エスケープ・フロム・アーク ~情報屋は世紀末を生きる~   作:うかた

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出待ちに罰を

また雨になりそうな曇天の中、ビルとビルの隙間を縫うように移動していく。

四方に脱出口のあるマップのため、戦闘音の聞こえた西側を避け、北の脱出口を目指す。

小柄なノアの体は、灰色の戦闘服で更に見えにくくなっている。ミニマップを表示してくれるハイテク腕時計を確認しつつ、恐らく自分のみが知っているであろうビル内や地下のルートを駆使しNPCとの戦闘を避けつつ出口へ近づいていた。

 

複雑な内部構造のビルを抜け、大通りに面した窓に着く。

いつもであればここから、大通りを見張っているNPCを見つけ、処理するのだが……

 

「いない……?他プレイヤーが倒したのかな……?」

 

定位置にいるはずのNPCが見えない。更によく見れば、向かいのビルの屋上にいるはずのスナイパーNPCもいないように見える。

道の真ん中にNPCらしき死体があるが、ここを定位置とするNPCはあんな装備をしていなかったはずだ。大した価値のなさそうな装備を付けたまま転がっている。

 

「……僕がこの時間でここまでこれたなら、西側で戦闘してたPTはまだ後ろにいるはず。新しいPTが脱出のために使ったのか……?」

 

……それにしては、引っかかる部分がある。

見張りを排除するのは必要だとしても、スナイパーまで倒さなくても大通りは抜けられるようになっている。更に言えば、スナイパーは10分前後で湧きなおす上に倒しても、アイテムを漁ろうにもビルの上まで行かなくてはならず効率が悪い。

 

それでもスナイパーを倒す理由があるとすれば……

 

ボスの取り巻きから奪った高倍率スコープを、ボスの『NR9 エアコンドル』に載せる。予想があっていれば、通りに面したビル四棟、どれかの窓が割れているはずだ。

 

「……見つけた」

 

向かいのビルの屋上にほど近い窓。二枚が割れている。天気もあり見えにくいが、スコープの倍率を上げれば、部屋中に黒い棒のようなものが見えた。

 

「……通りを通るプレイヤーを狩るつもりか。初心者もいるマップで出待ちとはいい度胸だね」

 

北の出口へ行くにはこの大通りを通る必要がある。

一応地下を通って迂回するルートが二本あるが、片方は時間がかかるうえNPCとの会敵が多い。もう一つは現状知っている人も相当少ないであろう抜け道だ。

初心者や中級者が脱出するにはやはりこの道を通らざるを得ないわけで、出口が目前になって隙だらけのプレイヤーを狩るにはちょうど良いと目を付けたのだろう。

 

元々出待ちは行儀のよいプレイスタイルではない。自分が時間をかけて集めたアイテムや持ってきた装備を、出口でじっと待っているだけの相手に奪われるのは決して気持ちの良いことでは無い。

もしかすると、通りで倒れているNPCに見えた死体も初心者プレイヤーのものなのかもしれない。

 

「仇とまでは行かないけど、ずっとここに居られると面倒な場所だね……」

 

幸い残弾もグレネードも、この状況を打開できるアイテムもある。裏道から抜けて出口へ行ってしまってもいいが、ずっと居座られるのも不快だ。

 

 

 

「ふぁ~~、ここにゃ誰も来ねぇなぁ……」

「西側では美味そうなPTを見つけたらしい。応援が行ってるらしいぞ」

 

道路を見張っているスナイパー達にとって、今日の仕事はかなり楽な部類だった。

マップの各出入口に通じる大通りをすべて閉鎖し、のこのこやってきたプレイヤーを駆り立てるだけだ。それぞれ二人組で配置されているが、狩る側の意識しかない彼らは相当にのんびりとした気分でいた。

なにせ油断している狙撃対象しか来ないのだ。中には賢く警戒してくる敵もいるが、居ると分かっていないと自分たちには気づけない程度には面倒な地形である。一階にはトラップも設置してあるし、万が一このビルに辿り着けても問題は無いだろうと高をくくっていた。

ほんの5分前に仕留めた初心者らしきプレイヤーも、やたら警戒自体はしていたが結局気づかれず狙撃できた。もしかしたらいいアイテムを持っているかもしれないな、初心者の癖に生意気なことだ。くらいの気持ちで。

 

だから、彼らが気づけないのは当然だった。

 

窓の外を見続けているその背中に、迂回ルートから回ってきたノアが銃口を突き付けるまで残り10秒。

 

 

 

「……しけた装備だね、まだ誰も倒してないのかな」

 

たった10発、数秒の間に決着が着いた。

狙撃手としては腕がよかったのかもしれないが、不意打ちで背中から撃たれれば勝ち目はない。トラップも用意してあったが、あるだろうと注意しているノアが掛かる様なものではなかった。

それぞれの狙撃銃から高く売れるサプレッサーとスコープを抜き、本体はそこらへんに投げ捨てる。

彼らが自分の装備を回収しに来るかもしれないが、本体の値段よりアタッチメントの方が五倍近くする。そこそこ痛い出費になるだろう。

これで反省してくれればいいが、出待ちプレイヤーは同じことを繰り返しがちだと知っているノアは期待をしていなかった。

それぞれのバックを漁るが、回復アイテムと張り込み用の飲食物しか出てこない。

本当に出待ちをするためだけの装備だ。恐らく慣れている。

出待ちの装備を脳内のメモに記載を取りつつ、最後に死体のアームバンド(腕章)を確認する。髑髏と奈落を組み合わせたようなデザインのそれは、彼らの所属ギルドがこのマップを占拠しようとしている『アビス・シャフト』であることを表している。

ノアからしてみればどうでもいいことだが、仲間を殺された恨みから討伐隊でも派遣されたら面倒臭い。手早く高く売れるアイテムを抜き、階段を駆け下りる。

 

「……そういえば、初心者がやられてたな。アイテム位隠しておいてあげよう」

 

レイドに出る際、装備には保険を掛けることができる。死亡時、アイテムを一定時間持ち去られなければ、自分のもとへ帰ってくるシステムだ。

高レベルになれば死亡時、装備が高級な為に殆どが漁られて帰ってこない。しかし低レベルの間であれば安物ばかりで放置されがちなため、銃や防具に保険を掛けている初心者は多い。

せっかくだし銃くらいは保険で帰ってくるようにしてあげようかなと、ノアは大通りへと出る扉を開けた。

 

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