「……うむ。少なくとも攻撃力という面では敵うことはないな。今ここで暴れられたら…少し厳しいかもしれん」
「……月城ちゃんにそこまで言わせるのかいあの男は」
「……得体の知れない奴よ」
「それは同感だね」
「……それにしてもあの男……何処かで見たことが…」
「あの剣の冴え……只者ではありませんね」
「剣についてはあまり見識はありませんけど、素人目から見ても凄いということはわかりますわ」
「……………まるで、武術の達人のような」
「…?何か言いまして?」
「いえ、別に」
「………はっ!」
「どうかしましたか白川さん?」
「今、天啓が降りた…!」
「なんと」
「必ず基地に連れ帰りイチャラブをみせろ……?どう言うことなのだ天啓よ…!」
「……白河さん」
「ち、違うのだ桐生!コレは天啓が……………」
「30G…俺達の1個下の同胞か……。相変わらずセラフ部隊は個性豊かだな…」
「つまり、あなたは死んでも何処かで必ず蘇生する体質だと……」
聞いた話を咀嚼し簡潔にまとめてみたものの、あまりにも現実味がなさすぎて頭痛がしそうだ。
宇宙外生命体が侵略して人類が危機に瀕しているこの状態だって、まるでよくできたSFそのもので現実味がないかも知れないが、それはそれ。
いくらこの【基地】に才能ある少女が集められても、〝不死者〟はあまりにも理解を拒む。
眼の前の男。
淀んだ白髪。
元は黒髪だったそうだが、ストレスによって変色したと過去に彼自身が明言していた。
漆黒の瞳は『死んだ目』と称されても遜色無いほど光を灯していない。
ジッと見つめられると妙な迫力がある。
……所属していた頃はもっとハイライトがあったと思うが、ここに来るまでの野生生活でまた戻ってしまったのだろうか?
動物の毛皮で作ったと思われる衣服は見た目的にも衛生的にもよろしくなかったので、彼の所属していた頃の制服を着させたため、今は黒いスラックスと群青色のブレザーを身にまとっている。
「ああ。というか、俺が所属していた頃もそう言っていた筈なんだが…」
「知らなかったの?あなた、『自称不老不死』だと認知されいたわよ」
そう伝えれば、動かなかった表情筋がピクリと動く。
苦々しい表情を浮かべた彼は何やらボソボソと呟いている。
「…てことは何か?俺は『不老不死を自称する頭のイカれた中二病患者』って思われていたって事か…。キツイぞこの年齢になって中二病に間違えられるとか……。それはもう百年以上前に卒業して…ああ…黒歴史が……!クソすぎるぞ…俺…!」
「急に大きな声を出さないでもらえるかしら」
「……すまん」
色々と謎の多い彼だが、一先ず帰還を祝ったほうがいいだろう。
それと、彼女にも……。
「聞きたいことがある」
「何かしら」
「…〝あの作戦〟によって出た…被害は」
「……28系部隊のほぼ全滅。生き残ったのは極僅か。29系では……蒼井えりかさんだけよ」
そう伝えれば、彼は
それは、矛盾を多くはらんだ。
そんな痛々しい表情。
それは、あの時の蒼井さんにとても似ていて。
でも、直ぐ様それは消え去った。
「…………教えてくれてありがとう」
「ええ…。これからも、よろしく頼むわ。近々部隊の再編成があるから、それまで待機していて頂戴」
「……くそっ」
そう言ってみたものの心に溜まったモヤモヤとした感情は拭えない。
蒼井が生きていて良かった。
そう素直に喜べるほど、俺は
28系部隊の先輩達との交流はとても少なかったが、それでも顔見知りはいた。
29系部隊とは作戦を共にした。仲が特別良かったのは蒼井だけだったが、それでも話すやつは居た。気遣ってくれたやつも、俺が戦い方を教えたやつも居る。
その人達の顔を今でも鮮明に思い出せる。
そして、時々忘れそうになる。
『俺は死んでも大丈夫』
だけど。
『俺以外は死んだら終わり』
単純でそれでいて絶対の法則。
死者は喋らない。
死者は動かない。
死者は…帰ってこない。
俺だけが異常。
俺だけが世界の理に反し続けている。
それを忘れちゃならない。
それを忘れてしまえば、俺は……。
『人間』で居られなくなる。
導かれるように俺の脚は動く。
気の向くまま、思い出を辿るように一つ一つ見ていく。
あの頃にはなかったものもある。
心地よい風と雲一つない快晴の空の下俺は歩き続けた。
任務に出払っているのか、閑静な様子は寂しい。
たまに見かける人は見ず知らずの人で、懐かしいはずなのに疎外感に見舞われる。
歩いて歩いて歩いた。
その果てに俺はナービィ広場の大樹の前に立っていた。
休日や自由時間は暇さえあればここで横になって寝ていた。
そんな俺を蒼井は無理矢理起こしてアリーナまで連れて行くのが俺の日常だった。
面倒臭いと言いながらも俺はその日常を楽しんでいたんだ。
大樹に触れる。
懐かしい。
本当に、懐かしい。
「リン…君…?」
ザァ……と風が吹いた。
木の葉が踊った。
懐かしい。
この心地よい音も光も声も……。
振り返ればそこには。
あの日と変わらない君が居た。
「…………蒼井」
信じられないものでも見たかのように、君はぽかんと呆けている。
一歩近づく。
無意識だろう。
現実を拒絶するように、蒼井の足が一歩後ろに下がる。
それでも構わず、蒼井が下がる一歩よりも大きい一歩で歩み寄る。
一歩、また一歩とその距離を縮める。
そうして、手を伸ばせば触れられる距離まで来た。
にも関わらず、蒼井はぽかんと呆けている。
そっと手を握る。
ビクッ…!!
とその身体が跳ねる。
「ただいま…蒼井。帰ってきたぞ」
瞬間。
蒼井は静かに涙を流す。
太陽の温かな光に照らされた涙はキラキラと輝き落ちていく。
あの日固まった歯車が噛み合い、動き出した気がする。
嘘だと思った。
だって、君の体温が冷めていくのをこの腕の中で感じたんだ。
徐々に徐々に。
冷めていく君の身体を。
血が流れ、私の制服を赤く染めていく君の亡骸をずっと抱いていた。
いつまでもいつまでも。
覚えている。
その温かな笑顔も。
時折輝かせる君の瞳も。
性差を感じさせる低い声も。
頼もしいゴツゴツとした大きな手も。
「ただいま…蒼井。帰ってきたぞ」
その手の温もりを忘れるわけがなかった。
神様…こんな奇跡を私に与えてくれていいんでしょうか?
こんなご褒美を私にくれていいんでしょうか?
涙が溢れて止まりません。
温かな手を握り返します。
確かにそこに存在する君という存在を噛み締めます。
……あぁ。
これが夢ならば、なんて残酷な夢なんだろう。
これが現実ならば、私は…私は…………。
感情のままに彼を抱きしめます。
驚いて固まる彼の胸に顔を埋める。
「やれやれ」と言いながら私を抱きしめる彼。
温かい。
日だまりにいるような……そんな温かさ。
とても、とても久しぶりに、涙を流しました。
その日は蒼井にとって忘れられない日になりました。