乱流をも掻い潜り、鮮明に彼方の光景を映し出した。

 

 途端、室内に漏れ出たのは、堪えようのない呻き。

 

「ミッドヴィンターメルカー……!」

「クソっ、またなの!?」

「怪人科学め……ッ」

「人造の〈龍騎士(ドラグナー)〉……やはり、現れてしまったわね」

「…………」

 

 オンドゥール自身も、思わず息を飲み込み、目を見開くのを止められない。

 極夜の〈龍騎士(ドラグナー)〉、ミッドヴィンターメルカー。

 伝説の白夜の星剣使い、〈龍騎士(ドラグナー)〉ミッドナイトサンと対をなす魔法使いにして、怪人科学によって強制的に星剣との適合率を引き上げられた、地上の哀れな少年。

 

 ホロウ・アースにおいて、魔法とは神秘のシステムである。

 

 〈龍騎士(ドラグナー)〉とは古代の兵器──強大な魔法式を埋め込まれた遺物〈レリック〉に対し、先天的なユーザー権(適合率70パーセント以上)を有す人間の別名。

 権限を持たない者が触れても、本来であれば何の奇跡も発現できない。

 だが、

 

(少年──丸木戸サトル君は、怪人科学によって肉体そのものが、極夜の星剣と融合してしまった)

 

 ゆえに、正式なユーザー権を持たないまま、しかしレリックそのものであるという矛盾を利用し……〈龍騎士(ドラグナー)〉と云うホロウ・アースでも屈指の魔法式を呼び出すコトに成功している。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 正式なユーザー権を持たない者が、正式なユーザーであるかのように振る舞う虚偽を、レリックは許さなかったのだろう。

 丸木戸サトルは極夜の〈龍騎士(ドラグナー)〉となったが、三ヶ月ほど前まで、代償としてほとんどすべての言葉と自我を失っていた。

 

 凶気のままに暴れ回るベルセルク。

 

 幸い、白夜の〈龍騎士(ドラグナー)〉白星クロエや他数人の命を賭した戦いによって、人的被害こそゼロに食い止められていたが、ホロウ・アースは下手をすれば、たったひとりの手で滅亡にまで追い込まれていても、何もおかしくないところだった。

 

 救い出せたのは、それこそ、魔法みたいな奇跡であろう。

 

 あの戦いを除けば、〈龍騎士〉となった彼に唯一、意思疎通のようなものを可能としていたのは、極夜の星剣を制御鍵に、マスター権限をも埋め込んでいた正体不明の敵だけ。

 怪人科学に造詣が深く、恐らくは複数人と目される犯罪者たち。

 

「……予想はしていた」

 

 しかし、あまりにも早すぎる。

 

「おのれ、犯罪者どもめ……サトル君の一年を、自分たちのオモチャとして()()()()弄んでおきながら、たった三ヶ月でまた奪おうというのか……!」

 

 同性であるがゆえに、オンドゥールの怒りは深い。

 然れど、冷静さを欠いてはいけない。

 責任ある大人として、また、ホロウ・アースの治安維持を務める魔法省職員として。

 地上世界の少年を、こちらの事件に巻き込んでしまった罪深さは自覚している。

 オンドゥールは目を逸らさずに、正面から目の前の現実と向き合った。

 

 まずは正確な状況把握。

 

 危機への適切な対処法を策定するため、映像のなかの少年に注意を集中する。

 すると、

 

「……?」

 

 映像の中の少年は、様子がおかしかった。

 頭を抱えて身を震わし、そうかと思えばガクリと項垂れ、胸を掻きむしりながら、再び頭を抱える。

 ポータルを飛翔しながら、まるで何かに抗っているかのような仕草。

 

「……音声は?」

「いま出します!」

 

 映像に数秒ほど遅れる形で、集音魔法が発動する。

 管制室の情報解析官が、音の波形を読み取りリアルタイムで再現した。

 刹那、

 

『 耐 え ら れ な い !』

「!?」

 

 丸木戸サトル少年の、苦痛に満ちた絶叫。

 オンドゥールたちは驚愕し、まさか! と動揺する。

 

「言葉を、いいや、自我を保っているのか!?」

「もしや、あの決戦でヤツらのマスター権に、何らかのエラー……綻びが生じたのではないでしょうか!?」

「ありえる。だが──!?」

 

 にわかに希望を信じかけた管制室に、絶望がほくそ笑む。

 

『何があっても……何をされても……!』

 

 干渉に抗う少年。

 しかし、その抵抗は次第にゆっくりと姿を消していき、ポータルを抜けたタイミングになると、不気味なまでの静けさを全身に纏うようになった。

 

『……さて』

 

 コキリ、首を回し。

 禍々しい人外魔装が、ホロウ・アースの大地を獲物でも見下ろすように、睥睨する。

 言葉は依然として話せるようだ。

 だが、先ほどまでの常軌を逸した叫び声からは、明らかにトーンが変わっている。

 

「クッ……抗いきれなかった、のか!」

 

 オンドゥール含め、管制室にいる全員が沈痛に顔を曇らせた。

 

「で、ですが、以前とは様子が違います!」

「言葉を話していたのは、ここに居る皆んなが確認しました!」

「もしかすると、ヤツらの支配力は以前ほど、強いものではないのかもしれません……!」

「──たしかに」

 

 頷いたオンドゥールは、〝対話の可能性〟を認めた。

 ただ暴れ回るだけの狂戦士ではなく、言葉による意思疎通が可能ならば、事と次第によっては〝交渉〟もできるかもしれない。

 最凶の〈龍騎士(ドラグナー)〉ミッドヴィンターメルカーの、三ヶ月前までは謎に包まれていた自己への認識。

 どんな情報でも、引きずり出せるならば引きずり出さなければ。

 何より、丸木戸サトルをあんな姿に変えた罪人たちは、今もまだ捕まっていない。

 

「──室長」

「なんだ」

「警備隊の隊長から、再度〝通行者〟の連絡です」

「このタイミングだ。どうせ、白星君だろう?」

「ハッ、そのようです。白夜の〈龍騎士(ドラグナー)〉ミッドナイトサンは、すでに極夜を追っているものと思われます」

「……だろうな」

 

 室長補佐官からの共有に、「うむ」と首肯を返し目配せをひとつ。

 ホロウ・アース最強の〈龍騎士(ドラグナー)〉にして、地上人でもある彼女とは、兼ねてから今回のような状況(ケース)について話し合いを進めて来た。

 そこで出た結論は、すでに双方合意のもと、公文書としても保管されている。

 

「通信を」

「ハッ、繋ぎます──繋がりました」

『もしもし』

「やあ、白星君。私だ。オンドゥールだ」

『室長。状況なら分かっています』

「ああ。こちらも把握している。すでに君を、全面的にサポートする準備はできているとも」

『なら』

「だけど、少し待って欲しい。丸木戸サトル少年の様子だが、以前とは何かが違う」

『……そのようですが、具体的には?』

 

 千里眼で捉え続けているのだろう。

 白星クロエはオンドゥールの言葉に同調を示し、しかし肉声までは拾えていないため、やはり質問をした。

 オンドゥールは自分でも興奮しないよう、意識して落ち着いた声を応答しながら──

 

『アーレア・ヤクタ・エスト……』

「ッ、!?」

『室長?』

「っ、すまない。彼は現在、ミッドヴィンターメルカーとして行動しながら、()()()()()()()()

『──それ、は』

「まだ詳しい実態は分からない。だが、我々が見たところ、彼は最初抗っている様子だった。もしかすると、今回は対話が可能なのかもしれない」

『ッ、だとしても……!』

「分かっている。あの状態の彼は君の知っている幼馴染ではないし、元に戻ってもらうのが我々としても一番いい──しかしだ!」

 

 臭いものに蓋をしただけの暫定的な事態の解決。

 それでは、結局のところ何も変えられていない。

 暴力で事態の解決を図れば、たしかに心は一時的にだがスっと晴れ上がる。

 

 けれども、それで?

 またそのうち、同じ悲劇を繰り返すのか? 違うだろう!

 

 ここは事態の根本的な解決と防止策を見つけるためにも、まずは様子見に徹するべきだ。

 オンドゥールはギュルギュルと痛みだした胃に脂汗を流しながら、少女に訴える。

 極夜の〈龍騎士〉が世界の脅威なのであれば、それと対をなす白夜の〈龍騎士〉からのプレッシャーも、同じように世界の脅威級。

 その気になれば一国を滅ぼし得る魔法使いに、誰だって嫌われたくはないし恨まれたくもない。

 

 一秒、二秒、三秒と経過して。

 

 懸命な願いが、神に通じたのだろうか?

 通信先の少女は、やがてギリッ! と歯軋りを鳴らしてから、端的に了承の意を返してくれた。

 管制室の皆が、静かにグッとサムズアップをしてくれる。

 

「──ありがとう。白星君」

『室長のためじゃありません。サトルのためです。それで、彼は何を?』

「ああ、それなのだが……アーレア・ヤクタ・エスト」

『!』

「つい先ほど、彼がたしかに口にした言葉だ」

『……なるほど。では、敵は()()ですか』

「推測の域は出ない。が、我々もそうではないかと思う」

 

 地上の古語で、賽は投げられたという意味。

 治安維持管制室の面々は、誰もがその言葉を聞き、ひとりの人物を思い浮かべる。

 

『──ミストレス・ガイナ』

「異端の怪人科学を、さらに突き詰め〝怪獣科学〟を称するマッドサイエンティスト……先立っての古龍教会爆破テロも、彼女の仕業だった」

『あの博士(ドクター)であれば、マスター権限を持っていても不思議はありません』

「それどころか、改造した術式執刀者の可能性も高いな……」

 

 元はアステリア王国の優秀なエネルギー研究者であり、考古学部門の魔法省職員でもあった。

 本名、ティファナ・アスタロッテ。

 ミストレス・ガイナは、本人の口癖なのか、事ある事に口にしていた。

 

 ──もはや賽は、投げられたのです。

 ──ご覧なさい? 賽は投げられましてよ。

 ──オーホッホッホ! アーレア・ヤクタ・エスト!

 

「単なる偶然と片付けるには、あまりに印象が強すぎる」

 

 丸木戸サトルは、もしかすると彼女の手で操られているのかもしれない。

 

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 

 一方その頃。

 

(エッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!?)

 

 俺は千里眼で捉えたある人物の姿に、全身を雷で打たれたかのような錯覚を得ていた。

 ──ムチムチムチムチゆさゆさゆさゆさタプタプタプタプふにふにふにふにポヨンポヨンポヨンポヨンたわたわたわたわギチギチギチギチふるふるふるふるバインバインバインバインぶるんぶるんぶるんぶるんふわふわふわふわミチミチミチばるんばるんばるんばるんボインボインボインボインずっしりずっしりずっしりずっしりど・た・ぷ・ん♥

 

(デッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッカッッ──!!)

 

 それは、胸と言うにはあまりにも大きすぎた。

 巨きく、パツンパツンで、溢れんばかりの自己主張で。

 そして、100センチ越えは間違いないと確信するほど、二次元のごとき爆乳だった。

 

 ミストレス・ガイナ。

 黒のタイトな軍服に、大胆に露出された黒ストッキングの両脚。

 爪先を彩るは、光沢に輝く出来た女のハイヒール。

 白衣を思わせる厚手のロングコートを身に纏い、右の袖から覗くのは、凶悪な装甲の戦闘用義手。

 左からは、まるで口径8.8の高射砲(アハト・アハト)を思わせる換装タイプの銃義腕が覗いていて、

 

(全部デッカイ)

 

 豊かに伸ばされた亜麻色に近い金髪含め、左眼を隠した眼帯や、190センチ以上ある身長など、何もかもが異様で度肝を抜く出で立ちだった。

 彼女は、何やら窮地に追いやられている。

 人気の無い廃墟の路地裏で、触手を生やしたショゴスのようなモンスターに囲まれていた。

 

 こ れ は い け な い。

 

 気づけば俺は、ベイパーコーンを発生させて、ミストレス・ガイナのもとに超発進してしまっていた。

 

(だって、あのおっぱいは、何としてでも救わないと──!)

 

 男の本能から来る、それは自分でもどうしようもない衝動だった。

 とはいえ、飛んでいれば理性も働く。

 

(決めたよ、クロエ)

 

 俺、あのおっぱいをフェーズ2に据えるね。

 

 

 

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