―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
※属性:ほのぼの※
皆が就寝している闇夜の時間、ヘリオンのガキが静かに起き上がる。
隣で寝ているアオを起こさぬように、静かにベットから離れる。
この部屋の主であるファーレーンの姉ちゃんは居ない。
俺達をニムガキの部屋に送り出す時に言っていたのだ。
急用が出来たので明日の昼まで戻れない、と……
敵の目撃情報が確認されたので、緊急偵察に駆り出されたのだ。
「ニムの事、お願いします」
などと言う言葉で頼まれた直後に、あの不幸な事故である。
ヘリオンのガキは音を立てる事も無く、静かに部屋から退室していく。
トイレに行くのかなと思ったが……
意を決した表情をしている事から別の目的である事を察した。
半径10mの認識範囲を20mまで広げ、ヘリオンの様子を観察する。
ヘリオンは、ニムガキの部屋の前に移動していた。
部屋に入る事無く、荒れ果てた部屋の中をじっと観察している。
そこにニムガキの姿は無い。
……ニムガキなら、今は浴室に居る。
古めかしい燭台の仄かな明かりを頼りに、下着姿で洗濯をしている。
インクで汚れた衣類をゴシゴシと、それはもう疲れた表情で……
暫く見てると、ヘリオンのガキが再び移動を開始……
この部屋に戻って来たヘリオンのガキは、
物音を立てる事無く、ファーレーンの姉ちゃんの部屋を物色し始めた。
雑巾を手に取り、水が入る容器を手に取り……
掃除道具を集めてるのかなと予想出来た時、
ヘリオンはアオが眠るベットに近づき、アオを静かに揺さぶった。
「……アオさん……アオさん……」
ヘリオンは優しく、それはもう優しくアオを揺らす。
……だが、アオが起きる気配は無い。
当然だ、赤子をあやすように揺すられても起きる訳が無い。
俺だって、あんなに優しく揺らされても気付かない自信がある。
起こすのであれば、もっと激しく揺らせというのだ。
……やがて、ヘリオンのガキはアオを起こす事を諦める。
掃除道具を持って、容器に水を入れに行く。
そしてニムガキの部屋に侵入して、一人静かに掃除を始めた。
今は深夜で真っ暗だというのに、ヘリオンは普通に視えている。
そうとしか思えないほど、真っ暗闇の中で的確に汚れた箇所を拭いていた。
……流石はブラックスピリット、夜を司るに相応しい妖精……
やる事が無く、眠る事も出来ない俺にとって、二人の行動は非常に助かる。
暇で死にそうになる窮屈な時間を紛らわすように……
俺はヘリオンのガキとニムガキの様子を観察し続ける。
やがて、洗濯を終えたニムガキが動き出す。
近くに置いてある槍状の永遠神剣を持ち、洗った衣類に矛先を向ける。
すると置かれた衣類の近くに風の渦が発生……
空中でギュンギュンと高速回転する衣類……
衣類に付着した水滴を、ビシャビシャと浴室全体に撒き散らす。
すげえ、乾燥機要らずじゃん……と、その光景を感心しながら眺める。
風の回転力は少しづつ失われ、
遠心力が失われた衣類の塊はドンッと叩きつけられる。
ニムガキは衣類の塊を拾いあげ、勢い良く広げる。
そして皺だらけとなった己の衣類を見て、泣きそうな溜息を吐いた。
……勿体無いなぁ、工夫が足りて無いなぁ……
四角い大きな網とかに挟んで回せば、そこまで皺にならないと思うのに……
網と衣類の間に緩衝材となる布とか挟めば、普通に使えると思うのに……
緩衝材の風通しが良ければ、更に良い……
皺々となった衣類を纏い、燭台と神剣を持ってニムガキが移動する。
その足音が聞こえたのか、ヘリオンのガキは急に慌て始めた。
焦りながら掃除用具を持って退室……する直前、足を滑らせた。
ビターンと倒れ込み、持っていた容器の汚れた水はヘリオンに降り注ぐ……
その音に気付いたニムガキは、慌てたように自分の部屋に駆け出した。
そして目撃するヘリオンの惨状……
ヘリオンは泣きながら、脱兎の如く逃げ出した。
そしてドタドタと、一目散にこの部屋に戻って来た。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
本当に全力で疾走してきたのだろう、息が荒い。
そしてピチャピチャと滴る己の惨状を実感したのだろう。
ぐすっ、ぐすっ……と、静かに泣き始めた。
「う~ん、ヘリオンちゃん……どうしたの?」
その静かな泣き声で気付いたのか、アオが目を覚ました。
アオの寝惚け眼の具合、今にも寝落ちしそうな身体の揺れ具合……
……たぶん、コイツの意識は、まだ半分は夢の中である。
「アオさん、ごめんなさい……起こしちゃいましたね……」
「……ん~?」
『なあ、アオ……起きてるか? 聞こえてるか?
アイツが持ってる雑巾で、アイツの身体を拭いてやってくれない?』
「……ん~、いいよぉ~……」
のそのそと、
ヘリオンが持っていた雑巾で、寝惚けたままヘリオンの顔や髪を拭いていく。
「アオさん、その……よ、汚れちゃいますよ?」
「……ん~……」
アオの顔は、もう完全に二度寝状態に入ってる。
だというのに、ヘリオンのガキを拭く動作は止めなかった。
『もしも~し、アオ、起きてますか~?
ヘリオンが風邪ひかないように、服を脱がしてやってくれ~』
「……ん~、お服、脱いで~……」
「え、でも……」
「……いいから~、いいから~、脱いで~、ぬいで~……」
なんか凄いな、アオ……
顔は涎を垂らしながら完全に寝ているのに……
それでも俺の指示に従ってくれる。
「……そう、ですね……
このままベットに入ったら、汚れちゃいますもんね。
ファーレーンさんの御迷惑になっちゃいますもんね……」
渋々と衣類を脱ぎ、下着姿になるヘリオンのガキ……
少し胸が膨らみかけており、ニムガキよりはスタイルは良い。
だが男を惑わすには、まだまだ色気が足りない。
「その、身体も拭いちゃいますので、布を返して貰って良いですか?」
「……ん~……」
アオは動かない、既に夢の中に旅立っている。
『アオ、ヘリオンのガキに雑巾を渡してやってくれない?』
「……ん~……」
アオの返答は変わらない。
……が、雑巾を持った腕を伸ばして、ヘリオンのガキに手渡した。
アオから雑巾を受け取ったヘリオンは、自分の身体を拭き始めた。
アオは上半身を起こしたまま、完全に眠っている。
とてもじゃないが、起きてるようには見えない。
けど、何故か俺の指示に従う。
……これって、もしかして……?
『……なあ、アオ……
自分の服を脱いで、ヘリオンのガキに渡してやってくれない?』
「………………」
アオはもう何も答えない。
だが、自分の服を脱いで、その衣類をヘリオンに渡すように伸ばしてる。
「……え……? なんで……? アオさんが風邪をひいちゃいますよ??」
『別に構わねえだろ、コイツだけ何もしてないんだから……』
「……ん~……かまわない、よ~……?」
おお、すげえ……アオが眠りながら俺の言葉を代弁してる。
「……アオさぁぁん……」
そして、そんなアオを見てヘリオンが感涙してる。
夜目が効く癖して、コイツの寝顔が見えないのだろうか?
「でも、アオさんが風邪を引いたら私が困っちゃいますから……
だからアオさんが着てくださいね……」
アオが持っている衣類を受け取り、それをアオを被せようとした時――
―― ガチャッっと部屋の扉が開かれた。
そこに居たのはニムガキだった。
「ひっ?! に、ニムントール、さん……?」
「…………………………」
ニムガキは何も答えない。
不機嫌な顔のまま、無言で持っていた衣類をヘリオンに投げつける。
「……ふんっ!!」
そして、そのまま退室して行った。
ヘリオンは呆気に取られたまま、ニムガキを見送っていた。