シルヴィ視点
私は30歳になった。結婚もしないというわがままを受け入れてもらえているのは幼いころに養子として家族となった負い目があったからなのだろう。王族としての仕事は真面目にやった、学生の頃より。毎年ある同窓会に出席するために毎日を真面目に過ごしていた。
考えればあの時が私のゴールデンタイムだったのだろう。
今の私は何を目的に生きているのかいまいちわからなかった。あえて言うなら毎年の同窓会でみんなに会うためだろうか。ソルティレージュと日本の懸け橋として奔走した10年間のおかげで国交も安定し学生のころと比べると緩めのスケジュールで今を過ごしている。逆に言うとそのせいで悩むことも増えたのだが。
「はぁ~。」
私の手には一通の年賀状があった。そこには私が学生の頃一番好きだった男の子、央路といまだにあまり知らない女性、そして二人の小さい子供が玄関で楽しそうにしている風景が映ったものだ。
これが結婚しなかった理由だ。ソーマ君が死んでから央路を託されて、何となく気まずくなった私たちは少し喉に引っ掛かりながらも楽しく学園生活を過ごした。
私も央路の事を好きだったし、きっとあの時の央路は私の事を好きだったと思う。しかし、ソーマ君がいなくなった時から歯車がかみ合わなくなった。
何となく央路との距離感が分からなくなって接しにくくなった。お互いソーマ君の事が頭から離れず、お互い顔を合わせるたびに気まずくなるのだ。時間が解決してくれると思いお互い少しだけ距離を取った。
いつの間にかノーブル学園を卒業していた。大学生になると別の大学に入学したため、会う時間が大きく減った。時間により気まずい感じは解決したとはいえ、会う時間が減ったせいか根本的に恋愛という方向にもって行くことが出来なかった。少ない時間を惜しむように遊び倒したのだが、身分という大きな壁によりお互いが遠慮してしまった。あの時の無鉄砲な私であれば勢いのまま付き合うことが出来たのだろうが、すでに私たちは大人になってしまったのだ。
そんなこんなで先延ばし先延ばししているところに1つの連絡が届いた。
玲奈「央路、彼女が出来たらしいよ。」
それは青天の霹靂だった。
私は応援することしかできなかった。私には否定する権利なんて持ち合わせていなかった。それからは想像通りだ。央路の事を好きになった女の子が央路の事を手放すわけがない。結婚するまでにさほど時間はかからなかった。
あの時もっと積極的に央路にアタックしていれば、あの時遊びよりも恋を優先していれば。あの時彼女がいたとしても縋り付いていれば・・・。そんなくらい考えばかりが頭の中をぐるぐる回っている。最初はソーマ君に申し訳ないという考えが思い浮かんだが、すぐに自分の醜さに自己嫌悪した。自分が央路と結婚したいだけだったのに、その思考の中にソーマ君を入れる事がとても気持ち悪く感じた。
お見合いをしても受け入れることができず、独身のまま過ごしていた。そのまま生きた抜け殻のような日々を過ごし10年近くたった。
エロイナ「シルヴィ、またその年賀状を眺めていたのですか?どれだけ年賀状を眺めていても、央路はあなたの手には転がってきませんよ。」
シルヴィ「エロイナも言うようになったわね。」
エロイナ「当然です。あのころとは違って義姉になったのですから。」
エロイナは私の兄と結婚をしていた。兄が婿養子として嫁いでいったためエロイナはイスタ家でとても重要な立ち位置となった。それなのにもかかわらずたまに私のお世話をしに私のもとに来てくれる。
エロイナ「もう結婚しろとは言いませんが、いつまでも後ろ向きに生きていたら天国でソーマ様に怒られますよ。」
シルヴィ「わかっているわ。」
今のままでは天国にいるソーマ君に嫌われてしまうかもしれない。そんなことはわかっている。わかっているのだけど・・・。
シルヴィ「はぁ~。」
私は前に進むことが出来なかった。
エロイナ「そういえば、近くの神社でお祭りをしているらしいですよ。気分転換に行ってきたらどうです?」
シルヴィ「えー、めんどくさいわ。」
エロイナ「ひとりで部屋にこもっているからそんなに考えてしまうのですよ。行ってきなさい。」
シルヴィ「わかったわ。」
私は納得は行かなかったが、暇であることは事実。気分転換に私はお祭りに出かけた。
「へえ、こんなところでこんなお祭りがあったのね。」
ここは縁結びの神様が祭られている神社だった。そのせいかカップルが多く、いずらい雰囲気だったが30歳になった私にはそのあたりの感覚が鈍くなり堂々とお祭りを楽しんでいた。そうこうしている内に境内に入り神様の前まで来た。まだお祭りの序盤だからだろうか、周りにはあまり人がいない。
いっそのことこの神様に向かった私の汚い部分を全部さらけ出そうかしら。
先ほどまで悩んでいたため普段は思考の片隅にもいれないようなことが頭に思い浮かんだ。
私は心の奥底にあった、目をそらしていた部分を表に出してしまった。
「央路と結婚したかった・・・。こんな悲しい人生を送るなら泣いてでも縋ってでも情けなくても・・・恥も外聞も捨てて、全てをなげうってでも、央路と一緒にいたかった。彼女がうらやましい。空気なんて読みたくない!!私のっ!私の央路を返して!!!」
あまりにも八つ当たりで子共みたいな考え。自分勝手でわがままで子供のころから変わることが出来なかった弱い自分。そんな誰も受け入れてもらえないような勝手な心を叫んだことによって何となくすっきりした。
???「あなたの願い・・・かなえてあげる。」
ゴーン。
私は不意にかけられた言葉に振り返ると脳天に鈴が落ちてきた。周りには何となく人影が見える。全身に力が入らない。視界は赤く染まり私は自分の死を悟った。
目を開くとそこにはとても小さな央路がいた。もう記憶では薄れ切っていたはずの記憶と写真の中だけの私とソーマ君だけの央路だ。ふと自分の格好を見ると濡れていて近くには白い布をかぶっている幼いころのソーマ君がいる。
これはもしかして指輪を拾った後の光景ではなかろうか。最近では使うことのなかった頭脳がフルで回転しているのがわかる。間違いない。そう思った私の行動は早かった。きっとこれは神様のご褒美だ。
私には恥も外聞もない。こんなまたとないチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
私はズルい女になることに決めた。
シルヴィ「あ~。うん。なんか足が痛いわ。なんか頭もいたいし。キスもされちゃったしね。これは大変なことになっちゃった。これは責任取ってもらおうかな。オ―ロ♡」
ソーマ?「う、ううん。シルヴィ。ん?シルヴィ!それはダメだろ!!」