―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
※属性:シリアス、ダーク、一部ギャグを含む※
「昨日、バーンライトのスピリット共が
我が国の最重要機密情報を盗むために忍び込んだことは知っているな?」
俺が永遠神剣になっちゃってから1ヶ月ぐらい過ぎたある日の朝、
詰め所にアウル=サウディスがやってきて、突然そんなことを言った。
ガキ共が「知ってる?」「さあ?」とのやり取りを無視しながらアウルは話を続ける。
「そこで、長期に渡って訓練している我軍のスピリットの育成を早めるために、
俺が同盟国イースペリア領のミネアまで伝令を届けることになった」
……イースペリア王国……
ラキオスの南に位置する同盟国の一つだ。
領土はラキオス王国の2倍近くあり、アズマリア女王が統べているそうだ。
特産品は茶葉であり、イースペリア産と聞いて嫌な顔をする奴は居ないらしい。
「その護衛役としてアオ・ブルースピリット、ヘリオン・ブラックスピリット
そして、エスペリア・グリーンスピリットを回すことに決定した」
「質問があります」
セリアの姉ちゃんは礼儀正しく声を上げる。
「いいだろう、答えてみろ」
「『スピリットは人間を襲えません』
スピリットを伴うのでは無く、人間のみで護衛を組んだ方が良いのでは?」
……スピリットは人間を襲えない……
馬鹿げた話だが、どうやら真実っぽいのだ。
先週、ナナルゥの姉ちゃんと共に門番の仕事をしていた時を思い出す。
最前線の街だというのに、民間人が特に慌てた様子も無く、日常を過ごしていた。
あの時は気づかなかったが、改めて思えば違和感が残る。
例えるなら、街中で銃撃戦や殺戮が繰り広げられている光景を思い浮かべて欲しい。
本来であれば地獄絵図であり、民間人は我先にと逃げ出す筈……
だというのに、この世界では我関せずと民間人は平然と日常を続けるのだ。
……やっぱり、この国の人間は狂ってる……
されど、アウルとかいう人間は狂ってるように見えなかった。
「今回は実戦を兼ねている。
少しでも経験をつませるために、この面子を選んだ。
……と、言えば解るか?」
「なるほど、そのためのエスペリアという訳ですか」
「そのとおりだ、他に質問は無いな?」
沈黙が訪れる……すなわち、肯定という事だ。
「出発は正午……
それまでにアオ・ブルースピリット及びヘリオン・ブラックスピリットは
遠征の準備をし、ラキオス城正門に集合……以上!」
「「はい!」」
………………
…………
……
そんな訳で、俺とアオとヘリオンはラキオス城前の正門で待機しているのだが……
『アオ、言っとくけどピクニックじゃないからな』
「ほえ?」
アオが背負っているカバン。
その中にはヨワフルが何個か入っているのを俺は知っている。
あまつさえ、ハリオンの姉ちゃんにミネアという街にある
有名なお菓子を買ってきてと、お駄賃さえ貰っている事を俺は知っている。
『それに、隣でプルプル震えているヘリオンのガキを何とかしてやれ……』
……ヘリオン・ブラックスピリット……
黒髪のツインテールがトレードマークであり、
ネリシア姉妹よりも年下、アオに歳が最も近いスピリットだという。
「……え? ヘリオンちゃん……?
なんで震えてるの? もしかして、寒いの?」
「い、いえ……そ、そういうわけでは~……
わ、私、その~、実は初めての実戦でして……
……き、緊張しちゃって……」
『そりゃ見て解る』
つーか、解らないほうがおかしい。
だからオカシイんだよ、この天然は……
頭のネジが全部飛んでる、というか……
狙ってやってるんじゃないだろうな、とか……
任務を失敗したら処刑されるという自覚が無い。
それはアオに限らず、俺がこの世界で出会った全員がそうだ。
特に館で暮らしてる当事者全員に言える事だ。
任務に失敗したら処刑される事を自覚しているのかも怪しい。
それほどまで、いままでの生活は穏やかだった。
処刑されるかもという緊張感が何処にも無い。
正直に言うと、ナナルゥの姉ちゃんが嘘をついたとしか思えない。
だが、ナナルゥの姉ちゃんの性格は、この1ヶ月で把握出来ている。
SF映画で登場するアンドロイドの試作型みたいなヤツ……
とっても機械的な性格で、嘘や冗談を間違っても口にする奴じゃ無い。
どんな不都合な事実でさえ、相手の気持ちを考えずに平然と口にするタイプ……
結論を言うと、ナナルゥの姉ちゃんは事実しか口にしない。
だから『任務失敗=処刑』というのは、紛れも無い事実なのだろう。
ヘリオンがガタガタ震えているのは正常の反応だ。
失敗したら死ぬんだ、当然の反応だろうさ……
だが、アオがハリオンの姉ちゃんから御駄賃を受け取った時……
「ミネアの御菓子、楽しみですねっ!」
なんて、嬉しそうにアオと駄弁っていたという事実が無ければの話だが……
アオに限らず、ヘリオンのガキも頭のネジが外れてる。
……と、俺が思ったのは言うまでもない。
だから、ラキオス以外の国の様子を見れる機会が訪れたのは僥倖だった。
狂っているのは果たして、ラキオス王国だけなのか……?
それとも同盟国も狂っているのか……?
果てには世界規模で狂っているのか……?
ラキオス王国だけ狂っているのであれば、それで良い。
本腰を入れてアオを説得するだけだ。
同盟国も狂ってるようならば、敵国に亡命を……
世界規模で狂っている場合は……
いや、流石に世界規模で狂ってるとは事は無いと思う。
もしそうだとしたら、絶望しかない。
『……っと、来たぞ……』
……約20mの位置に、アウルとスピリット1人の反応を感知した。
この国がヤバイという認識を持った、あの日から俺の索敵範囲が広がった。
無論、一気に索敵範囲が広がった訳では無い。
日数が経つにつれ、少しづつ、現在進行形で索敵範囲が成長しているのだ。
俺達との距離が近づくにつれ、外見が詳細となっていく。
ぼやけたピントの焦点が、ゆっくり定まっていく感じに近い。
距離が10mぐらいとなった時、ようやく鮮明に特徴を感じる事が出来た。
恐らく、彼女がエスペリア……
今朝アウルが言っていたグリーンスピリット……
外見的特徴よりも、まず目についたのは衣装だった。
緑を基調としたフリフリの衣類に純白のエプロン……
そして、これまたフリフリの白いヘアバンド……
いや、ヘアバンドじゃなくて、なんだっけ?
ホワイトプリムだったか? メイドさんが頭してるヤツの名前って?
……とにかく、ソレを身に纏っていた。
そういえばハリオンの姉ちゃんも、
俺達が出会った日にメイド服を着ていた覚えがある。
だが、アオが保護されてからは
メイド服を着たハリオンの姉ちゃんを見る事は無かった。
だから、改めてメイド服を着てる女性を見ると感動してしまう。
……何故かって? 漢の浪漫だからさ……
良いよね、メイド服って……
メイドさんって響きだけで大満足だわ……
豊満な胸でメイド服を着用している時点でパーフェクトである。
この国は狂っているが、この美的センスだけは素直に賞賛したい。
「お待たせしました」
アオ達との合流を果たし、一礼を行うメイドの姉ちゃん……
緑スピリットなのに髪色がブラウン色とは珍しいと思った。
だが、その瞳にはグリーンスピリットとしての特徴色が確かに宿っていた。
ハリオンの姉ちゃんとは違い、出来る女、としての第一印象が強い。
バリバリのキャリアウーマンというイメージとは異なり、
誠実で真面目、物腰が柔らかなのだろうという印象を受ける。
「貴方がアオ・ブルースピリットですね」
メイドの姉ちゃんがしゃがみ込んでアオに目線を合わせる。
「エスペリア・グリーンスピリットです。
あのセリアを一撃で戦闘不能にしたと聞いています。
お互い頑張りましょうね」
ニッコリと、笑いながらアオに微笑みかける。
そして、アオもニッコリと笑ってこう答えた。
「うん、頑張ろうね……エスペリアお姉ちゃん」
「ヘリオン・ブラックスピリット、力が入りすぎだ。
その調子では欠番にもなりうるぞ」
「ひぃ……そ、そ、その声は……アウル様!? なんでここに!?」
ヘリオンは、明らかに怯えている。
「貴様、俺の話を聞いてなかったのか? 今回の伝令役は俺だ」
「そ、そそ、そうだったんですか~」
ガタガタブルブルと、その震え方が尋常では無い。
『緊張 x 怯え』の計算式より、2倍増しで震えている。
その様子を見ていたアウルが、ため息を吐きながらこう斬り捨てた。
「ヘリオン・ブラックスピリット……
役に立たなくてもいいが、足手まといなりに盾の役割は果たせよ」
「は、はいぃ! が、がんばりますッ!!」
あっちはあっちでボロクソに言われていた。
ヘリオンのガキに個人的な恨みでもあるのだろうか?
まあ、そんなこんなで、俺たちはラキオスを南に向かって出発した。
メイドさんが先頭、その後ろにアウル……
そして最後方にアオとヘリオンのガキという編成で道を進んでいる。
道のりは順調だ。
アオはヨワフルを食べながら、のほほんと……
ヘリオンのガキは神剣を抱えるようにして怯えている。
右、左、右、左と過剰に周囲を警戒している姿は、不審者そのものである。
「……皆さん、敵です……」
『…………え!?』
メイドの姉ちゃんの警告を聞いて、索敵範囲を広げる。
すると、20m先にブルースピリットが2体の反応が有った。
「―― ふぇ? え、てて、敵が来たんですか?!」
あわあわと慌てるヘリオンのガキ……
索敵能力ランキングで俺が最下位じゃ無くなった事に、内心ガッツポーズしたのは秘密である。
「では、さっさと殲滅させろ……
エスペリア・グリーンスピリットは手を出すな、サポートに専念しろ」
「アウル様、それは危険です」
「何のために、この未熟なスピリット共を連れてきたと思っている?」
「……了解致しました……」
「解っていると思うが、実戦経験を積ませる事が目的だ。
神剣魔法によるサポートはいつでも許すと言っている。
オマエが危険と判断したのなら、直接的な介入も許そう。
だが、奴等の今後を憂うのであれば、手出しは控えろと言っている」
「はい、ありがとうございます」
……良かった……
アウルの言葉を信じるのであれば命の保証はされている。
アオが危険になったとしても、助けてくれる人が居るって事は頼もしい。
『にしても、また命のやり取りか……』
正直、ご遠慮願いたい。
俺はただの傍観者に過ぎないけど、それでも嫌なのだ。
人の身体に埋まる感触や相手の体温を思い出すと吐き気が込み上げる。
つーか、俺はグロテスク系が大の苦手なんだよ。
「あわわ、い、行きましょう! アオさん!」
そう言って、ヘリオンのガキの背中から白い翼が現れる。
「うん、行くよ……雫」
俺を両手持ちで構えるアオ……だが、翼は無い。
『アオ、ヘリオンのガキみたいに翼を展開しないのか?』
「どうやって??」
『俺が知るはず無えだろ!』
つーか、あの翼……ハイロゥは、どうやって出してるんだ??
「―― い、行きます!!」
ヘリオンのガキの反応が消えた。
……と思った次の瞬間、20m先にいる敵の正面に移動していた。
『――速っ!?』
「――居合の太刀!!」
だが、移動速度とは裏腹に抜刀速度は滅茶苦茶遅かった。
つーか、断言できる。
……あれは居合なんてものじゃない。
居合ってのは、鞘を利用して刀速を加速させ、破壊力を増す抜刀術のことだ。
身近な例えで言うと、『デコピン』の原理に近い。
親指が鞘で中指が刀と考えれば非常に解り易いだろう。
でも、あいつの場合は鞘の力を利用しないで、
抜きながら斬りつけてるもんだから、居合ではなくただの斬撃だ。
しかも、鞘の所為で威力が殺されてる。
そんな攻撃は簡単に防がれ、敵の反撃がヘリオンを襲う。
「ひゃあ!?」
まさに一撃離脱、再びアオの隣に洒落にならない移動速度で戻ってきた。
「……ま、負けませんから……」
震えている手で刀を鞘に収める。
―― よく見れば、足も『かなり』震えていた。
つまり、脚がガクガクに震えてて碌に踏ん張りも効かない状態であの速度?
……と、いうことは?
『……このガキ、化け物か!?』
もしヘリオンがレッドスピリットなら、赤い彗星と命名しているだろう。
「雫、ヘリオンちゃんの悪口言った」
『誉め言葉だ! それより来るぞ――つーか、来てるぅ!?』
反応は空中、ヘリオンよりも遅い速度で……
しかし、20mあった距離はあっという間に詰められる。
敵は上空から、アオに向かって飛翔し、剣を振り下ろす ――
だが、俺の声に反応したアオの方が僅かに早かった。
その切っ先を紙一重で避けながら、全体重を乗せて俺を突き出す。
俺の刀身はズブズブと、敵の腹の中に食い込んでいった。
……暖かい……
体内が……体温が、やけに生々しいぐらい暖かい……
気持ち良いぐらい、やすらいでしまう……
―― 正直、癖になりそうだ ――
初めての時は良く解らなかったけど、やっぱりコレは快楽の類だった。
あの時と同じように満たされる。
飢えた感覚が遠ざかり、反転して満腹感と幸福感に満たされる。
『!――っ、ぅ……』
そして、いいかげんに認める。
――いや、もう誤魔化し続けることは無理だ。
初めて経験したアノ日……
あの時、初めてスピリットを殺した時、柄でも無い感傷を抱いてしまった。
見ず知らずの他人の為に、墓を作る……?
あまつさえ、殺そうとしてきたヤツの為に墓を作る聖人とでも?
……違う、俺は、そんな綺麗な人間じゃない……
過去一回、交通事故で友達が死んだ事があったが……泣いた覚えは無い。
友達が死んでも泣かない奴が、見ず知らずの他人の為に泣けるはずが無いのだ。
―― なら、あの時……泣いていた理由は? ――
俺達と戦闘して、命を落とした奴等の死に対して……
思う所なぞ、本当は何も無かった。
泣きたくなるぐらい残酷な事実を認識したくなかったから……
だから、墓を作って誤魔化したのだ。
オレが泣きたくなった、本当の理由は、ただ一つ……
―― 相手を殺すことによって、この空腹感が薄れるという事実に ――
―― 空腹を満たす手段が人を食べるしかない事実に泣いていただけ ――
そんな状態になってしまった理不尽に対してだけ、憤怒していたのだ。
つまりは、そういうことだったのだ。
『ぅ、ぅぅ……』
敵の一人が黄金の霧に変化して消えていく。
だが、消えていったものに対して……なんの感情も感じない。
「……雫??」
感じるのは自分だけのことで精一杯だ。
人が、動物を食べて生きていくように……
俺は、人を、スピリットを食べなければ生きられない……
『うああ……ぅあぁぁ……』
……気持ち、悪い……
人肉を食ってると思うと、吐き気がする。
その人肉の味が美味いと感じている自分自身が信じられない。
自己嫌悪とか、自己軽蔑とか……そういうレベルじゃない……
そんな生易しい領域は、とっくに超越している。
とても言葉じゃ表現しきれないほど、自分が信じられない。
「雫、大丈夫??……ねえ、しっかりしてよ!」
身体があれば間違いなく嘔吐していた思う。
でも、この身体は、それを許さない。
元より、そんな機能は存在しない。
……俺は、ただの無機物で、ただの刀だから……
『……あ、ぁぁああ゛あ゛あ゛……』
……そもそも変なんだ……何もかもが……
なんで俺がこんな目に会わなくちゃいけない?
……理不尽だ……
「――雫! しずく!!」
なんで俺は認めたんだろう?
なんで、人を喰っているって、認識してしまったのだろう?
気づかないフリをしていたら、こんな思いはしなくてすんだのに……
並大抵の理不尽は流せるって……そう思っていたのに……
「――アオさん!!」
「っ!?」
『――え?』
ヘリオンのガキの叫びが、発狂していた俺を呼び戻した。
状況は一瞬で把握できた。
無防備なアオの身体を横に切断しようと迫る神剣 ――
まずい、と思う間も無く……
刃が届く前にアオは突き飛ばされた。
アオを突き飛ばしたのは、メイドの姉ちゃん……
彼女は障壁を張り、その一撃を無効化……
……直後、敵の心臓を確実に貫いた。
それは、一瞬より短い出来事だった。
「ふぅ……」
メイドの姉ちゃんは槍を下ろす。
そして、足元に展開していた盾型のハイロゥが消えた。
「アオさん、大丈夫ですか!?」
ヘリオンのガキがアオに近寄る。
「うん、大丈夫……それより雫が、雫が……」
『わりぃ、アオ……大丈夫……心配ない……』
「嘘、とっても辛そうだよ……? 雫、無理しないで、ね……?」
そんな、心配そうな顔でみられるのが……
俺の気持ちなんて、なにも解らないくせに、心配するその顔が……
―― 正直、殺意を覚えるほど苛立たしかった ――
……いや、やばい……
何でアオに苛立ってんだってんだ、オレ??
やばい、なんかオレ、本当に変だぞ?
早く心に蓋を……醜い本性を『仮面』で隠すのだ……
アオにヤバイ神剣だって悟られたら、きっと捨てられる。
そして俺は、きっと人知れずに朽ち果てる……
……それだけは、嫌だった。
『いや、大丈夫だって……』
「本当に大丈夫? 本当に?」
『ただちょっと驚いただけだから、あんま心配すんな……』
だから、一刻でも早くいつものペースに持っていく。
そんな心配そうな顔されると……
意味も無く、理不尽に八つ当たりしてしまいそうだから……
「そっかぁ、よかったぁ……」
なにも知らないで、安堵の笑みを浮かべるアオ……
「何が良かったのかは知らんが――」
アウルが突然、ガシッっとアオの胸倉を掴んでアオを持ち上げる。
「あぐっ……」
「アオ・ブルースピリット……貴様、死ぬつもりだったのか!?」
憤怒に染まったアウルの視線に射貫かれ、アオの表情が恐怖に染まる。
「エスペリア・グリーンスピリットが間に合ったから良いものを、
下手していたら貴様は死んでいたんだぞ!!」
メイドの姉ちゃんやヘリオンのガキは無言のまま成り行きを見守っている。
それは、きっとアウルの言っていることが正しいと思えるからだろう。
だからこそ、自分が情けなくなる。
今回の責任は間違いなく俺にあるのだ。
だというのに、俺の声はアオにしか届かない。
俺が謝罪しても、アウルには届かないのだ。
「……以後気をつけろ……
今後もこの調子だと、上に報告する必要がある」
アオを投げ飛ばすように、手を離す。
「ご、ごめん、なさい……」
「事の大きさを理解出来れば良い……では行くぞ……」
アウルは言いたい事を言い終えたのか、さっさと歩き出した。
「………………………」
『……………………………』
暗い顔で、さっきの安堵の顔とは正反対の顔で俯いているアオ……
なんて声をかければ良いのか迷っていると、ヘリオンのガキが近づいてきた。
「あ、あのぅ~、大丈夫ですか?」
ヘリオンのガキが気まずそうにアオに手を伸ばす。
「うん、ごめんね……」
アオがヘリオンのガキの手を握る。
「わ、私こそ~……
あのスピリットに苦戦して逃がしたのは私ですから……」
しんみりとした空気がアオとヘリオンのガキを包む。
「そ、それより……雫さんは、大丈夫なんですか?」
「……え?」
「いえ、アオさんが、あんなに取り乱す所を、その……
……初めて見たから……気になって……」
『ああ、心配掛けてスマンと思うが……
とりあえず、年下相手に敬語はどうかと思うぞ?』
「雫が、心配掛けてご免なさい……って言ってる」
「いえ、大丈夫ならいいんです!」
「それと、年下相手にケイゴはどうかと思うぞ?、だって……」
痛いところを突かれたのだろうか?
ヘリオンのガキは急に押し黙って、沈んだように表情は暗くなった。
「く、癖なので……」
「そっかぁ、それじゃあ仕方が無いね」
アカン、場を和ます為の切欠になる筈の冗談が真に受けられてしまった。
あわよくば、動転した自分を立て直す為の冗談でもあったのに……
「そ、そうですよね……簡単に直せませんし……」
「そうそう、ヨワフルでも食べよ」
そう言って、持ってきたヨワフルをヘリオンに手渡すアオ。
ヘリオンはソレを受け取ると、一口頬張る。
「……おいしいですね」
「うん、おいし~♪」
二人して、もぐもぐと立ち止まりながらヨフアルを食している。
「何をしている!? 貴様等、さっさと来い!!」
当然、遠くから響く怒号の声……
「「は、はいいぃ!!」」
二人の声がハモる。
それを聞いて、訪れる静寂……
そして、何がおかしいのか、二人は声を上げて笑い出していた。
「じゃ、行きましょう。アオさん」
「――うん、行こう。ヘリオンちゃん」
二人はヨワフルを片手にアウルの元へ走り出す。
その光景を感じて、心が和んだ。
和んだおかげで、少し冷静になる事が出来たと思う。
誰か殺さないと生きてはいけない状態になってしまったけど……
カニバリズムを強制された状態になってしまったけど……
ただウジウジと、悩んでも、嘆いても、発狂しても……
全然事態が好転しないことは、この世界に来てから嫌というほど解った。
だから、俺もアオを見習おう。
出来るだけ能天気に生きてみよう。
どうしようもない事や嫌な事は、できるだけ考えないで生きてみよう。
もう流れに身を任せ、出たとこ勝負に掛けてみよう。
そう考えただけで心が軽くなっているのが解った。
そう考えないと、やっていく自信が無かった。
……ミネアとかいう街の道のりは、まだまだ長そうだ……