エスケープ・フロム・アーク ~情報屋は世紀末を生きる~   作:うかた

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地図を合わせる

 ノアはひとまず、手に入れた謎の鍵をアイテム保管庫の奥底へと厳重にしまい込んだ。   とんでもない貴重品である可能性がある以上、死亡時のロストを考えれば、せめて「どの扉を開けるのか」という確かなアタリをつけてからでなければ、怖くて戦場には持ち込めない。

 次に、インベントリから『破かれた地図の断片』をすべて取り出し、テーブルの上へ並べる。羊皮紙のようなテクスチャの上に手書きの乱雑な線で無数の書き込みがなされており、パッと見で内容を読み取るのは困難だった。

 その隣に、ノア自身がこれまでに作成・収集してきた辺り一帯の広域マップを開く。こちらも未踏破エリアやエリア同士の隙間が黒塗りになった虫食い状態ではあるが、根気よく見比べていけば何かの法則性が掴めるはずだ。

 バラバラな縮尺や雑多な手書き文字の解読に難航したが、ノアは描かれた山岳や河川、都市部のシンボルといった地形要素を拾い上げ、既存マップの判明している確定座標へとパズルのように当てはめていく。やがて、双方の地図に共通して描かれている箱船と、それ以外の出撃可能エリアからの距離から狂っていた縮尺の比率を正確に割り出すことに成功した。

 算出した比率をもとに、それぞれの断片を正しい位置へ置いていく。概ねの場所を当てはめた結果、導き出された起点は『エルファス市街地跡』の南側。どうやらその先に、新エリアへ繋がる「何か」が隠されていると地図は示しているらしい。

 となれば必然的に、南側一帯を広く探索する必要が出てくる。南方エリアは、商業施設と住宅地が複雑に入り組んだ市街地だ。例の金属鍵で開けられそうな『頑強な金属の扉』の数は、そう多くはない。ノアが記憶している限りでは、銀行の施設内に二つ、大型商業モールに一つ。あとは可能性としては薄いが、個人宅の地下バンカーへと繋がっていそうな怪しい扉が一つあったはずだ。

 問題は、他のプレイヤーが現在どこまでこの謎に辿り着いているかが分からないことだ。もしノアと同じように地図と鍵を揃えたライバルがいるとすれば、ポイントが絞られる分、目的地で接敵する可能性は極めて高くなる。一番乗りを逃さないよう可能な限り迅速に、かつ対人戦の警戒を怠らずに探索を進めなくてはならない。

 

 そうなると、現在の装備から変えなくてはならない。

 ノアはスタッシュを開き、自身の現在の装備一式を見直す。 今身につけているのは、コストパフォーマンスと周回適性を重視した、汎用性に優れるセットアップだ。取り回しの良いPDWの瞬間火力と、十分な数の予備マガジンがあれば、プレイヤーやボスが相手であっても二、三度の交戦なら問題なく切り抜けられる。防具も機動力を殺さない中量級のもので、撃ち合いとアイテム漁りを両立させる『アーク』の基本スタイルには最も合致しているのだが――未知の激戦区へ乗り込むとなれば、話は別だった。

 

 今回のレイドは、扉全てを確認する長期戦を想定しなければならない。継戦のための予備マガジンや回復品の消費は増え、入り組んだ住宅街での市街戦ともなれば、クリアリング用のグレネードも多数要求されるだろう。

 ただし、ここで考慮すべき重要な点が一つある。もし現地で新マップを目指す敵と遭遇した場合、相手は最前線級のトッププレイヤーであり、なおかつ複数人のPTを組んでいる可能性が極めて高いということだ。言うまでもなく、ソロとPTでは正面切っての戦闘力に絶望的な差がある。数の暴力でエリアを制圧できる彼らは、あの未知の鍵を引き当てている確率も高かった。ノアはソロ特有の隠密性を活かしてコソコソと地図を集めてきたが、強力なPTであれば、正面から力技でボスをねじ伏せて情報に辿り着くことも容易いのだ。

まともに撃ち合えば勝ち目はない。となれば、求められるのは彼らの包囲をすり抜けるさらなる機動力と、不意の会敵時に確実に逃げ切るための手段だ。

 ノアは手元に常備している優秀な装備群の中から、軽量級でありながら可能な限りアーマークラスの高いものを厳選する。撃ち合いはしない。万が一背後から撃たれた時に、致命傷さえ防いでくれればそれで十分だ。 武器も、サプレッサーを装着したSMGへと切り替える。発砲音が小さく、取り回しも良いため狭い屋内でもかさばらない。重装甲の高レベルPTを倒し切ることを想定しないのであれば、牽制と足止めにはSMGの連射性能で事足りる。

 消耗品のストックからは、被弾時にも歩きながら瞬間的な回復力を与えてくれる医療用の注射器を数本厳選する。さらに、長時間のノンストップ移動に備えてスタミナ増強用の飲食アイテムをチョイスし、空いたスペースには普段の倍近い数のグレネードを詰め込んだ。

 それらの物資をすべて胸元のタクティカルリグやポケットへコンパクトに収めきると、最後にノアは、背中のバックパックを装備から外した。

 アイテムを詰め込むための大きなバッグは、機動力を削ぐ余計な重量になるからだ。今回のレイドにおいてアイテム漁りは一切想定していない。新エリアへの到達というただ一つの目的の達成のみに特化する以上、重しにしかならない装備は不要だ。

 

 

 

 

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