―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
※属性:シリアス寄り、一部ギャグを含む※
「どうすれば美味しい料理って作れるの?」
昼食後の食器洗いをしているセリアの姉ちゃんに向かって、アオは疑問を問いかけた。
「逆に私が知りたいわよ……
ねえ、アオ? どうすれば美味しい料理って作れるのかしらね?」
「……え? セリアお姉ちゃんの料理、とっても美味しいよ?」
「本当かしら?」
「ほんとぉだよっ!
ネリーちゃんもシアーちゃんも美味しいって、アオと同じ事言ってたもん!」
必死に弁明するアオの姿が、よほど微笑ましかったのだろう。
優しい笑みを浮かべながらアオの頭をグリグリと撫で回すセリアの姉ちゃん……
傍から見れば、仲の良い姉と妹に見える。
……どっちも髪色が青いんだもん……
「ふふふ、ありがとう……もしかして、料理に興味を持ったのかしら?」
「うん、雫が落ち込んでるから、アオがいっぱい作ってあげようかなって」
「…………??」
困惑したセリアの姉ちゃんの視線が、一瞬だけ俺のほうを向いた。
「雫が言ってたの? お腹が減ったって?」
「うん、最近ね、お腹が空いたって何回も言ってくるからさ……
アオが作ってあげようかなって……」
「………………」
セリアの姉ちゃんの視線が、再び俺のほうを向いた。
先ほどとは違い、なんか露骨に敵意を含んだ感じで睨んでいる。
『なんだよ? 腹が減っちゃ悪いのか?』
「アオ、雫から嫌な気配とか、感じる時ってあるかしら?」
「嫌な気配……?」
「雫が気持ち悪いとか、不気味とか、気色悪いとか……
そういう事、感じた覚えがあると思うんだけど?」
『喧嘩売っとんのか、テメェは?』
「えっと、感じるのは……雫が落ち込んでるな~っていう事だけ、かな?」
「落ち込んでる?」
「ネリーちゃんとシアーちゃんが怪我をして帰ってきてから……
ずっとずっと落ち込んでるの……」
アオは静かに語り始める。
俺の様子がおかしいと感じた日……
俺がずっと溜息出してたら、アオから苦情が出た事が始まりだったらしい。
『……はぁ……』
「雫、それ、止めて……」
『……? 止めてって、何を??』
「だから、『はぁ……』っていうの、止めてよ……なんか、ヤダ……」
『そら悪かった……あと50回ぐらいしたら止めるから……』
「も~っ! そういうのイジワルッって言うんだよ!!」
『意地悪?? ガチで凹んでる奴が50回以内に止めるって宣言したんだぞ?
この何処がイジワルなのか言ってみろっ!』
「だって、オルファちゃんが言ってたんだもんっ!
雫みたいなのイジメッコって言うんだよ!!」
『違うね、落ち込んでいる奴に溜息禁止を強要するアオのほうが虐めっ子なんだ!』
「わたし、イジメてないもんっ!」
ぶわっっとアオの顔が泣きそうになる。
顔の作りがネリーやシアーに似ているからだろうか?
昨日見た、ネリーやシアーの泣き顔が脳裏に浮かぶ……
同時に、自分が犯した数々の失態が連動して思い浮かぶ……
『……はぁ……』
結果、自分の無力感に苛まされる。
『わかった、全部俺が悪かった、ごめんなさい……もう、それで良いだろ?』
「……雫、元気ないね?」
『見りゃわかんだろ? ちょっとした自己嫌悪って奴だよ……』
「じこけんお??」
『お前、言葉を覚えような……自分を嫌うってことだよ……』
「雫は、雫が嫌いなの?」
『……嫌いってもんじゃねえ、ぶっちゃけ軽蔑したいわ……
ネリーとシアーがケガした時、俺ってば本当に何も出来なかったんだ……』
ずっとずっと、考えていた。
崖崩れが起きた後の事……
ネリーが気絶して、シアーの足が落岩に挟まって……
誰も動けない状況のなか、俺は、どうするのが正しかったのか……?
ネリーの怪我が秒単位で悪化しつつある状況において、
どうすれば青い竜の助けを借りること無く、窮地を脱せたのか?
ずっとずっと考え続けても、
諦めるという選択しか、思い浮かんでくれなかった。
人間は極限状態になれば本性を現すという言葉があった気がするけど……
想像以上に、俺は碌でもねえ人間だったみたいで……
本当に、ガッカリだよ……
今まで何をやってたんだろうね、俺って奴は……
人として恥ずかしくないように、生きてきたつもりだったんだけどなぁ……
「それで落ち込んでるの? へんなの……」
『こらこら、変とはなんだよ、変とは? 時と場合によっちゃ怒るぞ?』
「だって、雫は悪く無いじゃん……雫は永遠神剣なんだから、何も出来ないのは当たり前だよ」
此処で、アオの言葉に同意出来れば、どんなに救われる事だろう……
……でも、出来ない……それは同意してはいけない事だ。
隣の部屋で包帯に巻かれたネリーとシアーが寝ている姿を感じられるから解る。
半径10m以内に居るので、ハッキリと感じられるのだ。
ネリーは頭に包帯を巻いて、シアーは片足に包帯を巻いて……
二人一緒に同じベットに寝ている。
二人して抱き合って、もう二度と放さないと言わんばかりに力一杯抱き合って……
二人して寝苦しそうな、苦悶の表情を浮かべながら眠っている。
その光景を微笑ましいとは思えなかった。
一歩間違えれば、失われていた光景なのだと俺は知っている。
シアーがネリーを抱えて洞窟から出たあの後……
岩に潰された片足を引きずりながら、シアーが何時間もかけて詰所に戻った事を知っている。
何時間も雨に打たれ、自身も高熱に侵されながら……
それでも必死にネリーを呼び掛けながら進んだ光景を覚えている。
臆病で気の弱いシアーが死に物狂いで頑張っていたのに……
……俺は何も出来ずに、ただ傍観する事しか出来なかったのだ。
そんな情けない自分を肯定するような真似だけはしたくなかった。
『アオは、そう言うけどさ……俺は、やっぱり嫌だ……
何も出来ないからってさ……
それに胡坐をかいてガキ共を見捨てて諦めるなんて……
……どう考えても胸糞わりぃよ……
ついでに腹も減って余計に辛いわ……』
欲望とは現金なもので、俺の気持ちを考えもせずに空腹感が警告を鳴らしている。
既に絶食期間は2週間を過ぎたと思う。
初日と比べるとかなり空腹感が強まってきている。
今はまだ、なんとか耐えられるレベルだが……いずれ限界が来る。
このまま空腹感が進むと、非常にヤヴァイので対策を講じる必要がある。
――だが、この状態で食事を摂取する方法も思いつかない。
初めの頃、野菜か何か、適当なモノを切れば解消されるのではないかと思い、ネネの実と呼ばれる果実をアオに斬らせた事があった。
……が、あんまり変わらなかった。
アオに果実の汁を垂らしてもらった事もあったが、全然効果なし。
むしろネバネバして気持ち悪かった。
『うー……』
だめだ、空腹感が更に酷くなるかもと思うと、マジに死にそう。
「あ、そうだ!」
俺が苦しんでいると、アオが何かをひらめいたように声を上げた。
「私がお料理覚えて、あっちの世界で作ってあげる!」
『あっち? ……ああ、雫世界か』
『雫世界』とは、あの不可思議な摩訶不思議世界の名称だ。
自分で名前を付けといてなんだが……
ネーミングセンスは褒められたモノじゃない事は自覚している。
……が、その絶妙なダサさが良いのだ。
「うん、そこで私が作ってあげる!」
名案と言わんばかりのアオの眩しい笑みに、俺は苦笑いするしかない。
『ま、がんばってくれ……』
―― 回想はここまでにして ――
現在、アオとセリアの姉ちゃんは一緒に買い物の真っ最中……
俺は、アオの背中に背負われている。
別に部屋に置いて行ってもいいと言ったのだが、
「お日様に当たれば元気になるよ」
……っと、アオに強制的に連れてこられたのだ。
二人は幾つかの店を訪れて、肉やパンを購入していく。
セリアの姉ちゃんが荷物を持ち、アオがその後ろをトコトコ歩く。
その姿は、端から見れば姉妹の域を超えて、まるで親子……
「後はリクェムでお終いね」
「……リクェム嫌い」
「だめよ、好き嫌いしちゃ」
「……はーい」
―― 訂正、絶対親子だ。
そんなことを思っていると、八百屋もどきの前にやってきた。
「すみません、リクェムを10つお願いします」
「? ―― なんだ、スピリットか……他を当たれ」
「……解りました」
―― また、これだ。
嫌々対応する店もあれば門前払いの店もある。
そのおかげで、十数分で終わるはずの買い物もすでに一時間が経とうとしている。
「ねえ、セリアお姉ちゃん……なんで、みんな冷たいの?」
「私達がスピリットだからよ」
アオの問いを流すように答えるセリアの姉ちゃん。
『なあ、スピリットって過去に重大な罪でも犯したのか?』
「私、聞いたことないよ」
『スピリットは戦闘の駒ってのは聞いたけどさ、それだけじゃ嫌われないだろう?』
「私にも解らないよ……」
なんなんだろう、この世界は……
正直、理解できない点が多すぎる。
「また雫と話してるの?」
「うん、そうだよ」
「……そういえば、ネリーも話せるのよね?」
「雫と一緒にお昼寝したら、喋れるようになったんだって」
「ふーん、私も試してみようかしら……」
「だって……良かったね、雫」
『…………』
――マジッすか!? ……っと、前なら喜んでいただろう。
でも、なんか心が冷めていて、喜ぶ気にはなれない。
自分の嫌な部分を見せ付けられて、こんなに落ち込むことは思わなかった。
「……雫?」
罪悪感と後悔……それが俺を苦しめている正体なのだろう。
「雫!!」
『……あ、どうした??』
気づいたら、別の八百屋もどきの店にたどり着いていた。
「………やっぱり、変だよ……」
『? 何が??』
「だって、ネリーちゃんとシアーちゃんと一緒に帰ってきたときから元気ないもん」
『……そう、だな』
「……雫……」
セリアの姉ちゃんは、交渉している……
どうやら成功したようで、品物を選んでいる。
「私で良かったら……相談に乗るよ?」
『お前には関係ないことだから、放っておいてくれ』
「――っ!」
次の瞬間、アオの顔に泣きが入った ――
―― まずい、と思った時、既に手遅れだった。
「しずくの……雫のバカッ、もう知らないんだからッ!!」
そして、アオは突然癇癪を起したように走り出す。
涙をこらえるように腕で隠し、先を見る事無く、ただただ爆走している。
「――!? ちょっと、アオ?!」
遠くからセリアの姉ちゃんの声が聞こえたが、既に感知範囲外だ。
つまり、それほど素晴らしい速度で疾走している事になる。
『ちょっと待って、落ち着け!!
何で泣いているのか知らんが戻れ!! 迷子になるぅ!!』
「雫には関係無いもん!! 放っといてよッ!!」
『関係大有りだわッ!
オマエが背負ってんだもんッ! いいから止まれってッ!!』
だが、俺の声を無視してアオは爆走を続ける。
視界を腕で遮っているのに、通行人を器用に避けている。
段差や障害物も見えてるんじゃないかってぐらい華麗に避ける。
そして数分後、ようやくスタミナが切れたアオが止まった。
「ぅ、うう……」
『…………』
……認めよう……
確かに、俺はウジウジしていた。
俺らしくない、そう思っていた。
周りから見れば、さぞ軟弱な奴だろう。
……だが、なんでアオが泣く必要がある?
『なあ、なんで泣いているだ?』
「……知らない……知らないよぅ……」
……嘘つけ……
多分、つーか、絶対『お前には関係ないことだろう、放っておいてくれ……』という言葉が原因だろうが。
だが、原因が判明しても解らないんだ。
お前には関係ない。
その言葉で普通泣くか? 泣かねえだろ!?
解んねえ、いつもに増してコイツの思考が理解できない。
――そう思いながら、周りの情報を収集する。
レンガで舗装されている場所と湖……
どうやら公園らしいけど、そんな場所、俺は知らない。
……完璧な迷子だ。
――迷子の迷子の子猫さん~、あなたのお家は何処ですか~――
そんな小学生の歌が、ハリオンの姉ちゃんっぽい声で再生される。
懐かしいなあ……と思う反面、本当にどうでもいい歌だった。
「ぐす……っ、うう……」
――いや、現実逃避の歌か。
まあ、ぶっちゃけた話……俺はガキを慰めた経験が無いに等しい。
――というか、泣かせたら放置という行動しか取った記憶しかないのです。
だから仕方が無いんだ……現実逃避に入るのも。
でも、アオを慰めて動かさない限り、永遠にこの場に留まる事になる。
しかし、どうやって慰めれば良いの?
今まで見たドラマや教育テレビでガキが泣いているとき、どうやって対処していたっけ?
――っと思い返していると一人の人間がアオに近づいてきた。
「こらこら、何泣いてるんだい?」
「ぐす……ふぇ??」
「こんなにいい場所で泣いてるなんて損だよ。ヨフアルでも食べて元気を出しなさい!」
ビシ! っと、笑顔でアオにヨフアルを突きつける謎の女性。
アオは涙を流しながらそれを受け取った。
女性はアオの隣に座って、色々話している……というか一方的に喋っている。
言葉のキャッチボールではなく、ピッチングマシーンとキャッチボールというのが正しい例えだろう。
言葉の一方通行……アオが答える隙は無い……
――だが、アオはヨフアルを食べながら、それを聞いている。
時には呆れ、時には笑っている。
泣いていたのが嘘のようだった。
その光景に俺は安心し、アオを慰める係りはその女性に任せ、情報を探ることに専念する。
――誰の情報って?? この場で該当者は一人しか居ないだろうに。
ガキでは無いが、大人でもない……中学か高校生並の歳だろう。
胸のサイズは……平均以下というか、なんと言えばいいのか……
若干厚いブラジャーらしきもので、膨らみを多少強調しているのが哀れみを誘うというか……
可哀想なことに……実際のサイズはアオよりも小さかった。
オルファのガキより少し大きいようだが……
どちらにしろ、アオとオルファの差は、あんまり変わらん。
まあ、オルファのガキはまだまだ成長の見込みがあるとして……
この娘の将来は絶望的だ。
きっと、それをトラウマとして生きていくに違いない。
―― だが、心配は要らない ――
―― この世は愛に満ちているから大丈夫だ ――
俺と違って、君を愛してくれる人達も世界中に沢山居る。
その事実を知るんだ。
だから、自分の小ささに絶望することなんて無いぞ。
――っと、ツルペタ娘が俺のほうを嫌そうに見つめているのを感じた。
「なんか、その剣から嫌な思念を感じるんだけど……」
『き、気のせいだろう……』
聞こえてる? まさかエスパー?
それともニュータイプ!? ララァか貴様!?
「……まあ、いいか。それよりアオちゃんは何で泣いていたの?」
「…………」
その問いを聞いた途端、アオの笑みが消え失せた。
「へっへー、アオちゃん……いい事を教えてあ・げ・る……」
「うん?」
ツルペタ娘がしゃがんでアオと目線を合わせる。
「苦しい事、哀しい事を全部一人で背負い込んだら駄目なんだよ」
優しく、穏やかで、全てを包み込むような純粋な瞳……
そして、聖女のような雰囲気でアオを見つめていた。
そして、その言葉は――
アオではなく、俺に向けられているような……そんな錯覚に陥った。
「……うん」
そして、アオは小さな声で言葉を紡ぐ。
「みんな……ネリーちゃんもシアーちゃんも……雫も……最近元気ないんだ」
「……シズク?」
「うん、特にね……雫、ものすごい落ち込んでて……
元気付けようとしても失敗しちゃうの……」
「そのシズクって人が落ち込んでいる理由って、アオちゃん知ってるの?」
「自分が嫌いになったって……そう言ってた」
「自分が嫌い、か……」
少女の表情が曇る。
――それは一瞬で、彼女は再び微笑みを取り戻す。
「大丈夫だよ、そのシズクって人もアオちゃんが頑張っている姿見たら、きっと元気になってるから」
「本当?」
「そうそう、それにこの私、頼れるお姉ちゃんが秘密のアイテムをアオちゃんに授けようではないか」
先ほどの、聖女のような雰囲気は粉々に砕け散り、ガキと同じ胸囲を持つレアチチ娘に戻っていた。
「これを使えば、どんなに落ち込んでいても絶対元気になるから」
そう言って、アオの上半身を覆い尽くすような巨大な袋をアオに手渡した。
「あ、ありがとう……お姉ちゃん」
『いや、ちょっと待てって……』
袋の中身は……ヨフアルヨフアルヨフアルヨフアルヨフアルヨフアルヨフアルヨフアルヨフアルヨフアルヨフアルヨフアル―――
中身全てがヨフアルと呼ばれるワッフルもどきだった……
袋の体積から計算しなくても、感じ取れる数は20を超えている。
――否、最低20以上が詰まっている。
『これだけのヨフアル――あんた一体何者だ!?』
「……お姉ちゃん、名前は?」
アオと俺は同時に声を発する。
そいつは立ち上がり、人差し指を3回振りながらながら答えるのだ。
「ちっちっちっ、無粋だよアオちゃん。いい女には謎が多いんだぞ」
――胸の薄い女の間違いでは無いのか??――
「次にあったら名乗ってあ・げ・る、じゃあね~~~!!」
びゅーんっと、ヘリオンのガキにも劣らぬ速度で索敵範囲から消えていく……
『……なんだ、あのナイチチ娘は……』
「ないちち??」
『知らんほうが吉だ。忘れとけ……』
嵐のような女だった。
七不思議として、ヨフアル娘の怪と命名しておこう。
――っと、そこでアオの顔が蒼白になっていく。
「雫……どうしよう」
『――ん?』
「セリアお姉ちゃんとはぐれちゃった……」
……沈黙が訪れる……
いや、訪れてるのは俺だけだが……
『……アオ、それは狙ってるのか?』
「ふぇ? ……何を?」
『……は、はは……』
なぜだろう?
あまりにもベタ過ぎるボケを見て、思わず笑いが込み上げてきた。
……別名、乾いた笑いとも言う……
だが、今はそれで十分だった。
罪悪感と後悔の念は、乾いた笑いと共に薄れていく感覚がした。
その後、セリアの姉ちゃんと無事に合流する事が出来た。
アオが大量のヨフアルにビックリしていたが、安心した顔でアオと共に歩いていく。
今度は離れないように……しっかりと手を繋ぎながら……