エスケープ・フロム・アーク ~情報屋は世紀末を生きる~   作:うかた

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市街地を駆ける

場所:エルファス市街地跡北西 時刻:7:32

 

 晴天の空から陽光が差し込む市街地を抜け、ノアは南方へと繋がる裏路地を足早に駆け抜けていく。

 遠くから散発的な戦闘音が響く中、ノアがとりわけ気にかけていたのは、ボスエリアの方向から聞こえてきた複数の重い銃声だった。もし、破れた地図を集めている他プレイヤーがいるとすれば、自分と全く同じ進行度まで進んでいるPTが存在してもなんらおかしくはない。ノアはソロ特有の機動力と長時間活動できる利点を活かしてここまでリーチをかけたが、複数人のPTであれば、正面からの正攻法でボスを周回し、同じ場所に辿り着くことができるはずだ。

 あのボスエリアでの銃声が、地図集めを目的としたものだという可能性は高い。もしかすると、既に地図を完成させ、これからノアが向かう先の扉をチェックしようと動いているPTがいるかもしれないのだ。

 ノアは決して、自分だけが圧倒的に優位に立っているなどという驕りは持っていなかった。むしろ、完全ソロの身で最前線のトップ層と同等の進捗まで進められている現状自体が、奇跡に近いと考えている。確率ドロップである地図の断片が早い段階で揃ったことも、あの未知の鍵を引き当てたことも、半分はノアのプレイスキルではなく幸運によるものだ。

 とはいえ――手に入れた地図を正しく解読し、そこから金属の扉へと推理を繋げるには、それなりの時間と高度な思考が要求される。さらに言えば、この広大なマップの中から『怪しい鉄扉の位置』を正確に記憶しているプレイヤーの数など、サーバー全体を見渡しても極めて少ないはずだ。 大規模なギルドやトライブと呼ばれるような組織のトップ陣であっても、ことアーク内についての知識という点において、情報屋であるノアに並ぶ者はそうそういない。そこだけは、運ではない絶対の自信があった。

 

 銀行二か所が面する大通りを、素早くクリアリングしながら駆け抜ける。割れたガラス窓を跨ぎ、最初の銀行へ入り込む。

 足音も、漁られた痕跡もない。わずかに警戒を下げつつ進行していく。

 あけ放たれたからっぽの金庫を通り過ぎ、建物の奥、鉄扉までたどり着いた。

 多少予想してはいたが、鍵の形が合わない。これまでここを開けるカギは見つかっていないが、どうやら今回も実装されなかったらしい。

 向かい側にある銀行も同じだろうが、念のために見ておこうと踵を返そうとし

 

 僅かにガラスを踏む音が聞こえた。

 動きを止め、音を立てずに銃を構える。

 しゃがみつつ、続く足音を聞き取る。相手は無警戒のまま周囲の物品を漁っているらしい。スカベンジャーらしからぬ、パターン化されていない歩行音から察するに、恐らくプレイヤーだ。

 だが、無警戒にアイテムを漁っている様子からして、どうやら相手はノアの存在に全く気づいていないようだ。

 さらに言えば、そのプレイヤーの目的がこの奥にある鉄扉の調査ではないことも確定した。もし新マップという特大の利権を目指しているプレイヤーであれば、道中のジャンク品など無視して最速で手がかりへと直行するはずだ。こんな場所で呑気に小銭稼ぎ(に時間を費やす暇などない。

 ゲームの仕様上、バッグや棚を漁っている最中は環境音が著しく聞こえにくくなる。ノアはその隙を突き、足音を完全に殺して壁の縁から静かに顔と銃口だけを覗かせた。視線の先では、装備の質からして中級者とおぼしきプレイヤーが、背後からの微かな足音に気づくこともなく受付カウンターの裏を漁り続けている。

 ノアは頭部へと照準を合わせ、引き金を引いた。

 無駄な反動を抑え込む、精緻な指切りによる射撃。サプレッサーによってくぐもった六発の銃声が、静かな銀行のフロアに短く響き渡った。

 

 

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