エスケープ・フロム・アーク ~情報屋は世紀末を生きる~   作:うかた

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奇襲

ノアは手元のグレネードの安全ピンを引き抜くと、握り込んだままきっかり一秒保持。

それから、三体の中心を狙って正確に放り込んだ。

起爆タイミングを完璧に調整されたグレネードは、床に落ちた瞬間に炸裂した。

回避する隙など一切与えない。ボスと取り巻きたちは、爆発の衝撃と飛び散る破片を至近距離でまともに食らった。最も爆心地に近かった取り巻きの一体は、あえなくその場へ倒れ伏し、二度と動かなくなった。

ボス達に逃げる隙も与えず、全員が衝撃と破片をもろに食らう。最も爆発に近かった取り巻きの一人は、その場で倒れ伏して動かなくなった。

だが、その戦果を悠長に確認している暇などない。

 アクティブになったボスと残った取り巻きが、恐ろしい程滑らかにこちらへ銃を向ける。投擲の軌道から瞬時にノアの座標を計算したのだろう。取り巻きのアサルトライフルが速やかに銃弾を撃ち込み、ノアが隠れている大理石のテーブルを激しく削り飛ばす。

 一方のボスは、その取り巻きの弾幕を盾にするようにして素早く遮蔽物に取り付き、お返しとばかりに手榴弾(グレネード)の投擲体勢に入っていた。

 完璧な連携と最短最速でプレイヤーを仕留めにかかる、高度な連携。元軍人である彼らは、チームとして正確に機能し、適切に敵を打倒そうと行動した。

 

 ノアは壁越しに、戦況を把握していた。射撃を行っているのは一人。恐らくもう一人、習性からしてボスの方がグレネード、もしくは回り込んでの射撃でこちらを仕留めに来ている。煩い銃声の中で冷静に、微かなガラス片を踏む音を聞き分ける。グレネードのピンを抜く音がした。

 テーブル越しに威圧し続けていた取り巻きの射撃が一瞬収まる。フルオートで撃ち続ければ弾がなくなると判断したのだろう。数発でのけん制射撃に切り替えようと、射撃を止める。

その次の瞬間に、ノアはテーブルから素早く飛び出した。銃声から位置を特定した決め打ちが取り巻きの体を捕らえる。瀕死であったこともあり、取り巻きはノアへ弾を撃ち返す余裕も無くその場に崩れ落ちた。

無防備な姿を晒したノアだが、ボスはグレネードを投げ終えた直後で、銃を構えなおす暇は無い。投げ込まれたグレネードがテーブルの裏で跳ね、ノアの近くへ転がり込む。

爆発の直前、ノアは弾かれたように身を翻し、テーブルの裏から大きく跳躍した。空中で、ヘイトを向けたボスの怒りを孕んだ双眸と視線が絡み合う。

轟音と共に巻き起こる粉塵と爆風が、敵味方双方の視界を真っ白に塗り潰す。

やがて土煙が晴れると、そこには銃を構えたボスしか立っていなかった。ボスは銃を構えたまま、不審そうに周囲の索敵を試みる。致死ダメージを与えた確かな手応えは無かった。

かと言って、先ほどの爆発の瞬間に、他に身を隠せるような遮蔽物は周囲になかった。唯一考えられるとすれば、爆風に耐えて辛うじて原型を留めている大理石のテーブルの裏側だけだ。爆発を避けた直後に、もう一度あそこへ逃げ込んだに違いない。そう判断したボスは銃を構えたまま、油断のない足取りでテーブルの側面へと回り込む。

そして、うずくまっているであろうプレイヤーへ向けて必殺の銃弾を撃ち込もうとし――

しかし、そこに標的の姿はなかった。

真横の割れた窓から吹き込む風が、飛び散った大理石の細かな欠片を飛ばしている。

 

ターゲットの完全なロスト。ボスは再び困惑し、慌てたように周囲を見回した。

まさか先ほどのグレネードで既に仕留めており、爆風で吹き飛んだ死体が近くの窓から外へ転がり落ちたのだろうか?

それとも、自分の目を盗んでさらに別の遮蔽物へ逃げ込んだというのか?

ヤツはどこへ消えた……?

 

索敵のためにボスが銃口を下げ、もう一度フロアへ振り返ろうとした――その瞬間。  吹き曝しの窓の外から勢いよく飛び込んできたノアの靴底が、ボスの側頭部を思い切り蹴り飛ばした。

ここはゲームの世界だ。十分に鍛えられたノアのアバターには見た目以上のパワーが秘められている。ボスの索敵領域の外である、破れた窓の外。外壁の装飾にぶら下がり身を潜めていたのだ。

強烈な蹴りを食らって床に倒れ伏したボスの頭へ、ノアは流れるような動作で銃口を押し当てた。乾いた銃声が連続して屋上に響き渡る。ボスが確実に動かなるまで、銃弾をその頭部へ叩き込んだ。

 

 

 

 

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