かくして博麗は透き通る世界に至る   作:回忌

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砂漠のど真ん中

「来るな来るな来るな!」

「……」

 

剣士がひたすら刀を振るっている

その筋はどこにも形というのがなく、ただ恐怖のまま刀を振り回していた

 

彼女は気付いていなのだろう、その刀が両方折れていることに

 

「幽々子様にこれ以上近付くな!」

「……」

 

彼女は何かを守るように刀を振っていた

しかし─────彼女の後ろには誰もいなかった

強いて言うなら、干からびた死体の様なものだけ

土まみれで、どこからか掘り出したかのようである

 

哀れだと、私は思った

そこまで、お前は執着するか

もう守るものは無いというのに

 

「……お前!」

 

そこで、彼女はこちらを睨んだ

化け物が来るというのにズカズカとこちらに歩み寄ってくる

 

「お前が早く来れば幽々子様は死ななかった!」

「……」

 

彼女は血涙を流しながら言った

私の首元を掴み、力無く揺らす

 

「そうよ、貴女が来れば」

 

後ろから声がした

懐かしい、鬱陶しい吸血鬼のものだ

いつの間にか横に来ていたそれに目を向ける

 

「……」

「私はこんな醜い姿にならなかった」

 

顔面の半分が食いちぎられ、蛆が沸いた顔

体も至る所が無くなっており左腕に関しては肩からもぎ取られている

 

まるで、遊ばれたかのようだ

 

「お前のせいで!」

「お前のせいだ」

「お前のお陰で」

 

誰かが囁く

誰かが叫ぶ

誰かが嘆く

 

私は、何も出来ずに立ち尽くすだけだった

 

─────実際、私が来た時には全員手遅れだったのだから

 

 

「……」

 

目が覚めた

なんとも悪い夢を見てしまった

せっかくの柔らかい布団なのだ、もっとマシな夢が良かった

 

「あ、起きた」

「……?」

 

声がした、見てみるとケモ耳が生えた女の子がいる

その頭の上には……化け物達と同じ"天使の輪"のようなものがあった

 

すぐさま飛び退き、大幣と針を構える

 

「ここまで殺しに来たのかしら?」

「?……どういうこと?」

 

殺気を向けながら言うが、相手はよく分かっていないようだった

しらばっくれる気か?なら面白い、直接聞いてやる

 

そう思い、ボコボコにしてやろうとした時だった

 

「うへー、取り敢えずどいてくれないかなー」

「……」

「後、話も聞いて欲しい」

 

目線を下に落とすとなんか少女が居た、桃髪の

いつの間にか、人を踏んでいた……いや人じゃないのだろうが

 

とはいえあちらに敵意が無いのは一目瞭然だろう

少し頭に血が上っていたようだ、落ち着かなければ

 

私は、落ち着くのも兼ねて話を聞くことにしたのだった

 

 

─────

 

「まず、自己紹介から……私はアビドス高等学校の2年生、砂狼シロコ」

「うへー、おじさんは3年生の小鳥遊ホシノだよー」

「……博麗霊夢、巫女よ」

 

まずは定番として自己紹介から始まった

ベッドに座らせてもらい、各々が自由に座っている状況だ

シロコは自分の椅子に、ホシノはぐでーっとベッドに寝転んでいる

 

それはそれとして、ホシノは巫女という単語に反応する

 

「巫女?百鬼夜行から来たの?」

「……どこよ、それ」

「外の巫女さんってことじゃない?先輩」

「外の世界の人かぁ……なるほどヘイローが付いてないのも納得だねぇ」

 

……私としては質問したいことが増えたのだが

ホシノの言ったことと正反対の事が頭に浮かぶ

取り敢えず質問してこの世界を知る他無いだろう

 

「外の世界って、結界で独立でもしてるの?」

「いやー?そんなことは無いよ、ただキヴォトスが大きすぎるだけかなぁ」

「……キヴォトスって?」

「「……」」

 

……不味いこと言った?

もしかしてこの世界でキヴォトスを知らないのは非常識なのか

常識を語られても常識の無い世界で暮らしていたから分からない

 

「……キヴォトスはここだよ、この……世界というか」

「一面砂漠なの?この世界」

「いやぁ?ここの地区がそうってだけ……ちゃんと発展している場所もあるよ」

 

皮肉かのように彼女は言う

なんともゆったりとした奴だ……幽々子を思い出す

彼女も、こんな感じだっけ……幽霊のように掴みどころがなくて……その実かなり頭が切れる奴

 

まぁ、もう居ないんだけど

そう見るとホシノは髪色といいよく似てるな

 

そう思いながら質問を続ける

 

「ヘイローって何?」

「私たちの頭に浮いている輪っかの事」

「これがあると身体能力や耐久力がぐーんっと上がるんだよー」

 

彼女は見ててねーと鉄の棒のようなものを持ち始めた

確か……早苗曰く銃とか言うやつだったか

こんなカラフルなものなのか?危ないものと聞いたけど

 

銃を構え、己の皮膚に引き金を引く

銃声、硝煙の匂いが部屋に充満していく

 

ホシノが撃った腕は、軽い赤い痕があるくらいだった

……凄い耐久力だ、だいたい妖怪くらいと言ったところか

 

「……私は無理ね」

「ヘイローないし無理だろうねぇー」

 

まぁ、いざとなれば弾丸なんて避ければ良い

こんなものより早く複雑なものは沢山見た

それに比べれば─────飽き飽きするものだ

 

「…これからどうするの」

 

シロコは私に聞いてきた

これからの方針を知りたいらしい

 

─────いや、何も無いが

あれから取り敢えず生きることを考えてここに来たのだ

だからこれからどうする、なんて聞かれても困るのだ

 

そんなことを思っていると、ホシノが口を開く

 

「なら、ウチに来ればいいんじゃない?」

「……いいのかしら」

 

ホシノはどうやら来て欲しいようである

ただ、その目は懐疑に満ちたものであるが

これはどちらかと言うと面倒事を起こさせないため、というのが強いだろう

 

ここで否定してもあまり意味は無い

 

「……分かったわ」

「いい返事……じゃ、行こうか」

「早いわね」

 

シロコは学生服に着替え、自転車を用意し始める

どうやら今からアビドス高等学校かとかいう所に行くらしい

どんな学校なのだろう、早苗から聞いたことしかない……ただ、彼女は学校生活を深く語っていないからよく分からない

 

彼女はいつも学校生活について逸らしていたからな

 

「おじさんも用意しないとねぇ」

「シロコについて行く」

 

私はそう言うと、シロコについて行った

ホシノは自分の家に歩いて行ったようである

自転車を外に出し、階段を降りて行く

 

やがて道路に辿りつき、自転車に跨る

彼女はこちらを見ると背中を指さした

 

「ん、後ろに乗って」

「分かったわ」

 

少し霊力が回復したので空を飛べるが、見せるまでもない

というか無駄に警戒されることはしたくないのである

ここは大人しく命令に従っておくのが吉だ

 

彼女の後ろに周り、腰に手を回す

 

…こうして人の温かみを感じるのは、幸せなことだろうか

幻想郷にいた頃はこうして誰かに抱きついた記憶はあまりない

ボケどもがじゃれつくように来るくらいだが…

 

「…霊夢?」

「なんでも無いわ…行きましょう?」

「ん、分かった」

 

キコキコと自転車が進み始める

空を飛ぶくらいスピードがある訳では無いが、それでも十分なくらいだ

暑苦しい砂漠ではあるが、この服のおかげで少しは涼しいものである

 

 

『ボロボロな巫女服から着替えちゃえば?』

 

ホシノからそう言われたのを思い出した

確かにボロボロな巫女服だ、着替えた方がいいだろう

しかし─────私には思い入れがある

 

『思い入れがあるから、親切ありがとう』

 

そういった時、彼女が目を細めたのを覚えている

なにか癪に触った…という訳では無いだろう

しかし何故かどこからしら"懐かしむような"視線だった

 

 

 

もしかして─────彼女も失ったのか?

 

あれだけふにゃふにゃしているのも、なにか過去に原因があるのかもしれない

哀れな…なにか深淵を覗くような暗い、過去が

 

しかし、触れる訳にもいかない

 

これ以上過去を気にする訳にはいかないのだ

傷の舐め合いなど以ての外である

そう思いながら、シロコの体温と風を身体に感じたのだった

 

 

「案内する、ついてきて」

 

アビドス高等学校の中に入ると、シロコが案内をしてくれた

下駄箱にローファーを入れようとするが砂だらけなので靴で良いと言われた

ご好意に預かり、靴を履いて彼女について行った

 

廊下には電気が着いておらず、砂も相まって廃校に見える

早苗は、こんな所に通っていたのだろうか

まだ寺子屋の方がマシに感じるが…

 

シロコが扉をガラガラと開き、中に入る

見てみると、『対策委員会』と書いてあるのが見えた

 

 

「ん、おはよう」

「おはようじゃないわよ遅刻よ…誰よ貴女!?」

 

入ると、そこは思いの外狭い部屋だった

その部屋の真ん中に長机があり、そこに3人の人物がいた

 

黒髪の猫耳少女、気が強そうだ

柔らかい物腰を感じる胸の大きい少女

眼鏡をかけた一番真面目そうに感じる少女

 

どうやら、この学校の生徒と言うやつらしい

 

「砂漠をさまよってたから保護した」

「保護された博麗霊夢よ、よろしく」

「わぁ〜☆新しい生徒さんですか!」

 

楽しそうな雰囲気である

私は「立ってるのもなんですから」と眼鏡から差し出された椅子に座る

その間にも物珍しそうな目で彼女たちはこちらを見ていた

 

「自己紹介をしましょう、私は奥空アヤネです!」

 

眼鏡の子が元気いっぱいにそう言う

 

 

「私は黒見セリカ…ホシノ先輩呼んだ方が良くない?」

「ん、先輩はもう知ってる」

「そうなの?ならいいか…」

 

セリカは自己紹介をした後、ホシノを呼んだ方が良くないかと聞く

しかしシロコが既に彼女は知っていると言ったので呼ばないようである

 

「私は"十六夜"ノノミ、よろしくお願いしま─────」

「ッ!」

 

その苗字を聞いた瞬間、身体が強ばったのを感じた

その名前は…私はその苗字を知っている

無意識に手を強く握ってしまう

落ち着け、…落ち着け、─────ここに彼女は居ない

 

しかし、聞かなければ落ち着けなかった

 

「…アンタ、姉妹はいる?」

「うーん…どうでしょう!」

 

彼女は悩んだ素振りを見せた後笑顔でそう言ってきた

…わざと言わない、という素振りではないように見える

多分、本当に分からないか…忘れているか

 

「…咲夜って、姉妹は居る?」

 

ならば質問を変えよう

その姉妹の中にその名前があるか…無ければ良い

あったら─────会うべきだろう

 

「…いませんよ?」

「そう…」

 

そう思った心がへし折られたのは、幸運だったのか

はたまた不運だったのか…少なくとも今の私には幸運であった

そう思っていると、入った扉ががらがらと開く

 

「おはよー皆ー」

「遅いわよ!ホシノ先輩!」

 

あれだけ寝ていたのに眠そうな顔をして、ホシノが現れた

まぁ、深く言わないようにしておこう…一応恩人ではある

あの後、彼女から住宅地にある1つの家の鍵を借りた

どうも居なくなった住民から受け取ったものらしい

…まだ、行ってないけど

 

「ありゃ?霊夢はもう来てたんだ」

「シロコに乗せてもらったわ」

「ん、意外と軽い」

 

ふんす、と言った感じで彼女は言う

彼女がヘイローで身体能力が上がっているのもあるが、私の体重が落ちているのもあるだろう

 

最近は、初めてよく寝たのが昨日だし、ご飯食べてないし

 

そう思っていると、突然銃声が鳴り始める

 

「出てこいアビドスのアホ共!ここはあたしらのもんだ!」

「そら!もう弾も無いだルルルルォ!?」

「投降しろぉ!」

 

「あいつらまた性懲りも無く!」

 

セリカが叫びながら銃を持ち上げる

窓際に寄って見てみると、変な被り物をした女の子達が銃を撃ってきている

どいつもこいつも危ないものを持ってる、もしかしてあれがこの世界で言うスケバン?…んなまさか

 

「霊夢さんは下がっててください!」

「うん、分かって─────」

 

「待って、アヤネちゃん」

 

アヤネの言う通りに隠れようとすると、ホシノに止められた

彼女は先程の気ダルげな表情を消してこちらを見ていた

 

「ここは彼女に任せたいの」

「ん、賛成」

 

ホシノは私に対してそう言った、シロコも賛成のようである

なにか…勘違いをしているのか?私が戦えると?

 

「私が戦うの?ひとりで?」

「ひとりで」

「流石に無茶じゃありませんか…?」

 

単独

─────その表現に少し頭痛を覚える

前の世界でも、いつの間にか私はひとりで戦うようになっていた

理由は単純、毎回くたばってしまうからである

 

ホシノはこちらに歩み寄り、何かを渡す

 

「はい、コレ…貴女のでしょ?」

 

それは、私の持っていた針だ

この世界で使ったのは…あの電柱の時だけだ

どうやらあの時このふたりがいたようである。不覚

 

「…分かったわ」

 

そこまで言うなら、仕方ない

というより選択肢は無いのだろう、ホシノの目がそう言っている

あれはどうにかして私に戦闘をさせる目だ

 

私は窓際に歩み寄る

 

「…えぇ!?ここから行くの!?」

「こ、ここは3階ですよ…?」

「…問題ない」

 

私はそう言って、飛び出した

外にはこちらを見る被り物集団が見える

 

して、3階?高さ?─────そんなの関係ない

 

 

 

 

 

能力を発動する

 

私が、私たりえる能力を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────空を飛ぶ程度の能力

 

噛み砕いて言えば浮く程度の能力であるが…それを上手く利用してるだけに過ぎない

空を飛ぶなんてただの応用例だ、他にもごまんとある

 

「と、飛んだァ!?」

「わぁ☆魔法使いみたいです!」

「…外の世界ってあんなのがいっぱいるのかな?ねぇ、シロコ」

「ん、もしかしたらそうかもしれない」

 

後ろから聞こえる声を聞き流しながら、大幣を構える

さて、恩人への恩を返してやるか

 

─────別の形で、したかったけども

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