──
遠く女の歌う子守唄に、微睡みの中でいつまでも耳を澄ましている。
ずっとこの
・
・
・
ソイツを見かけたとき、その
恐らくそれはこの身に流れる血というどうしようもない血統の
断固拒否。絶対に私は関わらねえ。
高校の入学式の日──上級生から入学したばかりの同級生の女子たちに囲まれる空条承太郎を見てかたく心に刻んだ。
私はいたってごく普通、どこにでもいる女子高校生の
ただ少し、ほんのちょォ〜っとだけ数奇な経歴を持っている。
まあそれも、ただちょォ〜っと母親が19世紀末のイギリス生まれ貧民街育ちな吸血鬼女子♡なくらいである。
100年どころか1巡後にも続くジョースターの奇妙な冒険に比べれば生ぬるくかわいいものだろう。
うん。うん……。まだかわいいものだろ。そう信じたい。
状況を整理する代わりに母の人生を思い返す。
19世紀末のイギリスの貧民街で育った母は、貧民街でとある少年と親しくなる。
その少年こそ何を隠そうのちのDIO──ディオ・ブランドーで私のち…母を吸血鬼とした全ての元凶である。
そして1888年の冬。
母は偶然再会した
変化後まもなく母はどうにかディオの元を逃げ出して、そのまま世界中を放浪することとなる。
福祉も人権意識も低かったろう19世紀末。日光を浴びれないという制約を背負い女一人で生きることがどれだけの苦労であったか想像に容易い。
さらにそこに波紋戦士の追跡が加わるのだ。
死ぬことはなくとも痛みはあっただろう。どこで
心が休まるときなど、それこそ数えられるほどにしかなかったのではなかろうか。
巻き込まれてしまっただけの母が過ごした100年の孤独と恐怖をただ痛ましく想う。
そしてそんな日々を生き抜いた母は、一人の日本人男性と運命的に出会ったことでついに安住を得る。
その運命こそが父だ。
父と母は出会い、私が生まれたというわけ。
果たして吸血鬼に子供は生まれるのか? については原作にてDIOがすでに証明しているだろう。
結果から言えばそういうことだとしか言えない。だって他に前例を探しようもない。前例っつーか時代的に私が多分吸血鬼の娘とかいう何とも稀有な一人目なんだろうけどさ。
19世紀イギリス生まれの吸血鬼な母を持つ私と、波紋戦士の血を引く空条承太郎。
ジョースター家との血にまつわる因縁はそれだけではないが、今は割愛。
ジョースターの物語に巻き込まれる気がビンビンにしているのはそういうわけだ。
まあゆうて?
学年も違うし早々巻き込まれることはないだろう。そもそも相手は学校一のモテ男だ。
何よりJOJOファンガールの壁が分厚くて近づくことすらできない。
自分から近づく気もないけれど、それはさておき、ね。
……。いや本当にイケメンなんだわ、空条。遠くから見ている分には大変目の保養。なんとも眼福。
毎朝きゃーきゃーという黄色い声に何事かと顔を向ければ大体その方に空条がいる。
囲む女子たちより頭幾つか分高く、どこにいてもその麗しいご尊顔が拝める。
今日も目の保養だと内心で拝みあげ女子の壁の横をすり抜けて登校するのだ。
もちろん接点なんてあるはずがなかった。
・
毎朝鏡と向かい合って父と母によく似た黒い髪を三つ編みに結っていく。
朝を迎えるたびにそうして、
長く伸ばしている髪は編み込むと胸の高さほどで毛先が揺れる。
うん、三つ編みのおさげは可愛い。地味っ子っていいよね。
「よし」
三つ編みを結い終えて、日本人にしてはわずかに明るいハシバミ色の目を度の入っていないメガネで隠した。
目の色程度なら前髪を少し伸ばしてメガネをしてしまえば気づかれないものだ。
地味っ子ってかわいいよね…。
「行ってきます、ママ」
そしていつもの通り返事のない母の写真に声をかけ、玄関を出た。
「きゃ〜! JOJOよ!」
「おはようJOJO!」
これまた恒例となった空条の登校シーンに出会した。歩くだけでワラワラと女子たちに囲まれる空条へ心の中で合掌し、その横をすり抜ける。
「
「おはよう、委員長」
教室に入るとすでに登校していた同じクラスの委員長が花瓶の水を取り替えようとしていた。
園芸部顧問が担任の我が教室には花瓶が二つある。一人では大変だ。机にカバンを置き、私も手伝いによっていく。
「さっき空条先輩が登校していたよ」
「まあ、だから女の子たちが騒がしかったのね。でもわかるわ、JOJOってフツーの男子よりずっとカッコいいものね」
ちょうど今朝の光景を世間話のネタとして提供し、委員長と並んで廊下を歩いた。
委員長は他校に恋人がおり、この学校では珍しい
JOJOに興味のない同士なんとなく気が合う。
「先に戻っているわね、古家さん。先生が新しい花を持ってきてくれるっていうから教室にいないとなの」
「うん、わかった」
慣れた手つきで花瓶を洗ってしまった委員長を見送って中庭に面した水道で花瓶の水を入れ替えた。
水道のすぐ目の前の中庭を見慣れた巨躯が通り過ぎていくが興味が沸かず、すぐに視線を手元へと戻す。
きっとファンガールを撒いて教室まで行くところだろう。モテ男も大変だ。実はアンタのスタンドってそういう能力なんじゃあないの? なんてね。
文化祭に、体育祭。合間で学生の本分である試験が挟まり、一年を通して少しずつクラスメイトたちとの交流が増えていった。
何も起こらない毎日。平穏な日々。なんて素晴らしいのだろう。
ずっとこの
どうか
・
・
・
朝のことだ。
高校生活二年目も半分ほど過ぎて、すっかり高校生に慣れきったころ変化は起きた。
洗面台の鏡の前に立つ。
──
一切の光を反射しない純粋な黒が蠢いている。その黒は何かの形を作ろうとしばし蠢き、やがてそのまま動きを止めてパシャンと私の足元──影の中へと
心臓が早鐘を打つ。歯磨きをしていた手が完全に止まってしまった。
今のは何。
……いいや、私はあれが何かを既に知っている。
私の
鏡に映る、自分の毛先を指でつまんで持ち上げる。毛先から数センチだけだが、確かに
スタンドを目にしたときよりはるかに背筋が凍った。
髪の手入れを欠かしたことはない。毛先が傷んでいるわけでもない。すでに死んだ細胞である毛先から色が変わることはありえない。
ならばこれは──
キッチンからハサミを持って、鏡の前へと戻った。色の変化した毛先を摘んで、毛先をバッサリと断ち切る。
「これが運命…」
鏡の中の肩までの黒髪となった自分を見つめながら、自分に問いかけた。当然答えなど与えられない。
ただ平穏を享受するだけでは、やはりダメなのだ。
運命から逃げるなどするだけ無駄なんだろう。
人は誰しも安心を望んでいる。私だってそう。欲しいのは昨日と同じ明日だけ。
ゆっくりと瞬きをして、息を吐き出す。鏡に映る自分の目の色が光の加減で赤く見えた。気のせいだと信じる。
背後に再び現れた
であれば
吸血鬼に果たして子供は作れるか?
答えは場合によっては是、と私は答える。
5部と6部で出てくるというDIOの子供たちを思い出して欲しい。その全員の母親は
私の母は石仮面を被された吸血鬼。気化冷凍法なるものを操る体温のない吸血鬼の腹で子供は育つのか。
そもそも吸血鬼同士であればどうなるのか。
恐らくは吸血鬼同士が子を成すことは不可能なのだ。
私が産まれることができたのは、母の体内に残ったディオの遺伝子と父の──人間の遺伝子が混ざったからだと予想している。
いわゆるテレゴニーと呼ばれる言説である。
どれもこれも推測でしかないけど、自分に起きていることに限っては間違いないと確信がある。
私に父は二人いる。
一人は100年の孤独の末に母が出会い愛した日本人。
古家
もう一人は母から人としての生を奪った憎い吸血鬼。
ディオ・ブランドー!!
産まれたとき、母が死んだとき。
私は間違いなく、そんな確信を抱いていたのだ。
それでもどうか間違いであれと願いながら生きてきた。
もしもその確信が真実ならば、血の運命に巻き込まれるに決まっているからだ。
父に共にアメリカで暮らそうと誘われながら日本から離れず距離を置いたのは、その
洗面台に散らばる金色の毛を見下ろして、あらためて深く深くため息を吐き出した。
この場に父がいなくてよかったと心底から安堵する。
逃れられない。ならば立ち向かうしかない。
──私はディオを倒しに行かなければならない。
なんて決意に反応するように背後に寄り添う
・
ロングからボブに代わり、編み込んで三つ編みにした。短くなって三つ編みの毛先が少々上を向いてしまっているけど、私は私でポリシーがあって三つ編みにしているのでね。
メガネと三つ編みって地味かわいいだろが。
「JOJO!」
「おはよっJOJO!」
「きゃ〜! JOJOよ!」
この一年ですっかりお約束となった空条の登校風景の脇をすり抜けて、いつもの通りに登校していく。
既に私にはDIOの血の影響が出ている。
ジョースターの血を引く空条にはまだ影響はないのだろうか、とふと気になって頭二つ分ほどファンガールより抜きでている空条を振り返る。
動揺で汗が吹き出る。
運転しているときに偶然横をパトカーがとおりぬけていったときみたいな、何も悪いことはしていないのに、
バクバクと心臓の鼓動が早まって、それを落ち着けるために深呼吸をした。
大丈夫、まだ。まだ私は何も…道を外れていない!
怖がることは何もない!!
そんな動揺に反応するよう足元の影の中で
そもそも接点なんてない。きっと偶然たまたま、顔を上げた先に私がいただけ。景色の中に私がいただけ。私が勝手に目が合ったような気がしただけにすぎないだろう。
向こうは私なんて見てすらいないはずだ。私の自意識過剰だ。そうに決まっている。
そんなことより今、自分に出来ることをしていかなきゃあいけない。
「まずは…まずはそう、
気を紛らわすよう呟いて、足早に学校へと急いだ。
「おはよ、古家さん」
「お、おはよう、委員長」
「髪型変えたのね、似合ってるわ」
「あ、あはは、ありがと」
いつものように教室で委員長に迎えられ、ようやく一息つくことができた。
授業中、教師の話を聞きノートをとる片手間に変わらず足元の影の中で蠢き続ける黒をじっと見つめる。
今朝、鏡の前で何かの形を作ろうとしていたように見えたけれど……人型はないのだろうか。
スタンドというとなんとなく、人の形をしているイメージが強い。
うろ覚えの原作の中で、群体だとかスーツ型だとかさまざまなスタンドの在り方があったことを覚えている。
もしかすると決まった形のない、不定型のスタンドなのかもしれない。
あるいは発現したてでスタンドヴィジョンが定まっていないだけ?
窓から日差しがいっぱい差し込んでくる。影の中の
そういうモノが在ると朧げながら知っていた。恐らくは前世のどこかで手に入れた知識だ。
教室のなかで黒の沈んだ私の影だけ濃い黒に塗り潰されている。
スタンドというからには何らかの能力もあるのだろうけれど皆目見当もつかない。
と、そのとき前の席の男子が消しゴムを床に落とすのが見えた。男子はすぐに気がついて、消しゴムを拾おうと身を屈める。
「ん? あれ…」
「どうしたの?」
「なあ、古家。そこらへんにおれの消しゴムねえかな」
不可思議な声を出す男子へ小声で声をかける。頭にクエスチョンマークを浮かべながら男子は私を振り返り私の席の反対を指差した。
その指す方を振り返る。目につく範囲に先ほどの消しゴムはなかった。
「ないよ」
「あっれ〜…? 誰かに蹴られちまったのかなあ…」
男子は首を傾げながら、不思議そうに再び黒板へと体勢を直した。
足元の影のなかで変わらず
光を反射しない黒。早急に調べないとならなそうだ。
放課後になり図書室へと向かった。分野はなんだろう。インターネットがないからクリックひとつで検索なんてことも出来ない。
黒だから…美術分野?
目当ての本棚には世界の美術史など分厚い書籍が並んでいる。知りたいのは色についてだ。
画家の半生とかデザイン集とかではない。
色…インク。美術の先生に聞いてみたら早いだろうか。
「光を反射しない黒ォ〜? 悪いが聞いたこともないねえ…しかしどうしてそんなこと…古家、美術に興味があるのかい? なら美術部に…」
「すみません、少しに気になって聞いてみただけです。お邪魔しました」
「あ、おい、古家」
美術室で部活の様子を見ていた教師を見つけて、質問をした。それでも答えは得られず、勧誘されそうになったのを慌てて廊下に飛び出て逃げた。
廊下を西日が橙に染め上げている。
廊下の壁へと伸びた影の中に、光の一切を反射しない純粋な
私の影の形に、
眺めているだけで当然何かを掴めるはずもない。
残念なことに私にはジョジョの原作の知識がほとんどない。
せいぜいが大まかな流れとキャラと、そのスタンド能力を知っているくらいだ。それもきっと抜けが多いだろう。
スタンドってこんなに理解できないものだったっけ?
3部の初め、〝承太郎〟は自分のスタンドを悪霊だと思っていたけれど……その後の物語に出てくるスタンドが発現したてのキャラたちはすぐに自分のスタンドを使いこなしていたように思う。
いや…使いこなせなければ死んでしまうような状況にいたからだろうか。
成長するためにはッ!
〝逆境〟を乗り越えなければならないッ!!
って、そんなものがそうそう転がってるかっつーの。
舌打ちを飲み込んで、帰路についた。
・
・
・
新聞の一面に父の記事が載っていた。遠いアメリカの地で今日も父は元気そうだ。
スタンドが発現して一週間が経った。一週間の間、観察を続けスタンドの能力を理解できた。
足元の影── その中に潜んでいる
硬い床に触れると思いきや手は
その空間の中に触れたものを掴む。手のひらを取り出して手の中を開いてみれば、そこにあるのは使いかけの消しゴムである。
スタンドが発現したあの日、前の席に座る男子が落としたそれで間違いない。
つまりはそう、吸収だ。
この
掴んでいた消しゴムを
これはなかなか
もしも光だけでなく、打撃だとか衝撃をも吸収出来るのなら、それは絶対防御のようなものと言えるのではなかろうか。
スタンド能力を理解したのなら、次は検証が必要だ。
吸収の限界は?
何をどこまで吸収できる?
形がないなら、どんな形にでもなれるのではない?
──と、考えたとき、影の中で蠢くばかりだった
立体としてグネグネと蠢き、そのまま頭のようなものを作ってかろうじて人型だとわかる形へと変わった。
「……GOOD」
呟けば微かに
笑っているような気がする。
一切の光を吸収してしまう
かろうじて人型となった
「能力を
母の腹の中にいた頃のような
ゆらゆらと踊るように揺れる
「『
多少厨二臭いか? とも思うけど吸血鬼の母から生まれた私のスタンドにはふさわしい名前だろう。
死とは普遍であるべきだ。それが不老不死の吸血鬼であったとしても。
問い掛ければ、
・
・
・
夏休みが明けたころ、父から届いた手紙で父が野球普及の周遊旅行メンバーに選抜されてしまったため今年のオフシーズンは日本に帰れないと知らされた。
はわわわわ…まさかの展開。
いや……時期的にちょうどDIOを倒す旅と被るからちょうどよかったかもしれない。
彼らの仲間になるつもりはないけれど出来るだけ利用はさせてもらいたい。
そりゃあDIOを倒すのに一番手っ取り早いのはいずれエジプトへ旅立つジョースター一行について行くことだけれど、とくに親しくもなけりゃあ接点もない先輩相手に便乗なんてごめん被る。
そもそもこれは私の戦いだ。
巻き込む道理がなけりゃあ、彼らが私に手を貸す義理もないわけ。
私が自分でDIOを倒す──そのためにはもっとダンス・マカブラを使いこなして自分の戦い方を確立させなきゃあね。
少し伸びてきた髪をいつものように三つ編みにして、家を出た。
新たに伸びた髪が金色になる気配はなくとりあえず安心。
「あっJOJO!」
「おはようっJOJO!」
「ねえJOJO、宿題はしてきた?」
「キャ〜!! 久しぶりのJOJOだわ!!」
今日も今日とて…というか夏休み明けだからかいつものように空条を取り囲むファンガールたちにも気合いが入っているようだ。
毎度毎度お疲れさんだなあ。
私も普段通りに…けれどなるべく空条の方へ視線を向けないように気をつけながらその脇を通り抜け、神社の階段へ足を踏み出したとき──チリッ。
右手側。視界の端で何かが反射した。目玉を動かして、飛んでくる何かを視認する。
同時に足元の影の中に沈んでいたダンス・マカブラが右足を伝って私の身体の右側を覆う。私の右目をも覆ったダンス・マカブラが飛んできた何かを吸収したのがわかった。
それはほんの瞬きにも満たない出来事である。
そして全てが済んだあと、飛んできた何かを避けようと条件反射のように私の体が遅れて反応した。左の足裏が階段を踏み外してしまう。ずるりと身体が傾いていく。
──落ちるッ!
ダンス・マカブラで全身を覆えば落下の衝撃を吸収できるだろうか?
いや……出来る!
スタンドは精神エネルギーそのものなのだから、私が出来ると信じれば可能ッ!!
そう覚悟を決めた。
ダンス・マカブラを全身に覆い──、またしても視界の端。今度は下の方で青い何かを視認したのだ。
「ごほッ!?」
腹部に大きな衝撃。それは先ほどのものと比べてもとんでもない強さでダンス・マカブラでも吸収しきれなかった。
痛みこそないけれど衝撃に私の身体は後方へと吹き飛ばされていく。
地面に叩きつけられる、と歯を食いしばればボフリ、なんて。想像とは違う柔らかなものに包まれた。
「……」
「……」
身体に影がかかり、顔を上げるとグリーンの瞳と目が合った。
その目が見開かれているおかげで、瞳の鮮やかさがよく見えた。
き、キレイです、ね……?
何をどう間違えたのか。そもそも何が起きたのか。神社の階段を降りようとしていた私はなぜだか空条承太郎の腕の中にいた。
は??????????
「く、くく空条、先輩……?」
「テメエ……今の……」
耳元で囁かれた脳みそが芯から蕩けそうなバリトンボイスである。今すぐ死んで私。
中指を立てて舌を出しながら白目を剥きそうになるのを必死で堪えた。
それは三つ編みのかわいい地味っ子がしちゃいけない顔。
そこで、ざわざわと周囲を囲んでいたファンガールたちがざわついているのに気がつく。これは勘とかでなくマジでマズイッ!!!!
「し、失礼しましたァッッ!!!!」
「あッ!? おいッ!!!!!」
とォっても筋肉質♡でス〜ンバラしい
んなことで実感さすな!!!!!!!
ラッキースケベやんけ!!!!!!!
「おはよ……恵古ちゃん、何かあったの?」
「へ、へへ…おはよう委員長、なにも……なあんにもなかった、よ……」
「…?」
息を切らして教室へと駆け込み、一年の頃から変わらない花瓶の世話をする委員長へ引き攣る頰をどうにか動かし笑みを返したのである。
・
・
・
「……」
休み時間となり、人気の少ない校舎のトイレへ移動した。
その個室でダンス・マカブラに吸収したままだった今朝飛んできた何かを取り出す。
手のひらの上にある、古びた
……矢?
こんなの頭に刺さってたら普通に死ぬだろ。
どう考えても私に向けられていた…いやいや、考えすぎか?
あの神社は通学路だ。高校生を無差別に狙ったものである、という可能性も当然ある。
なんにせよ悪質であるし、この世界で矢には特に悪いイメージが付き纏う。
もちろん私に、それがスタンドの矢であるかを確かめるつもりはない。
「なら考えても無駄……」
首を振り矢を再びダンス・マカブラへと吸収させた。個室を出て、洗面台で手を洗う。ハンカチをポケットから取り出して拭こうと顔を上げて鏡に映る自分に呼吸が止まった。
──金。
「ヒッ…!」
喉からおかしな音が漏れる。
突発的に切ってしまった夏休み前に比べ、伸びてきていた三つ編みが…毛先から徐々に金色へと変化していく。
濡れたままの手で鏡に触れて、じっと浸食していくさまに唇を噛む。
「なんで急にッ…!? ──ダンス・マカブラッ!!!」
足元からダンス・マカブラが
その手にあたる部分をハサミの形に変形させた。ダンス・マカブラの手が伸びる。
ジョキン…。
洗面台に三つ編みの毛束が二つ散らばった。金色が耳にかかる直前にどうにか間に合った。
短くザンバラとなった黒髪にそれ以上の変化は見られない。
安堵から足から力が抜けてそのままその場にしゃがみ込み……ゆらゆらと労るようにダンス・マカブラの手が私の頰を撫でて、また影の中へと沈み込んでいった。
「なんで……! …なんで……?」
遅れて震え出した手のひらを胸の前で握りしめる。
DIOの血による変化はスタンドの発現で終わったのではなかったのか。まだ……まだ続くのか。
冷静に考えてみれば、当然だった。
だってまだDIOは生きている──否、存在している。
まだ原作まで時間はあるからと、日和ってスタンドが強くなるのを待とうだなんて…私にそんな呑気する時間はなかったのに。
「……早く行かなきゃあ……DIOを倒しに……私の手で……終わらせに……」
言い聞かせるよう呟く。
震える足を叱咤して、どうにか立ち上がった。
「……」
「……」
勢いよく廊下に飛び出て、毎朝見ている黒い巨躯にぶつかりかける。
不機嫌そうに眉間に皺を作り、グリーンの目が私の方へ眇められた。
「チッ……」
今度は舌打ちを堪えきれず、その横を通り抜けようと足を進めた。
その前に後ろからセーラー服の襟が引っ張られ、首に突っかかる。
「グェ」
「……おい、テメエ」
「離してくださ──は?」
空条にセーラー服の襟を掴まれたのだと文句を言おうと振り返りかけ、空条先輩の両手がポケットに突っ込まれたままなことに気がついて間抜けな声が漏れた。
あれ?
「……」
「……」
気がつけば後ろから襟を掴んでいた何かはなくなり、廊下で二人して無言のまま立ち尽くす。
「……あの、行っていいいですか?」
「……そもそも引き留めちゃあいねえよ」
「ああ…はい……それじゃあ失礼しまッ──!?」
「……」
お辞儀をして、再び背を向けた。歩き出そうとしたところで、また襟を後ろから引っ張られて首に突っかかった。
「あの……」
「……俺じゃあねえぜ」
「でもあのォ……先輩しかいないんですけどォ……」
「どうなっていやがる……やれやれだぜ……」
おずおずと問い掛ければ空条はため息を吐き出し、帽子を目深に被り直す。
やれやれは私のセリフなんだよなあ。
どう考えてもお前のスタンドが引き留めてるんだけど、おそらくまだ自覚をしていない空条へそれを指摘するわけにもいかない。
できれば空条との接点はない方が喜ばしいのに……この状況をどうしたものかと首を傾げる。
足元の影で変わらずダンス・マカブラは蠢いている。
「テメエ……その髪はどうした」
「はぁ……自分で切りました」
「……」
仕方ないとばかりに絞り出された空条からの質問に正直に答えれば無言で目を眇められた。
なんだよ。本当だぞ。
再びの無言。
予鈴が鳴って、休み時間の終了を告げた。
「あの…もういいですか?」
「……ああ、行け」
再度、確認すればひらひらと手を振って空条は顔を背けた。
襟の引っ張りを警戒しながら、おそるおそる空条へ背を向けてゆっくり離れる。
今度は引っ張られることなく離れることができた。なんだってんだ。
予鈴が鳴り終わる。次の授業が始まってしまう。
二度目の金髪ショックでぶっ飛びかけていた思考は、けれどたった今の茶番で冷えてくれた。
DIOを倒しにエジプトに行くのだって準備が必要だ。無策で突っ込んで倒せる相手ではない。
そうであれば100年前にとっくにジョナサン・ジョースターが倒している。
……バイタリティだけはどこまでもある。あの時代の貧民街育ちとはそういうものなのだ。
「
「あはは…イメージチェンジ…ってやつ?」
教室に戻った瞬間、委員長の悲鳴と他の生徒たちの阿鼻叫喚で一気に鼓膜が死んだ。もちろん比喩表現だ。
わらわらと突然の断髪に顔を青ざめさせる委員長、それから話したこともないクラスメイトたちの様子に、本当にどうしようもないことに緩む頰を止められなかった。
心配されて嬉しいなんて、私ってばガキくさくって嫌になっちゃう。
スタンド名ー
触れたものを吸収する性質を持つ不定型のスタンド。内部の空間から吸収したモノを取り出せるのは本体のみのようである。
発現したてのため能力についてはわかっていないことが多い。
破壊力ーE
スピードーA
射程ーB
持続力ーC
機密動作性ーB
成長性ーA