「…、……え」
湧き出る血を他所に、霊夢は大幣を引き抜いた
それと同時に血が溢れ出て彼女の体を汚した
ばたりと動かぬ骸と化した妹紅の体が地面に倒れる
キヴォトスでは全く見られない流血量
それを彼女は何も気にすることなく見ていた
「れ、霊夢ちゃん!?」
「どうしたのかしら」
ホシノは慌てて霊夢に声をかけた
それはキヴォトスに住むなら当たり前のことであり
感覚がまだ幻想郷にある霊夢には理解出来ないことだった
故の、純粋な疑問をホシノに向けたのである
「ッ!?人を殺しておいて、どうしたのはないでしょ!?」
「…?……、…あぁ、そういうことか」
一瞬霊夢は怒鳴られていることに困惑したものの、ホシノの言った事に何か納得した
血塗れの大幣をヒラヒラとしながら死体と化した妹紅を見る
どんどんと血の池が広がっている
明らか顔を貫通してしまい、死んでしまっている
それを見て、平然としている彼女を誰も理解出来なかった
「貴方達は、"常識に囚われている"…そうだったわね」
「どういうこと?霊夢先輩」
シロコはセーフティを解除する
あまりの人の変わりよう…いや、"変わらなさ"に警戒心を抱いたのだ
人を殺したというのに息は上がらず…動揺すらしていない
しかし、それはすぐに分かることであった
「私の住んでいた場所のありがたーい言葉を教えてあげるわ」
彼女の背後から炎が舞い上がる
正確に言えば、死体となった妹紅からである
まるで火山が噴火するかのように、激しい炎が彼女を包んでいた
その光景を、死人が出たというのに美しいと…ここにいる者は思ったのである
「…幻想郷では、非常識が常識になる…忘れない事ね」
「あー、久しぶりに死んじったよ、輝夜との戦いでも殺しまくったのにな」
炎が晴れ、その中から"生まれるように"妹紅が立ち上がる
その様はまるでコケて膝を擦りむいた…いや、それ以下の反応であった
「あんたじゃ勝てない、蓬莱人」
「そりゃそうか、アンタは人外専門だもんな」
ハハハと笑う妹紅を呆れるような目で霊夢は見た
いつも、というより幻想郷にいた時と変わっていない
霊夢とあって、少し気が楽になった様子ではあるが
「…?……?ドウイウコトナノ?」
「何が起こってるの?」
「…霊夢、説明が必要らしいな」
「あー、面倒ねぇ」
困惑しながら、この状況を理解出来ていない方々を見て妹紅と霊夢は頭を抱えたのだった
いつの間にか便利屋68は居なくなっていた
多分逃げた、妹紅が殺された辺りで
「…後なんで皆目を背けてるんだ?」
「アンタが全裸だからよ」
赤面する皆を不思議そうな目で妹紅は見るのだった
〇
対策委員会部室
そこの長机にて妹紅と対策委員会メンバーが向かい合っていた
「つまり妹紅さんは、蓬莱人という"死なない"種族の方なんですね?」
「あぁ、そういう事だな」
「何を言ってんですか?…と言いたいところですが、事実ですしねぇ…」
アヤネが何とも筆舌に尽くし難い顔をしている
確かに死なない存在が目の前に現れても、信じるのは僅かな奴らだろう
「後服はどこから…」
「予備、最近はあのボケナスを見つけられたからな」
大人の裸体を晒した筈の妹紅はさりとて恥ずかしさを覚えていないようだった
あそこに女性しかいなかったのもそうだが、それ以前に倫理観が終わっている
…まさか不死故にこうなったとか、そういう訳じゃあるまい
「私はそうだな…霊夢と同じ場所から来たんだ、はぐれちまってな」
「霊夢さんの知り合いなんですか?」
「腐れ縁よ」
アヤネの言ったことを霊夢は直ぐに否定した
あの永夜の中、たまたま竹林で鉢合わせただけなのだ
完膚なきまでにボコボコにしてやったが、まぁ異変解決の途中に邪魔してくる方が悪い
「霊夢と同じ場所ねぇ…」
ホシノがこちらを見ていた
多分、全員死んだんじゃないのかとかそういうあれだろう
こいつら蓬莱人にそんなこと言われても彼女達が困る
というか言ってなかった?不死人居ること…言ってなかったわ…
「他にも、お仲間さんとか居たりするのかなぁ〜?」
違った、全然違った
かなり不謹慎なことを考えていた自分を殴り飛ばしたかった
ホシノの質問に対して妹紅はあー、と天井を見上げた
「私の他に2人来てる"らしい"な、バ輝夜は…うん…永琳が…んだっけ、トリニティの聖病院だったかなんだったか
いやでもあいつはポロポロ場所変えるからなぁ…」
「死なない存在が3人も…?」
「"あぁ怖い怖い、私鳥肌立ってきちゃったわ"」
先生はわざとらしく腕をさする
確かに彼女はこの中で1番人間らしい人間だろう
それから辺りを見れば人間らしい人間など居ない
「まぁ、私は基本ブラックマーケットで焼き鳥屋やってるから、縁があればまた会えると思うよ
後便利屋の手伝いくらいか?じゃ、また」
「あちょ、まだ聞きたいことが…」
妹紅はそう言うと、アヤネの静止を無視し華麗に窓から飛び出して行った
窓側から外を見るもののどこにも妹紅の姿は無く、既に帰ったようであった
「むぅ…まぁ、いいでしょう」
アヤネはどこか不満ながらも会議をすることにした
死なない存在というつっかえがあったものの、会議は始まることになる
「2つお話します、まずひとつはあの生徒たちのことです」
アヤネは人差し指を伸ばしてそう言った
それをシロコ達はじっと見ながら言葉を待っている
ホシノはウヘウヘしながら、霊夢は背もたれに背中を完全に預けていた
「ゲヘナ学園の生徒で、便利屋68という部活のようです
素行の悪い学生で構成されており、彼女達は危険かつ素行の悪い奴らと危険視されているようですね」
「…」
危険で素行が悪い
彼女たちを見ていると、なんとも言えない気持ちに陥る
柴関ラーメンの時やらの行動やら言葉やらを聞けばそこまで思わない
…まさか何かしらの勘違いを受けたとかじゃあるまい
「頼まれた事は何でもこなすいわゆる『何でも屋』…
リーダは陸八魔アル、社長と呼ばれていた人物ですね
他にも3人の部員が存在し、それぞれ室長、課長、平社員と言った感じです」
「いやー、本格的だねぇ最近の若者は」
「あんたも若者でしょうが」
ホシノの言う通り本格的である
しかしそれほどかなり本腰を入れているのに名を聞いたことはあまりない
…まさかペラッペラのペーパーカンパニーということはあるまい
流石に無いよね?
「"調べたけれど、多分非公認だよ"」
「じゃ、悪い子って訳だ」
「そうは見えませんけどねー…」
「"最近大人も加わったとあるけど、妹紅のことだろうね"」
先生はタブレットを弄りながらそう言った
シロコがふんすと言った様子で言う
ノノミが困ったような顔をして呟いた
確かにノノミの言う通り悪い奴には見えない
むしろあれは悪くなろうとしてるただの馬鹿なのだろう
完璧な善人という訳では無いが、完璧な悪という訳でもない
どっちつかずという存在だな、あのダボ社長
後妹紅は便利屋に身を置いているのか
なんというか丈にあった所にいるものである
「…それと、カタカタヘルメット団の装備についてです
セリカちゃんを襲った団員のものですね」
ノノミに思うところがあったのだろうか、アヤネはそんな表情をしていたが議題を進めていく
長机に銃がごとりと置かれる、カタカタヘルメット団の物である
「彼女達が作っている兵器の破片も調べたのですが…
どうやらこれらは既に製造中止になっているもののようです」
言われて見ればそこらの不良が持っているものとは違う、見た事のあまりないもの…っぽい
…そもそもカツアゲした奴らの武器など気にしたことなどない
「もう生産されてないってこと?」
「どうやって手に入れたのかしら」
「生産が終わった型番を手に入れるには…
キヴォトスでは『ブラックマーケット』しかありません」
淡々とアヤネが言うものの、その場を凍らせるには簡単な単語であった
ボコボコにしている不良が住んでいる地域だったか?忘れたが
しかし確か妹紅がそこで焼き鳥屋をしてるんだったか
「ブラックマーケットって…とても危ない場所じゃありませんか」
「あそこは様々な理由で学校に行けなくなった学生の集団が居ます
非公認の部活も沢山あるそうです…」
つまるところただの無法地帯である
明らかに面倒事であり、私としては関わりたくなかった
しかし、シャーレ所属になるとはいえ彼女達は仲間である
仲間ならば、少しでも手助けをしなくてはならない
少なくともアビドスにいる限りは、だ
「そこで探るってこと?」
「そういうことですね」
シロコの質問にアヤネは頷いた
どうやら直接出向くようである
ならば
「私も一緒に行くわ」
「妹紅さんに会いに行く為ですか?」
「そう」
アヤネの言う通り妹紅に会いに行く
ブラックマーケットにいるそうだから、私も同行して会いに行こう
可能ならば焼き鳥を食べる
「"ブラックマーケットなら私としても好都合よ"」
「好都合?どういうことですか?」
「"依頼があってね、ブラックマーケットの護衛らしいの"」
「…変わり者もいるもんだねぇ」
先生はシャーレに依頼があることを明かした
それはブラックマーケットへの護衛であり、ちょうど目的が重なっている
どちらともの仕事を潰せるので、誰も異議を唱えることは無かった
…それと、依頼主は学生だった
阿慈谷ヒフミ、トリニティという名門校にいながらブラックマーケットに行こうとする気狂い
護衛まで頼んで欲するものは一体何なのか
食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。
牙を持たぬ者は生きてゆかれぬ暴力の市場
あらゆる悪徳が武装するクソのような肥溜め
ここはキヴォトスが産み落としたアビドス自治区のブラックマーケット
アビドス対策委員会の躰に染みついた硝煙の臭いに惹かれて、
危険な奴らが集まってくる。
次回「出会い」
霊夢が飲むブラックマーケットのコーヒーは苦い
…予告はコピペ、考える脳は無い