エスケープ・フロム・アーク ~情報屋は世紀末を生きる~   作:うかた

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鍵を掴む

 足早にビルを降り、ノアは再びあの大通りへと出た。

 アスファルトの真ん中には、先ほどスナイパーの撒き餌にされていた初心者プレイヤーの死体が、装備に手をつけられないまま転がっている。このまま放置するのも忍びない。念のために、彼が苦労して拾ってきたであろうアイテムも供養がてら漁らせてもらおうと、ノアは初心者御用達の小さなバックパックを片手で掴み寄せた。ついでに身元を示すドッグタグを素早く引き抜き、周囲からの射線が通らない遮蔽物の影へと死体を引っ張り込んで、その中身を確認していく。

 中身はやはり、道中で適当にかき集めたような低価値のジャンクアイテムばかりだった。片手間でドッグタグに刻まれたプレイヤー名を確認する。金属のプレートに刻まれた『カイン』という文字が、薄暗い光を鈍く跳ね返した。

 バッグの中には、高額なアイテムは一見して何もなさそうに見える。脱出ポイントが目前のこのエリアは、最も他プレイヤーとの遭遇率が高い危険地帯だ。これ以上の長居は無用だろう。 漁りを途中で切り上げ、バッグのジッパーを閉めようとしたその瞬間、ノアの指先に小さな、しかし硬質な金属の手ごたえがあった。

 バッグの片隅から拾い上げたのは、一本の鍵だった。この『アーク』には膨大な数の鍵アイテムが存在しており、それぞれ開けられる扉や隠し部屋、コンテナごとに独自の特徴を持っている。ゲーム内の鍵のほぼ全てを頭に叩き込んでいるノアだったが、不思議なことに、手の中にあるこの鍵の形状には全く記憶がなかった。持ち手の部分に至るまで重厚な金属製であつらえられており、鍵穴に差し込む先端部分の構造は、見たこともないほど複雑に噛み合っている。

 ――もしかすると。脳裏をよぎった強烈な予感に突き動かされるようにして、ノアはその鍵を自分のインベントリへと素早く突っ込んだ。

だが、詳細な検分はセーフハウスに戻ってからだ。

 オレンジの髪をした初心者の死体を一瞥する。この初心者もしも合うことがあれば、何か手助けをしても良いかもしれない。

 これ以上、余計なトラブルや他のプレイヤーと出くわす前に、ノアは足早に大通りを駆け抜け、そそくさとマップからの脱出を図るのだった。

 

箱船内・下層居住地区

 『箱舟』へ帰還して早々、ノアは自身のセーフルームへと駆け込んだ。

 そこは、情報屋として初めて成功させた大仕事の報酬を注ぎ込んで購入した、個人用の隠れ家だ。少し広めの地下バンカーを模した居住空間となっている。 

 用途ごとに丁寧に区分けされた空間の奥、休憩スペースのソファに腰を下ろすと、インベントリから先ほどの鍵を取り出した。設備投資によって最大レベルまでアップグレードされた明るい照明設備が、手の中の金属光沢をくっきりと照らし出す。

 

 このゲームの仕様上、ドロップした鍵はそのマップ内に対応する扉が存在しているケースが基本だ。つまり、あの『エルファス市街地跡』で初心者のバッグに入っていたこの未知の鍵は、あの広大で荒廃したビル群のどこかにある「未発見のドア」に対応している可能性が高いということになる。

 

 その重厚な質感と造りからして、これがただの鍵ではないことは確かだ。

鍵全体が頑強な金属で造られているのならば、それが差し込まれる扉の方もまた金属製であり、プレイヤーの攻撃では簡単には破れないような分厚い仕様になっていると想像がつく。 当然、その重い扉を支える壁も薄いはずがないし、外から内部を覗き見られるような窓も存在しないはずだ。

 もし仮に、この鍵があの『未知の大型エリア』へと通じるアクセス権だとすれば、それは一体どのような場所に配置された扉を開けられるのだろうか。扉の向こう側に過去最大級のエリアが広がっているという前提に立てば、空間の辻褄を合わせる必要がある。扉を開けた先が地下へと続く長いトンネルになっているか、あるいは現在のマップを分断している高い壁の向こう側へと繋がっている可能性が高い。

 条件を絞り込んでいけば、答えは自ずと見えてくる。 怪しいのは、ビルやアパートの低層階にある地下への入り口か――あるいは、マップの果てにそびえ立つ境界壁に設置された重扉だろう。

 

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