モモンガさんと階層守護者たちが幻想入りしたようです。 作:レムニスケート
女。女である。仄暗い森林の狭間に立つ、純白のドレスを身に纏った絶世の美女。古代中国玄宗皇帝の時代に生まれていたら、傾国の美女の名を思うがままにしたであろう美女。
彼女の名はアルベド。VRMMO『ユグドラシル』でタブラ•スマラグディナなるプレイヤーが制作したNPCである。長くて嫋やかな黒髪、黄金の瞳に、錦糸の下ではち切れそうなばかりにその存在を主張する豊満な胸、くびれのある腰に、これまた豊かに肉を蓄えつつも引き締まった尻。顔面やそのほか露出している肌には、一切の肌荒れが見受けられず、まるで赤ん坊の柔肌がそのまま残っているようである。体全体で見ても完璧な左右対称であり、まさに絶世の美女というに相応しい。男の理想を体現したような身体(実際タブラがそう作った)を持っているわけだが、明らかに異様な特徴も兼ね備えている。まず、頭に生えている灰色の角。中程で丸く湾曲しているそれは、彼女が人間でないことを明確に示している。そして、背中から生えた黒い翼。知らない場所に転移したことによる動揺からか、腰の少し上あたりで小刻みに震えるそれもまた、彼女が異形であることをありありと感じさせる。彼女はサキュバス、あるいは淫魔と呼ばれる種族であった。
「ふむ...どうやら知らない場所に転移してしまったようね。何故かしら?」
数刻前まで、彼女はナザリック地下第墳墓『玉座の間』でギルド長であるモモンガのそばに控えていた。今日も、41人の創造主の中で唯一残ってくださったモモンガ様のため、いつでも命令を享受、実行できるようにしていたのだ。しかしながら、気づいたときにはいきなり眼前に森林が広がり、足は墳墓の絨毯ではなく柔らかな土を踏み締め、微かに野の匂いが香ってくる。さて、何故このような状況に私は置かれているのだろう、という疑問を彼女はもち、まずは周りを見渡した。とにかく周りは木々に満ちている。ナザリック大墳墓の面影はどこにもない。まさかモモンガ様が私をここに......ならばまさか!?
最悪の可能性が頭をよぎる。まさか自分は...モモンガ様に捨てられてしまったのではないか。とうとう無能の烙印を押され、ナザリックを追放されてしまったのではないか。守護者統括としての役割を十分に遂行できていないとみなされて、こんな木以外何もない閑散とした森に放置されてしまったのではないか...そういえば、最近はまったくモモンガ様に命令をいただけていなかった。やはり、そうなると....!
アルベドの頭の中で最悪の想定が駆け巡る。悪寒に支配され、身体中から冷や汗が噴き出る。これまでナザリックの支配者の方々に奉仕することを至上の喜びとして生きてきた自分にとって、モモンガ様に捨てられたという事実は精神的に耐え難いものだった。いやしかし、何らかの外的な要因でモモンガ様達から地理的に引き離されただけというのも考えられる。アルベドは守護者統括として圧倒的な攻撃力及び防御力を誇るが、その頭脳もナザリック随一と言っていいほど優れている。ここで早計な判断を下し、よもや自害などしようものならそれこそモモンガ様に迷惑がかかるやもしれない。とにかくモモンガ様を探し出さなくては!
まずはここがどこなのか理解しなければならない。そう思い立ち、アルベドは自慢の翼で空へ飛び立った。もしかしたら近くにナザリック地下大墳墓があるかもしれない。そうすればモモンガ様に会うことができるはずだ。そう、あのモモンガ様に!!
「あぁ、愛しのモモンガ様!!!守護者統括アルベド、どんなに遠くにいようとも必ずお迎えに参上します!!やはり、隔たりがあるほど愛は燃え上がるのですね!!!あぁぁモモンガ様ぁ〜〜〜!!モモンガ様のもとへ辿り着けた際には、私のありとある初めてを貴方様にぃ〜〜!!」
見るものを魅了してやまないであろう美女が、空中で体をくねらせ、顔に歪んだ笑みを浮かべながら局部を湿らす。随分とシュールな光景である。モモンガが見たらドン引き必至であろう。モモンガが設定を変更したことにより、元々アルベドの心中に内在していた忠誠心は肥大化し、濃厚な愛情へと形を変えていた。モモンガは、ユグドラシルのサービスが終了する直前、異様なほど長いアルベドの設定の末尾にあった『実はビッチである。』という設定文を『モモンガを愛している』という文章に変更している。それゆえにこのような行動をとってしまっているのだが、アルベド当人はこのことには気づいていない。
さて、アルベド自身も、流石にいつまでもバカな行動を続けているわけではない。1分30秒ほど思考をトリップさせたのち、周囲の観察に映った。だが幸か不幸か、ナザリック地下大墳墓の地表部構造らしいものは見当たらない。どこまでも森林が続くばかりで、特別目につくものといえば、赤い門のようなものと、その門の後ろに建てられた古臭い建造物くらいである。おそらくあれは、かつてモモンガ様達が話しておられた神社なるものだろう、とアルベドは推測する。確か、神を祀り、崇拝するために作られる建物だとか。恐らく、あそこに住むものはモモンガ様ではない何者かを信仰しているのだろう。
「ふん、モモンガ様意外を神とするなんて、なんて愚鈍な連中なのかしら。今すぐあの建物を焼き払ってしまっても良いのだけど...いえ、ダメよアルベド。冷静な思考を取り戻さないと。」
物騒な思考に支配されかけたアルベドは、何とか自制して正気を保つ。今現状に関する手がかりは、あの建物しかないのだ。いくらナザリック随一の知恵者とされるアルベドでも、鬱蒼と生い茂る森林を眺めるだけでアイデアが閃いたりはしない。
敬愛する主人と邂逅するため、純白のドレスを身に纏った淫魔は、粗末な神社へと降り立った。
創作意欲が高じて徹夜して書き上げました。読んでくださった方、ありがとうございます。