永遠神剣になっちゃった   作:ASファン

15 / 19
永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった


※属性:ほのぼの、ギャグ※


第11節 『ニムントールの冒険』

 

アオはニムガキの部屋で寝ている。

その寝顔は青白く、死んでいるんじゃないかと錯覚するほど弱々しい。

それでも、確かな寝息が聞こえる。

それだけで心底ほっとしている自分が居た。

 

ニムガキは、ベットが占領されているのでイスに腰掛けて寝ている。

 

心情の変化でもあったのだろう、ニムガキから言い出したのだ。

「アオの看病は私がする」って……

 

普通に考えれば逆だろう……

意外と言えば意外だったが、心のどこかでは納得していた。

 

そういう訳で、ファーレーンの姉ちゃんの看病は

メイドの姉ちゃんとヘリオンのガキが担当している。

 

ヘリオンが凄い名残惜しそうな顔で、部屋を出て行ったのは微笑ましかった。

 

「仲良きことは、良き事かなって ―― ん?」

突如、目の前に広がる無機質な白い壁……

五感がいきなり解放され、身体が自由に動く、この感覚……

 

どうやら、何時の間にか

自分の内面世界に迷い込んでしまったらしい。

 

これで3回目か……?

事前予告や予兆も無く、いきなり飛ぶとは何事だ?

そもそも何が切っ掛けとなり、この世界に迷い込んでいるのだろう?

 

「ま、いっか……」

考察は時間が余りある時にすれば良い。

ここに居る時間は限られているし、俺が訪れれる頻度は極稀だ。

 

よって、いまは探索に力を入れるべき……

もしかしたら、まだ足を踏み入れた事が無い区画があるかもしれない。

 

現在地は、大学の廊下……

研究室を示す表示プレートと、窓際には消火器が点在している。

 

「……ふむ……」

そもそも、この消火器って本物なんだろうか?

ものは試しだ、使ってみよう。

 

消火器の安全ピンを抜いて、廊下の先にホースを向ける。

そして握り込むと、ブシューっとホース先から煙が出た。

 

「ひゃっはーッ! 汚物は消火だぁーー!!」

などと遊んでいると、20秒ぐらいしたら勢いが無くなった。

ホースを向けた先の廊下は、ややピンクの白い粉末に覆われていた。

 

消火器を適当に置き、その粉を指で救って舐めてみる。

 

「ぺっぺっ! まっず……!」

想像通り、食べられない粉の味、という事しか解らなかった。

 

次は近くの研究室に足を踏み入れる。

 

『生物・科学実験室』というからには、

科学的に役立ちそうなモノがあると思うのだ。

 

そう思いながら『生物・科学実験室』を物色する。

教卓にはライター、ボールペン、ホチキス、カッター等が見つかった。

 

カッターを手に取り、軽く親指を引っ掻いてみる。

すると、軽い切り傷からジワリと血が滲む……

しばらく観察を続けたが、マナの霧に変化する事は無かった。

 

教卓の隣にはシンクが据え付けられており、蛇口を捻ってみる。

すると綺麗な水道水が出た。

手で掬って飲んでみると、普通に綺麗な水道水の味がした。

 

1ヶ月ぶりの水の味……

ただの水が、こんなにも美味いとは思わなかった。

 

だが、飲んでも飲んでも腹に貯まる気配が無い。

10分ぐらい飲み続けても、腹がタプタプになる気配は無かった。

 

それでも、久しぶりに水を飲んだ感じを体験できて大満足……

 

俺は再び探索に戻り、備品棚の調査に入る。

 

棚には色々な瓶が置いてある。

ラベルには『硫酸』『塩酸』『エタノール』『過酸化水素水』等々

あと、試験管とかフラスコ瓶とかアルコールランプとか……

科学の実験で使われる器具が豊富にあった。

 

 

『生物・科学実験室』の調査は、こんなもんで良いだろう。

次は何処を調べようかと廊下に出ると、不思議な足跡があった。

 

「……ん?」

不思議な足跡は、消火器の粉末を撒き散らした廊下の先に続いてる。

 

足の大きさは、俺の半分ぐらい……っていうか、子供の足跡だ。

 

アオだったら俺に声を掛けるだろうし……

もしかしたらニムガキかヘリオンが訪れているのかもしれない。

 

第一印象は大事、なにか手土産を持って行った方が良いかもしれない。

面白そうなモノが無いか、改めて『生物・科学実験室』を見渡してみる。

 

 

「……きひひっ……」

部屋の隅に置かれている人体模型くん……

キミの存在感は、ヤバかったとだけ言っておこう。

 

 

 

………………

 

 

…………

 

 

……

 

 

 

俺は人体模型くんを盾のように構えながら、足跡を追う。

粉末ゾーンを超え、靴底についたであろう白い粉を追っていたが……

次第に粉は薄れ、足跡が完璧に途絶えてしまった。

 

現在地は病棟の廊下……

この世界は結構探す場所が多いので、正直面倒だ。

なので、いっそのこと(おび)き出すのもアリかもしれない。

 

でも、どうやって(おび)き出そうか……?

悩んでいたら、突然人体模型に強烈な衝撃が走った。

内臓模型を撒き散らしながら、バラバラになる人体模型 ――

 

「じ、人体模型くーーん?!?!」

視界隅に緑の髪が見えたと思った瞬間、腹に衝撃が走る。

突然の衝撃に(こら)える事が出来ず、俺は仰向けに倒れてしまう。

 

「動くなっ! 大人しくしてっ!!」

そして馬乗りになるように、ニムガキは俺を拘束した。

 

 

「なかなかヤルじゃねえか、クソガキが……」

起き上がろうとしても、肩をガッチリホールドされて起き上がれない。

俺より体重軽い癖して、なんて力だ……!?

 

「それで、なんで俺は拘束されてんだ?」

「聞きたい事がある……此処は何処なの?」

ニムガキは俺の問いを無視して問いかけて来た。

その態度にカチンと来たので、俺も同じ質問を繰り返す。

 

「なんで、俺は拘束されているんだ?」

「此処が何処なのか、いいから教えなさいよっ!」

コイツ、今まで初対面の相手に対して、こんな感じで接してきたのだろうか?

だとしたら教育がなってないよ、ファーレーンの姉ちゃん……

初対面にトラウマがあるとしても、この態度は流石に無いと思うんだ。

 

「それは、人にモノを頼む態度じゃねえよなぁ?

 ちゃんと誠心誠意、教えてくださいって言えればなぁ~

 俺だって快く教えてやるんだけどなぁ~?」

「……ここが何処なのか、教えて……下さい……」

苦虫を噛み潰したような苦い表情で、ニムガキは言葉を絞り出した。

口答えせず、素直に人の意見を聞けたニムガキに免じ、俺は素直に教える。

 

「此処はハイペリアを模した世界だと、俺は思ってる」

俺の内面世界と教えないのには、理由がある。

いきなり全ての情報ぶっぱしたら理解が追い付かないと思ったからだ。

 

情報を少しづつ教えて、理解を深めてもらうとしよう。

 

「はい、ぺりあ?? こんな変な世界が!?」

「変な世界とは、失礼な奴だな……

 つーか、いい加減どいてくれない? そろそろ肩が痛いんだけど?」

「あ、ごめん……」

俺に敵意が無いと認識したのか、

ニムガキは俺を力一杯押さえつけるのを止め、俺から降りた。

 

「つーか、なんで俺は攻撃を受けたんだ?

 オマエ、初対面の相手に攻撃仕掛けるのが趣味だったりするのか?」

「そんな訳無いでしょ!

 アンタが気持ち悪い魔物を侍らせてるから悪いんでしょ!」

「気持ち悪い魔物??」

「人の形をしてたアレ! アレなんなの!? アンタが作ったの!?」

ニムガキが指を示した先には、バラバラになった人体模型の姿が……

 

「アレは、この世界にあった置物ですよ?

 良い御土産物になるかもって、持ってきただけなんだが?」

「センス悪っ?! あの気持ち悪いヤツの何処が良いのよ!?」

 

「いや、人を驚かせる道具としては優秀だと思わんかね?」

「まあ、確かに……私も初めて見た時、心臓止まると思ったし……」

「だろ? 俺のセンス、間違ってないよな?」

「……どちらにしても悪趣味じゃん……」

「初対面の相手を攻撃する趣味よりはマシだろう」

「だから違うって言ってるでしょ!」

「じゃあオマエは、ナニが趣味なんだよ?」

「……………………」

趣味を問われて、ニムガキが固まった。

悩んで悩んで悩み続けた末、恥ずかしそうに答えを口にした。

 

「お姉ちゃんと、一緒に居る事……かな?」

「いやいや、それは趣味と言わんだろ……」

「うっさいッ! お姉ちゃんと一緒に居ると楽しいから良いの!」

シスコン、ここに極まれり……

姉のファーレーンも妹に依存してるのだとしたら、この姉妹はヤバイです。

 

「どうでも良いけど、一応忠告はしといてやる。

 ファーレーンの姉ちゃんに依存し過ぎるのも程々にな……

 行き過ぎる所まで行くと、取り返しがつかなくなるぞ?」

『姉以外の存在なぞ、どうでも良い』と成ってしまたら最後だ。

ニムガキは間違いなく、その領域に足を踏み入れている。

姉以外は要らないと、周りを拒絶していたら友好関係の幅も広がらない。

 

それは非常に勿体無いと思うのだ。

幼い癖して、自らの世界を閉ざすなんて論外だ。

ガキはヤンチャに友達100人目指して遊んでろと言いたい。

 

 

そう思いながら、俺は病室に入って物色を行う。

目ぼしいモノは……見当たらない。

使える物が本当に無いか、入口に戻って病室全体を見渡してみる。

 

「な~んか、見覚えがあるんだよなぁ……」

 

大型病院の世話になった記憶なんて、本当に無い。

風邪をひいた時は、市販の薬を飲んで家で寝ていただけ……

風邪以外の病気になった事など、一度も無い。

 

ここが俺の内面世界だというのであれば……

なんで病室の区域が、俺の心に刻まれているのだろうか?

 

 

病室を見て悩んでいると、ニムガキが俺の裾を引っ張っていた。

なにか言いたい事でもあるのだろう、その表情は険しい。

 

「……なんだよ?」

「なんで、お姉ちゃんの名前を知ってるの?」

「そりゃあ、知ってるさ……

 俺は、アオと一緒にオマエ達を視てたんだから……」

「アオと、一緒??」

 

「改めて自己紹介をしようか、ニムントール……

 俺の名前は『時神 雫』……

 オマエ達からは、永遠神剣『雫』と呼ばれている」

「アンタが『雫』……??」

「そうだよ」

「……で、でも……どう見ても人間……」

「そうだよ、俺は人間だよ、俺は人間だったんだ。

 それが、どういう訳だか永遠神剣になっちゃった……」

「そう、だったんだ……」

 

「……で、早速だが御礼を言わせてくれ……

 ありがとう、オマエのお陰でアオが助かったんだ」

「別に御礼を言われるほどの事じゃ……

 わ、私が助けたいって勝手に思っただけなんだからっ!」

顔を赤くして恥ずかしそうにしているニムガキの反応が面白い。

面白いから、もっと褒めてみる。

 

「いやいや、それでも感謝だよ。

 昨日アオの事を大嫌いって言ってたじゃん?

 なのにオマエは、必死にアオを救ってくれた。

 大嫌いな筈のアオを救ってくれた。

 その姿を見て俺は感動した、尊敬するって決めたんだ」

ニムガキの顔が、どんどん真っ赤になっていく……

 

「それに深夜の事だってそうさ……

 疲れてるのに、部屋を滅茶苦茶にされたのに……

 それでもヘリオンに服を貸しただろ?

 すげえ良い子なんだなぁって、感心したし ――」

「―― もういい、もういいからっ! これ以上褒めるの禁止ッ!!」

 

「えぇ~、なんでぇ~? 俺、まだ全然褒め足りないんだけど?」

「良いからもう黙って! 恥ずかしいから、お願いっ!!」

「そうかぁ~、そこまで言われちゃ仕方ないな……」

ツンデレ乙~、と思いながら次の区画に向かう。

 

その道中、再びニムガキに話しかけられた。

 

「……ねえ……」

「ん~?」

「雫……って、呼んでいいの?」

「好きに呼びな~、俺もニムガキって呼ぶから」

「ニムって言うなっ!」

 

「じゃあ、ニムニム?」

「もっと嫌っ!」

「我儘言うな、ニムン豆腐って呼ぶぞコノヤロウ!」

「ニムントーフ??」

「豆腐メンタルっぽいからなぁ……

 ってか、呼び方なんてどうでもいいだろう?」

「良くない、名前でバカにされるのが一番ムカツクっ!」

「なんだ? 『ニム』って名称で、嫌な思い出でもあるのか?」

「そういう訳じゃない。

 お姉ちゃん以外の人に『ニム』って呼ばれるのが嫌なだけ……」

シスコン極まり過ぎだろ、コイツ……

 

「でもまあ、俺は気分屋だから呼びたいように呼ぶだけだな」

「……む~……」

ふくれっ面のニムガキを尻目に、俺は次の区画に辿り着いた。

 

やって来たのは、行きつけの映画館だ。

 

「あのさ、雫は此処で何をしてるの?」

「色々と探索してる。

 面白いモノとか使えそうなモノが無いかな~って……」

 

受付のカウンターに侵入して、色々と物色してみる。

レジを操作して開いてみると紙幣と硬貨が入っていた。

……でも、この世界で金を得ても使い道は無いだろう。

 

何も取らずに、そのままレジを閉める。

ゲームセンターとか発見したら、また此処に来よう。

 

「ねえ、雫……此処、本当に何処なの?」

「だからハイペリアを模した世界だって……」

「そうじゃなくて、私……お姉ちゃんの所に帰りたい……」

「帰れば良いんじゃん」

次は映画館のフードコートに侵入してみる。

ある意味、ここが本命と言っても過言では無い。

 

「だから、帰り方が解らないの……」

「そう心配すんなって、時間が経てば帰れるから」

「帰れるって、どうやって?」

「だから、時間が経てば勝手に戻るんだって……

 俺達が居る世界は、夢の世界みたいなもんさ。

 オマエは今、眠って夢を見ている状態なんだ。

 朝になれば勝手に起きて、今まで通りさ」

「本当?」

「ほんとう」

 

目に入ったのジュースのドリンクバー……

ウーロン茶とか、コーラとか、オレンジジュースとか……

色々な飲み物のボタンがあり、選り取り見取りだ。

 

カップをセットして、適当にメロンソーダのボタンを押してみる。

すると本当にメロンソーダが出てきた。

グビッっと一口飲むと、炭酸と甘ったるいメロンの味が口に広がる。

「―― すげえ、ちゃんとメロンソーダだ!?」

 

「なにを飲んでるの?」

「オマエも飲んでみるか?」

新しくカップをセットして、メロンソーダを提供してみる。

 

「なんか、緑色なんだけど……?」

「まあまあ、飲めるから飲んでみ?」

恐る恐る、ニムガキは慎重に口をつける。

 

「ぺっぺっ、なにこれ、甘すぎ?!」

「なんだ? 甘いの苦手なのか?」

「いや、嫌いじゃないけど……

 でも、これは甘すぎて口の中が変になるんだもん!

 しかも舌がヒリヒリして痛い……」

現代の人工甘味料と炭酸は、中世人の口に合わないのかもしれない。

 

「じゃあ、口直しにコレ飲んでみろよ」

ウォーターサーバーから水を入れ、ニムガキに提供してみる。

 

「……なんか、薬の臭いがする……」

「え? カルキ臭??」

俺も新しいコップに水を入れて、匂いを嗅いでみるも何も感じない。

 

「そうかあ? 薬の臭いなんて全然しないと思うけど……」

「……うえ、不味……変な薬の味が少し混ざってる」

「不味い!? 嘘だろ?」

一口飲んでみると、普通に美味しい水の味がした。

 

「オマエの味覚がおかしいのでは?」

「アンタの味覚がおかしいんでしょ?

 こんな不味い水、飲める事が信じられないんだけど……」

「……ば、馬鹿な……」

現代日本が誇る安全な水の味が……?

中世人であるニムガキに……負けた、だと……?

逆に、お前達が普段飲んでる水って、そんなに美味いのか?

 

いや、まだだ……まだ完全敗北した訳じゃない。

 

飲み物は口に合わなかっただけで

もしかしたら菓子類は美味いと(おのの)く筈だ。

 

映画館のお菓子、映画館の定番と言ったら『ポップコーン』!

ここの映画館には塩味とキャラメル味が売ってある。

フードコートの何処かに隠されている筈……

 

スタッフ専用のバックヤードに繋がる扉を勢い良く開ける。

 

すると大学時代に通っていた県立の図書館に出た。

 

「―― ば、馬鹿なぁ?!」

菓子は? ポップコーンは?

俺の空腹感を誤魔化してくれる本命のアイテム達は何処に!?

 

「わっ、凄い! こんなに本が沢山あるっ!?」

見渡す限り本棚が大量にある閲覧室を見て、ニムガキのテンションが爆上がった。

 

「なに、オマエ……本が好きだったの?」

「なに言ってんのよ!? 本って凄い高価だって、知らないの!?

 それもこんなに……うわぁ、うわぁ……こんなの宝の山じゃん!!」

ニムガキは目を輝かせながら、本棚に近づいていく……

 

「―― 見て見て、雫、見てっ!!

 『日本の妖怪大全集』『黒魔術の歴史』『倉橋の戦巫女伝説』

 『銃大全』『火薬学の基礎』『クトゥルフの呼び声』……

 うわあ、見た事もない文字なのに読める!? なんで読めるの?!」

「いや、知らんし……てか、テンション高いな、おい……」

俺も本の背表紙を確かめてみると、

最低1回は読んだ事ある本のタイトルがズラリと並んでいる。

 

漫画、カタログ雑誌、辞典、技術書……

教科書、図鑑、入門書、専門書、解説書……

……本当に、色々とあり過ぎて頭がパンクしそう。

 

本棚に収められている書物の順番に規則性は無い。

頭文字順でも無ければジャンル別でも無く、乱雑に本棚に収められていた。

 

「見て見て、雫! 『薬草図鑑』だって!!

 絵が本物みたいに綺麗で、本当に凄い、コレ凄い!!」

「いや、それ絵じゃなくて写真だし……」

無邪気に興奮しているニムガキを見て、思わず微笑ましくなる。

 

「これ持ち帰って、お姉ちゃんと一緒に読みたいなぁ……

 お姉ちゃん、お野菜とか薬草を育てるのが好きって知ってる?」

「いや、初耳なんだけど……」

やけに饒舌(じょうぜつ)なニムガキと話していると、ガラっと引き戸が開く音がした。

 

その方向に二人して視線を向けると、アオが居た。

アオはニムガキを見るなり、一目散に駆け寄って抱き着いた。

 

「ニムちゃん、良かった無事だったんだねっ!!」

「ちょっと、アオ、苦しい……っていうか、アオこそ無事なの!?」

本を床に置いて、心配そうにアオの身体をペタペタと触るニムガキ……

 

「やん、ニムちゃん、くすぐったい……」

心配するニムガキとは裏腹に、アオは能天気な反応を示すだけ……

 

その態度を見て腹が立ってきた。

俺達が、どれほど心配したと思っとるんだ、コイツは……

 

俺は気配を潜めながらアオの後ろに立つ。

両手をグーにして、こめかみに狙いを定め、力を籠めて挟む ――

 

「――痛っ!?」

「なあ、アオさんや……

 あの炎からニムガキを庇った事は、百歩譲って褒めてやっても良い」

「し、雫……もしかして、怒ってる??」

「おうよ、怒ってるよ……

 だから、まずは俺達に言わなきゃいけない言葉があると思うんだ」

「言わなきゃいけない言葉って……?」

 

「―― エンジン始動!! 出力最大ぃぃ!!」

ぐりぐりぐりぐりぃぃいいいっと、拳を高速で力一杯回転させる。

 

「いだだだだだだだだだ ――」

「まずは『心配かけて、ごめんなさい』だるぉぉおお!?

 俺達が、どれだけ心配したと思ってやがるんだぁぁああ!!」

「ごご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

 

「ただ謝ればいいってもんじゃねえぞ、このクソガキがっ!」

非情に不満だが泣き出されたら困るので、この辺で止めておく。

 

「……うぅ、痛いよぅ……」

「お前、本当に解ってんのか? 危うく死にそうだったんだぞ……

 ニムガキもどれだけ心配したことか……なぁ!?」

「わ、私は別に心配なんか ――」

ぷぃ……、っと頬を膨らませて別方向を向くニムガキ。

 

数秒後、何かに気がついたようにこちらに振り返った。

 

「だから、ニムって呼ぶなぁ!!」

「うるせえなぁ……じゃあ、ニムたん?」

「同じでしょうが!! むしろ、そっちの方が嫌っ!!」

 

「違うよ、雫……ニムちゃんって呼ばないと……」

「そっか、宜しくな……ニムちゃん」

「―― それも同じ!! ちゃん付けするな!!」

しかし、アレだな……ニムガキはツッコミ属性だったのか……

神剣になってから、俺以外のツッコミ役を初めて見つけた気がする。

 

ニムガキが相手なら、俺は気持ちよくボケ役に徹する事が出来るかも?

 

「解ったよ、ニムたん」

「『たん』って呼ぶな!!」

「悪かったよ、ニムたん」

「っ……!!」

「そう怒るな、ニムた――」

―― 瞬間、弁慶の泣き所に蹴り貰いました。

 

それも、思いっきり強烈な奴を……

鉄製の靴を履いてるので、威力は更にドンである……

 

 

「……て、テメェ……」

俺は地面に這いつくばって、痛みに耐える。

ガキといっても毎日訓練していることを忘れていました。

 

「ふん! 自業自得でしょ!!」

「―― くそがっ、テメェなんてクソガキで十分だ!!」

「クソガキで結構っ!

 むしろ最初っからそう言えばよかったでしょ!」

 

……お、おのれぇ~~……

絶対、アオに『ニムニム』ってあだ名を定着させてやる。

最終的には、出会うヤツ全員に蔓延させてやるからな、コラァ……

 

「雫とニムちゃんって、いつの間に仲良しだったんだね」

「「―― どこが!?」」

などと、3人してバカをやっていると、二人の身体が透け始めた。

 

……どうやら、そろそろ退室の時間がやってきたようだ……

 

「ちょっと、どうなってるのよコレ!?

 ……本!? 本は!?

 身体が透けて取れないんだけど、どうなってるの?!」

「あはははは……」

ニムガキは必死に本を回収しようと躍起となり、

アオは、そんなニムガキを見て笑いながら消えていく。

 

そして取り残された俺は、床に残された『薬草図鑑』を手に取った。

 

「……日本語、読めるんだ……」

今日の探索で一番印象に残ったのは、その事実だ。

この事実を何かに活かせないかと思いながら、図鑑を本棚に戻す。

 

すると照明の電源が一斉に落ちる。

ブレーカーが落ちる音を響かせ、俺の意識も連動するように落ちた。

 

 

―― そうして、再び何も動かせない状態に戻ってしまった。

 

 

 

場所はニムガキの部屋……

アオはベットでスヤスヤと熟睡している。

椅子に座って寝ているニムガキは、たった今、意識が覚醒したようだ。

 

「……ん……あれ……?」

寝惚けた眼をしたまま、周囲を見渡すニムガキ……

 

「……ふぁぁ、あっ……」

猫みたいな鳴き声と共に背伸びなんぞしている。

 

「……へんな、夢……」

『変な夢とは失礼な奴だな』

俺が言葉を発すると、ニムガキの身体が驚くように跳ねた。

 

「――っ!? そ、その声は……まさか……?」

『目が覚めたかい、ニムニム……?』

「に、にむにむって……」

『お前の新しい名前だよ、ニムニム……』

 

「あんた、もう一回蹴り飛ばされたいの!?」

『やれるもんならやってみろ……

 お前の足が怪我するだけだと思うぞ、ニムニム』

「だから、ニムって二回も言うなっ!!」

 

『ごめん、俺って結構根に持つタイプだから……

 膝を蹴られた恨み、絶対忘れません』

「……サイアク……」

『アオの(あお)りよりはマシだろうよ』

アオという言葉に反応したのか……

ニムガキは急に会話を断ち切って、眠っているアオを揺らす。

 

 

「アオ、起きてよ……アオ……」

「……む、にゅう……?」

 

「む、ムニュウ??」

『面白いだろう? 起きる時、高確率で擬音が鳴る』

 

「あ、おはよ~~、にむちゃん……」

「おはよ~じゃないわよっ! 体の調子はどう? 平気なの?」

「……ちょっと、身体が重いかもぉ……あと、お腹も減ったぁ……」

 

「そう、なら良かっ――「アオさん!?」」

入口には、いつの間にか髪を降ろしたヘリオンのガキが居た。

目頭に涙を溜めて、歓喜の声をあげながらアオに抱き着く……

 

「ほんっとぉぉおに、心配したんですよぉ~~!!

 あの時はもうダメじゃないかって、思ったんですからぁぁ!!」

「えっと、ヘリオンちゃん、ごめんね……心配掛けて……」

おお、偉い……今度はちゃんと謝れたじゃないか……

アオのこめかみをグリグリした甲斐があったってもんだ。

 

「ヘリオンちゃん、ファーレーンお姉ちゃんは?

 ファーレーンお姉ちゃんは、無事……なの?」

「あ、はい……さっき目が覚めたみたいで「――本当!?」」

ヘリオンの返答を聞くや否や、

ニムガキは、ドタドタと隣の部屋へ駆け出した。

 

……そして数秒後、ニムガキの泣き声が聞こえてきた。

 

ヘリオンのガキも、その泣き声に誘われてたのだろう。

アオを抱きしめて、良かった良かったと……再び泣き出した。

 

そして、アオとファーレーンも泣き声も聞こえてきた。

心配掛けて、ごめんなさい……と、すすり泣く音が……

 

 

 

今日は泣き声が響く、とても良き朝であった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。