―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
※属性:シリアス※
眠る事も動く事も出来ない身体にとって、退屈とは天敵である。
誰もが寝静まった深夜の時間であるならば、特にそう思う。
救いがあるとすれば、この状態でも書物を読めるという点だろう。
感知範囲内に書物が有るのであれば、ページを
アオと共に座学を習っているので、読める単語が少しづつ増えている。
お陰で、夜の時間は退屈せずに過ごせていた。
『えっと、出撃……準備……討伐……魔龍……?
……第1……詰め所、出撃……第2詰め所、首都防衛……かな?』
俺が閲覧している書類は、たぶん回覧板の類だ。
今日の夕食時に、アウルの奴が伝えに来た連絡内容と一緒だった。
なんでも主力部隊である第1詰め所の全員が魔龍討伐に出撃するから
俺達は首都の防衛を担当する事になるのだとか……
『……魔龍、ねぇ……』
龍という言葉で連想するのは、俺達を助けてくれたサードガラハムの姿だ。
奴が討伐対象であれば、居ても立っても居られなかった。
だが、今回の討伐対象は『魔龍』であって『守り龍』じゃない。
そもそも『魔龍』と『守り龍』の違いって何だろう?
人に害を成すか、益と成るかの違いなのだろうか?
そんな時、寝ていた筈のシアガキが起き上がる反応を感知した。
ネリガキを起こさぬようにベットから離れると、永遠神剣を持って窓際に移動する。
そして、決意に満ちた表情で窓から飛び降り……
ハイロゥと呼ばれる翼を羽ばたかせながら、東の方角に飛び去った。
『……??』
シアガキの奴、こんな深夜に何処へ……?
……いや、考えるまでも無く行先の予想はつく……
回覧板を読んだ直後じゃなかったら、もう少し悩んでいたに違いない。
おそらく、シアガキはサードガラハムに会いに行ったのだろう。
シアガキにとってはサードガラハムは大恩人だ。
自分の命だけでは無く、ネリガキの命をも救ってくれたんだからな……
もしかしたら龍族というだけで危険が及ぶ可能性もあるんだ。
その可能性を捨てきれず、御礼も兼ねて注意喚起に行ったのだろう。
深夜に行くのはどうかと思うが……
サードガラハムが夜行性である事を祈るばかりだ。
俺は特に心配する事も無く、次の書類の解読を始めた。
書類の解読に熱中していると、ガチャリと部屋の扉が開く。
……入って来たのは、不安な表情をしたネリガキだった……
『よう、ネリガキ……
まだ日は昇ってないと思うんだが、どうしたんだ?』
「雫、シアーを見なかった?」
『見たけど ――』
「―― 何処?! 何処に行ったの!?」
『馬鹿、騒ぎ立てんな! いま
「……んむぅ~? ……ネリー、ちゃん……?」
ほら、言わんこっちゃない……
せっかく気持ち良さそうに寝てたアオが起きたじゃねえか……
「アオ、お願い……アオからも聞いて?
雫がシアーが行った場所を教えてくれないんだよぉ!」
「……ん、んぇ……」
ネリガキは寝惚けているアオを必死に揺らし、次第にアオが覚醒していく……
相変わらずシアガキの事になると見境が無くなるんだなと、思わず苦笑してしまった。
「……シアーちゃん、何処かに行ったの?」
「うん、起きたら居なくなってたの……
雫なら、シアーが何処に行ったか解るかなって……」
『まあ、大方の予想はついてるけど ――』
「―― だからシアーは何処に行ったの?!」
焦るネリガキを見て、なんか
このまま教えれば、考え無しに飛び出す事は間違いない。
ネリガキを少し落ち着かせねば、また前回の二の舞になる気がする。
……でも、嫌な予感は感じない……
最低限、気を付けるように忠告して送り出しても問題は無いと思う。
『数十分前だったかな? 窓から外に ――』
言った瞬間、ネリガキが部屋の窓を開けて片足を窓枠に乗せる。
『待て待て待て待て! 行くならせめて神剣を携帯しろッ!!
遠出する時は絶対に神剣を携帯しろって叱られてただろうがッ!』
「……う゛……」
年長組の全員に烈火の如く叱られた苦い記憶を思い出すように、渋い顔になるネリガキ……
ネリガキは無言で自分の部屋に戻り、
自分の永遠神剣『静寂』を持って再びアオの部屋に戻って来た。
「これで文句無いでしょ!? じゃあ行ってくるから……!」
『ああ、見つからなくても日が昇ったら絶対に戻って来るんだぞ……』
「何言ってるの? もう外、薄っすらと明るくなってるよ?」
『あ、そうなんだ……』
「え? 雫ってば、見て解らないの……?
……馬鹿じゃん……」
『ネリガキ、おめえ喧嘩売ってんのか?
外が明るいのか暗いのか、俺は判別出来ないって知ってるだろ?』
「ネリー知らないよ? アオは……?」
「私も知らない、初めて知った」
そうだっけ……? 言ってなかったっけ……?
『とにかくだ、姉組に叱られたくなければ朝飯前には戻るんだぞ』
「解ってるってば、じゃあ行ってくるね!」
「ネリーちゃん、シアーちゃんが何処に行ったのか解ったんだ、凄い!」
「……う゛……」
俺が送り出そうとした矢先、
アオから褒められたというのに渋い顔をするネリガキ……
『オマエさぁ、もしかして……
行き先が解らない癖して闇雲に探そうとしてたのかよ?
……馬鹿じゃん……』
「うるさいなぁ、ネリー馬鹿じゃないもんっ!
雫だってシアーが何処に行ったのか解らない癖にネリーを馬鹿にしないで!」
『解るわ、そのぐらい……オマエと一緒にすんなっ!!』
「本当!? じゃあアオ、雫を借りてくねっ!」
「ネリーちゃん、私も行きたい」
「いいよ、じゃあ一緒に行こう!」
「うんっ!」
『……え?』
止める間も無く、アオの手を引っ張って、ネリガキは翼を生やして飛翔した。
俺達も行ったら、誰が年長組に事情を報せるんだよ?
もしかしなくても、帰ってきたら俺達全員叱られるのでは……?
「おおぉぉ……」
帰ってきたら叱られるというのに、アオは能天気に感動している。
空からの眺めという奴は、さぞ感動的な眺めなのだろう……
……正直、羨ましい……
この身体には、視覚を通じて景色を楽しむという機能が無い。
確かに、周囲の情報が手に取るように解る機能は便利だが……
俺が世界を美しいと感じる事は、もう二度と無いのだろう。
……そう思うと、無性に寂しくなった……
………………
…………
……
そして俺達は目的地に到着した。
久しぶりに訪れたこの場所は全然変わっていない。
酷い崖崩れが起きた、壮絶な跡……
地面にポッカリと大穴が開いており、穴の中には幾多の岩塊が散乱している。
その大穴の中に、ネリガキとアオは着地した。
『改めて思うけど、俺達……本当に、運が良かったんだな……』
空洞内に広がる土砂が、本当に酷い……
生き埋めにならなかった事こそが奇跡だったのかもしれない。
そう思えるほどの惨状が、足元に広がっていた。
「ねえ、雫……シアーちゃんは何処に居るの?」
『えっと、20m以内には……居ないな……』
「……でも、シアーは絶対此処に居る……
私の『静寂』がシアーの『孤独』と共鳴してるもん」
『神剣同士の共鳴って奴で、互いの位置が解るんだったか?
……なら、道案内よろしくっ!』
「え……? 雫も解るんじゃないの?」
『だから、俺には20m以内の状況しか解んねえって……
ネリーさんや、何度も言わせないでくれる?』
「……ふ~ん、変なの……」
『変とか言うなっ!』
二人は手を繋ぎながら、洞窟の奥を慎重に進んでいく……
『……ってか、明かりは!?
松明とか無いみたいだけど、大丈夫なのかよ!?』
「えっとね……薄暗いけど、青い光で普通に見えるよ」
俺の疑問に、アオが答えてくれた。
『青い光? 何処から??』
「洞窟の天井とか、壁とか、床がね、薄っすらと光ってるの」
『ほ~ん……』
洞窟の壁や床、天井には、宝石の原石と思わしき蒼い鉱物が大量に埋まってる。
……いや、大量という言葉は的確では無い。
数えるのも面倒になるほどの、
大中小、極大、極小、選り取り見取り……
ここに鉱山を構えた者は、誰でも億万長者になれるだろう。
『なあ、ネリガキ……
この土地……ってか、この場所って誰のモノなんだ?』
「守り龍様の寝床でしょ? なら、護り龍様の場所に決まってるじゃん」
『そうか……』
じゃあ、サードガラハムの奴が討伐されたら、この場所はフリーに……?
此処に在る鉱石、全部ガッポガッポ……
なんて欲に塗れた
『あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……っ!!』
「うわぁ、ビックリしたぁ!? 急に叫ばないでよ雫ッ!!」
『いや、すまんなネリガキ……無性に叫びたくなったんだ』
「大丈夫、雫……? 少し休む……?」
『大丈夫だ、アオ……頼むから気にすんな……』
「……?? ……変な雫……」
……俺ってば、本当に浅ましくて醜い人間だと思う……
お金とサードガラハムの命を天秤で測りかけてしまった。
何を考えてんだ、俺は……?
ラキオス王国の誰かが接収して利権確保するに決まってるじゃん。
どう足掻いても俺やアオが億万長者になれる可能性は無い。
ついでに、魔龍討伐の真相が解った気がする。
この寝床の鉱石が目的で、邪魔者を排除しようって魂胆なんだ。
その行為が歴史として長く続いているのだとしたら……?
何度も何度も、その行為が繰り返し行われているのだとしたら……?
前に、この世界にある御伽噺を読んだ覚えがある。
この大陸に伝わる四神剣……『求め』『誓い』『空虚』『因果』……
それらを扱うエトランジェは、幾度と無く龍を討ち滅ぼしたそうだ。
その御伽噺に登場した龍は、人間に仇を成す邪悪な存在と綴られていたが……
実際の所、人間の欲って奴の犠牲になったのだろう。
そんな被害を受け続けている龍族は、果たして人間に好感を持つだろうか?
……俺だったら
全面戦争にならないのが不思議で不思議で仕方が無い。
どちらにせよ、被害者であるサードガラハム達は人間に碌な感情を持っていない。
抱える嫌悪感は、半端なものではあるまいて……
……ってか、今回の討伐対象ってサードガラハムなんじゃ……
嫌な確信を得た瞬間、開けた空間に出た。
シアガキが泣きながら、サードガラハムと対峙している反応を感じた。
「シアー!!」
その光景を見たとたん、ネリーが一目散にシアーの元に駆け出す。
『――おい!?』
「ネリーちゃん!!」
「っ!? ……ネリー!? アオも……なんで……?」
ネリガキは、神剣を構えながらシアガキを庇う形で龍を睨んでいる。
顔を真っ青にさせながら、構えた剣先はブルブルと怯えるように震えている。
そんなネリガキを見た龍は、苦笑いのような冷笑を浮かべた。
『どうやら迎えが着たようだな……
さっさと、この妖精を連れて帰るがいい』
そう言って、サードガラハムは洞窟の奥へ歩いていく。
ネリガキは、安心しながらシアーに向き直り……
「シアー、もう大丈夫だから……一緒に帰ろう?」
ネリーがシアーの手を掴んだとたん、急にシアーが取り乱し始めた。
「――嫌ぁ!!」
「シアー!?」
ネリーの手を払って、シアーはサードガラハムを追う。
「守り龍様、死んじゃ嫌です……
死んじゃ……嫌なんです……う、うぅ……」
シアーは、サードガラハムを追う途中で泣き崩れ、その場にへたり込んでしまった。
「……シアー……」
ネリーはシアーの元に駆け寄って、あやす様に抱きしめる。
きっとシアーは、この龍のことが大好きなのだろう。
命の恩人で、ネリガキをも助けた大恩人……
死んで欲しくないと思うのは当然だし、逃げて欲しいと懇願しに来たのだろう。
だが、シアーの反応を見る限り、その願いは断られたようだ。
サードガラハムは、振りかえってシアーに言葉を紡ぐ。
『……泣くな、妖精よ……』
「でも、でもぉ……」
『我には使命がある、それを放棄するわけには行かぬのだ』
『使命だからって殺されたら同じ、なんじゃ……ないのか?』
俺の問いに、龍は考え込むように目を閉じる。
『そうかもしれぬ……だが、それもまた使命なのかも知れぬのだ』
『――は?』
『我は……否、我等は使命を受けて生まれてきた。
……だが、その使命が何であるかは解らぬのだ……』
『言っている意味が解らない……
馬鹿でも解るように、具体的に言ってくれ……』
『我が、この場所で殺される事……
それこそが使命であるかもしれぬと、言ったのだ』
『使命だから、死ぬのは怖くないと……?』
正直、コイツ狂ってるのかも……と思った。
命令なら死ぬのも怖くないって、もはや狂信者の類だ。
でも、サードガラハムの雰囲気が……
その理性を宿す瞳は、とても穏やかで、気高くて……
とても狂っているようには感じなくて……
むしろ、自分が殺される結果を望んでいるようにも見えた。
「でも、私……守り龍様に……あの時のお礼を、返してない……」
『我の身を案じてる者がここにいる。
それだけで十分なのだ、優しき妖精よ……』
泣きじゃくるシアガキに背を向け、再び歩き出すサードガラハム……
もう話は終わったのだと、その背中が強く語っていた。
「―― おかしいよ、そんなのッ!」
だが、アオが異議を唱えるように声をあげた。
「守り龍さん、シアーちゃんの事が好きなんでしょ!?」
『妖精は人間より嫌いではない、というだけの事……』
「じゃあ、なんで……?
シアーちゃんが心配してるの知ってる癖に、どうして死のうとするのさ!?」
『………………』
あの神々しいまでの威圧感を持つ龍が、初めて言葉に詰まった。
「シアーちゃんは守り龍さんに生きて欲しいって言ってるのに ――」
『―― なら、貴様等の仲間を殺して生き延びろとでも言うのか?』
「……え?」
『我はこの洞窟を離れるつもりは無い。
そこに我を討とうとする者が存在するのなら、当然の行為だろう?』
「そ、それは……」
アオの目から涙が溢れる。
龍を助けたい……でも、それだと大切な人が死ぬ。
片方しか取れない……でも、どっちを選んでも後悔する道……
たぶん、アオが生まれて初めて突き当たった理不尽の壁だ。
「しずく……」
泣きながら俺に助けを求めるアオ……
……でも悪い、俺には解らない……
サードガラハムが自らの意思で死を選ぶのであれば、好きにさせれば良い。
その決断を引き止めるほど、俺とサードガラハムの仲は深まっていない。
それが、俺の結論だ。
……でも、お前は違うだろ?
『なあ、アオ……お前は、なんで出会ったばかりの龍を助けたいと思ってるんだ?』
「だって、シアーちゃんが悲しむから……シアーちゃんの悲しむ顔を見たくない」
『そんな理由か……?』
「……うん……それに、守り龍さんと、お友達になりたいから……」
俯いたまま、アオの涙が地面に落ちた。
『なあ、守り龍さんよ……こんなセリフを聞いても死を望むのか?
アンタの身を案じて、泣いてくれる奴等が目の前に居る。
不明確な使命が、死を宣告してる訳でも無い。
……だというのに、それでも死を望んでしまうのか?』
『……………………………』
少なくとも、俺がサードガラハムの立場なら生きようと思う。
ただひたすらに、純粋に……
友達になりたいと願っている少女を目の前にすれば……
……誰でも、そう思えるはずだ。
「ネリーも、アオと同じだよ! 守り龍様とお友達になりたい!!」
「シアーもッ! シアーも、です!」
『……お前達……』
サードガラハムの声が、明らかに動揺していた。
少女3人に気後れする巨大な龍の姿を見て、思わず笑ってしまう。
『……で、守り龍さんの回答は?』
『汝は、どう思っているのだ……?』
『……どう、と言われてもな……死にたいのなら好きにすれば良い。
俺には関係無い事だ……って、さっきまで思ってたんだけど……
……できるなら、お友達になりたいぞ?』
『自分勝手な人間だな』
『正直な、って言ってくれ……んで、どうするんだよ?』
『すまぬ、小さき妖精達よ……我は、ここを離れるつもりは無い』
「……そんなぁ……」
サードガラハムの言葉を聞いて、再び涙を流す3人の子供達……
その子供達を見て、サードガラハムは優しく笑った。
『ついて来い、お前達に託したい物がある』
………………
…………
……
……洞窟の最深部……
そこには、人工的に造られた小さな祭壇があった。
その祭壇に祀られているのは、拳大の大きさの淡い光を放つ水晶……
『我が、この世界に生を受けた時から存在する半身だ。
受け取ってくれぬか? 友として ――』
「……アオ……」
ネリー達がアオの背中を押す。
「……はい……」
アオは祭壇へ向かって歩き出し、その水晶を手に取った。
『改めて、友として我の身を案じてくれたことに礼を言おう。
我は、この場所を去ることは出来ない。
……だが、お前達の仲間を殺さずに生き延びる努力はしてみよう』
サードガラハムの眼は、優しく、力強く ――
『その代わり、我が消滅しても……
決して、お前達の仲間を恨まないでやってほしい。
その者たちも、運命に囚われているだけなのだから……』
―― 簡単に死ぬつもりは無いと、その瞳が物語っていた。
『では、また会おう。
汝等に、マナの祝福があらんことを――』
そう言って、俺達を置いて龍は引き返していった。
「ぅ、うぅ……」
アオやシアー、ネリーのすすり泣く声が、この空間に木霊している。
死なないでほしいと、そんな思いを込めて……いつまでも泣いていた。
それが最後、あの龍と過ごした一日の終わり……
……この日から3日後……
エトランジェと第1詰め所のスピリットが魔龍退治に出撃した。
アオとネリシア姉妹は第2詰め所の屋根の上から東の空を、ずっと眺めてる。
遊ぶ訳でも無く、駄弁る事も無い。
ただ静かに、憂うように3人仲良く東の空を眺め続けているだけ……
それぞれの手には、小さく加工された蒼い結晶のペンダントが握られていた。
「「「………………」」」
……それにしても暗い、雰囲気が暗すぎる……
無理に空元気になって振舞えとは言わないけどさぁ……
サードガラハムが死ぬって決まった訳じゃ無いんだぞ?
一言も喋らない御通夜状態ってのは、流石にどうかと思うんだ。
まるでサードガラハムの死が確定してるみたいでモヤモヤする。
サードガラハムの半身を加工したペンダントが数珠に見えてくるから、本当に黙るのだけは止めて欲しい。
『なあ、なあ、なあ……?
この沈んだ空気に飽きたから、流石に何か話そうぜ?
いつもの元気はどうしたんだオラァん?』
「「………………」」
場違いの明るさで喋ったら、アオとネリガキに睨まれた。
「雫、うるさい、黙ってて……」
「ネリー達は守り龍様の無事を祈ってるんだから邪魔しないで!」
『……そうだな、邪魔して悪かったよ……』
友達の生死に関わる大切な祈りだ、そりゃあ真剣にもなるか……
茶々を入れる雰囲気じゃないってのは重々承知なんだが……
傍目から見ると、本当に御通夜状態なんだよなぁ……
『なあ、オマエ等……ずっとその調子だけどさ……
その体たらくで本当にサードガラハムとの約束を守れそうなんか?』
「……約束……」
『例のエトランジェ様と第1詰め所の連中の事……
アイツ等がサードガラハムを殺しても、恨まずに居られるのかって話……』
「そんな事無いもん……守り龍様は絶対に生き延びてくれ ――」
「―― あぁ!?」
ネリガキの言葉を遮るように、シアガキが驚きの言葉をあげる。
「ネリーちゃん、アレ……光が凄い勢いで、空に……」
「雫のバカバカバカバカッ!!
雫がネリー達の邪魔した所為だッ!!
雫の所為で護り龍様が死んじゃったじゃん!」
『ふざけんなよ、オマエ!? なんで俺の所為にしてんだよ?!』
「うるさい、うるさいっ! セキニン取ってよ、セキニン!!
本当にどうするのさっ! 守り龍様が死んじゃったぁぁっ!!」
びえぇぇん、と俺に理不尽を押し付けて大泣きするネリガキ……
そのド畜生な行為を受けて、俺も気が気では無かった。
『何を大泣きして誤魔化そうとしてんだよテメェ!?
俺の所為だと!?
話しかけられて気が散る程度の祈りしか出来なかったテメエの所為だろうがッ!!』
「ネリーちゃん落ち着いて、雫もネリーちゃんを苛めないでっ!」
「シアァァ、助けてッ! 雫が苛める~ッ!!」
「……う、ぐすっ……ネリー、よしよし……くずっ……」
ネリガキはシアガキに抱き着く形で、アオとシアガキによしよしと慰められている。
対する俺は、罰として屋根の端に放り投げられていた。
『……え、なんで……? なんなの、この格差社会……?
そういう態度取るんだ、お前等ッ!!
良いもん、こうなったら俺にだって考えがあるもんッ!!
バーカッ! バーカッ!!
後で泣きついても知らないからな畜生ッ!!』
俺の声が届いているのか、いないのか……
3人は屋根上で、未だにベソかいて慰め合ってる。
まあ、これで丁度良かったのかもしれない。
真剣に黙祷を捧げる時は、独りの方が集中しやすいから……
俺が祈りに没頭していると、3人の会話が聞こえてきた。
「……守り龍様、死んじゃったね……」
「でもさ、ネリー……守り龍様、きっと頑張ってくれたんだよね……」
「うん、絶対に頑張ってくれた……ネリー達と約束したんだもん」
「ねえ、ネリーちゃん、シアーちゃん……
私達も、約束……守れるかな……?」
「……シアーは守る……絶対に守るもん……ネリーは?」
「ネリーも、ちゃんと守るもん……守り龍様と約束したんだから……
……アオは?」
「解らない、私、解らない……」
「……アオ……?」
「だって、悔しい……守り龍様が死んじゃった事、悔しい……
ネリーちゃん、シアーちゃん、私、どうすれば良いのかな?
……私、護り龍様との約束、守れないかも……どうしよう?」
アオは動転するように、ボロボロと激しく涙を零す。
その姿を見たネリシア姉妹が、助けを求めるように俺の方を見る。
『……いや、どうしろと……?』
そんな眼で見られても困るんだが……?
サードガラハムが死んだ直後の状態で落ち着かせろって方が無理だろ。
「シアー、アオの事、お願い……」
「……うん……」
ネリガキは二人の傍を離れ、捨てられた俺の方にやってきた。
「雫、その……ごめんなさい……」
『いきなり謝られてもな……』
「雫の所為にした事、謝るから……
だからアオを何とかしてあげて欲しい」
『ネリーさんや、無茶振りが過ぎませんかね……?』
「大丈夫、雫なら絶対に何とか出来るからっ!」
拒否権は無いと言わんばかりにネリガキは俺を拾う。
そして、シアガキの胸で泣きじゃくるアオの隣に座った。
「ほら、雫……! はやく……っ!!」
『そう急かされてもなぁ……』
こういう時、どういう言葉を掛ければ良いのだろう?
恨まないでやってくれ、と言葉を遺したサードガラハムの気持ちも解る。
……だが、それ以上に……
友達を殺されて許せない、というアオの気持ちが解ってしまうのだ。
『なあ、アオ……許せないのなら、許せないままで良いと思う……』
「でも、だって、約束、したんだよ?
護り龍様は、恨まないでって、言ってたのに……」
『そうだな、サードガラハムは正しい……
アオが誰かを恨めば、アオが不幸になっちまうのが嫌だったんだ」
「……え?」
『人を呪わば穴二つ、ってな……有名な言葉だよ。
……
それ等の感情を『呪い』として他人にぶつけると、
自分も同じように不幸となってしまうって意味なんだ』
退魔師という職業柄、その言葉は真実である事を俺は知っている。
『サードガラハムはな、友達が不幸になることを望まない。
だからこそ、オマエ達に恨むなって言葉を遺したんだと思う』
―― 言葉には魂が宿る ――
だから大丈夫、どんなに言葉は難しくとも……
心を籠めて言葉に乗せれば、きっとアオにも伝わってくれる筈だ。
『もう一度、言うぞ……?
別に許せなかったら許さなくたって良い……
ただ、その『許せない』って気持ちを誰かにぶつけてはダメなんだ。
その恨みがましい気持ちは、我慢して
「こんなに辛いのに、我慢しなくちゃいけないの……?」
『そうだ、サードガラハムと約束しちまったんだろう?
だったら、どんなに辛くても我慢しなくちゃいけない……
今は辛くとも、時間が経てば……きっと落ち着いてくれる。
その時に、もう一度サードガラハムとの約束を思い出せばいいのさ』
今のアオに必要なのは、言葉じゃなくて時間……
辛い悲しみを緩和してくれる時間が必要なのだ。
『さあ、もう一度、皆で祈ろうぜ……?
俺達の友であるサードガラハムが、命を掛けてまで頑張ったんだ。
その頑張りを
「……うん、解った……」
「シアー、私達も、もう一度祈ろう」
「……うん……」
そして、俺達は再び黙祷を捧げる。
―― 我等が友、サードガラハムよ ――
―― あの世でも、マナの祝福があらんことを…… ――