戦争も終わったので戦友少女たちとスローライフを満喫することにした 作:やなかすてら
西暦2013年、12月10日深夜、中部太平洋海上。
穏やかなはずの太平洋に深淵よりも深い「穴」をアメリカ海軍第7艦隊の観測機が捕捉した。
同時刻、北極海ロシア領海付近を航行中のロシア海軍が「王冠」のようなものを観測した。
太平洋に現れた「穴」からは異形の生命体とヒトガタ、少女の姿をした謎の生命体が、北極海の「王冠」からは少女の姿をしながらこの世のものでは無いものたちが艦隊を生み出した。
それら異形のものは人類にその日、牙を向いた。
人類は太平洋に現れた異形生命体を「深海棲艦」と呼称、北極海の「王冠」から現れた異形生命体をセイレーンと命名した。
深海棲艦とセイレーンは現有の海軍兵力を殲滅し世界の海はまさに2つの勢力の支配下に置かれつつあった。
「人類は滅亡するのか……。」
人々は落胆し新設された国連海軍も深海棲艦とセイレーンの猛攻でなすすべもなく壊滅し最早、戦意は喪失し人類の滅亡が囁かれたいた。
しかし、神は人類を見捨てなかった。
かつての大戦で戦った艦艇の魂をもつ女子が国連海軍総司令部に現れた。
国連海軍の提督たちは半信半疑であったが彼女の言動、彼女が語る艦艇の艦歴、そしてその力に提督達は認めざるを得なかった。
彼女達は戦前まで普通の少女であったが戦争により突如として艦艇の記憶と能力に目覚め「適応者」となった。
日本では吹雪型駆逐艦1番艦の名を冠した「吹雪」、アメリカではアイオワ級戦艦の名を冠した「アイオワ」、ドイツではビスマルク型戦艦1番艦の名を冠した「ビスマルク」が戦線に参加。
国連海軍総司令部は彼女達を「艦娘」と呼称した。
同時期に国連軍科学技術本部は艦娘となった適応者と海上で見つかった「ワタツミの結晶」「リュウコツ」と呼ばれる物質を研究して「メンタルキューブ」を開発。
メンタルキューブから艦娘と同じく先の大戦の記憶と知識を受け継ぐ少女生命体 「KAN-SEN」が産まれた。
KAN-SENは艦娘と違って自分と同じ同級・同型の艦船を生み出し更に艤装だけでなく異能を使い戦うことが出来た。
艦娘とKAN-SENは同じ艦船の名前を持つ個体が産まれるが同個体ではなく、同じ名前をもつ別個体である。
国連海軍は艦娘を深海棲艦戦線にKAN-SENをセイレーン戦線に投入した。
「絶対にヤツら(深海棲艦とセイレーン)を倒して日本の海を取り戻す!」
当時の日本国首相 阿部原首相の発言だがこの言葉と艦娘、KAN-SEN、国連軍、自衛隊の快進撃によって深海棲艦・セイレーンはほぼ駆逐され2020年8月15日に国連によって終戦宣言が発せられた。
この日を「世界海洋平和記念日」と呼びこの戦争を「第3次世界大戦」
とした。
ただし平和になったからとはいえ内陸国を除く世界中の国家は損壊を受けた。特に沿岸部の都市は壊滅状態にあり消滅した都市や地域も存在する。
世界がそんな有様なので日本も例外ではない。
この戦争で多くのモノを失った。
平和を取り戻した日本も混乱の渦中にあった。
大戦に勝利したとはいえ自衛隊のみならず海上保安庁、水産庁、港湾都市に住む人々は大きな犠牲を払い沿岸部にあった工業地帯は破壊された。
だが、人々は諦めずに復興に当たった。
メンタルキューブを始めとする最新鋭技術のおかげで30年はかかると言われた復興も2年に短縮された。
だが、問題があった。
艦娘とKAN-SEN、そしてかつて国連軍の下で戦った自衛官や海上保安官である。
第3次大戦以前から国を守っていた自衛隊は以前に増して待遇は向上し規模も拡大したが艦娘とKAN-SENは敵性勢力を滅ぼすための存在だ。
日本政府は彼女達を普通の「人間」として認め「基本的人権」を与え生活援助を行い希望者は自衛隊に残留、希望があれば海上保安庁や警察に出向する事が決定した。
だが、経済大国だったとはいえ彼女達全員を復職させるわけにも行かず第2の人生を歩まざるを得ない環境であった。
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愛知県豊橋市 豊橋港
戦前は三河港の1部として世界各国から自動車や物質が輸入されている国際的な港だった。近隣には日本有数の企業の工場が並ぶ工場団地地帯でもあった。
特にドイツの自動車メーカーはこの豊橋港に運ばれ豊橋港から日本全国にもたらされている。だが、大戦のせいで豊橋港を含む三河港全エリアは
壊滅的被害を蒙り工業団地も同じくという有様だ。
この豊橋港に日本政府は防衛大綱に基づき新編された新生国防省と新生自衛軍もとい海上自衛軍の防衛力強化のため新たに海上自衛軍基地を建設した。
この基地に所属する艦娘・KAN-SEN部隊の任務は残存している敵性勢力への哨戒、三河湾及び遠州灘 豊橋・渥美半島方面の警備活動と新しく誕生した艦娘とKAN-SENの教育が目的だ。
基地の名称は海上自衛軍 東三河基地。豊橋市、田原市、豊川市、蒲郡市周辺海域を守る施設としては申し分のない名前だ。
2023年 4月1日 午前10:00時。
からっ風から解放され温かさを取り戻した東三河基地に「そいつ」は現れた。
制服はヨレヨレになったかつての海上自衛隊の制服と緑色の国連軍制式採用軍用コートを着込み、軍帽も同じくヨレヨレで更に拍車をかけたように顎髭を生やし頼りなさげな印象が強い20代後半の男だった。
隣には2人の女性がいた。2人は艦娘とKAN-SENだ。
艦娘と思われる女性の方は肩を露出した巫女服のような出で立ちで髪色は灰色がかった黒髪に金の髪飾りをつけ、短いミニスカートとサイハイブーツが脚の美しさを醸し出している。年齢は大学生ぐらいに見えるので10代後半か20代前半だろう。
もう1人は黒色のセーラー服を着ておりおへそがちらちら見えている。
滑らかつ気品がありサラサラな黒髪ロングが特徴的だが彼女は2本の角が額に生えていた。そして、彼女の腰には太刀を帯びていた。
俺はタバコのアーク・ロイヤルの紅茶を吸いながらかつての数年ぶりの故郷の空を見て呟いた。
「榛名、能代。帰ってきたぞ…… 俺の故郷だ。そして、今日から始まるスローライフの舞台だ」
男のつぶやきに榛名と能代は答えた。
「はい!榛名は大丈夫です!提督の故郷ですから私も楽しみです!
「貴方の故郷、悪くないじゃない。それに指揮官、私はKAN-SENだからケッコンの時につけてくれた名前で呼んでね。」
指揮官と呼ばれた男は困った顔をしながら「わかったよ能代朱凛(アカネ)」。
能代は「分かってないじゃないですか!名字は付けずに名前だけで呼んでください、あなた……」と少しむくれていた。後でお菓子なり買って機嫌を取り戻さねばならないな。
煙草も吸い終えて基地の衛兵に声をかけた。
衛兵は「少しお待ちください」と言って警衛室の隣にある待合室に俺たちを案内した。
そうこうしていると基地司令官らしき男が幕僚と艦娘とKAN-SENを連れて俺たちがいる待合室にやって来た。
基地司令官らしき男の見た目は恰幅がよくついでに人柄も良さそうで親分肌な軍人だ。階級章を見てみると少将のようだ。
「柳瀬 明日乃大佐、ただいま着任しました!何卒、よろしくお願いします!」
俺たちは海軍式敬礼をし基地司令官に挨拶をした。挨拶は軍人にとって最重要な儀礼だ。司令官は俺の敬礼に答礼した。
「小官は東三河基地司令官の神野政明少将だ。柳瀬大佐、まずは着任ご苦労。ちゃんとした挨拶と基地の案内は君たちが宿舎に戻り休息を取ってからにしよう。まずは休みたまえ。それと九江中尉、柳瀬大佐の案内を頼む。それと1500時に今後のことについて説明するから大佐たちは司令官室に来るように」
「了解しました閣下」
俺と九江中尉と呼ばれた20代前半ぐらいの女性士官がハモリながら答えた。少し恥ずかしい、朱凛なんてクスクスと笑っている。榛名は相変わらず大丈夫そうだ。偉い。
九江中尉は「長旅ご苦労様です大佐。荷物をお持ちします」と言いながら俺たちの傍に近づいて荷物を整理してくれていた。
神野司令官は俺の肩を叩き司令部のある施設に向かっていった。
恐らくまた先程の挨拶やら明日からの任務のことを話すのだろう。
面倒くさいことこの上ないが給料分の打ち出し仕方ないと思いながら九江中尉の案内に従い宿舎に向かった。
「久しぶりの故郷だゆっくりするか」
これからが大変そうだなとつぶやき俺はタバコに火をつけて空を見空けた。
続かせたい