永遠神剣になっちゃった   作:ASファン

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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった


※属性:シリアス※


Chapter 2  スピリットの日常
第1節 『死後の世界……?』


本日の座学は小テスト……

リビングの食卓でガキ共が全員座って、今まで習った事の復習問題に挑んでいる。

 

ちなみにセリアの姉ちゃんが監督役だ。

不正は決して許さないというキツい目で全員を監視している。

向かい側にはガキ共が横一列で座っており、各々が一生懸命に問題を解いていた。

 

 

オルファのガキンチョは居ない。

なんでもラースの町に出張中だとか……

 

 

ネリーのガキンチョは両手で頭をグシャグシャと搔き毟っている。

右に傾きながら「あ~」とか、左に傾きながら「う~」とか唸っている姿は面白い。

その苦戦している姿は、まるでメトロノームみたいだ。

……ちなみに解答用紙は真っ白なまま……

 

 

対するシアーのガキンチョは自分の頬に人差し指を当てて、静かに考えている。

顔の角度が静かに右に、左にと傾く姿は、まるでメトロノーム……

 

驚くべきことに、二人のリズムは完璧にシンクロしていた。

左右に触れるタイミングが、気持ち悪いほど連続で一致している。

 

この姉妹、何気に凄い特技を持っているのかもしれない。

……ちなみに姉貴分と比べると、解答用紙の記入率は高い。

 

 

ヘリオンのガキンチョは、特に面白いリアクションをする訳でもなく

普通に悩みながらも丁寧にかわいい文字を書いている。

芸人としては失格であるが、ガキ共の中で一番頭が良いのはヘリオンのガキンチョで間違いなさそうだ。

全員の解答用紙を比較したらハッキリと解る。

 

そして我等がアオの場合は、余裕の表情でスラスラと汚い字で解答を書き綴っていく……

他のガキ共と比べて進捗率が異常である。

……まあ、当然だわな……

 

などと思っていたら、柄の部分をアオの靴底でグリグリと踏まれた。

あ、また俺の出番ですか……?

 

『えっと、1週間は何日でしょうか?

 ……1週間は7日……いや、此処だと5日だった……』

「…………」

アオはカリカリと『1週間は5日』と解答を書き綴る。

 

ちなみに、この世界の靴は鉄製……

踵の部分と爪先の部分だけが分厚い布で仕上がっている。

 

アオが履いている靴は、使い古された支給品であり靴底の錆が酷い……

そしてアオが俺に解答を求める毎に、俺の柄が靴底の錆で穢されていく……

 

だが構わない……むしろ、コレで良い……

俺に実害があればあるほど、俺は容赦無く計画を実行できるのだから……

 

 

 

……って、また靴底をグリグリと押し付けてきた。

 

『1ヶ月は何日でしょうか、って……?

 1ヶ月は30日……じゃなくて20日固定だ』

 

 

 

その計画とは、ずばり……アオを堕落させて俺に依存させるという内容……

 

アオと1週間過ごして解ったことがあるのだが、コイツの性格は天然である。

ただの天然であるだけならば良いのだが、『物忘れが多い』という属性が付与されていた。

 

日が経つ毎に、俺を放置する回数が激増している。

放置される毎に、肌身離さず携帯して欲しいと頼んでも改善する見込みが無い。

怒ったら機嫌を損ねられ、わざと放置される事もあった。

 

誰が生殺与奪の権利を握っているのか、子供ながらに理解しているのだろう。

……アオが居なかったら、俺は何も出来ない……

 

このままじゃ俺は、子供の玩具のような末路になる。

飽きられたり興味を失われたら最後、存在自体が無かったように忘れ去られるのだ。

 

そんな未来を回避する為には、アオを俺に依存させて堕落させなければならない。

俺が有能だと魅せつけ、アオにとって絶対に必要なモノと刷り込まねば俺に未来は無い。

 

そのために俺は、俺を利用したカンニング行為を提案した。

俺も勉強に参加したいし、アオは誤解答による恥掻かなくて済むのだと……

 

……アオは特に反対するでも無く、俺の提案を受け入れた。

 

誤算があったとすれば、椅子の下に置かれて

靴底でグリグリされるスタイルで確定してしまった事だろうか?

 

……って、またグリグリしてきた……

 

ある意味、この身体が日本刀で良かったと思う。

この身体が人の形をしていたら、第三者からは大変見苦しい絵図になっていた事だろう。

 

……想像してみてほしい……

答えを乞う立場である小学生未満のガキから足蹴にされてる大人の姿を……

生殺与奪の権利を握られて叱る事も出来ず、ただただ子供に屈する大人の姿を……

 

……情けなくて涙が出そう……

 

 

『えっと、月の名称と週の色を順に記入せよ……とな?

 月名は1月(ルカモ)2月(エハ)3月(チーニ)4月(アソク)5月(レユエ)

 6月(ホーコ)7月(エク)8月(コサト)9月(ソネス)10月(シーレ)11月(スフ)12月(スリハ)……

 週は『青の週』『赤の週』『緑の週』『黒の週』の順で巡る筈……』

 

この世界の日付表現は、ある意味単純だ。

月は絶対に20日固定……

1日から5日が『青の週』、6日から10日が『赤の週』……

11日から15日が『緑の週』、16日から20日が『黒の週』となっている。

 

例えば6月20日の場合『ホーコの月 黒いつつの日』という表現になり

3月8日の場合は『チーニの月 赤みっつの日』と表現する。

 

週を表す色の順番さえ暗記してしまえば、元の世界より数えやすいのかもしれない。

少なくとも30日末日と31日末日の月が未だに解らない俺にとっては楽なもんだ。

 

 

 

 

……ともあれ、俺は心に決めたのだ。

アオを俺に依存させて、将来的に俺が主導権を握るという計画を……

 

決して、アオが間違った道に進もうとした時、

ブレーキ役にすらなれない事を危惧した訳では無い。

 

俺はただ、自分の命が惜しいだけ……

このままだと、暇という概念に俺の精神が殺されるという危機感が一番強い。

 

だからこそ、僅か1週間という期間で

小テストの異世界文字を解読出来るほどの知識が身に付いたのだと思う。

 

半径10m以内の情報を感じ取れる、この能力……

範囲内であれば文字も認識出来る能力だった。

何よりも凄いのは、分厚い本が閉じられた状態でも中身が認識出来る点だ。

 

例え鍵付きの書物だろうと、分厚い金庫に収められた機密書類だろうと

半径10m以内に入れば問答無用で情報抜き放題とか、もはやチートである。

 

自分で動く事が出来ない俺が生き残る為には、この能力を極めるしかないと思った。

離れた情報をぶっこ抜けるようになる為にも異世界言語の習得は必要不可欠だし、

何よりも離れた書物の内容を読めるという事は、暇つぶしの手段を得るという事だ。

 

俺を精神的に殺す要因を遠ざける事が出来るのであれば安心も出来る。

 

 

 

……って、また靴底でグリグリと……

今度は最終問題らしいので、これで最後だ。

 

 

『えっと、各属性のハイロゥの名称を答えよ……?』

ハイロゥとは、この世界におけるファンタジー要素の一つだ。

 

スピリットという種族は、光源体を発露させる能力を持っている。

光源体を頭上で円環上に加速した後、光源体は様々なカタチで実体を得る。

 

そのカタチは個人差があれど、色によって特徴が確定している。

青や黒が特徴の者は翼のカタチを……

緑が特徴の者は盾のカタチを……

赤が特徴の者は球体のカタチを……

 

『確か、青と黒の属性が『ウイング・ハイロゥ』……

 緑の属性が『シールド・ハイロゥ』……

 赤の属性が『スフィア・ハイロゥ』……』

「………………」

 

ハイロゥが出現している間、彼女達は超人的な身体能力を得る。

10mの距離を1秒未満で移動したり……

巨大な石柱をバターのように斬り裂いたり……

何も無い所から魔法陣を出現させ、超常現象を起こしたり……

挙句の果てには翼を羽ばたかせて飛翔したり……

 

正直な感想として……

コイツ等は女性という皮を被ったバケモノなんじゃないかなって……

そう思わざるを得ない迫力があった。

 

でも、訓練以外では……ただただ普通……

まるで一般人が大きすぎる力を得てしまっただけなんじゃ……

そう思わせる程、彼女達の感性は普通だった。

 

 

「…………セリアおねえちゃん、終わったよ!」

「嘘でしょ!? 本当に、もう終わったの……?」

「うん、ほら……見て見て♪」

 

セリアの姉ちゃんは驚きながら

アオから解答用紙を受け取り、早速採点していく。

 

「……満点……凄いわアオ、やるじゃない……」

「えへへへ……」

アオはズルをしているというのに罪悪感を抱いた様子は無い。

 

セリアの姉ちゃんの賞賛を

当然の結果と言わんばかりに受け入れている。

 

正直に言うと、良心が痛む……

コイツ、このままだと碌な大人にならねえわと確信してしまったからだ。

 

誰の所為で……?

……俺の所為で……?

 

でも、仕方ないじゃ無いか……

俺だって生き残るのに必死なのだ。

 

自分で身動きがとれない、アオにしか声が届かない、興味が失われたら死ぬ……

俺は俺が生き残れる環境を一刻も早く整えなければ終わってしまうのだ。

 

だから、アオの成長に悪影響を出してでも計画を実行すると決めた。

アオが碌でも無い大人に成長したから何だというのだ?

俺が責任を持って、最後まで見捨てなければ良いだけの話だろうが……

 

 

俺は罪悪感から目を背けるように周囲の様子を窺う。

すると、褒められているアオを忌々しい表情で睨んでいる奴が一人……

 

―― ネリー・ブルースピリット ――

アオより少し年上の、活発な印象がある青髪ポニーテールの子供である。

 

ソイツは最近、アオを目の敵にしている。

その態度は日が経つにつれエスカレートしているように思えた。

 

 

 

それをハッキリと実感したのは、昨日の座学での出来事……

 

緑髪のメイドの姉ちゃん、もとい……

ハリオンの姉ちゃんが算数の授業をしている時だった。

 

ネリーのガキンチョが、アオの奴を泣かせたのである。

 

 

………………

 

 

…………

 

 

……

 

 

焼き菓子が積まれた大皿を持ちながらハリオンの姉ちゃんは皆に出題する。

 

「ここに特製のヨフアルが9個ありましてぇ~

 オルファちゃん、アオちゃん、ネリーちゃん、シアーちゃん、ヘリオンちゃん……

 そして、私で分けたら皆さんに何個行き渡って、何個余りますかねぇ~?

 正解したら、余ったヨフアルを全部あげちゃいますぅ~っ!」

ヨフアルという焼き菓子が、何処からどう見てもワッフルにしか見えない件について……

 

しかも、人の顔よりデカイ……

某アンパンヒーローの顔と同等の面積を誇っていると思う。

……などと驚愕していると、アオの靴底でグリグリされた。

 

『全員に1個行き渡って、3個余る……ぅん、だけど――』

「―― は~いっ! ぜんいんに1個、あまりは3個っ!」

『うわ、マジかオマエ……?!』

コイツ、考え無しに即答しやがった……

皆が必死に計算している最中、アオが速攻で挙手して答えると皆の視線が集中する。

 

っていうか、アオさんや……

余ったワッフルっていうか、配られたヨフアルを全部食えるの?

1個+おまけ3個だよ?

4個も食ったら、アオの胃袋が破裂するよ、たぶん……

 

「アオ凄い、すご~い! もう解ったの?!」

「アオさん、生まれたばかりなのに凄いです、尊敬します」

「凄いねぇ、ネリー」

「凄くないっ! どうせ間違ってるに決まってるんだからっ!」

 

皆が凄い凄いと感心しているのに、

一人だけ反対意見を述べるネリーのガキンチョ……

 

アオと出会った当初は、友好的な素振りを見せていたのに……

いつからアオを目の敵にするようになってしまったのか?

 

「でわでわ~、本当に合っているか確認してみましょうかぁ~」

 

ハリオンの姉ちゃんが一つづつ、6席にヨフアルを配っていく。

当然、皆に1個配り終え、余ったのは3つ。

……まあ、この位の計算なんて楽勝だわな……

 

「アオちゃん、大正解ですぅ~!

 余ったヨフアル3個、おまけしちゃいますね~」

「えへへ……」

「ぬ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛……」

アオは御満悦で、その姿を悔しそうに睨むネリーのガキンチョ……

 

……すまんな、ネリガキ……

俺は生きる為に、アオの将来を犠牲にすると決めたのだ。

もう形振(なりふり)なんて構ってられないのよ……

 

「では皆さん、遠慮無く食べて下さいねぇ~

 ちなみにぃ、御残しするとぉ~……めっ、ですからね~」

「……え?」

アオが困った顔になった。

……だから言ったのに……

 

「あの、ハリオンおねえちゃん……私、たぶん食べきれ ――」

「―― アオちゃん、残したら……めッッ! ……ですからねぇ」

「……えぇ……」

これって、もはや罰ゲームなのでは?

正解者に御褒美として罰を与えるとは、中々に斬新だ。

斬新過ぎて、もはや意味不明……

 

「……し、雫……どうしよう……?」

『食えないんだったら、食いたい奴に回せば良いじゃん……

 皆で御自由にどうぞって……結果的に残さなければ良いだけなんだから』

「……そっか、じゃあ……その、私は良いから、皆でどうぞ……?」

アオはヨフアルが4つ乗った皿をテーブルの真ん中に置いた。

 

「いいのッ?! じゃあオルファ、1個貰うね!」

「シアーもッ!」

「アオさん、ありがとうございますッ!」

 

『っていうか、アオ……? 自分が食べる分、取り忘れてない?』

「―― あ゛っ?!」

アオが気付いた時には、もう手遅れだった。

ガキ共4人の全員がヨフアルを掴み終えており、2個目として持ち去られた後 ――

 

 

いや、ネリーのガキンチョだけが

残り1個となったヨフアルを掴む直前で固まっていた。

 

なんか、表情にもの凄く葛藤している様子が浮かんでいる。

ぐぬぬ……と、唸りながら伸ばしている腕はプルプルと激しく揺れており、

ヨフアルを掴もうか掴むまいかを迷っているように思えた。

 

「……ぁっ、ぁあ……!?」

アオはネリーのガキンチョの様子を、涙目になりながらハラハラとした様子で伺っている。

そんなに食いたいのなら、今のうちに横取れば良いのに……

 

 

 

ネリーのガキンチョは30秒近く悩み続けた結果 ――

 

 

 

 

「―― ふんッ! ネリーはアオからのヨフアルなんて要らないんだからッ!!」

「ネ、ネリーちゃんッ゛……っっ!!」

ネリーのガキンチョがアオを完全に泣かせた瞬間であった。

 

 

ハリオンの姉ちゃんはニコニコと、その光景を見ていたのは覚えてる。

 

 

ちなみに2個目を挫折した3名は

ハリオンの姉ちゃんにめっ、ってされていたのも覚えてる。

 

この授業って後先を考える力を養う高度な授業だったりもするのだろうか?

 

 

………………

 

 

…………

 

 

……

 

 

正直、ネリーのガキンチョの優しさには泣いた。

子供の癖に毛嫌いしている相手でも心遣いが出来るなんて……

 

 

……という冗談はさておき……

何故、ネリーのガキンチョはアオを毛嫌いするようになってしまったのか?

それが思い出せない。

 

特別アオがネリーのガキンチョに嫌がらせをしている行動はしていない。

 

昨日は偶然にも良い話だな~……で、終わったけれど……

 

なんか、こう……嫌な予感がするのだ。

 

ネリガキの行動がエスカレートして行ったら

不吉な事が起こるのだと、俺の直感が囁いている。

 

 

 

アオは今、自室でスヤスヤと眠りこけている。

 

速攻で小テストを終わらせ、満点解答だった為、

午後の訓練までは自由にして良いわよ……と、セリアの姉ちゃんに言われたからだ。

 

最近のアオは良く寝ている。

暇さえあれば誰かと遊ぶ訳でも無く、独り惰眠を貪っている。

『寝る子は育つ』という言葉はあるが、それにしても眠り過ぎな気がする。

 

気を使ってヘリオンのガキンチョが誘おうと部屋を訪れてはいるが、

毎度毎度アオが眠った後なのでタイミングが合わない。

 

ちょっと残念そうな顔をしながら、

アオの掛布団が乱れていたら掛けなおして出直すのがヘリオンの日課になっている。

 

……その優しさに泣いたのは秘密である。

 

 

俺はというと、此処から半径10m以内に存在する書物を解読して暇を潰していた。

新たに判明した単語を照らし合わせて、意味が解る文章を探している。

 

……が、学歴が5日程度の知識で理解できる単語など、(たか)が知れているのだ。

 

暇つぶしをするには、まだ知識が不足している。

今出来る暇つぶしと言えば、人間観察だけだ……

 

といっても、今俺が認識できるのはアオとリビングに居る二人……

ネリーのガキンチョとセリアの姉ちゃんのみである。

 

セリアの姉ちゃんが鬼のような形相になっており、

ネリーのガキンチョが涙目になりながら小テストの正しい解答を何十回も書き綴っている。

その光景を感じて、一人だけ赤点で補習しているのだと察するには十分だった。

 

……どの世界でも書いて覚えるのは共通なんだな……

 

補習が終わったのか、セリアの姉ちゃんはネリガキの解答用紙を回収する。

 

やっと終わったのかと思いきや……

セリアの姉ちゃんは鬼の形相のまま、ガミガミとネリガキを叱り始めた。

ネリガキは涙をポロポロと流しながら泣き始めてる。

 

……可哀想に……

まだガキなんだから大目に見てやれよ、とは思う。

 

叱りつけるのは大切だが、

たかが小テストで泣かせるほど叱るのは違うと思うんだよなぁ……

 

 

 

 

そういえば、似たような光景を何処かで見た覚えがある。

 

あれは、俺もクソガキだった頃……

 

勉強の事で親に叱られて、涙を零していた年下の誰かを見た。

俺は涙を流していたソイツに近づいて……何を話したんだっけ?

 

ガキの頃の思い出だから、よく覚えていない。

確か、病院の何処かで出会ったような、出会ってなかったような……?

 

 

 

などと過去の出来事を思い出していると、セリアの姉ちゃんの反応が動いた。

 

テストの解答用紙を以って、外出するようだ。

玄関から出て反応が感知出来なくなった。

 

他の奴等も何処に行ってしまったのか?

アオとネリーのガキンチョ以外の反応が感じられない。

 

やる事が無いので、ネリーのガキンチョの観察を続行する。

 

セリアの姉ちゃんに相当絞られたようで、表情に覇気が無い。

落ち込んだ顔のまま、トボトボと2階にある自室を目指している。

 

その途中、アオの部屋の前で停止した。

開かれたドアから、熟睡しているアオの事をジッと見つめている。

 

「……なんで、ネリーだけ……」

ぎりっ……と、歯を強く噛み合わせた音が聞こえたと共に、

ネリガキの表情は憎いという感情が露わになって来た。

 

アオに対して何かしそう……

……と思ったら案の定、忍び足で熟睡しているアオに近づいてくる。

 

暗い憎しみの表情を浮かべながらアオを見下して数秒後……

その口端がニヤリと、不気味に吊り上がった。

 

何をするつもりだと警戒しながら見守っていたら、

ネリーのガキンチョの魔の手は俺の方に伸びてきた。

 

鞘に入った刀身をガシって掴まれると、ネリガキはアオの部屋を静かに退室する。

 

 

『おい、ちょっと待て……なんで俺なんだよ?』

アオに文句があるのなら、アオに嫌がらせをしろというのだ。

ガキの喧嘩に大人を巻き込むなよ……

 

文句を言ってもネリガキに俺の声が届くはずも無く……

俺はネリガキの自室に誘拐された。

 

 

「へっへっへ~ん……」

ネリガキが俺を見る表情が怖い……

無垢な悪意が表情に発露している。

 

俺、これから何をされるんだろう?

子供は無知であるが故に加減を知らない残酷さを持ち合わせている。

 

何をされるのか予想がつかず、本当に怖い……

 

 

「さってっ、とぉ~……何処に隠そうかな~?」

その言葉を聞いて少し安心した。

 

良かった、刀身をボロボロにしようとか

溶鉱炉に投げ込んで溶かそうとかいう発想じゃ無くて、本当に良かった。

 

 

「う~ん、川の中に投げ込んじゃおうかなぁ~」

『―― かわ??』

訂正、ちっとも良くなかった。

 

川に投げ込まれたら、俺ってばどうなるの?

この身体って水の中で呼吸出来るの??

……いや、呼吸はしていないからワンチャン大丈夫な可能性はあるのか??

 

それ以前に今の俺は外気温を感じるんだよ?

長時間冷水に漬け込まれたら低体温症になっちゃうじゃん……

後遺症が残ったら、どう責任取ってくれるつもりなのだろう?

 

「でも、さすがにそれは可哀想だよね……?」

『そうだ、そうだ! 俺が可哀想だろう!?』

考えること数分、ネリーのガキンチョの考えは纏まったようで……

 

「よし、海に投げ込もう!」

『アオォォォッ!! アオさぁぁぁあああああん!!

 助けてぇぇぇええええっ!』

命の危険を感じ、大声でアオに助けを求める。

だが、アオが起きる気配は無い。

 

『ふざけんな、クソガキ共!! なんで俺が!?

 っていうか海はヤバイ、絶対にヤバイから!!』

もし沖に流されたり、深海に沈んだりしたら最後、誰も回収してくれない。

中世を模したこの世界に潜水艇なんてある訳が無い。

 

素潜りの限界は100m前後だと聞いた事がある。

つまり、100mより深い場所に流されたらアウトだ。

 

永遠に深海を彷徨い、死にたいと思っても死ねないので……

そのうち考えるのを止めた、というナレーションが絶対入る。

なんなら自分でナレーションを入れる。

 

 

「よしっ、そうと決まったら ――」

ネリガキは意気揚々と自室の窓を開けて、その窓枠に足を掛け ――

 

「―― ハイロゥッ!」

―― という言葉を叫びながら、2階の窓から外に飛び出した。

 

だが、光源体は何故か発露しない。

発露しないまま、ネリガキは万有引力の法則に従って自由落下を開始する。

 

「あれ? ハイロゥ? ハイロォォッ!?」

ネリガキは焦り始めたが、もう手遅れだ。

 

受身も取れぬまま、彼女は地面に叩きつけられた。

俺も同時に地面に叩きつけられ……

 

 

 

……同時に、感覚が激変した。

 

 

 

闇しか認識できなかった視界に、光という概念が進入してくる。

眩しくて反射的に目を瞑ってしまった。

 

眩惑が収まり、少しずつ目を開ける……

 

そこは大学時代でよく使っていた喫煙所の光景であった。

パイプ椅子が一つと真ん中に灰皿が設置されている小さい部屋だ。

 

まさかと思って自分の身体を確かめてみる。

前回と同じく、人の身体を取り戻した俺が居た。

 

そして俺の足元には、ネリーのガキンチョがうつ伏せで倒れていた。

 

「………………え?」

なんでネリーのガキンチョが?

 

……いや、それよりも怪我は??

俺は恐る恐るネリーのガキンチョを調べる。

 

……呼吸はしている……

衣類をめくって背中を調べてみるが、傷一つ無い。

 

そのまま仰向けにして腹部や胸部を調べてみる。

……が、打撲跡とか、すり傷らしきモノは見当たらない。

瑞々しく、子供特有の綺麗な肌をしていた。

触診してみても、骨が折れている様子も無い。

 

……おかしくね??

なんで傷痕が無いの……?

2階からビターンと叩きつけられた筈なのに……

 

 

何故だろうと疑問に思いながら

めくっている衣類を戻そうとした瞬間、ネリーのガキンチョと目が合った。

 

「……………………」

「……………………」

 

いつの間に目が覚めてたんだろう?

ネリーのガキンチョが服を掴んでいる俺の手と顔を交互に見てる。

 

……というか、今の状況、ヤバない?

理由を説明しないとロリコン変質者の烙印確定では??

 

「おーけい、お嬢さん、まずは俺の話を聞いてくれ……」

「―― ?? 良いけど?」

 

赤の他人に衣類を剥がされて裸を見られたってのに、なんて冷静な奴なんだ。

その図太さに感動を覚えつつ、俺は丁寧に掴んでいる衣類を戻して事情を説明する。

 

「あのさ、オマエはアオの部屋から飛び降りたの、覚えてる?」

「……えっと、うん……覚えてる」

 

「その時、思いっきり地面に叩きつけられたろ?

 だから、ケガしてないか確認してたんだよ……」

 

「何言ってるの? 2階から落ちたぐらいで怪我とかする訳無いじゃん」

「いや、2階から落ちたら普通に死ぬぞ?」

「そんな訳無いじゃん……

 誰だか知らないけどネリー達を舐め過ぎ……」

「いやいや、1mの高さでも打ち所が悪かったら死ぬから」

 

「でも、ほら……ネリーはピンピンしてるよ?」

ネリーのガキンチョは立ち上がって俺の前でぴょんぴょんと跳ね始めた。

 

「……そこが不思議でならんのだが?」

「ふふん、だってネリーはクールだからねっ!」

「意味が解らんわ」

 

本当に大丈夫そうなので俺も立ち上がり、改めて喫煙所を見渡す。

部屋の広さは3畳程度と、本当に狭い部屋だ。

 

「ねえねえ、コレって何?」

ネリガキが部屋の中央に置かれている灰皿をコンコンと(つつ)きながら質問してくる。

 

「普通に灰皿だが、見た事無いのか?」

「はいざら……? 知らな~いっ!

 ……じゃあ、アレは? あの凄い明るい奴ッ!!」

今度は天井を指さして聞いてきた。

 

「あれは蛍光灯」

「けいこうとう……??」

「照明器具だよ」

 

壁についてるスイッチをオン・オフさせると、

連動するように蛍光灯が付いたり消えたりして、ネリガキが喜ぶように興奮した。

 

「ネリーもやりたいッ!」

「どうぞ御自由に……」

ネリガキは興奮しながらスイッチをオン・オフさせるのを繰り返す。

部屋の照明が点いたり消えたりする中、俺は今後について考える。

 

此処が現実の世界とは程遠い世界である事は知っている。

窓から見える光景で確信出来た。

本来であれば塀で遮られて景色もクソも無い筈なのに、今はどうだ?

 

窓から見える全範囲にお星さまが煌めいている。

窓に近づいて、あらゆる角度で外を見ても景色に変化は無い。

 

地平線なぞ存在せず、まるで宇宙空間を漂っているようだ。

だが俺達は床に立っているので重力は存在している模様……

 

それはそれとして、一向に止まる気配が無い照明の点滅で集中力が途切れそう……

 

「つーか、そろそろ止めろ!」

「え~、なんでさ?」

「目が疲れてきたんだ」

「………………」

ネリガキはニヤリと笑い、スイッチのオン・オフを更に激しく繰り返してきた。

 

「おう、クソガキ……俺が怒る前に止めような?」

「え~、どうしようかなぁ?」

俺の忠告を無視するように、迷惑行為を止めないネリガキ……

 

「そうかい、そうかい……だったら、一人でずっとやってろ……

 俺はもう行くから、迷子になっても俺は知らん」

「―― え゛?! ちょっと待ってッ!? ネリーも行くッ!!」

喫煙所の扉を開けて一人で出て行こうとしたら、ネリガキが慌てたように付いてきた。

 

 

 

「……え゛?!」

そして扉を開けた先には、また別の光景が広がっていた。

 

「……?? どうしたの?」

「此処、病院……? え?? あれ……??」

見覚えがある病院の廊下に出た。

 

昔、世話になった県営の大型病院の廊下で間違い無いと思うが……

なんで大学の喫煙所と繋がっちゃっているんだ?

 

「ねえねえ、そういえば此処って何処なの……?」

「……んなもん、俺が知りたいわ……」

困惑しながら、この不可思議な世界をネリガキと共に探検する。

 

扉や階段を通る毎に、建物が変わる。

 

大学、病院、図書館、銭湯、小・中・高学校といった公共施設の他に

師匠の家や俺の実家……

俺が住んでる安アパートの部屋といったプライベートに関わる場所まで……

 

共通しているのは、俺が頻繁に訪れていた場所であるという事……

まるで夢の世界を彷徨っているような感覚に陥る。

 

「ねえねえ……」

「今度は何だよ?」

映画館の上映室を繋ぐ廊下らしき場所で迷っていると、再びネリガキから声が掛かった。

 

「ここって、もしかしてハイペリアなのかな?」

「……はいぺりあ……って、なんぞ??」

 

「知らないの……?

 人間が死んだら行く世界で、エトランジェ様もそこから訪れるんだよ!」

「人間が、死んだら……?」

「うん」

その言葉で、全て繋がった気がした。

何故ネリガキの身体に傷がついていなかったのか、その理由についても……

 

 

「だとしたら、オマエ……やっぱり死んでるじゃんか……」

 

 

まず、前提として……俺が憑依した日本刀は、魂を引き寄せる性質がある。

幽体離脱した俺を捉えているのが、その証明……

ネリガキは、この特殊な日本刀を抱えて即死したが為に魂を吸われた可能性が高い。

 

現実世界にはグロテスクになったネリガキの死体があり、

此処に居るネリガキの身体が綺麗なのは霊魂だからという事で説明が付くと思う。

 

この世界のありとあらゆる場所が俺に関係深い場所なのは謎のまま……

だけど、此処が死後の世界である事は間違いないと思った。

 

だって、此処には霊魂である俺とネリガキしか居ないんだから……

 

「……へ? 死んでるって、ネリーが??」

「だって、此処は死んだ人間が来る世界なんだろ?」

 

「ネ、ネリーはスピリットだもん……人間じゃ無いし……」

「でも、死人が来る世界に居る時点で、それは死んだという事なのでは?」

「………………」

俺の指摘に、ネリガキの表情から血の気が失せていく……

 

「で、でもさぁ……ネリーが死んでるんだったら、おにーさんも死んでるって事に……」

「俺は幽霊みたいなもんだから……」

「ゆーれー??」

幽霊も知らんのか?

だとしたら、幽体離脱について説明しても無駄だろう。

 

「こう見えて、俺は死んでるんだ……

 そして、此処は死人が来るハイペリアという世界……

 何故、お前は死人が来る場所に居るんだ?」

 

「……ネリー、本当に……死んじゃったの?」

「2階から受け身も取れずに落ちたしなぁ」

 

「だって、2階から落ちただけだよ?」

「だから、打ち所が悪ければ1mの高さでも死ぬんだってば」

「いちめーとる、って、どのくらい??」

「……このくらい?」

自分の胸元の高さを示してみる。

 

「そんな高さで死ぬって嘘でしょ!?」

「死ぬもんは死ぬんだよ、現にオマエも死んでるじゃねーか」

 

「嘘嘘嘘嘘……嫌だ、ネリーは信じない……ネリーが死ぬなんて嘘だもん……」

「オマエさんの身体に打撲の跡すらも付いていないのが何よりの証拠だろうが……」

 

「知らないそんな事……ねえ、本当にネリーってば死んじゃったの!?

 ネリーが死んじゃったらシアーはどうなるの?!」

シアーって、いつもネリガキと一緒に居るガキの名前だった筈……

 

「どうなるって……まあ、悲しむんじゃないかな?」

「だよね、だよね!? どうしよぉぉぉおおお!? シアーが『孤独』になっちゃう!?」

「孤独って事はねえだろ……

 セリアの姉ちゃんとかハリオンの姉ちゃんとか放置するとは思えんのだが……」

 

「そういう意味じゃ無いッ! シアーが『孤独』になっちゃうんだってばッ!!」

「だから周りに優しい奴等が居るから孤独にはならんて……」

「ちぃぃがぁぁうぅぅぅのォォオオッ!!」

興奮し過ぎて支離滅裂になっているネリガキ……このままだと埒があかん……

 

「―― やかましいわっ!」

落ち着かせる為に、ネリガキの頭を平手でスパーンと叩く。

 

「いっったぁぁああいッッ?! うわぁぁぁあああん!!」

ネリガキは頭を押さえながら、その場に座り込んでガチ泣きしてしまった。

 

あかん、対応ミスった……

痛みを感じれば我に返ると思ったのに……

 

「びえぇぇえええんッ!!」

子供の甲高い声というのは、鼓膜に響く……

このクソガキ、本当にどうしたもんかと悩んでいた時……

すぐそこの上映室の扉が勢い良く、蹴破るように開かれた。

 

「―― ネリーちゃん、どうしたの?!」

「アオォォォオオッ、うぉぉおおおおんッッ!!」

 

アオがネリガキに近づくや否や、ネリガキはアオの腰に抱き着いて顔を埋める。

アオの腹というサイレンサーが装着されたお陰で、音響兵器は沈黙したのだった。

ちなみにアオは、ネリガキをあやすように優しく頭を撫で始めている。

 

それにしても自分が死んだと認識したら、真っ先に妹分を心配するとか……

ガキの癖に、なかなか人間が出来ている事に感心してしまった。

……なんなら、少し惚れてしまった。

 

なんとか力になってやりたいが、もう死んでるんじゃなぁ……

正直に言って、手の施しようが無い。

 

「……で、雫……?」

「なんだよ、アオ?」

「ネリーちゃんの事が嫌いだからって、こんなに泣かせるのはどうかと思うの……」

「いや、俺はただ事実を伝えただけであって……

 つーか、クソガキだとは思うけど嫌悪を覚えるほどじゃねえよ」

 

「……じゃあ、なんでネリーちゃんは泣いてるの? 雫がイジめたからでしょ?」

「虐めて無いし、自分が死んだって事を自覚したから泣いてるんだよ」

 

「え゛ッ?! ネリーちゃん死んじゃったの……!?」

「ああ、2階にある自分の部屋の窓から飛び降りて地面に叩きつけられたんだ」

 

「―― 大変?! ハリオンおねえちゃんに知らせなきゃ!!」

「ハリオンの姉ちゃん出かけてるっぽいから、いま留守です」

 

「じゃあセリアおねえちゃんに ――」

「―― セリアの姉ちゃんもネリガキの解答用紙持って何処かに出かけた」

 

「じゃあ、えっと、どうしよう……!?」

「どうにもならねえな……とりあえず目覚めてもネリガキの死体は探すんじゃないぞ?

 グロテスクな死体を目撃して心の傷になっても知らんから……」

 

「……ん? 目覚めるってナニ……?」

突然、泣いていたネリガキが再起動した。

なんか思いっきり睨むような眼で俺を見ている。

……喧嘩でも売っているのだろうか?

 

「―― ねえ、目覚めるってどういう意味なのっ!?」

「文字通り、目が覚めるって意味だが?」

丁寧に言葉の意味を教えたら、ネリガキはアオの方を向いて、アオの両肩を揺すり始めた。

 

「なんでアオ、此処に居るの? もしかしてアオも死んじゃったの!?」

「え、私……? 私、死んでないよ??」

「じゃあ、なんで死んで無いのに此処に居るの?!

 なんで!? アオはどうやって此処に来たの!?」

「えっと……普通に、お昼寝をして……??」

 

「―― 嘘つきッ!! なんでネリーが死んだって嘘をついたのッ!?」

喧嘩売ってるような眼つきが更に鋭くなる。

まるで親の仇を睨んでるようだ。

 

「いや、アオの場合は……たぶん、アレだ……

 えっと、ほら……熟睡すると幽体離脱する体質なんだよ、きっと……

 そしたら辻褄が合うじゃん……」

「ねえ、ゆーたいりだつ、って何……?」

此処で細かく説明するのも面倒だし、コイツ、言っても理解しないだろう。

 

誤解覚悟で要約すると……

「幽体離脱すると、この世界に来るんだ」

「じゃあネリーも、その『ゆーたいりだつ』って奴じゃん!!」

 

「オメェの場合は2階から落ちて間違い無く死んでるんだよっ!」

「なんでネリーと話す時とアオと話す時の態度が違うの!?

 ネリーにも優しくしてくれたって良いじゃんっ!!」

「だったら人を睨むその顔を止めろやっ!

 つーか、人様を海に投げ捨てようとした奴に優しくする筋合いなんてねえんだよ!」

 

「なに馬鹿な事言ってるのさ、

 さっきネリーと出会ったばかりなのに海に投げ捨てる訳ないじゃん!」

その言葉にカチンと来る。

身動きを取れない俺を海に投げ捨てようとした癖に忘れたとか、マジで信じられない。

 

「そうだよ、雫……

 ネリーちゃんがそんな酷い事をする訳ないじゃん……ねえ?」

「……え゛?」

アオが同意を求めた瞬間、ネリガキの表情が固まった。

 

「……ねえ、アオ……この人の名前、もう一回……」

「雫だよ?」

 

「しずく……?」

「うん、雫……」

 

「雫って、アオが持ってる、アノ永遠神剣の……?」

「うん」

 

「この人、何処からどう見ても永遠神剣じゃないよ?」

「実は人間なんだって」

 

アオと会話を終えたネリガキが俺に向き直る。

なんか、胡散臭い詐欺師を見る眼に変わっていた。

 

「……雫って、人間だったの?」

「そうだよ、人間様だよ……お前等、人間様には絶対服従なんだろ?

 だから俺様の言う事に逆らうんじゃねえぞ、クソガキ共が……」

 

「「………………」」

至極当然の事を言っただけなのに、アオとネリガキが凄いジト目で見て来てる。

 

「なんだよ、文句あんのか?」

 

「雫ってば、こんな感じ悪い神剣だったんだ……アオが可哀想……」

「そうなのネリーちゃん、雫ってば凄い意地悪な時があるんだよ……」

 

酷い言われようである。

……というか、なんでガキ共に此処まで舐められなきゃアカンのだ?

 

一刻も早く上下関係を叩き込む必要があるのかもしれない。

 

「よし、二人とも……ちょっと、こっち来い……」

とりあえず、先手でぶん殴ろう……

上下関係を決める時は暴力が一番です。

 

「嫌だ、絶対ネリーとアオに何かするつもりでしょ!?」

「人間様の言う事は絶対なんだろう?

 毎日のように教えられている癖に、その言い草は何だ? ああん?」

「―― てりゃッ!!」

瞬間、ネリガキに弁慶の泣き所を思いっきり蹴られた。

鉄で足の甲が覆われているシューズで、ガッって、思いっきり ――

 

「……あ゛っ……あ゛ッ……ああっ……!」

その痛みが余りにも強烈過ぎた為、

俺は患部を押さえて地面を転がりながら悶える事しか出来なかった。

 

骨に亀裂が入ったんじゃないかってぐらいの強烈な威力……

 

決して、ガキが出して良い蹴りじゃない……

サッカーは格闘技、とかいう訳が解らない名言が脳裏に浮かぶほどの威力だった。

 

 

「ネリーちゃん……?

 味方に暴力はダメだって、ハリオンお姉ちゃんが ――」

「ネリー悪くないもんッ! 雫が全部悪いのッ!」

 

「……そうなの?」

「そうなのッ!」

 

あかん、このままじゃ舐められっぱなしのままマウントを取られる……

人生二桁も経験していないであろうクソガキ共から上から目線されるぅ……

……俺、20代なのに……

 

「そうなの……じゃ、ねえんだよクソガキ共がよぉぉッッ!!」

怒りと悔しさと情けなさをバネに、俺は涙と痛みを堪えて立ち上がった。

蹴られた側の足が痛過ぎて力が入らないけど、歯を食いしばって痛みに耐える。

 

「うわっ……顔、怖ッ?!」

「……ころス……特にネリガキ……絶対、コロす……」

 

「なんでネリーだけを怒るの?!」

「オマエだけだからだよッ!!」

人様を海に投げ入れようとしたり、骨折れそうな蹴りを入れたり……

そこまで俺の事を舐め腐っているのであれば、是非も無し……

……もはや、戦争である。

 

 

「やだ、怖いッ! アオ、逃げよう!」

「ちょっと待って、ネリーちゃん……まずは謝ったほうが ――」

「―― いいから、早くッ! ほらッ!」

二人は仲良く手を繋いで、俺の前から逃げ出した。

 

 

誰だ、あのクソ生意気で狂犬的過ぎるクソガキの事を少しでも惚れたとか言った奴は……?

ソイツの神経を全力で疑いながら、俺は気力と復讐心を振り絞って一歩前に踏み出す。

 

 

その瞬間、まるで照明のブレーカーが突如落ちたような錯覚に襲われた ――

 

 

 

闇の中、脛を突き刺す痛みだけが残っていて……

そして、遠くから聞こえる誰かの焦った、ぼやけたような声が聞こえてきた。

 

 

「ネリー、ネリー?!」

 

その声質が鮮明になると同時に、周囲の状況も次第にハッキリと感じ取れてくる。

 

 

まず、感じたのは緑の風……

 

緑の風に包まれて気を失っているネリガキ……

そのネリガキを抱きかかえ、懸命に呼び掛けているシアーのガキンチョの姿……

 

そして、緑の風の発生源である槍……

その槍に意識を集中させているであろうハリオンの姉ちゃんの姿……

 

「……う、うぅ……あ、れ……?」

「ッ、ネリー!! 良かった、心配したんだよ!」

 

「……シアー、良かったぁぁ……

 あのね、ネリーね……もうシアーと会えないかと思って……

 凄い凄い不安だったんだよぉっ!」

「よしよし、怖い夢でも見たんだね……」

 

「うん、怖かったの……

 あのね、ネリー、ハイペリアに行った夢を見たの……

 そこで雫……じゃなくて、変な人と出会ってね ――』

『おい、コラ、テメェ……なんで、わざわざ言い直した?!』

声が届かないという事が解っていても叫ばずには居られなかった。

 

「―― ひぅぅっ?!」

「ネリー、どうしたの?」

「い、今ね……なんか『雫』っぽい人が怒鳴るような声が聞こえたんだけど……」

「?? シアーには何も聞こえなかったよ?」

 

「……えっとぉ、アースプライヤー……?」

ネリガキは再び緑の風に包まれる。

 

……いや、それよりもだ……

『ネリガキさんよ、俺の声が聞こえるんだな? そうなんだな??』

「うわ、本当に雫?? 雫が喋ってるの?

 なんか頭に声が響いて、とても変な感じなんだけど……」

 

『そうか、いや、それにしても怪我は無いみたいで何よりだ。

 本当に良かった……死んだと思って、本当に心配したんだからな』

「……え、怖い……なんで優しそうな声なの……?」

そりゃ優しくもなる。

 

アオ以外で会話が通じる第1号さんだ。

アオが居ない場合に動けない俺を介護して貰わんといかんのだ。

 

だから喧嘩腰は宜しくない。

俺はクソ生意気なゴリラでも愛でる勇気がある紳士ですとも……

 

第2号、第3号さんが見つかるまでは笑顔を崩さずに優しく接してやりますとも。

ネリガキが用済みになるまで、オレ……頑張るから……

 

などと意気込んでいたら、慌てたアオが走りながらやってきた。

 

「ハリオンお姉ちゃん、ネリーちゃんが、ネリーちゃんがっ……?!

 ……って、あれ……?」

「アオォォッ、良かった、アオも無事だったんだね」

「うん、私は大丈夫だけど、ネリーちゃんは?

 2階から落ちて大変な事になってたんじゃないの?」

アオの至極当然の言葉に、シアーのガキンチョとハリオンの姉ちゃんがくすくすと笑う。

 

「変なの~、2階から落ちただけでケガする訳無いんだよぉ~?」

「そうですねぇ~、落ちたら痛いですけど、ケガする程じゃないですねぇ~」

『……は??』

二人の意見を聞いたアオは、ジト目で俺を睨む。

なんなら、ネリガキもジト目で俺を睨んでいた。

 

「「嘘つき……」」

『ちょっと待て、オカシイだろ!?

 2階から落ちて平気って時点で十分オカシイだろ?!』

「「嘘つき……」」

だが二人は俺を嘘つき呼ばわりするだけ……

 

『嘘つきって……いやいや、何で俺が責められなきゃあかんのだ!?』

「べ~っだ、もう雫なんてしらないもんっ!

 アオ、シアー、雫なんて放っておいて遊ぼっ」

「うん、行こう、ネリーちゃん」

二人は仲良く手を繋いで走り出した。

 

「ちょっと待ってネリー、シアーを置いて行かないでぇ!

 シアーが居ない間、アオと何があったの? ねえってば!」

シアーのガキンチョも、慌てたように二人の後を追いかけた。

 

残されたのは俺とハリオンの姉ちゃんだけ……

 

「あらあら~、アオちゃんとネリーちゃん、すっかり仲良しさんですねぇ~」

とのコメントを残し、ハリオンの姉ちゃんは俺を拾う。

 

「雫さん、ありがとうございますぅ~、

 アオちゃんとネリーちゃんの仲が悪い事を知って、何とかしてくれたんですよねぇ?

 私にはお見通しですよぉ」

『……いや、ちげえし……』

柄の先端をナデナデされていると、ハリオンの姉ちゃんは「おやぁ?」という声をあげる。

 

「これはまた、随分と柄の部分が汚れてますねぇ……

 自分の永遠神剣を大切に扱わないと、めッ……て、叱ってあげないと……」

この時、俺はハリオンの姉ちゃんの優しさに惚れた。

 

『……結婚しませんか、ハリオンの姉ちゃん……?』

などという俺の告白が届く訳も無く、俺はアオの部屋に戻されたのだった。

 

 

 

 




話の流れはそのままに、内容を大幅に改変……
バンコクに出張していた事を踏まえても、執筆期間が長すぎた事を反省……

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