【完結】逆転ヤンデレ変身ヒロインと洗脳闇堕ち復帰済みサド改造人間の勘違いドッカンバトルon地球空洞説ファンタジーSF異世界インモラルラブコメ   作:所羅門ヒトリモン

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Episode 4 「嗜虐満喫賢者時間怪獣」

 

 

(め、めっちゃ疲れた……!)

 

 ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ……いや強い。強すぎる。

 クロエって、こんなに強かったのか。

 想像していたよりも遥かに動くの速いし、防御は物理的に硬いし、い、息が苦しい。汗が止まらない。

 しかも、戦闘中ものすごく恐かった!

 

(直前に触覚が拡張されたせいで、掠っただけでもビリビリするし!)

 

 おのれ、ミストレス・ガイナ。

 脅威のデカパイ。

 まさかこんなデメリットがあるとは、なんという孔明の罠!

 せっかく変身して人外魔装で身を守っているのに、これじゃあ生身で戦ってるのと同じじゃないか。

 実際にカラダに傷は負わなくても、感覚が拡張されたってコトは痛覚範囲も広がったってコトだ。

 感度3000倍ではないけれど、アホみたいに臨場感が増して白目剥くかと思ったぞマジで。

 

(クロエが修羅に見えたわ!)

 

 まさか幼馴染の美少女に、こんな想いを抱く日が来るとは思ってもみなかった。

 だが、途中からずっとクロエの後ろに、阿修羅像みたいなオーラを幻視してしまった。

 というか、三面六臂ばりに戦闘手数がヤバくて笑えない。まったく……

 

(──カッコイイなァ、俺の幼馴染は……!)

 

 〈龍騎士(ドラグナー)〉に変身すると、万能感というか全能感というか。

 自分が世界で、一番強くなったような感覚にすごく包まれるのだが、分かっていたつもりでもこれは思い知らされる。

 我が麗しの星、ミッドナイトサン。

 さすがは、白星クロエ。

 世界の平和を実際に、守り続けてきた実績を持つ最強無敵の変身ヒロイン。

 強くてカッコよくて最高だ。

 

(一度懐に入り込まれた時は、終わったかと思ったけど……)

 

 キンタマも震えた。

 でも、なるほど。

 おかげで苦労した分、ご褒美タイムへのトキメキが半端ないぜ。

 クライマーズ・ハイ、って言うの?

 文字通り命を賭けた戦いを経由したコトで、脳内麻薬ドッパドッパ分泌()てる。

 

「フゥゥゥ……!」

「うっ、サト、ル……?」

 

 回復しつつあるクロエを、ズルズルと廃墟の建物に引き摺り込む。

 まだ変身状態は解除されていない。

 戦闘中、何度かバトル・アーマーをエッチに破壊できないか試行錯誤してみたが、現実はマンガやアニメみたいに上手く行かなかった。

 そう都合よく恥ずかしい部分がキワドイ感じで破ける展開なんて、リアル変身バトルには無いのかもしれない。少なくとも、素人には難しかった。

 いや、というか、武器が悪い気がする。

 

(クソ……こんなデッカイ鋼鉄の塊じゃ、そりゃどう考えても生み出せるのは挽き肉(ミンチ)だけでしょ……)

 

 スプラッターホラーなR18Gじゃないんだぞ。

 度し難い。

 手加減がとんでもなく難しかった。

 フラストレーション溜まりまくりである。

 これは可及的速やかに『癒し』を摂取しなければ……

 

 バタンッ!

 

 尻尾を使って建物の扉を閉め、認識阻害の結界を展開する。

 音に驚いたのか、クロエが途中でビクっ! と微かに震えた。

 ハァ、ハァ、やっとこの時が来た。

 広い建物の薄汚れた床にクロエを置き、都合よく天井からぶら下がっていた鎖を引っ張る。

 元は兵器工廠だったのかもしれない。

 ところどころ錆びの入ったフック・チェーンが、天井に張られたレールに沿って、何本もぶら下がっていた。

 そのひとつを、クロエの両腕に巻き付け、バンザイの姿勢になるよう固く縛り上げる。

 

「──な、まさか……私をこんなもので、拘束するつもりですか……?」

「……」

「無意味です、サトル……! 私たちは、〈龍騎士(ドラグナー)〉なんですよ……?」

 

 縛り上げ終わると、クロエの意識はほぼほぼ回復してしまった。

 徐々に強まる抵抗の力が、鎖をガチャガチャ、ギシギシと鳴らし始める。

 だが、この拘束に何の意味も無いかどうかは、もう少し後で判断してもらいたい。

 認識阻害の結界を、何のために張ったと思っているのか。

 俺はクロエの正面に立つと、バサリ、翼を広げた。

 

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 異形の人外魔装が、口元から「フゥゥゥ……!」と荒い息を吐いた。

 引っ張られる力が強い。

 薄暗な廃屋に引き摺られ、無造作に部屋の中央へ投げ置かれる。

 身体機能はまだ、完全には回復しきれていない。

 だけど、手足の痺れはじきに治るだろう。

 クロエは揺れる視界のなか、大好きな幼馴染がガチャガチャと鎖を鳴らし、こちらを拘束する姿を見つめていた。

 

 縛り上げられる両腕。

 吊るされる上半身。

 

 サトルは強引で、苛立っていて、獣のように荒々しくクロエを扱う。

 優しい彼の、普段とはやっぱり違う豹変した姿。

 今朝まではたしかに、あたたかに髪を撫でてくれていたのに。

 そんな彼が、今や別人のように、クロエのカラダに触れてくる。

 

(──鎖で身動きを封じる? 無意味ですッ)

 

 〈龍騎士(ドラグナー)〉の膂力は、この程度の鋼鉄、容易に引きちぎって破壊できる。

 しかし、少年はクロエの言葉を無視し、静かに正面に回ると、おもむろに両翼を広げた。

 人間ひとりくらいなら、容易に覆い隠せる邪龍の翼。

 それが、ゆっくりとクロエと少年を一緒に包み込む。

 

「ぇ、な、なにを……?」

 

 突然の行動に意図が掴めず、思わず動揺してしまう。

 そんなクロエに、極夜の〈龍騎士(ドラグナー)〉はどんどん至近距離まで迫り、翼の檻を狭めた。

 擬似的な密室空間が形成され、周囲の状況が完全に分からなくなる。

 と、というか……

 

「ぇ、あっ、サトル……?」

「────」

 

 マスク越しとはいえ、想い人の顔がキスできそうなほど近い。

 心臓がドキリと弾み、今はそんな時じゃないと分かっているのに、頬の熱を止められない。

 しかも、たじろぐクロエに少年はどんどん顔を近づけて、首元や腋、うなじのあたりを、舐めるように移動した。

 何をしているのか、一瞬理解できずに困惑したが、そこで再び「ハァァァ……!」という男の息遣い。

 

「──ぁ、うそ! ちょ、サトルッ!?」

 

 ()()()()()()()()()

 互いの呼吸が肌に触れるほどの距離。

 これだけ近づかれれば、外装の上からでも匂いは分かるだろう。

 なにせ、つい先ほどまで、クロエたちは命を懸けて戦っていた。

 本気の戦い。

 汗だってたくさんかいた。

 〈龍騎士(ドラグナー)〉のバトル・アーマーは重厚だが、だからこそインナースーツの中は蒸れ蒸れで。

 カラダの匂い。

 よりにもよって、こんな擬似密室状態で、好きな人に嗅がれて──?

 

「──ッッ!!」

 

 恥ずかしさから、思わずカラダをよじって離れようとする。

 だが、両腕は鎖に繋がれていた。

 思わぬ動揺と緊張のせいで、力が出ない。

 カラダ自体も、翼の檻のなかで囚われてしまっている。

 少年は変わらず無言のまま、少女の(おとがい)を片手で掴むと、強制的に元の位置へ顔の向きを戻した。

 

 ──ニヤリ。

 

 表情は分からない。

 兜鎧の下は見えていない。

 けれど、分かった。

 楽しんで、いるのだ。

 愉しんで、いるのだ。

 羞恥に震えるクロエを見つめて、それは明らかに喜んでいる様子だった。

 

「や、やめっ、サトル!」

「────?」

「お願いだから、そんなコト、しないでください。私、ほら、くさい、でしょう……?」

「…………」

 

 言うと、少年は数秒、こちらの言葉を吟味するように首を傾げた。

 だが、クロエがそのまま二の句を続けて、説得を試みようとしたところ、

 

「な──サ、サトル……!?」

 

 ()()()()

 アーマーを破壊された。

 肩の部分の外装だった。

 力づくで引き剥がされ、胸部装甲とも繋がっていたため、一気にカラダの重みが軽くなる。

 露出したインナースーツ。

 斜め上から袈裟斬りのようにシルエットを暴かれ、先ほどよりよっぽどしっとりとした空気が、潤んだ熱気が、ふたりをジワリと包み込んだ。

 そこを、少年は同じように、なぞるように匂いを辿り。

 辿り終わったかと思えば、今度は手を突っ込んで指先で触れてくる。

 鋭く、硬く、凶悪的な爪の手甲が、柔らかな少女の肌を鼠径部から上へ。

 丹田、臍、脇腹、腋、鎖骨、首筋。

 滲む汗の雫さえ掬うように、ハッキリと感触を残していった。

 こんな愛撫、クロエは一度として受けた経験が無い。

 

(っ……違うのにッ)

 

 今の丸木戸サトルは、本当の彼ではないはずなのに。

 それでも、分かっているのに喜びがあった。

 触られている事実だけで、どうしようもなく込み上げてくる嬉しさがあった。

 やがて、彼の手がクロエの胸元へ伸びる。

 

「──ぁ……!」

 

 同年代に比べても、発育に優れた自覚を持つそこは、インナースーツの中で実は窮屈に押さえつけられていて。

 輪郭をくすぐられると、あまりの刺激にビクンッ! と反応を隠せなかった。

 餅のように捏ねられ、牛のようにむぎゅぅ、と搾り、歪められ──

 

「んっ、ぃや──あぁッ!」

 

 疾うの昔に心を許している男からの愛撫。

 残酷で卑劣な、それは決して抗いようのない快感。

 

(なん、て……ひどい……!)

 

 今度の敵は、こんな甘やかな毒まで使って、クロエを苦しめるつもりなのか。

 クロエは腰が抜けてしまい、ガクリと脱力してしまった。

 両腕は依然として、天井からぶら下がった冷たい鉄の鎖に繋がれている。

 拘束は破れない。

 少しの時間を置かないと、全身に力を入れられない。

 そんなクロエの状態に、最凶の〈龍騎士(ドラグナー)〉は満足でもしたのだろう。

 

「……ハァァァ……」

 

 最後にまた大きく息を吐くと、翼を開けて徐々に離れていった。

 背中を向けられる。

 

「ま、待って……」

 

 それでも、声をかけられたのは愛情ゆえの意地。

 

「絶対に、助けますから……」

「──」

「貴方を必ず、取り戻してみせますから……!」

「…………」

 

 言葉は無く。

 然れど、わずかに振り返りかけたような、刹那の逡巡。

 丸木戸サトルは、やはりそこにいる。

 クロエは確信に涙を零し、幼馴染の去る後ろ姿を、そのまま執念で見逃さなかった。

 

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 

 フェーズ3が完了した。

 なんか肌の潤いが違う気がする。

 世界が明るい。

 人はオキシトシン、セロトニン、ドーパミン。

 俗に幸せ三大ホルモンって呼ばれてる神経伝達物質が分泌されると、心身がリラックスして幸せを感じやすくなるらしいが、今の俺はまさにそんな感じだ。

 長年秘め続けた欲望を解き放ち、ついにやった、やってやったぞ! って感慨でいっぱいである。

 

「──フゥ」

 

 動物たちが棲む森や自然を守りたい。

 環境保護や動物保護の活動なんて、今まで一回もやったコト無いけど。

 よく考えれば、人間も動物の一種だしな。

 おいでよマゾメスの森。

 そんな森があれば、今後は全力を尽くして保護活動にこの身を捧げよう。

 

(あ〜〜、楽しかった!)

 

 ノシノシ、ノシノシ。

 気分爽快になったところで、建物の外に出る。

 とはいえ、クロエが泣いちゃったのは、やっぱり少し罪悪感。

 プレイの最中の涙は、それはもうとても格別で大変おいしゅうございましたが、終わった後の真心から来た悲嘆。

 あれにはちょっと、心を揺さぶられた。

 

(そうだよなぁ……クロエからしたら、真剣に俺を助けようとしてくれてるんだもんなぁ……)

 

 なのに、当の俺が変態でごめん。

 でも、もう少しだけ耐えてくれ。

 フェーズ3が終わった以上、あと残っているのは後半戦だけだ。

 この後はどこかタイミングを見計らって、いい感じに洗脳に抗ってるムーブを披露して、状況次第ではそのまま復活の流れでもいいだろう。

 

(なんか、思ってた以上に〝俺っぽさ〟を見破られてるっぽいし……)

 

 下手な芝居が長続きしても、こうなってくると困るのはこちらだ。

 なので、ミストレス・ガイナには悪いが、数日中に洗脳支配から脱却()し、クロエのところには戻ってしまおう。

 すべては幸せなキスをして、ハッピーエンドを掴むため。

 歪んだ愛のカタチかもしれないが、俺たちのあいだにあるのは間違いなく純愛だ。

 夢も叶ったし、ここから先は一直線に駆け抜けていくぞ!

 

「…………」

 

 瓦礫だらけの廃墟を、空を飛んで移動する。

 ふよふよ、ふよふよ。

 空を飛ぶのって楽しいね。

 それにしても、このあたりってやけにガイアフォトンが多いんだな。

 結晶化した翠色光子とか、初めて見たかもしれない。

 ひび割れた地面の隙間から、雑草のように生える結晶。

 色はエメラルドグリーンとも、トルコブルーとも言える綺麗な淡色をしている。

 

 しかし、高濃度に凝縮されたガイアフォトンは、生物の重要器官に取り込まれると、『突然変異』や『埒外進化』をもたらす。

 

(見た目は宝石みたいだけど……)

 

 異世界モノのWeb小説に、よく魔物の体内には魔石がある、なんて設定があるだろう?

 ホロウ・アースの怪物と怪人は、まさにそれで、体内にガイアフォトンの結晶を備えているのだ。

 霧状のガイアフォトンなら、吸っても別に無害ではあるらしい。

 が、結晶の場合は危険だ。

 欠片であっても、高確率で変異が免れない。

 古龍教会も、だからその辺を突いて、ガイアフォトンを『異端』だって排斥したんだよな。

 

 俺的には、怪人化もロマンがあって良いとは思うのだが。

 

 タコ怪人とかイソギンチャク怪人とか、触手があって良くない?

 植物型怪人でもいいけど。

 実用性バッチリで、色々はかどるだろうし。

 

(──ん?)

 

 と、そこで。

 俺は辺りに、異変を認めた。

 揺れ。

 大きな揺れだ。

 地震。

 いや、雪崩に近いかもしれない。

 地響きのような、腹の底に深く伸し掛る不吉な音。

 

(……オイオイ、なんだぁ?)

 

 まだ、ミストレス・ガイナも見つけてないのに。

 あのおっぱい、どこ行ったんだよ。

 千里眼使ってるのに、なかなか見つからないな?

 

(とか、思ってところだったんだが)

 

 まさか、まさか。

 いや、たしかに()()()()()()()()()

 怪物でもなければ、怪人でもない。

 ミストレス・ガイナは、自身の研究を認めなかったホロウ・アースへの意趣返しに、原始の怪獣たるアルファ・ドラゴンへの皮肉を込めて、〝怪獣科学〟を標榜した。

 かつての敵が自分のもとに現れて、すぐ近くで戦闘行動を開始すれば、脅威に思うのも頷ける。

 

 

「GYAOOOOOOOOOOOOOOO──ッ!!」

 

 

 虎の子を起動したか。

 それは、全長五十メートルにも及ぶドラゴン。

 素体:T-REXと思しい怪獣の鳴動で。

 空には白衣風のコートをはげしくはためかせる、眼帯を外した爆乳が虚空に仁王立ちしていた。

 ガイアフォトン結晶の光を放つ歯車式の義眼。

 その視線が、ジロリとクロエの居る建物を睨み、

 

「ミッドナイトサン……あなたがそのつもりなら、わたくしも覚悟を決めましたわ……さあ、決着をつけるとしましょうッ!」

 

 …………あー

 

「わたくしはもう、誰にも奪わせない。やりなさい──!」

 

 翠色の光子が、怪獣の口元に渦を巻いて収束される。

 その意味するところは、超々高濃度のガイアフォトン・ドラゴンブレス。

 脳内に鳴り響き始めるは、童心の日のバックグラウンドミュージックの再生。

 デデデン、デデデン、デデデデデデデデデン。

 デデデン、デデデン、デデデデデデデデデン。

 

 けれども。

 

 それは、さすがに──

 

「 ダ メ だ !」

 

 思った直後、カラダは勝手に射線上に飛んでいた。

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 殺される、と思った。

 奪われる、と思った。

 

 二騎の〈龍騎士(ドラグナー)〉が戦闘を始め、縦横無尽に旧軍基地を破壊して回るかたわら。

 ミストレス・ガイナは心底から恐怖し、尋常の精神状態ではなくなっていた。

 

 殺される殺される殺される。

 奪われる奪われる奪われる。

 

 たった数分前、『弟』を失くしたばかりなのに。

 新たに見出した生きる希望、人生の〝よすが〟さえも、このままでは手元から離れる。

 

 対話による交渉は不可能だった。

 賽は投げられた。

 

 ホロウ・アース最強の魔法使い。

 白夜の〈龍騎士(ドラグナー)〉、ミッドナイトサンは、間違いなく殺意の封を解いていた。

 

 親しい間柄なのだろう。

 たしか、幼馴染と呼べる関係性だったか。

 つまりそれは、小さな頃から互いを知っていて、一緒にいるのが当たり前のような人生で。

 

(きっと誰より……大切に想っているのでしょうね?)

 

 想像にかたくない。

 

(だって、わたくしだって()()でしたわ……!)

 

 だから分かるのだ。

 愛する人を誰かに奪われる。

 そんな現実は到底受け入れられないし、見過ごせない。

 ミストレス・ガイナは──ティファナ・アスタロッテは、ゆえに古龍教会を壊滅させようと報復に動いたのであって。

 

 ならば、今まさに想い人を取り返そうと懸命な彼女。

 ミッドナイトサンの行動は、あの日のティファナと何も変わらない。

 

 ──殺すのだ。

 

 理由はある。

 気持ちは痛いほど、通じている。

 だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

(拠り所にしたのは、あなたが先なのでしょう……)

 

 それでも、こっちだって彼がいなくてはダメなのだ。

 愛情はもう芽生えている。

 慕情はもう胸いっぱいに満々だ。

 略奪愛、代償行為? 大いに結構!

 そこで止まれるくらいなら、そもそもティファナ・アスタロッテはミストレス・ガイナになどなっていない!

 犯罪者になどなっていない!

 

(殺されるくらいなら、奪われるくらいなら!)

 

 殺す。

 奪う。

 犯して幸せになる。

 

 ゆえに、眼帯を外した。

 

 怪獣科学の母。

 ホロウ・アースで最も翠色光子(ガイアフォトン)を理解している科学者として、この身は疾うの昔に怪物たち、怪人たちの女王なれば。

 ガイアフォトンによって既存の生体規格を脱却し、進化した古生物とて支配の内側である。

 義眼はそのための制御装置。

 

 銘を──『擬・大地母神(ミストレス・ガイナ)

 

 母なる大地ガイアの〝擬き〟にして、新世界に問う星の覇権。

 旧きドラゴンの神秘など、いずれ必ず凌駕せんと咆哮する人類の最先端である!

 

(……まだ試験段階で、確立した制御技術ではありませんが!)

 

「ミッドナイトサン……あなたがそのつもりなら、わたくしも覚悟を決めましたわ……さあ、決着をつけるとしましょうッ!」

 

 T-REX βドラゴン。

 元々は古龍教会を襲撃するため、次なる一手として準備していた奥の手だが……構わない。

 なぜなら、

 

「わたくしはもう、誰にも奪わせない。やりなさい──!」

 

 寂しいのはもう、イヤなのだ。

 ティファナは義眼を駆動させ、不可視の神経網をT-REX βドラゴンに接続。

 命令(オーダー)を実行した。

 

 翠色の光子が、渦を巻いてドラゴンブレスの前兆となる。

 

 ──なのに。

 

「な、どうして……!?」

 

 ティファナは見てしまった。

 新しい『弟』、幸せな家族、見出した希望──極夜の〈龍騎士(ドラグナー)〉が。

 まるで白夜を、守るように射線へ瞬間移動したのを。

 戦っていたのに。

 ついさっきまで、あんなに剣をぶつけ合っていたのに。

 

「この土壇場で、まさか、取り戻したんですの……!?」

 

 丸木戸サトルは、ティファナ・アスタロッテを選ばないとでも言うかのように。

 

「いや! ぁ、でもっ、〜〜! クッ!」

 

 動揺からガクリと膝が崩れかける。

 懊悩は沼のように底が無かった。

 しかし逡巡はした。

 ティファナは咄嗟に、T-REX βドラゴンにキャンセルを命じ──

 

「……!? そんな、ダメですわ!」

 

 超々高濃度のガイアフォトン・ドラゴンブレス。

 怪獣は待ったなど聞かない。

 ゆえにそれは最大限に放たれた。

 

 アステリア王国、国境線。

 旧防衛軍基地跡地。

 

 打ち捨てられた廃墟区画に、翠色の光輝が刹那氾濫し──

 

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 

 治安維持管制室は、迫るタイムリミットに追われていた。

 

「まずいまずいまずいまずい!」

「各省庁への通告終わりました!」

「インフラ維持局への警告は!?」

「主要な大企業への非常通告はしたか!?」

「あと少しで終わります!」

「急げ急げ急げ急げッ!」

「現場周辺区域の時空間凍結処理もやれ!」

「絶対に被害を最小限に抑えろ!」

 

 鳴り止まぬ警報(サイレン)に赤色に染まった省内。

 治安維持管制室の職員は、皆が最善を尽くさんと全霊を燃やしていた。

 誰も彼も、余裕のある顔はしていない。

 開ききった瞳孔。

 ダラダラと流れる汗。

 息を乱していない人間はおらず、訓練を受けているはずなのに、全員の冷静さが削られている。

 しかし、それも(むべ)なるかな。

 治安維持管制室の頂点である室長、オンドゥール・ラギタデスカでさえも、この局面になっては脂汗を流しているし、お腹を抑えずにはいられない。

 

「ぬっ、ぬおぉッ!」

「し、室長! 薬を!」

「……要らん! これ以上は過剰摂取で、逆効果だ……!」

 

 補佐官から差し出された常備薬と水の入ったコップに首を振り、オンドゥールはギュルギュルと痛む胃に鞭を入れながら室長椅子を立ち上がる。

 治安維持管制室──いいや、ホロウ・アース全土が危機に追いやられている状況で、呑気に胃薬など飲んでいられない。

 

「我々は国際的な治安維持の、最後の防衛ライン……!」

 

 オンドゥールは部下たちのサポートに回った。

 

「──現場周辺区域の時空間凍結処理は引き受ける!

 オマエたちは急ぎ王国の主要魔法式の防衛に入れ! もちろん、非常用魔法式のスタンバイもだ!」

「「「ハ、ハッ!」」」

 

 特一級の災害対策と同様のプランに従って、治安維持管制室は火の車を回すように手を動かす。

 ミストレス・ガイナの行動は、そんなにも危急を告げる災いなのか。

 収束したガイアフォトン。

 ドラゴンブレスによる広域の汚染。

 人里に影響が広がれば、たしかに甚大な被害をもたらすコトが想定されるが……〝世界の危機〟と言われると首を捻る。

 

 では、彼らがここまで慌て、血反吐を吐きそうになりながら、それでも職務を遂行している理由とは──?

 

「クソッ──()()来ました!」

「『極夜』出ますッ!!」

 

 答えは、最初からひとつに決まっていた。

 赤色灯の警報(サイレン)は、そも何を検知し発砲されたのか。

 ホロウ・アースは忘れてはいない。

 全ての(そら)の夜に光る大いなる星の図式に接続し、最凶の名を冠するモノ。

 すなわち!

 

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 

「──魔法式『真冬の闇をもたらす者(midvintermörker)』発動。

 我は遍く光を鎖す凶つ星。

 星光を堕とす極夜の〈龍騎士(ドラグナー)〉──!」

 

 解号の完全詠唱。

 以って、薄闇色の異形を中心に、極夜渦も顕現。

 

 〝Polar Night Vortex〟

 

 地上においては、北極及び南極の両極上空に生まれる大規模な低気圧。

 ならびに、それを取り囲む強風領域──ポーラーサイクロンにも似た気象現象。

 ジェット気流が吹き荒れ、気温は極夜の擬似展開によって著しく低下。

 約-78°から-85°の放射冷却下で極成層圏雲、真珠母雲まで発生。

 既存の気象現象の法則をも無視し、異常な渦型の嵐が形成される。

 

 端的に言って、それはこの世の地獄に他ならない。

 

 そして、それらに呑まれた端から端に。

 ホロウ・アースに遍く魔法式は、秩序を乱され破綻。

 超常を成す異星の輝き。

 アステライトもガイアフォトンも、そこに何の区別もなく極夜の嵐に式を乱されエラーを大量に出力!

 

 極夜の〈龍騎士(ドラグナー)〉、ミッドヴィンターメルカーとは。

 

 言うなれば、ホロウ・アースの文明に直接攻撃が可能な異端の魔法式。

 

 ネガ・シヴィライゼーション。

 アンチ・オルタナティブ・プラネット。

 

 ゆえに──最凶。

 

 三ヶ月ほど前まで、ホロウ・アースを恐怖の底に沈めていた人型の厄災。

 市街地や国の主要な組織拠点に突撃されれば、一手で致命傷を与えられるリーサルウェポンに他ならなかった。

 

 翠色の光、ガイアフォトン・ドラゴンブレスは、極夜の渦嵐に呑まれ消滅。

 

 ミストレス・ガイナ命名、T-REX βドラゴンも、完全にその生体反応をロスト。

 旧防衛軍基地跡地には、今後十年は魔法を発動できない汚染が刻まれてしまった。

 

 凄惨な被災地。

 

 なのに、犯人である二名の姿だけが、最後には消えていて。

 魔法を使えなくなったため、白夜の〈龍騎士(ドラグナー)〉ミッドナイトサンは、千里眼による追跡を断念せざるを得ず。

 治安維持管制室もまた、打つ手を失い事件は一時暗礁に乗り上げる形になった。

 丸木戸サトル。

 ないしミストレス・ガイナが、再び表舞台に姿を現すまで、彼らは震える日々を過ごすだろう。

 

 一方で。

 

「──あっ! あっ!」

「いけない女性(ひと)だな。あんな危ないもの、人に向かってけしかけちゃ、ダメだって分からなかった?」

「ご、ごめんなさい……!」

「──オイオイ。そんな簡単に謝って、本当に分かってるのかよ? バカみたいにデカいおっぱいぶら下げやがって。賢ぶってるけど、本当は頭に必要な栄養をぜんぶ胸に吸い取られてるんじゃないだろうな?」

「そ、そんな! さすがにそれは、ひどい言いがかりですわ……!」

「アァン?! 口ごたえするなこの犯罪者め! 『仕置き』はまだ終わってないぞ!」

「あっ! ああっ……♥」

 

 当の二名は、なんか楽しそうにやっていた。

 

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 

「…………」

 

 その音声を、地上の技術で盗聴されているとも知らずに。

 

 

 





一話1万字を目処にしてるので、次話の更新は遅くなります。

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