エスケープ・フロム・アーク ~情報屋は世紀末を生きる~   作:うかた

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情報屋ノア

ノアはこのVRMMO『エスケープ・フロム・アーク』――通称『アーク』で、情報屋を営んでいる。

AIによる自動生成や雑多なアフィリエイト記事によって、ネット上のあらゆるデータがノイズに汚染されるようになった現代。特にフルダイブ系MMOゲームの情報はほかのプレイヤーを蹴落とし、有利に立とうとする悪質なユーザーや、アクセス数稼ぎを求めた適当な情報をばら撒く業者によって、、攻略データが日常的に改竄・汚染されていた。かつての時代には、アクセス数による報酬システムに群がった有象無象によってSNSが機能不全に陥った歴史があるらしい。それらが規制されないまま、その悪習はこの時代へと引き継がれてしまったのだ。

中でもこのアークは、ゲーム内資産がリアルマネーと取引可能という、極めて挑戦的なシステムを採用している。良質な情報をオープンにするプレイヤーが少数なことも相まって、正確な情報を掴む難しさは他タイトルの比ではない。

 だからこそ、正確な情報に価値が生まれる。ゲームに特化した情報屋とは、時代の流れの中で生まれた新しい職業と言える。

 稼ぎ続けるためには、常に新しい情報を追い続け、手元の情報も都度精査しなくてはいけない。ノアのように、現実での生活費まで稼ぎ上げるような専業の情報屋が少数な理由はそこにある。

 殆どの時間をゲームに費やし、情報屋として名を売り、顧客を得る。もはやゲームの中で生活していると言っても過言ではない。ゲームの実力で戦うプロゲーマーとも違った、シビアな情報管理能力が求められ続ける。

そんな極端な生活を、それでもノアは少し気に入っていた。

 

今回、ノアがこの『エルファス市街地跡』へ足を踏み入れたのも、他ならぬ情報屋としての仕事のためだった。

事の発端は三日前。数年前から実装が予告され続けていた超大型マップが、ついにアップデートで追加されたのだ。通常の数倍に及ぶという過去最大のエリアサイズ、そして『アークの根幹に迫る』と銘打たれた前代未聞の触れ込み。

しかし、奇妙なことにそれは「実装されたらしい」という噂の域を出ていなかった。今のところ、その新マップへ到達した者がゲーム内に一人として存在しないからだ。

通常、このゲームではハブとなる『箱舟』から出撃先を自由に選択でき、新エリアであっても初日からアクセスが可能になっている。本来なら実装初日ともなれば、新アイテムや未知の情報を求めるプレイヤーたちでお祭り騒ぎになっているはずだった。

ところが、三日が経過した今になっても到達者の報告は皆無。未踏のエリアへ一番乗りを果たしたという実績は、それだけでも名を売る絶好の手段となる。仮にアクセス方法を秘匿したとしても、「到達した」という事実だけは誰かがSNSや掲示板でひけらかしているはずなのだ。

当初こそ大いに沸き立ったが、今では「実はまだ実装されていないのでは」と存在そのものを疑う声すら上がり始めている。

最も、ノアはアップデートのタイミングで、巨大なデータが追加されていることを確認している。間違いなく、このゲームのどこかに、その未知のエリアは存在するはずだ。

未知の大型エリアへ至るアクセス手段。今このアークにおいて、これがもっとも価値のある情報だと言える。

 

 ノアは、このビルの最上階に潜むボスが、新エリアへのアクセス手段となるヒントを持っていると踏んでいた。

先ほどの『サブカル記者のゲーム紹介』のように、アップデート以降、各地のスカベンジャーやボスエネミーが様々な情報データをドロップするようになっている。その中に重要な情報が紛れ込んでいるのではないかとノアは睨んでいた。

その証拠に、ノアの手元には既に「破られた地図」の画像データが何枚か揃っている。

スカベンジャー達やボスを狩り続けて集めたこれらを、パズルのように繋ぎ合わせる必要があるのだろうが、現時点では完成に必要なピースが少しだけ足りない。

そして、その残りのピースをこのマップのボスが持っていると推測するのには、明確な理由があった。

ここは、チュートリアルを終えた初心者から最前線を走る上級者まで、あらゆるプレイヤーがクエストで訪れるストーリーの要所だ。度重なる拡張アップデートを経てマップ面積も広大になり、アイテム漁りや経験値稼ぎの適性も抜群。アークの住人であれば「誰もが最も慣れ親しんだ狩り場」と言っても過言ではない。更に言えば、初心者でも踏破可能な程度の難易度である点も怪しい。

超大型マップというアップデートの目玉コンテンツである以上、運営がその入り口のハードルを極端に高く設定するとは考えにくい。仮に到達できる人数を絞りすぎれば、一握りのトップ層だけで巨大な新エリアの資源を独占できてしまう環境が出来上がる。ノア個人の利益としてはそれでも構わないが、ゲームバランスを管理する運営が、そんな極端な状態を許容するはずがなかった。

 

 

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