【無慈悲な】侵攻蟲苗床化計画【異世界攻略】   作:オルフェイス

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駆け足です。


魔神スリストン 6

 

 ニードルと魔神の戦いは拮抗していた。

 

 既に他の虫が介入できるレベルではなく、精々が犠牲を気にせずに突っ込む程度。それも、特効をニードルに集中させているために妨害にすらならない。

 

 ニードルの戦闘力維持につまみ食いされる形で貢献しているだろうが……遠距離攻撃をしようにも届く前に消されるし、何より当たっても効いていない。

 

 そのためニードルと魔神の一対一の戦いになっていた。

 

 とはいえ、その戦いは単調な応酬の繰り返しだった。

 

 ニードルが口を伸ばし、魔神が『開』を放つ。

 

 ただし、その被害規模はとんでもないことになっている。

 

 主に魔神のせいで。

 

「《終開・芥》」

「《終開・慰》」

「《終開・(あまね)》」

「《終開・(あかり)》」

「《終開・(いたち)》」

「《終開・(いわお)》」

 

 離れているここからでも衝撃が来る。

 

 空間ごと捻じ曲げ。

 

 太陽の如き白炎を落とし。

 

 複数の大嵐を巻き起こし。

 

 大地を降らせる。

 

 出してくる手に際限がない。同じものも使ってくるが、それよりも多く新しい手を出してくる。

 

 今挙げた例も僅かなものでしかない。

 

 『開』は威力が強すぎるためにニードルでも食いきれないが、しかし威力を弱めることはできた。

 

 だがそれだけだ。避けなければ普通に致命傷になる。

 

 厄介を通り越して『なんだこいつ』とまで言いたくなる。神だからか。腹が立つな。

 

「わかっていた、つもりだったが……」

 

 本格的に全力を出してきた魔神はもう手に負えない。

 

 ニードルの攻撃は距離的には届いているが避けられる。届く前に消し飛ばされる。

 

 いずれは超えなくてはならない壁だったとはいえ、少し時間を詰めすぎたか……?

 

 死ななければ食らうことで回復できるとはいえ限度がある。

 

 暴食であるが故に胃袋に限界こそないが、一度に食える量には限りがある。

 

 つまり質量攻撃に弱い。

 

 その点で言えば、ニードルは魔神との相性が悪かった。食べきる前にこちらに当たりかけるのだから、避けなくてはならなくなる。

 

 そうなれば次の攻撃が来て、反撃の時間が短くなる。

 

 届きそうだと思った底は、俺が手を伸ばすにはまだ深かった。

 

「鼬ごっこだな」

 

 魔神が攻撃し。

 

 ニードルが攻撃し。

 

 互いに避け合う。

 

 攻撃を食らっているのはニードルだが、魔神は掠りはしても一度も直撃していない。

 

 当たれば喰らい、部位を破壊できる。それがどれほどの消耗になるかはわからないが、隙にはなる。

 

 当てるには……今のままじゃ無理か。

 

 ステルスで近付こうにも余波で吹き飛ぶ。そこまで強い虫がもういないんだよ。

 

 どうする……ギガントが来れるまで、残り─────

 

「使うか」

 

 判断はすぐだった。

 

 本当ならギガントが来るまで温存しておきたかったが、ここまで来れば少しでも追い詰めておきたい。

 

 勾玉、冠、鐘、そして首飾り。

 

 必要なのは攻撃を当てるための隙だ。冠はギガントに使いたい、鐘は使い所が限られる、首飾りもまた同様、となれば……

 

「さて、通用するのかどうかだな」

 

 懐から勾玉を取り出す。

 

 その力が魔神に通用するのか、そして通用するとしてもどの程度保てるのか。

 

 少なくとも一度は通用する……そう願いたいところだ。

 

「起動」

 

 勾玉を使用する。

 

 その瞬間に時が止まった。

 

 時間にして数秒。あらゆる事象が停止する。

 

 魔神の攻撃すら止まっている。炎も、嵐も、空間も。そして魔神でさえも─────

 

 その隙を、ニードルは逃さない。

 

 ほんの僅か数秒で時は動き始めた。

 

 しかし、その数秒で。

 

 ほぼゼロ距離にまで、口を伸ばせていた。

 

「、」

 

 ニードルの口が身体に当た、

 

 ─────腕で防がれた。なんて反応速度だよ、こいつ。

 

 だが、それでも肉体に刺さっている以上は吸収できる。

 

 このまま吸い尽くして、

 

「《終開・(かさね)》」

 

 できたのはそこまでだった。

 

 魔神が消え、ニードルを殴り飛ばす。

 

 魔神には既に片腕がない。あの一瞬でニードルが吸収することに成功したからだ。

 

 しかし、既に口は魔神から外されていた。

 

 先程までとは桁違いの速さでニードルに迫る。

 

 口が魔神に伸ばされるが、全て叩き壊されている。逃げようにもそれよりも速く追いつかれ、拳を叩き込まれる。

 

 いきなり強くなった? さっきの『開』のせいか?

 

 今の魔神の戦闘力は─────

 

《魔神スリストン》

 戦闘力:120000(90000)

 

 ─────なんで上がってるんだよ。

 

 まだ上があっただと? 本当にふざけてるな。

 

 これが魔神の奥の手……そうだと思いたい。

 

 そうでなければ、本当に負ける。

 

 今の魔神は、恐らく完全な物理特化。先程までの能力重視のものとは違う、得意分野同士での争い。

 

 そうなれば……

 

 戦闘力で劣るこちらが、一方的に蹂躙される。

 

 勾玉はもう駄目だ。止められても時間稼ぎにすらならない。

 

 冠、鐘、首飾り……どちらも送るには距離がありすぎる。

 

 これは─────詰みか。

 

「本当に楽しかったよ」

 

 魔神の声が響いて聞こえた。

 

 物理的に、潰される。

 

 魔神による単純な腕力によって、ニードルが潰された。

 

 血が飛び、肉が散る。

 

 口が僅かに動いているが、俺にはわかる。

 

 もう再起不能どころではない。ニードルは、死んでいる。

 

 ……よく頑張ってくれた、ニードル。

 

 おかげで、命を繋げることができた。

 

「や」

 

 魔神の声が、近くで聞こえた。

 

 ……こいつ、あそこから僅かな時間で到達したのか? 本当にイカれてるな。

 

「君の切り札は、さっき殺し終えたよ」

「知ってる。見てたからな」

「なら、もうわかるよね」

 

 魔神の顔には、喜悦があった。

 

「とても楽しかったよ。あそこまで戦える眷属なんて初めてだったから。けど、それも終わりだね」

「終わり? いいや、違うな」

 

 終わりではない。

 

 時間が必要だった。あわよくばその前に倒してしまいたかったが、やはり手は増やしておくものだ。

 

 そのおかげで今も余裕を保てる。

 

「─────まさか、まだいるの? さっきの眷属よりも強い虫がいるとは思えないんだけど……期待して、いいのかな」

「期待以下だと思うぞ。なにせ、」

 

 ─────おまえを殺す虫なのだから。

 

 場が、変わる。

 

 魔神も、俺も、まとめて一つの空間に飲み込まれた。

 

 そこにただ白い空間と─────数えるのも馬鹿らしくなるほどの無数の虫の死骸があった。

 

 その中心に在るのは、とてつもなく巨大なナニカ。

 

 それは、蛹だった。

 

 ギガントクリサリス・オーバースロウス。それがこいつの名前であり……俺の、最後の切札だった。

 

「ここは……」

「怠惰の虫には、周辺にいる生命からエネルギーを吸収する力がある。俺は最初、それがただ怠けながらも生きるための術だと思っていた。けど、違った」

 

 魔神の困惑が見えたが、無視する。

 

 口を動かし、ギガントを見上げる。

 

「怠惰の本質は蛹だった。成虫になるために周辺からエネルギーを吸い付くすと同時に、外敵から身を守るための空間を形成する。見えなかったが、怠惰の吸収範囲は空間操作可能な範囲だったんだ。そして、俺は考えた。成虫になった怠惰の虫は、一体どれほどの力を持つのか」

 

 ここまで聞いても魔神は動かない。

 

 ()()()()

 

 初めての経験だろうな。動きたくても動けない、というのは。

 

 それが脅威と認識しているからか、それとも恐怖を抱いているからか。

 

 まあ、どちらでもいい。

 

「とはいえ羽化のために必要なエネルギーが莫大でな。それこそ虫を五十万も食い尽くさせて、ようやく満ちたところだ。

 一匹一匹は脅威じゃなくても、塵も積もればなんとやら、だ。

 

 そろそろ起きろ、ごはんは食べるだけ食べただろう?」

 

 俺のその言葉と共に。

 

 蛹が、羽化する。

 

 そして魔神が動き、

 

 止まった。

 

「だろうな」

 

 勾玉を使い停止させた。

 

 ……二度目だが、通じて良かった。

 

 止められるのは数秒……だった。

 

 だが、このアイテムたちを使っているうちに気づいたことがある。

 

 破壊を前提に使えば、能力以上の効果を発揮することができる、と。

 

 無理矢理に効果を維持した勾玉が、罅割れる。

 

 数秒を超えて停止する。

 

 もう勾玉は使えなくなるだろうが……それに見合った成果だと、俺は断言する。

 

 一分。止められた時間はそこまでだった。

 

 勾玉が砕け散る。同時に再び魔神が動き出し、

 

 それよりも速い突進が、魔神を容易く吹き飛ばす。

 

 もう既に、羽化は完了していた。

 

「はっぴーばーすでー、ギガント……いや」

 

 巨大。

 

 あまりに大きなその虫は、恐らく虫の中で一番の有名種だろう。

 

 大きな角。硬い甲殻。その頭には調整された竜の冠と首飾りが付けられている。

 

 別名は、確か昆虫の王様だったか。今のこいつにはピッタリの名だな。

 

 その名前にしても、今はギガントクリサリスではなく別の名前になっている。

 

 その名は、

 

「テラ」

 

《テラインセクト・オーバーロード》

 戦闘力:250000(125000)

 

「インフレ極まってるが、おまえにはこのくらいでちょうど良いだろう」

 

 大罪という形すら超え、虫の王が産声を上げた。

 

 そして、その虫の王がおまえを殺す。

 

「は、はは」

 

 魔神が、初めて表情を引きつらせた。

 

 そうだ。

 

 その顔が見たかった。

 

 そして、もういい。

 

「さっさと死ね」

 

 そう命ずる。

 

 テラは緩慢と動き出し、

 

 一瞬。

 

 何もかもを置き去りにするほどの速度で、魔神へと突進し。

 

 魔神の肢体を、弾けさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

 

 テラに腰掛けながら声を掛ける。

 

 テラはやることやって眠っている。元々が怠惰だったのだ、生まれてもやることは変わらないらしい。

 

 まあ、それはともかく。

 

「なんで生きてる」

「言っただろう、契約は絶対だって」

 

 魔神が寝転がりながら答えた。

 

 そう、魔神は死んでいなかった。

 

 確かに肢体が弾け、死んだと思ったのだが。

 

 いつの間にか肉体が再生されており、全く動かない。

 

 確かに契約には死なないとか追加していたが……本当に死なないやつがあるか。

 

 神は肉体が弾け飛んだところで死なないのかと思ったぞ。

 

「君の勝ちだよ。遊んでないで、早く決着をつけるべきだった」

「そこには感謝している。おかげで時間が稼げた」

「うーん、油断し過ぎだったかな」

 

 本当に。

 

 この魔神が早急な決着を求めていれば、このような結果にはならなかった。

 

 運が良かった、と言えるだろうな。

 

「さあ、これで契約は果たされ、君は私をどうしても良いようになった。どうするつもりなんだい?」

「……殺す以外にあるのか?」

「そうするのもあるけどね。殺すのは、もういつでも出来るだろう? 何か聞くなりなんなり、出来ると思うんだ」

「何か企んでそうだから殺したいんだが」

「そんなに契約が信じられない?」

 

 まあ正直なところ信じられないが、殺したはずのこいつが何の前触れもなく生き返ったところを見るに、嘘ではないのだろうな。

 

 聞くだけ聞いて殺すのも手であり、また他の使い道を考えることも出来るだろう。

 

「まあ、殺すにしても私を取り込んだほうが都合が良いと思うよ」

「取り込む?」

「最初に言ったよね、君との融合で原初の存在に戻るって。私は自分の人格も消すように元に戻るつもりだったけど、やろうと思えば君の意識を保ったまま原初の存在に成り、力を得ることが出来る。あぁ、ちなみこれは嘘でもなんでもないよ。そもそも嘘をつけないからね」

 

 ……なるほど?

 

 こいつをただ殺すよりも、取り込み殺すほうが力も得られてお得であると。

 

 嘘はつけない。さて、それがどこまで本当なのか。

 

 ……契約が絶対だと言うのなら、俺が嘘を吐くなと言えばそうせざるを得ないのか。

 

「今の言葉、嘘じゃないな? 嘘じゃないなら答えろ」

「もちろんだよ。私はもう、君のモノなんだからね」

 

 念の為聞いておいたが、嘘はついていないらしい。

 

 最初は契約なんて信じていなかったが、今では信じるか、と思っている。

 

 ……それを踏まえて、さてどうするか。

 

 今すぐに殺し、取り込むのか。

 

 それともまだ生かしておいて……使い道を考えるのか。

 

「さあ、どうするんだい?」

 

 魔神に促される。

 

 ─────そう、悩むことでもないか。

 

 間違ってる選択なんてない。あるのは後悔するか、しないのか。

 

 ここまでくれば後は気分次第だ。

 

 なら、好きにしよう。

 

 俺は魔神に手を伸ばし─────

 

 

 

 

 

 

魔神を、

  • 殺す(取り込む)
  • 生かす
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