リバイバルスター・アーカイブ (ジョジョ×ブルアカ) 作:バハキネコ
※本編を読む前の皆様へ
この小説は「ブルーアーカイブ」と「ジョジョの奇妙な冒険」のクロスオーバー二次創作です。そのためブルアカ及びジョジョのネタバレを避けたい方はブラウザバックを推奨します。
承太郎と徐倫の親子が当たり前のようにキヴォトスで生活しています。
ブルアカはカルバノグの兎編第2章までの要素を含む予定です。それ以降の要素も含む可能性はあります。ジョジョは第6部(ストーンオーシャン)までの要素を含みます。第7部以降は未読了でも大丈夫です。
また、登場するキャラクターに原作にはない(明言されていない)独自の解釈を加える場合があります。簡単に言うとキャラ崩壊です。そこまで大幅に改変することはしませんが、大目にみていただけると助かります。
誤字脱字の指摘は大変ありがたいので見つけたらぜひコメントしてください!よろしくお願いします。pixivでも同じ名前、同じ内容を投稿しております。
投稿頻度は不定期かつ遅めになると思われます。完走できるかな。温かい目で見守っていただけると助かります。
空条承太郎はミレニアムサイエンススクールに足を運ぶことが多い。
シャーレの先生としてよくセミナーと仕事の話をしにくるというのもあるが、『スタンド』について特異現象捜査部があれこれと調査しているのに協力している。また、かの邪悪なる意思をついだ神父に殺された世界、つまり元の世界では学者だったことを活かして海洋生物学の講演会をしにくることもある。
C&Cの戦闘訓練に付き合うこともあり、中でも美甘ネルはキヴォトスでも数少ない、承太郎との実戦訓練(使う弾は安全を考慮してゴム製)でスタープラチナの時を止める能力を使わせた実力者だ。ちなみにこういった模擬戦闘は要望があれば他校の生徒ともする。
その日は講演会をしに来ていて、それがひと段落したからシャーレに戻ろうとしていた。タクシーでも呼ぼうかとスマホを取り出したタイミングでちょうどよく電話がかかってきた。「明星ヒマリ」と画面に表示されている。特異現象捜査部の自称天才病弱美少女ハッカーだ。承太郎は通話開始のアイコンをタップしてスマホを耳に当てた。
「もしもし。何の用だ、ヒマリ?」
『こんにちは、空条先生。先生は今日講演会をなさったと聞いておりますが、まだミレニアムにいらっしゃいますでしょうか?』
「ああ。今まさに帰ろうとしていたところだ。」
『あらそれは申し訳ないことをしましたね。ですが、一度特異現象捜査部の方に来ていただけないでしょうか?先生にご相談したいことがありまして。』
「それはスタンドについてのことか?」
『どうでしょう。キヴォトスの神秘に分類されるかもしれませんし、スタンドに関係するのかも知れません。ですので先生にも見ていただきたいのです。』
「そうか。わかった。すぐに向かうぜ。」
『はい、お待ちしております。では。』
通話を終えると、承太郎は回れ右をしてもと来た道を戻った。校門からの道中でランニングをしていたスミレに一言の挨拶をされたり、おやつの買い出しに出掛けていたモモイに手を振られたりして、そしてエイミに出会った。彼女は正門の日陰になっている場所に待機していて、承太郎を見つけると手招きをした。
「こんにちは先生。」
「よう、エイミ。」
「部長に呼ばれたんだよね。昨夜アビドスの砂漠で変なものが観測されたから、それを相談したいみたい。」
「アビドスで変なもの、だと?ビナーとかいうあの機械仕掛けの大蛇のことじゃあないのか?」
「ううん。全然違う。デカグラマトンに関連したものではない、と思う。ものすごくピカピカとした何か。詳しいことは部長から聞いて。それと、飲み物くらいは出すけど何か希望はある?」
「そうだな、コーヒーを頼む。ブラックだ。」
「わかった。とりあえず部室に向かおう。」
そうしてエイミに案内され、広いミレニアムの敷地を迷いなく進み、やがて特異現象捜査部の部室に辿り着くいた。エイミが先にドアを開けて中に入り、承太郎はそれに続いた。余談だが、承太郎が部屋に入る時は頭をぶつけてしまうので少し頭を下げていた。大小様々なモニターに囲まれている部屋で、その画面をちょうどよく一望できる場所に置いてある机にヒマリがいた。
「ただいま部長。先生連れてきたよ。」
「おかえりなさいエイミ。そして改めてこんにちは、先生。お待ちしておりました。」
「ヒマリ。エイミからアビドスで何かあったと聞いている。さっきの電話で、もしかするとスタンドに関連している、といっていたが。」
「そうなのです。まずはこちらの映像を見ていただきたいのです。椅子はこちらに用意してありますのでどうぞおかけください。」
承太郎は言われた通り用意された椅子に腰掛けた。ヒマリが手に抱えているタブレットを操作して、その画面を目の前の大きなモニターと共有させる。廃れた駅や線路に砂塵の舞う砂漠、夜空に輝く満月の光。アビドスの郊外に広がる夜の景色だ。
「アビドスの砂漠地帯の方だな。」
「先生には以前、エイミと一緒にビナーの調査に向かっていただいたことがありましたね。それ以来アレを監視できるようにカメラを設置しているのです。アビドス高校の方々にはちゃんと許可をとってありますよ。」
「部長が事前に連絡をいれて交渉には私が直接出向いたんだけど、アビドス側は二つ返事で了承してくれた。危機管理するにも人手不足だからありがたいって言ってた。」
いつの間にかインスタントのコーヒーを作り終えていたエイミが湯気の立つマグカップをそれぞれに配りながら会話に混じった。
「砂漠地帯のあちこちに何ヶ所か設置してあって、今回はそのうちのひとつを見てもらうよ。徒歩じゃあ辿り着けないほどの奥地の映像。」
「そうか。了解した。ヒマリ、映像を再生してくれ。」
わかりました、と言ってヒマリは映像を再生した。最初はただ砂漠で砂が風に乗って流れるだけだったが、10秒経つと異変が訪れた。
画面の中心、その下の方で何かが砂から飛び出した。カメラから遠い位置のようだ。小さくて見えにくい。さらにものすごく強い光を放っていて、見えにくさに拍車をかけていた。
やがてそれは、ほぼ垂直に空高く飛んでゆく。そしてある程度の高度、地上からおよそ15メートルほどだろうか、そこまで達するとまるで爆発でもくらったかのようにいくつものパーツへとバラバラになった。そしてそれらは全て一瞬さらに強い光を放ち、次の瞬間にはまるで何もなかったかのように画面から消えていた。
「・・・以上です、先生。私の方でもこの映像からできる限り分析をしてみたのですが、『光って浮遊する何か』としかわからないのです。先生はこれが何かご存知だったりしますか?」
ヒマリにそう問われるが、承太郎は首を横に振った。物体の放つ光が強すぎるあまり、その大きさや輪郭などをぼかしてしまっていてやはり何も伝わってこないのだ。すまない、と一言謝罪する。
「いえいえ構いません。ですから、先生にはあれが何なのかを確かめていただこうかと思います。とは言え何も手掛かりをつかめていない状況でして。この映像は深夜3時頃のものですが、キヴォトス中の監視カメラやSNSに目撃情報が一切ないのです。」
「あまり面倒なことにならなきゃあいいんだがな。」
「そうですね。徐倫さんにも映像を送っておきましょうか?」
「ああ、頼む。わたしが用事で手がつけられない時は、この物体の調査を徐倫にさせる。」
ヒマリは手にしているタブレットでモモトークを開き、『空条徐倫』に映像付きのメッセージを送った。すぐに既読がつき、しばらく後に『わかったわ。また何かあったら連絡してちょうだい』とメッセージが送られてきた。ヒマリは『よろしく』というセリフ付きのモモフレンズのスタンプを送信した。
「ところで先生、せっかくエイミがコーヒーを淹れてきたのですし、しばらくゆっくりしていきませんか?この後ご予定がなければの話ですが。」
「いいや、シャーレに帰ってちょいとばかし書類を片付けるだけだ。」
「でしたら是非、この天才病弱美少女ハッカーとのひと時を楽しんでくださいな。あの謎の物体の件については焦っても仕方ありませんし、気長に待ちましょう。・・・エイミ、コーヒーに合うようなお菓子を用意しなさい。」
「はいはい、部長の命令なら仕方ない。」
エイミは立ち上がって何かちょうどいいお菓子がないか探しに行こうとしたが、ふと机の上にあるものを見た。エアコンのリモコンだ。『冷房 25℃』という数字が表示されている。
「ああなるほど。なんか暑いと思ったら。」
そう言うや否やサッとリモコンを取り上げ、温度を下げるボタンを連打した。さすがはミレニアム製のエアコンといったところか、瞬時に冷たい、いや極寒の風を繰り出し始めた。しかもかなり勢いが強い。
「エイミ?!いくら何でも寒すぎますからやめなさい!もはや吹雪じゃあないですか!エイミ、エイミったら!・・・へあっくょん!」
「うーん、『3℃』までしか下げられないか。まだまだ暑いんだけど我慢しなきゃあいけない・・・。」
淹れたばかりのはずのつい先程まで温かかったコーヒーは、湯気すら立たなくなっていた。冷蔵庫に入らさせれているようなものだ。上着を脱ごうとするエイミとは対照的に、エイミと承太郎は唇の色が青くなりつつある。少しでも暖を取ろうとコーヒーを啜ってみたが、ぬるま湯ともいえないような温度と化していた。
「・・・やれやれ、ヘヴィ過ぎるぜ。」
こんなくだらないことでと思いながらも、承太郎はスタープラチナを顕現させる。そして瞬きするまもなくエイミの手からエアコンのリモコンが承太郎の手に渡っていたのであった。見えないのにスタンドを使うのはズルいとエイミは膨れていたが、ヒマリは彼に感謝の言葉を述べたのだった。
空条徐倫はシャーレの現時点で唯一の職員ということになっている。彼女は19歳で子供ではないが大人というには不十分なので、『先生』ではない。大きな仕事は基本的に承太郎に任せて徐倫は雑務などをこなしている。空いた時間はなるべく親子で過ごそうと彼女は思っているが、2人の休みが重なることはむしろ少ないため、キヴォトスの学生たちと交流することで異世界での青春を謳歌している。
この日は孤坂ワカモに相談があると言われ、ゲヘナ学区にある指定されたカフェにいた。テラス席もあったが何となく屋内を選んだ。良い言い方をすれば自由を重んじ、悪い言い方をすれば無法地帯なゲヘナは逃走中の囚人にとって都合が良いらしい。堂々と歩いてもほとんど警戒されない、とテーブルの向かいに座るワカモが語った。狐の仮面は取っていた。
「そう言えば以前、徐倫さんも脱獄の経験があるとおっしゃっていましたね。私同様にやはり警察に追いかけまわされたのでしょうか?」
「もしかしたらそうだったのかも知れないけどわからない。それに、あたし達は警察よりも厄介な奴らと戦ったわ。」
「スタンド使い、というやつでしょうか?」
「そうよ。プッチ神父っていう悪いやつの手下。そいつらは何とか倒せたけど、もしあたしにもヘイローがあったらもっと楽に戦えたかも知れないわね。プッチもあの場で倒せていたかも。」
きっとエンポリオが上手くやってくれている、と徐倫が呟いた。ワカモにはそれが誰のことかはわからなかったが、徐倫の大切な仲間なんだろうと察して相槌をうつ。
「私達からしてみれば、スタンドを持っていることの方が羨ましい限りです。一部の生徒が持つ『神秘』の能力と似通っているところはありますが、スタンドの方が日々喧騒としているキヴォトスで役に立ちそうですから。」
「そう?でも、もしあんたにスタンド能力があったら、父さんに一目置かれるかも知れないわね。いろんな意味で。」
「まあ♡先生に今まで以上に関心を持っていただけるのでしたら、このワカモ、あまりの嬉しさに月まで飛んでいってしまいそうです♡」
「あんた父さんのこと好きだものね。」
「うふふ♡・・・実はご相談したいことはそのことなのです。」
そう言うとワカモは楽しそうにガールズトークをしていたのから一変して真面目な顔つきになる。しかしそれも束の間、ピンと立っていた狐の耳がだんだんと萎れ、顔もつられて俯きだす。徐倫からは見えていなかったが机の下、膝の上で握り拳を作っていた。彼女にとって都合の悪いことなのだろう、と徐倫は感じとった。
「その・・・ですね。先生のことはお慕いしてやまないのですが、本当にこのままこの感情を抱き続けてもよいものなのでしょうか?」
「・・・そう思った理由を聞いてもいいかしら。」
「私知っているのです。空条先生が時々ペンダントを取り出してその中身を見ていること。そこには先生と奥様の写真が入っていることを。離婚されたと聞いておりますが、先生はそれでも今でもその方を愛していらっしゃるのだと思います。」
え、父さんそんなことしてたの、と徐倫は知ったが口にはしなかった。真剣に話しているワカモに水を差すようで悪いと判断できたからだ。
そもそも承太郎がペンダントをキヴォトスに持ち込めていたことを知らなかったし聞かされてもいなかった。いつまで経っても家族への愛情を向けるのが下手くそな父親の一面を知って、何だかかわいらしく思えてきた。今度からかってやろう。
徐倫がそう考えている一方で、ワカモの真面目な恋愛相談は続く。
「それにもし先生と結婚できたとしても、自分よりも年上の子供がいることになってしまいます。徐倫さんもそれは困るでしょう?」
「そうねえ。父親の再婚相手が一個下の後輩ってのは複雑。あんたのこと『母さん』とか『ママ』って呼ぶのはためらわれるわ。」
「そうでしょう?ですから先生に対する、この身を焦がしてしまうような熱は本当はいけないものだとわかったのです。・・・いえ、ずっと前からうすうすわかってはいたのです。ですが簡単には諦めたくない気持ちもあるのです。」
「だから、気持ちの整理をしたくてあたしに相談した。」
「おっしゃるとおりです・・・。」
こりゃ参ったわね、と徐倫は心の中でつぶやいた。なにしろ複雑な恋愛だ。年下の女が自分の父親に恋をしている。前々からそのことは知ってはいたが、遂にひと段落つけなければならない時が来たようだ。
徐倫の中ではワカモを肯定したい気持ちがある。な・ぜ・か・人間の男性を見かけないキヴォトスにおいて、空条承太郎という男は魅力的あるいは刺激的に映ると思われる。それに学生ならば青春の一環として恋愛を嗜むべきだと考えているからだ。
しかしながら否定したい気持ちもあり、これはワカモが言っていたように色々と事態が複雑になってしまうからだ。それに承太郎は元妻を今でも愛しているようだし、徐倫はせっかく好きになれた父親を誰かに渡したくない。ママもこの世界に来れたらよかったのに、と思う。
(もしママもキヴォトスに来てたら、あたしが仲介役になって父さんと仲直りさせて、今度こそ家族3人で過ごせたのかしらね。久しぶりに『ジョジョ』って呼んでもらいたいわ・・・。)
とにかく、相談を受けているからには返答をしなければならない。困った生徒を助けるのがシャーレの役割であり、また年長者としての義務でもある。ワカモを傷つけない程度に言葉を選ばなくては。
「あたしはね、ワカモ。あたしは学生のうちは恋愛を楽しむべきだと思うの。あたし自身もロメオってやつと青春を謳歌したわ。それはもう誰から見てもラブラブだったし、結婚も考えていたわ。本当に、本当に楽しかった。最後は彼に裏切られて囚人生活が始まったけれど。この世で一番最悪な男女の別れ方をした。」
「それは・・・さぞかし辛かったのでしょうね。愛する方に裏切られて、その上必要以上に罪を背負わされるなんて。」
「でも、G.D.S.刑務所にぶち込まれたことは必ずしも悪いことばかりじゃあ無かったの。嫌いだった父さんがあたしを愛してくれていたことを知ったし、一緒に巨悪に立ち向かってくれた仲間や親友ができたわ。─── 鉄格子の外の星に手を伸ばすために、戦って、抗って、立ちはだかる壁を壊して。そうしていくうちに『心』が一皮も二皮も剥けたものになった。最後は負けてしまったけれど、今こうして新しい世界で生きているあたしがいる。」
ここまでの徐倫の過去の話は前置きで、次はいよいよ結論を言う。一番伝えたい大事なことを言う前にテーブルの上のアイスコーヒーを一口飲む。本命の前の小休止を終えるとすぐに口を開く。
「つまり何が言いたいかっていうと、ひとつの恋愛が終わってもあんたの未来は続いているということ。そして終わってしまった恋は決して無駄じゃあないし、むしろ新しい自分を作るきっかけにもなる。過去や未来から色が失われるわけじゃあないわ。あたしの方から恋を続けろともやめろとも言えないのは申し訳ないけれど、 ワカモがどういう選択をしても肯定するつもりよ。」
「・・・・・・そう、なんですね。ありがとうございます。相談したからといってすぐに解決できることだとは思っていませんでしたが、しかし徐倫さんのお話を聞けたことは私にとって良かったです。以前よりも少しだけ前向きに考えるべきかもしれませんね。」
「時間はたっぷりあるから早急に答えを出そうとしないで、あんたがこれから先後悔しない選択をしなさい。いいわね?」
はい、とワカモは答えた。先ほどまであった緊張感や悲壮感
は薄れていっているようだ。上手く話を進められたことに徐倫もまた安堵した。
徐倫は残りのぬるくなったアイスコーヒーを飲み干す。ちまちまと少しずつ飲んでいたつもりだったが、飲み終えたということはカフェに来てからかなりの時間が経ったようだ。ワカモもまたほぼ同じタイミングでコーヒーを飲んだようだ。
「ふぅ、ごちそうさま。ワカモ、この後予定ある?」
「いえ、特にありませんよ。」
「じゃあシャーレに帰るまで一緒に着いてきてくれない?確か今日は父さんがそんなに忙しくない日のはずだから、父さん帰ってきたらみんなでご飯でもどう?」
そう徐倫が提案すると、ワカモは一瞬目を輝かせたがその後に少し申し訳なさそうな表情になった。感情に合わせて狐耳がピンと伸びたかと思えばしゅんと萎れてしまう。
「えっと、よろしいのでしょうか?せっかくのお誘いを大変嬉しく思うのですが、親子水入らずのお時間を邪魔してしまうことになってしまいます・・・。」
「あたしが良いって言ってるから良いのよ!そうと決まったらワカモのアジトに寄り道するわ。あんたがレストランに入っても良いように変装しなきゃ。」
「り、了解しました!道案内はこのワカモにお任せください!────ああ、ついに先生と同じ席で食事をすることができるのですね。先生がどのような料理を頼むのか、どのように食べるのか、食事中は何を話すのか。それを間近で知ることができるなんて!うふ、うふふふふふ♡♡♡」
ワカモが嬉しそうにしているのを見て、徐倫はこの提案をしてよかったなと思う。悩み事の相談があったそのままのしんみりした空気でそれぞれの帰路に着くのは、徐倫の性格的に是としたくなかった。それゆえに食事に誘ったのだ。
「それじゃあ、もうこの店は出ようと思うけどいいかしら。化粧直ししたいとかある?」
「────うふふふふ♡」
「・・・やれやれだわ。ワカモがこういう子だってこと忘れてた。」
恋の病によって周囲の情報をシャットダウンしてしまったワカモを正気に戻すため、徐倫は彼女の額を爪で弾いた。いわゆるデコピンだ。刺激を受けたワカモはハッと驚いて我に帰ってきた。すみませんでしたとワカモが一言謝る。
「もう一回言うわ。この店出るけど化粧直しとかしていく?」
「そうですね、ではお言葉に甘えてそうします。少々時間がかかるので、徐倫さんは席でお待ちくださいませ。」
ワカモがお手洗いに向かっていくのを見送った後、徐倫はスマホを取り出した。承太郎にワカモと3人で食事に行きたいと言う趣旨のメッセージを送ろうとしたのだが、モモトークを開いたと同時にちょうど良くヒマリから連絡が来た。
『こんにちは、徐倫さん。貴女にみていただきたいものがありますのでメッセージを送らせていただきました。
先日のデカグラマトンの件は覚えていますでしょうか?あれ以来預言者の一体であるビナーを監視すべく、アビドス砂漠の各地に監視カメラを設置していたのですが、それに奇妙な物体が映り込んだのでその映像を添付します。
これについて先生にはすでに私たちの方で直接お話ししております。調査をしようにも手掛かりが何ひとつないのが残念ですが、もし何か情報をつかめたときは是非共有してください。よろしくお願いします。』
映像というのは例の光って浮いて消えた謎の物体のもので、やはり徐倫にもそれがなんなのかはわからない。危険なものなのかそうでないのかもわからないが、しばらくの間は注意しておいた方がいいという趣旨のメッセージだろうと受け取った。
『わかった。また何かあったら連絡してちょうだい』
ヒマリに簡潔な返信をする。そして承太郎との個人チャットを開いて伝えたい文章を入力していく。
『父さん今日の夜空いてるでしょ。今ワカモといるんだけど、3人で食』
ここまで文章を書いた、そのとき。一瞬。
カフェ全体が、目を閉じていてもわかるだろうと思えるほどに、とても強い黄金の光に包まれた。
彼女以外誰もいない女子トイレで、ワカモは異様なものを目にした。1番奥の個室から金色の光が溢れている。本当はただ化粧直しに来ただけだったが、その光源に興味が湧いて近づいてみることにした。
光源を直視したら目がやられるかもしれないと思い、効果があるかはわからないが一応仮面をつけておく。わずか数本で辿り着いたその個室の中を覗くと、蓋をされた便器の上に金の塊のようなものがあった。片手で抱えられるか怪しいくらいの大きさだ。
(これは一体・・・・・・?)
誰かの忘れ物、というには無理のあるものだ。こんなに目立つものを忘れるわけがない。そもそもこんなものをカバンにも入れず持ち運ぶ人がいるわけがない。
なぜそこに存在しているのか、なぜ強い光を放っているのか、何もかもが不明の物体。ダークマターとでも呼んでしまいたくなるようなそれに、ワカモはますます興味が湧いた。手を伸ばせば届く距離にいるので、本当に眩しくてたまらないが触ってみることにした。
恐る恐る謎の物体を指先で触る。その瞬間、ワカモがそれの感触を覚える間もなく、黄金の塊はいっそう強く光を放ち出す。
(・・・ッ!! 逃げ──────)
本能が危険を察知し無理矢理にでも体を引き離そうとするが、回避が間に合わなかった。強烈な光に飲み込まれ、思考が停止する。急に体が重くなり、視界がハッキリしないまま近くの壁にもたれかかる。頭が割れるように痛い。
これらの症状は10秒もたたないうちに治った。ワカモにとってはそれよりも長く感じていたのかもしれないが。急に視力が回復し、頭や体の不調もまるで元からなかったかのようだ。
個室トイレを振り返ってみると、そこにあったはずの黄金の塊はなぜか跡形もなく消えていた。
その物体はなんだったのだろうか。ワカモに瞬時の苦しみだけを与え、何も影響を残さずに消えてしまったのか。実はそうではない。
「・・・うふふ♡」
先ほどまで悶え苦しんでいたはずのワカモが、不敵に笑った。
「ああ、なぜこのワカモはつまらないことで悩んでいたのでしょう!先生への恋を諦めるなんて、私らしくないこと!悩みの種になるものはどうすればよいか、最初からわかっているではありませんか!」
独りでそう叫ぶワカモの隣に、いつのまにか黒く大きな狐が浮いていた。その狐はワカモのお面と同じように顔に隈取りがなされている。体の毛の色とは違うピンク色の尻尾が9本もあり、そのうちの1本を除いて2本で人組みになってハートマークを作っている。この世に存在にしないはずの生き物だが、ワカモはまるでそれと旧知の中であるかのように接する。
「なんとなく、しかし確実にわかります。あなたは『狐坂ワカモ』なんですよね。きっかけを持ってこうして具現化して、そばに現れた。『私』の信念を貫き通すために。そう、『邪魔なものは全て破壊する』ためにッ!」
そう確信を持ったワカモは、自身の信念に従うべく、気分良さそうに女子トイレから出るのであった。憧れの人への恋に一番邪魔なもの、つまりその人の娘を消すために。
少し時を遡る。カフェが光で覆われたとき、その場に居合わせたものはたいていパニックに陥った。驚きのあまり皿やコップを落としたり椅子から転げ落ちたり、また視力が奪われているので他人や壁などにぶつかってさらなる混乱を起こしたりしていた。パニックがパニックを呼んでいる。
あちこちで食器の割れる音や叫び声がする中、徐倫は周りに流されずにじっと堪えていた。やがて徐々に視界がクリアになると、急いでかつ冷静に状況を把握しようとする。
まずはワカモを見つけようと、椅子から立ち上がってトイレの入り口の方向を見た。ちょうどワカモが歩いて出てくるのが見えたので声をかけようとする。
「ワカモ!無事でよかっ・・・た・・・?」
ここで徐倫は違和感、いや明らかな異物に気がついた。ワカモの隣に黒い九尾の狐が浮いている。隈取りのあしらわれた顔とハートマークを形作る4組の尻尾が特徴的なそれは、しかし幻覚ではないようだ。確実にそこにいる。
(な、なんだアレ?キヴォトスの神秘ってやつ?でもワカモにそういう能力があるとは聞いたことがない。そして『本能』が危険だと告げている!何かがおかしい・・・ッ!)
ワカモとその隣の異様な狐を見た徐倫は危機感に駆られ、彼女のスタンド『ストーンフリー』を出現させた。するとワカモが徐倫の方を見た。そしてやけに堂々と歩いて近づいてくる。黒い狐と共に。
徐倫はワカモと一定の距離を保ちつつ、店の出口へと後退りする。チラチラと狐にも注意を払っておく。ワカモから先ほどまで一緒にコーヒーを飲んでいた時にはなかった圧のあるオーラが漂っている。あと少しで店を出れるというところに差し掛かる。らちがあきそうにないのでワカモに話しかけてみることにした。
「ワカモ、あんた何かおかしいわよ。なんというか、圧力がすごいわ。殺気に近いような、そのくらい強い圧力。それにその隣にいる狐は何?」
「おかしいのは徐倫さんですよ♡ なぜ私から逃げているのです?それに後ろにいるサングラスのようなものをかけた方はどなたでしょう?」
「ちょいまちな。サングラスかけたやつってのはこの店にはいない。まさかあんた、あたしの『ストーンフリー』が見えてるんじゃあないでしょうね?」
「ほうほう、なるほどなるほど。そばに現れるものという意味で『スタンド』。以前先生がおっしゃっていたことがよくわかりました。それが見えているということは、やはりこの『チョコレートフォックス』もスタンド!この力があれば、邪魔するものは全て壊せるッ!!」
狐坂ワカモ、突然スタンドを身につけてしまった『災厄の狐』は、肩に担いでいた銃を徐倫に向けた。それと同時に彼女のスタンド『チョコレートフォックス』が9本の長い尻尾の先を一斉に徐倫に向けた。どうやらそれなりに強度があるらしい。本体とスタンドの二重の攻撃が徐倫に襲い掛かろうとしていた。
「それでは徐倫さん、さようなら♡」
「な、何ィィィィィィィィイ?!?!?」
To be continued…