―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
※属性:ほのぼの、シリアス※
朝食を済ませたアオとヘリオンのガキは、
再びファーレーンの姉ちゃんの部屋で作戦会議を行っていた。
「え!? 私がニムントールさんを誘うんですか?!」
「うん、一緒に遊ぼうって……」
「あ、あのぉ……な、なんで私なんですかぁ?」
「だって、ヘリオンちゃんはニムちゃんに用事があるんでしょ?」
「そ、それは……そう、なんですけれど……」
ヘリオンの視線が、綺麗に畳まれたニムガキの衣類に向く。
「頑張って、ヘリオンちゃん!」
「でも、さっき私、一人でニムントールさんの部屋に行ったんです。
そしたら留守だったので、その、何処に行ったのか……」
「ヘリオンちゃん、任せて!
……雫、ニムちゃんって、いま何処に居るの?」
『任された……えっとぉ~……庭、だな……庭の花壇で水やりしてるぞ』
「庭で水やりしてるって……」
「アオさん、凄い……そんな具体的な事も解るだなんて……」
「すごい?? 雫が教えてくれるだけなのに?」
「そこまで細かく教えてくれる神剣なんて聞いた事ありませんよ?
普通、神剣を携帯してるスピリットの距離と方角ぐらいなのに……」
「そう、なんだ……雫って凄かったんだ……」
アオが感心している姿を見て、気分が良くなる。
使えないから粗大ゴミに捨てられる未来は無さそうで安心した。
「確かに事細かに教えてくれるアオさんの神剣も凄いんですけど……
私は、神剣の声を詳しく聞き取れるアオさんの方が凄いと思います」
「ヘリオンちゃんの神剣は喋って教えてくれないの?」
「私の『失望』は、その……
アオさんの神剣と違って自我を持っていませんから……」
「そっか、えへへ……褒めてくれてありがとう、ヘリオンちゃん」
アオはヘリオンのガキの頭をナデナデする。
ヘリオンのガキは、その行為を嬉しそうに受け入れていた。
……昨日のニムガキとは偉い違いである。
「私もアオさんに負けないように頑張らなくちゃ、ですね……!」
「じゃあ庭に行ってニムちゃんを誘おうね、ヘリオンちゃん」
「わ、解りました」
そして二人は仲良く庭に移動する。
……が、その二人の姿を目撃したニムガキは、脱兎の如く逃走した。
「……あれ? 行っちゃった?」
「に、ニムントールさん逃げちゃいましたけど、どうするんですか!?」
「雫、どうしよう……?」
『まあ、ゆっくり追いかければいいんじゃね?
館内に居るのなら、何処に居るか丸解りだしな……』
半径20mという範囲は結構デカい。
食品を売ってるスーパーマーケットの建屋並の範囲に相当するのだ。
「それで、ニムちゃんは何処に行っちゃったの?」
『まだ移動してるから何とも……
正面玄関の近くにある物置小屋に向かってるっぽいが……?』
「ヘリオンちゃん、物置小屋だって……」
「……ぅぅ……やっぱり私達、避けられてるみたいですね……」
ニムガキの様子を観察していると、目的地はやっぱり物置小屋……
水やりに使った
そして物置小屋の影に隠れ潜み、
アオ達と出会った方角をめっちゃ警戒している。
『アオ、ストップ……止まれ……』
「どうしたの?」
『ちょっと面白い事考えたからさ、付き合ってくれない?』
「何をするの?」
『なにって、ニムガキと遊ぶんだよ』
「遊ぶ? どうやって??」
『ニムガキに見つからないよう移動して、
ニムガキの耳元で名前を呼んでやるって遊び……』
「それ、面白いの?」
『凄い面白いと思うぞ……?
どうせ正面から遊ぼうって誘っても断られるんだからさ……
だったら問答無用で一緒に遊んだって良いじゃん』
「やろうやろう、ヘリオンもやろうよっ!」
「えっと、アオさん? 話が見えないんですけど……」
アオはヘリオンのガキに遊びの趣旨を拙い言葉で説明する。
ヘリオンは良く解っていない様子だったが、
ニムガキと強制的に遊ぶという趣旨は理解したらしい。
「私はニムントールさんの部屋に借りた服を置いてきますので……
その、後で合流しますね……」
「うん、解った、先に遊んでるね」
「はい、仲良くなれると良いですね」
「うんっ!」
アオは仲良くなれると信じて疑っていないが、果たしてどうなるか……?
……ニムントール・グリーンスピリット……
訓練所での第一印象は、特に最悪だった。
初対面の相手に対し、威嚇して拒絶を示した時点で普通じゃない。
好意的に接しようとしていたのに、初手からバッサリと拒絶しやがった。
それは異常だ、人見知りが激しいってレベルじゃない。
常識知らずという線も考えたが、常識が備わってないようには思えない。
だから、精神的なトラウマを抱えているんじゃないかと思った。
良く知らない相手、または初対面の奴に恐怖してるんじゃないかって……
その事を踏まえて、深夜の出来事を思い出してみる。
ニムガキは、びしょ濡れになったヘリオンのガキに服を貸した。
そのトラウマの対象となる筈の、ヘリオンのガキに……
クタクタに疲れ果てた状態で、それでもヘリオンのガキを想って行動した。
口はクソ悪いが、その本性は優しさの塊なのかもしない。
年端も行かないガキの癖して、中身は俺よりも立派とか……
正直に言うと、腹が立つ……
ガキはガキらしく年相応に、それこそ無邪気に遊んでろというのだ。
だから俺も、手加減を抜きにしてニムガキで遊ぶと決めた。
良く知らない相手が怖いのなら、良く知って貰えば良いだけの事……
たとえ、ニムガキが俺達の事を本気で嫌がっても、ウザがられても……
とにかく俺達という人間を理解して貰わねば話にすらならない。
本気で嫌われたとしても、友達関係を目指すなら、そうするべきだ。
今はどんな結果になろうと関係無い。
後から時間を掛けて、ゆっくりと友情を育めば良いだけなんだから……
『つーわけで、アオさんや……
ニムガキの背後が見える位置までは誘導してやる。
あとは見つからないように近づいて、思いっきり驚かせてやれ』
「うん、頑張る!」
そうして、俺達とニムガキの隠れんぼ兼、追いかけっこが始まった。
「ニ~ムちゃん!」
「―― わひゃぁぁあ?!?!」
……と、最初の内は大成功を収めていたのだが……
回数を重ねる毎に背後の警戒が厳重になり、
後半あたりから普通の追いかけっこになっていた。
途中、ヘリオンのガキも合流したが、複雑そうな顔で傍観するだけだった。
きっと、ニムガキが本気で嫌がっている事に気付いたのだろう。
ファーレーンの姉ちゃんが帰ってくるまで、
俺達は嫌がるニムガキを相手に遊び続けるのだった。
………………
…………
……
「お姉ちゃぁぁあああん、助けてッ! もうコイツ、やぁぁあああ!」
それは地獄の追い掛けっこをしている最中……
姉の姿を発見したニムガキは、幼児退行しながら一目散に姉の胸に飛び込んだ。
「―― ど、どうしたのニム!?」
「あ、ファーレーンお姉ちゃん、おかえり~」
「……その、ファーレーンさん、おかえり、なさいです……」
いつも通りのアオに、2倍増しでオドオドしているヘリオンのガキ……
そして幼児退行しながら号泣しているニムガキ……
一目見て状況を察せる筈も無く……
ファーレーンの姉ちゃんはニムガキが落ち着くまで、あやし続けた。
「……それで、一体どうしたの?」
「あのね、アオの奴がね、ニムが何処に隠れても絶対に見つけてくるの……
……ぐすっ、本気で隠れてもね、簡単に見つけて来て、ムカツクの……」
「……雫、ニムちゃん、泣いちゃってるけど本当に良かったんだよね?」
『良いに決まってるじゃ~ん……
簡単に見つけられたのが悔しくて泣いてるだけだって……
遊んでムキになって悔しかったから泣いてる。
そう本人が自白してるから間違いない』
「そっか、ニムちゃん……負けて悔しかったから泣いてるんだ」
「―― 全然違うッ!! アンタが怖かったから泣いてるの!
だいたい、何で私を追いかけたの!?」
「え? そういう遊びだよ?」
「なんで私で遊ぶのよ!? 他の奴で遊びなさいよ!
そこに居るヘリオンって奴で遊べば良いじゃん!!」
「だって、ニムちゃんと……お友達になりたかったんだもん……」
「…………………………」
その言葉を聞いたニムガキは、言葉に詰まった。
「だ、誰がアンタなんかと ――」
「―― こら、ニムッ!」
ファーレーンの姉ちゃんが強めに注意した瞬間……
ニムガキはショックを受けた顔でファーレーンの姉ちゃんから離れた。
「お姉ちゃん、なんでソイツの味方するのさっ!
―― 私、ソイツの事なんて大嫌いなんだからッッ!!」
「……え?」
ニムガキは泣きながら、館の中に走り去った。
「……ニム……」
ファーレーンの姉ちゃんは、悲しそうにニムガキが去った方を眺めてる。
アオも、泣き去ったニムガキと同じぐらいショックな顔をしていた。
真正面から『大嫌い』と吐き捨てられた事が、相当
……だが、ここで折れて貰っては困る。
アイツと友達になりたいのなら、嫌われた程度で
『あれは照れ隠しだよ、照れ隠し……
嫌よ嫌よも好きのうちってな、覚えといて損は無いぞ?』
とりあえず適当言って、アオからダメージを抜いてやる。
アオは天然だから、思い込めばダメージは即座に回復する筈なのだ。
「そっか、ニムちゃんは照れてるだけなんだ」
「……アオさぁぁん……」
それ絶対に違いますぅ~……と、ヘリオンの魂の叫びが聞こえる。
んな事は言われなくても、俺が一番良く解ってるから黙って ――
「アオちゃん、凄い……ニムの事、本当に解ってくれてるんですね……」
「『―― えぇ!?』」
ファーレーンの姉ちゃんの言葉に、俺とヘリオンの声がダブった。
「ニムはね、ちょっと照れ屋さんで、嘘付きなところもあるから……
だから、アオちゃんがニムの事、解ってくれて本当に嬉しいですっ」
感極まったファーレーンの姉ちゃんは、アオの後ろから抱き着いた。
「うん、頑張る、わたし頑張るから、ファーレーンお姉ちゃん」
「ありがとう、アオちゃん、本当にありがとう……」
「『………………』」
俺とヘリオンのガキは、その光景を呆然と眺める事しか出来なかった。
………………
…………
……
一段落ついた後、俺達は訓練所に連れてこられた。
アオとヘリオンのガキを。ファーレーンの姉ちゃんが指導する形となる。
全員の手には木刀と木製の鞘が握られていた。
「では、二人とも……準備は宜しいですか?
遠慮は要らないので、好きなように打ち込んでください」
木刀を木の鞘に仕舞いこんで、
いつでも木刀を抜けるように手を置いているファーレーンの姉ちゃん。
―― その洗礼された構えは、威圧となってガキ共を襲う。
その威圧を振り切って、先に仕掛けたのはヘリオンのガキ……
それを見たアオも続くように駆け出した。
ヘリオンは居合を思わせる斬撃を放つが、その剣先は当たらない。
続いてアオも両手持ちで木刀を振り回すが、その軌跡は簡単に見切られる。
ファーレーンの姉ちゃんは、反撃する事なく避けに徹している。
稀に鞘で
見逃せない隙を晒した場合のみ、鋭い居合を放っているように思えた。
単独では歯が立たないと悟った二人は、やがて様々な方法を模索し始める。
同時攻撃、時間差攻撃、挟み撃ち、撹乱攻撃、囮作戦……
即興の癖して完成度は中々だと思えた。
少なくとも俺が相手だった場合、十中八九の確率で被弾する。
だから、その攻撃を完全に捌いているアノ姉ちゃんが異常なのだ。
決して、素人の意見では無い。
俺も武術を嗜んだ経験があるから解る。
……月謝10万円も払い続けたから解る。
本格的な八極拳を学んだ経験があるからこそ、異常だと断言出来た。
開始1時間くらい経過した頃……
アオとヘリオンの体力は限界に達した。
「……ふう……
訓練は此処までにして、
休みながら感想を話し合いましょうか……」
すげえ、1時間休み無く捌き続けて『ふう』の一言で済ませやがった。
なんちゅうフィジカルしてるんだよ、この女……
息も絶え絶えになって返事すら出来ない二人とは偉い違いである。
「ごめんなさいね、ちょっと激し過ぎたかしら?」
アオとヘリオンのガキは答えない……というよりは、答える気力が無い。
大の字に転がって、ぜーはーぜーはー言ってる。
「えっと、本当にごめんなさいっ!
今、水筒とタオル持って来ますからっ!」
二人の惨状を見て、慌てたようにファーレーンの姉ちゃんは離れて行った。
………………
…………
……
「うう、まだ痛いよぉ……」
「大丈夫ですか、アオさん……?」
「ごめんなさい、二人とも本当にごめんなさいっ……」
ファーレーンの姉ちゃんは、ひたすらに謝っていた。
アオ達を此処まで痛めつけた張本人とは到底思えない。
武器を持ったら性格が変わる危ない人だったりもするのだろうか?
「き、気にしないで下さい……
で、でもファーレーンさん、流石です、凄い強かったです」
「ヘリオンちゃんも、瞬発力は凄いと思うわ……でも……」
「解っています、私の『居合の太刀』……ですよね?」
「型は完璧なんだけどね、まだ抜刀の速度が足りていないの……」
「はい、自分でも解ってはいるんですけど……」
「これは感覚的なモノだから、どうしてもコツは自分で掴むしかないわ」
居合って、感覚的なモノだったっけ?
俺はてっきり『デコピン』の原理を利用した抜刀術かとばかり……
実際に刀を持って居合を試した経験が無いので真実は解らない。
でも、本格的に刀を扱っているファーレーンの姉ちゃんが言うのだ。
居合とは感覚的に行うモノなのだろう。
「………………」
その意見を聞いたヘリオンのガキが沈んだ顔をしてる。
居合斬りが出来なくたって、そう落ち込むほどでも無いと思うがな……
居合とは、納刀状態にある刀で敵を素早く斬り倒す技術の一種だ。
居合が苦手だったら、接敵前に刀を抜いて準備してればいいんだから……
ファーレーンの姉ちゃんを真似する必要は無い。
居合を放った後、いちいち納刀する姿には浪漫を感じるが……
浪漫を探求が過ぎて死んでしまったら終わりなのである。
抜刀術に頼らないアオの姿を見習えというのだ。
「ねえねえ、私は……?」
「アオちゃんは、力を籠めて剣を振った後の無防備が目立つから……
もうちょっと力を抑えて剣を振るう練習をしたほうが良いですね」
「は~い」
などと感想会をしていた時……
突如、街中に鐘の音が響き渡った。
『……鐘の音?』
確か座学で習った覚えがある。
確か、鐘の間隔で緊急性が変わるのだ。
いま聞こえる音の感覚は、非常に短い。
それは即応を意味する合図であり ――
「―― 敵襲!?」
……そうだ……
ヘリオンが言った通り、『敵襲』を知らせる時に使われる合図だ。
「緊急伝令! ダーツィ大公国よりスピリットの大群が侵攻中!!
スピリット共は至急ランサに迎え!!
繰り返す、スピリット共は至急ランサに迎え!!」
そして兵士の焦った声が響き渡る。
その声を聞いたスピリット達はが慌ただしく動き出す。
……その光景を感じて、どこか嫌な予感がした……