TSビッキーは少女達に愛される 作:勝機を零した、掴み取れん
「……なぁ、響」
特異災害対策起動部二課のリフレッシュルーム。
そこのソファに座っていた少女──天羽奏は、隣に座っている少年に声をかけた。
「どうしました? 奏さん」
「……いや、響がここに来てもう一年以上経つんだなって……」
奏は響の頭を優しく撫でながら、少し悲しそうな表情を浮かべている。
「はい……そうですね……」
響は突然頭を撫でられた事に驚きつつも、奏の表情を見て小さく呟く。
「今でも覚えてるよ……あの時のことは……」
そう言って奏は……当時の事を響に語り始めた。
────
今から一年以上前、響は天羽奏と風鳴翼の二人が所属するツインボーカルユニット『ツヴァイウィング』のライブ公演に参加していた。
しかし、そのライブ公演中に認定特異災害『ノイズ』が襲撃するという事故が起き、響はそれに巻き込まれてしまった。
「嫌だっ! 助けてくれっ!」
「死にたくない! 死にたくない!」
最前列にいた観客はノイズに取り込まれて炭素転換され、中には逃げる人々の波に押しつぶされて圧死する者もいた。
崩壊していくライブ会場から逃げる観客達。
響もその観客のうちの一人だったが、彼は二階の観客席からステージの方を見つめていた。
そこでは、ツヴァイウィングの二人がライブの衣装とは全く違う『シンフォギア』というものを纏い、ノイズと戦っていたのだ。
彼から見ればその光景は異質であった。
本来、人間はノイズに触れただけで炭になるはずなのに、彼女達は触れるどころか、ノイズだけを一方的に倒していたのだから。
逃げないといけないのに……彼は戦う二人の姿に見惚れていた。
その時だった。
「うわぁぁぁっ!?」
響のいた観客席が崩壊し、彼はノイズの大群が蔓延るステージ前へと落下してしまった。
運良く瓦礫の下敷きになって死ぬことは免れたが、受身を取れずに床へと叩きつけられた響の右脚は真っ赤に、大きく腫れていた。
「おいっ! 大丈夫か!?」
響の姿を見た奏は、慌てて駆け寄ろうとする。
しかしその時……彼女達を目掛けて大型のノイズが攻撃を仕掛けてきた。
「マズい!」
奏は慌てて駆け出し、響を守るために手に持っていた槍をノイズに向けて振るう。
しかし、ノイズの攻撃は想像以上よりも強く、奏が持っていた武器はどんどん損傷していき、破片が飛び散る。
そして……その破片が、後ろにいた響の心臓へと刺さった。
「あ……が……」
吹き飛ばされた響は大量の血を吐いて、そのまま倒れてしまった。
奏はそんな響を見て、慌てて駆け寄る。
「おい! 死ぬなっ! 目を開けてくれ! 生きるのを諦めるな!」
奏は響を抱き起こし、必死に声をかけた。だが、響はピクリとも動かない。
「……っ!」
彼の姿を見た奏は絶句してしまう……そんな時。
突然、彼の身体に光が纏い始めたのだ。
「えっ……!?」
突然の事態に動揺する奏。だが、それ以上に響の身体は光を放ち続けていき……奏の視界を真っ白に染めた。
「うっ……!」
あまりの眩しさに奏は目を瞑ってしまう。
そして、光が収まった事に気づいた奏が目を開けると……そこには信じられない光景が広がっていた。
「これは……一体……」
先程まで、ライブ会場を埋め尽くすくらいにいたノイズが、まるで最初から居なかったかのように……跡形もなく消えていたのだ。
「……この子が、やったのか?」
奏は抱き抱えていた響の事を見つめる。
「んっ……」
すると、響はゆっくりと目を開けた。
「お、おい……大丈夫か? 何処か痛くないか?」
奏は心配そうに声をかける。しかし、響はまだ意識が朦朧としているのか反応が鈍い。
「……かなで……さん?」
響はゆっくりと顔を上げて、奏の事を見つめる。
「よかった……生きてた……!」
「ごめん……なさ……」
響は謝罪の言葉を口にすると、そのまま意識を失ってしまった。
「お、おいっ! しっかりしろ!」
奏は慌てて響の事を揺するが、起きる気配は全く無い。
「クソっ……! どうすれば……!」
「奏っ!」
そんな時、一人の少女が走って来た。その少女はツヴァイウィングの片割れである風鳴翼だった。
「奏……今のは……」
翼は奏の元へ駆け寄り、何が起こったのかを確認する。
「あたしにもよく分からないけど……多分、この子が助けてくれたんだよ」
奏はそう言いながら響の事を翼に見せる。
「まさか……こんな事が起きるだなんて……」
翼は驚いた表情を浮かべている。
「とにかく、ノイズが消えた今のうちに観客を避難させないと……。翼はおやっさん達が無事かどうか見てきてくれ」
「……分かったわ。奏はその子をお願い」
翼は頷き、ステージの方へと向かって行った。
「頼む……死ぬなよ……!」
そう言って奏は響を背負いながら歩き始めるのだった。
────
「……ごめんな。あたしが響の事を守ってやれなかったせいで……」
話を終えた奏は響の頬に優しく手を添えて、彼に対して謝罪する。
「奏さんのせいじゃないですよ。あれは……仕方のない事だったんです」
「だけど……!」
「それにあの時、奏さんのギアと融合できたから……奏さんや、あの会場にいた人達を守ることができたんです」
「……だけど、そのせいで響は……ノイズとの戦いに巻き込まれて……」
「二課に入って、戦う事を決めたのは……俺自身です。だから……気にしなくて大丈夫です」
響は優しく微笑みながら、奏に言う。
「……でもな、あたしは響に無茶をして欲しくないんだ。あたしのせいで響が危険な目に遭うのが嫌でさ……」
奏は申し訳なさそうな表情を浮かべてそう言うと、響を優しく抱きしめる。
「あたしはもう戦えないけど、響の事は守らせて欲しいんだよ……大切な家族だからさ」
「奏さん……」
奏は響の耳元で優しく囁きながら、彼のことを更に強く抱きしめる。
「だから、辛い時とか苦しい時はあたしに頼ってくれよ……」
「はい……ありがとうございます」
「ふふっ……いい子だな。響は……」
奏はそう言うと、響の頬に優しくキスをした。
「か、奏さん……!?」
突然の事に、思わず響は顔を赤くしてしまう。
「ははっ! 顔が真っ赤だぞ?」
奏は笑いながら、そんな響の頬をツンツンと突く。
「そ、それは……いきなりキスされたから……」
「なんだ? あたしからのキスは嫌か?」
「……嫌じゃ……ないです」
「そっか。なら、これからもこうやってキスしても良いよな?」
「そ、それは……恥ずかしいです……」
「はははっ! 可愛いなぁ、響は!」
奏はそう言って、響の頭を優しく撫でる。
「……これからもずっと一緒だぞ? あたしの大切な家族なんだからな」
そう言って彼女は優しく微笑むのだった……。
────
奏と解散した後、響はトレーニングルームで身体を鍛えていた。
「ふぅ……」
響は一息つきながらベンチに座り、タオルで汗を拭う。そんな時、入口のドアが開いた。
「やっぱりここにいた」
そこには響や奏と同じ二課に所属している少女──風鳴翼が立っていた。
「あっ、翼さん! お疲れ様です!」
響は笑顔で翼に挨拶をする。
「えぇ、お疲れ様」
翼は微笑みながら響のもとへ近づいていく。
「今日も頑張ってるわね」
そして響の隣に座り込んだ翼は、そう言って彼の頭を撫でる。
「えへへ……ありがとうございます」
響は少し照れくさそうにしながらも、素直に翼に撫でられている。
そんな響を見て、翼は更に優しい表情になる。
「でも……無理は絶対にしてはダメよ? 響が私達のために頑張ろうとしているのはわかるけど……いざという時は私が居ることを忘れないで?」
「翼さん……」
「私は……響が心配なの。だから、あまり無茶はしないでね?」
「……はい」
「ふふっ。良い子ね」
そう言って翼は、響の事を優しく抱きしめる。
「あ、あの……翼さん?」
「なぁに? 響」
「今の俺……汗かいてるから汚いですよ……」
「別に気にしないわよ」
翼はクスッと笑うと、そのまま響の首筋に顔を近づける。そして、彼の首筋の匂いを嗅いだ。
「ちょっ!? 翼さん!?」
「……ふふっ。良い匂いね……」
翼はそのまま舌を出して、響の首を舐めた。
「ひゃっ……!」
彼女の突然の行動に驚く響だが、不思議と嫌ではなく……むしろ気持ち良く感じてしまっていた。
「可愛いわね……響は」
翼は首から離れ、響の耳元で囁く。
「……っ!」
響の顔が真っ赤に染まる。それを見た翼はクスリと笑った。
「……本当に可愛い」
そして今度は、その耳に甘噛みをする。
「ひゃあっ!?」
突然の刺激に思わず声が出てしまう。
しかし翼はその反応を楽しむかのように、何度も繰り返した。
「ふふっ。やっぱり響の反応は面白いわね」
そう言って彼女は微笑む。
「もう……揶揄うのはやめてくださいよ……」
「ごめんなさい。でも、響の反応が可愛いからつい……」
「全く……」
響の少し呆れた様子を見た翼はそっと彼の頬に触れる。
「……本当に嫌だった?」
翼は不安そうな表情を浮かべながら聞いた。そんな顔を見てしまうと、響は何も言えなくなってしまう。
「……嫌じゃないです」
結局、響は素直に答えることにした。それを聞いた翼の表情は明るくなる。
「……良かった。もし響に嫌われたら私……生きていけないから」
翼はそう言いながら、響の手を握る。
「……大袈裟ですよ」
響は苦笑しながらも、その手を握り返した。
「大袈裟じゃないわ。それくらい、私にとって響は大切な存在なの」
翼は真剣な顔で響の事を見つめる。
「……ありがとうございます。俺も……翼さんの事が大切ですよ」
響は少し恥ずかしそうにしながらも、しっかりと自分の気持ちを伝えた。
「ふふっ。嬉しいわ……」
彼女は満面の笑みを浮かべる。
「これからもずっと一緒よ。響……」
そう言って、彼女は再び彼を抱きしめる。
(絶対に……離さないからね?)
そう心の中で呟く彼女の瞳は、とても暗く濁っていた……。
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