吸血鬼の娘でも星を見つめたい   作:あん仔

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VS吊られた男

 

 

 ホテルで確認すると殴られた腹部は真っ赤に腫れていた。

 背中にもゴンドラの窓を割ったときの裂傷がいくつかあったようで上着を脱ぎ下着姿となって治療してもらった。

 波紋なら痕も残らず治療できるだろう。

 とはいえさすがのジョースターさんも真顔で無言の治療である。いつものようにジョーク連発で空気を温めて欲しい。

 ジョースター家は庇護すべき女性や子供には比較的紳士だからね。

 波紋で治療してもらい、傷跡も腫れも傍目からは見えないくらいに治った。

 わーい!

 

 

「いくら敵といえ女の子の腹部を殴るとは…」

「そもそも向こうはこっちを殺しにきてるんですから、そこに男も女もないでしょ」

「そうはいってもの〜〜…」

「死ななきゃ易いってやつですよ。治ったし、このくらい平気平気ッ」

「オ〜ノ〜ッ…ジャパニーズ覚悟キマリすぎじゃろォ〜……」

 

 

 ムン、と力こぶを作るポーズをして、浮かない顔のジョースターさんに元気ですアピールをしておく。

 こんなので日本に強制送還とか笑えない。私にだってエジプトを目指す理由があるのだ。

 

 

「ありがとうございます」

「なに礼には及ばんよ」

 

 

 治療のために持ち上げていたアンダーシャツを下ろして、セーラー服を着直す。

 

 

「やっと解放されたぜェ〜〜!!!」

「おっポルナレフ。やっと釈放されたのか」

「おうっ、財団に話通してくれてメルシー! ジョースターさん!」

 

 

 とにかく明るいポルナレフの登場で空気が変わってくれた。

 ポルナレフってこういうムードメーカーな部分があるからデリカシーはないけど憎めない奴なんだよなァ〜。

 

 

「フ〜ム、これで全員揃ったことじゃし、釈放記念も兼ねてどっかメシでも行こうかの〜」

「おっいいねェ! さっすがジョースターさんだ、ヨッ太っ腹ァ!」

「太っとらんわい! ったく調子のいい奴じゃなァ…エコー、無理やり帰そうとは思っとらんから安心なさい」

 

 

 ジョースターさんに肩を叩かれ、お見通しだったらしいと苦笑した。

 

 アメリカの不動産王が選ぶシンガポールのおすすめレストラン♪ で舌鼓を打ち翌日を迎える。

 腹パンされつつも空条先輩にわがままを言ってどうにか一緒におつかいクエストをクリアした切符で一行は列車へ乗り込んだ。

 発車間際までは駅にいたはずのアンの姿が見えず、少し心配が浮かんだけど、まああの子なら一人でもなんとなくやって行けるだろうな。

 ああいうバイタリティ溢れる人間というのは、そんじゃあそこらの出来事に遭ってもどうにか生き延びるものなのでな。

 

 

 

「あのガキ…どうもお父さんに会いにきたってのが嘘くせーんだよな。ただの浮浪児だぜ……ありゃあ。ま…いないとちょいと寂しい気もするが……な、JOJO」

「……」

「ほんと〜! アンがいないとサビシ〜! ムキムキばっかでむさ苦し〜!」

「あんだよッ! そりゃあ男ん中に女の子一人じゃあ心細いかもしれねーけどよ! むさ苦し〜とまで言うこたあねーだろおがッエコーッ!」

 

 

 暗にあの子絶対JOJOに惚れてたぜ〜と仄めかすポルナレフへ意味深な笑いを返している空条先輩。どういう感情なのかは分からない。

 割って入った私にポルナレフがムッと顔をしかめて、自分の二の腕に力こぶを作りパァンッと手のひらで勢いよく叩いてくる。

 

 

「それによ、この筋肉はこれまで必死に鍛えてきた証みてーなもんなんだぜ? この筋肉で何人の女の子をうっとりさせてきたか分からねだろーなァ、お嬢ちゃんにはよお」

「え〜…そういうこと言っちゃう?」

「言っちゃうもんねェ〜! エコー、おめえはもうちと食ったほうがいいぜ。じゃねえと育つとこも育たねえからな、クク」

「おっセクハラか? 死ぬかよテメー」

「そう怒んなよォ〜、プクク」

 

 

 下世話なにやけ顔で胸の前で手のひらで山を描くジェスチャーをするポルナレフである。

 こいつほんっとデリカシーねえな……。まあ先にむさ苦しいだの言い始めたのは私だけども。

 

 

「本当に下品な奴だ……しかし、シンガポールでのスタンドだが全く嫌な気分だな。僕そのものに化けるスタンドなんて……」

「ホテルを出るときからもうすでに変身していたらしい」

 

 

 口をわざとらしく食堂車のメニュー表で覆って器用に目だけで煽ってくるポルナレフを尻目に花京院と空条先輩が昨日のスタンド使いの話をしていた。

 まァそうよね〜とポルナレフからメニューを奪い取る。

 

 

「コーヒーでも飲もうかな…」

「おっ俺のもついでに頼むぜェ〜エコー」

「へいへい」

 

 

 メニュー表から乗務員にコーヒーを二杯、注文する。

 

 

「日本での食後のコーヒー文化はフランス料理から伝わったらしいよ〜」

「ほォ〜、ま、確かに食後にゃコーヒーを飲むことが多いもんなァ」

 

 

 しばらくして運ばれてきた並々とブラックコーヒーが注がれたカップに、なんて言いながら口をつけたのはポルナレフと同時だった。

 口に含んだ瞬間、舌の上に熱さと予想外の甘さが広がる。

 

 

「ングフッッ」

「甘ェッッ!」

「汚いッちょっと飛ばさないでよッ!」

「仕方ねえだろッ、んだこれ甘すぎんだろッ!? おいエコー! ちゃんとブラックコーヒーって頼んだんだろうなッ!!?」

「頼みましたァ〜〜!!!」

 

 

 ぶーっとギャグ漫画よろしくポルナレフが吹き出したので背もたれに背中を預けて、ポルナレフから距離を取った。

 口の端からコーヒーを滴らせるポルナレフへメニュー表を見せる。

 

 

「ちゃんとミルクなしで頼んだっつーの!」

「ミルクなしでこんなに甘くなっかァ!」

 

 

 ぎゃんぎゃん騒ぐポルナレフに私も連られてついつい叫び返してしまった。

 落ち着け落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない。

 

 

「そう騒いでどうした、お前たち」

「アヴドゥル! 聞いてくれよ、コーヒー注文に失敗してやんの!」

「失敗してないって言ってんだろーがァ!」

「ああ…はは、コピにやられたか。慣れていないとそうなっても仕方ない」

 

 

 騒ぎを聞きつけたアヴドゥルがやって来る。なんでもシンガポールのコーヒー、コピは焙煎の段階で砂糖とバターを使うらしく元々甘いものらしい。

 そして私が注文したのはミルク(練乳)なしのコピ オ(砂糖いりコーヒー)…元から甘いのに加えて砂糖入りというわけでそりゃあ甘いわなと…。

 

 

「無糖のブラックコーヒーが飲みたかったらコピ オ コソンと頼むんだったな」

「…こんなの完全に罠じゃん」

「コピ オ コソンな、覚えたぜェ…! もう二度と間違えねえ……!」

「ま…私は甘いってわかってたら普通に飲めるけど」

「嘘だろエコー!」

「へっへ〜ん、せいぜい苦しめポルナレフ。いちど口をつけたんならきちんと飲みきれよな!」

「ちくしょ〜……」

「そう言うなポルナレフ。コピも慣れれば美味いもんだぞ。どれわたしもコピを頼もうか」

「じゃあ私も二杯目はコピにしちゃお」

「正気かよォ〜エコー! ミルクなしでもゲロ甘なのによォ〜…!」

 

 

 顔をしかめてカップを持ち上げるポルナレフに中指…ではなく舌を出すジェスチャーに留めておく。女の子にセクハラかました罰が当たったなへっへっ、ざまあみやがれ。

 ついでにコピを頼むというアヴドゥルに便乗してノーマルコピも飲んでみようという気になった。甘いとわかっていれば全然飲めそうって感じ。

 甘いものは別腹だからね。

 

 

「賑やかじゃなあ…コピかァ、ワシも頼んでみよ〜っと」

「いいですね、なら僕も…承太郎はどうする?」

「……俺も一杯いっとくか」

 

 

 そんなやりとりをしつつ列車に揺られ、さらに船を乗り継ぎ数日かけてインドのカルカッタ目前まで近づいた。

 確かにインドはいい噂を聞かないですね〜。

 実は初インドだと不安そうにするジョースターさんへアヴドゥルが微笑んだ。

 

 

「心配ないです。みんな素朴な国民のいい国です……わたしが保証しますよ…さあ! カルカッタです。出発しましょう」

 

 

 バクシーシ! バクシーシ!

 パパーッブーッブーッパパーッ!!

 

 まず人の多さに目を回し、囲むその勢いに声も出ないほど驚いた。

 ひとまずアブドゥルの背後について器用に物乞いを避けて歩くそのあとを追う。

 

 

「こら! ハナをつけるなハナを!」

「あ…アブドゥル…これがインドか?」

「ね! いい国でしょう? ()()()()()いいんですよ! ()()()!」

 

 

 はっはっは、と声をあげて笑うアブドゥル。意外とお茶目〜と思いました。

 ついこの一瞬でポルナレフは牛のフンを踏んづけ、花京院は財布をすられてしまったらしい。

 

 

「あ〜あ…よかったァ…花京院がスリにバックブリーカーをキメなくって……」

「だから、それは僕じゃな」

「……また偽者っつー心配はしないでよさそうだ、な」

「な、承太郎! キミまで一緒になって揶揄わないでくれ!」

 

 

 花京院にスリときたらどうしたって思い出してしまうのがシンガポールでの偽者事件である。

 わざとらしく安心したと息を吐けば珍しくノってきた空条先輩にポッポと顔を赤くしながら花京院が眉を下げた。

 私にはわかる。あれは空条先輩に揶揄われてちょっと嬉しいと思ってる顔だ。

 

 

「花京院ってそこら辺、結構初心(ウブ)よね〜」

「揶揄うならポルナレフにしてくださいよ……!」

「なんでだよッ!」

 

 

 物乞い集団を抜け、とあるレストラン。注文したチャイに口をつける。

 口の中に広がるスパイスの独特な風味とミルクの甘み。これが本場のチャイってやつかァ〜!

 

 

「要はなれですよ。なれればこの国の懐の深さがわかります」

「なかなか気に入った。いい所だぜ」

「マジか承太郎! マジに言ってんの? お前」

 

 

 私はちょっと慣れそうにないな。

 インドに慣れているアヴドゥルと旅慣れしているジョースターさんに注文を頼み、その様子を眺めているとトイレに席を立ったはずのポルナレフが慌てた様子で店の外へ飛び出していくのが見えた。

 

 

「ポルナレフ?」

「一体、どうしたんだアイツ…」

 

 

 席を立ったのは花京院とほぼ同時であった。どうやら花京院もポルナレフに気がついたらしく、ほんの一瞬視線が交差し、ともにポルナレフの元へ向かった。

 そのあとを空条先輩たちも追ってきているのがわかる。

 

 

 店の前でポルナレフは妹の仇を見つけた、と話した。それまでのお調子者らしさはすっかりナリを潜めて、妹の仇を前にした復讐者の表情を浮かべている。

 

 

「ジョースターさん、俺はここでアンタたちとは別行動を取らせてもらう」

 

 

 妹の仇が近くにいるとわかっていて襲われるのを待つのは性に合わないと、ポルナレフは告げた。こっちから探し出してぶっ殺してやる、とも。

 

 敵の顔もスタンドもわかっていないのに単独行動をとるのは軽率ではないかとも思うけど仇を前にした人間がそう冷静に判断が出来るとも思えない。

 

 

「こいつはミイラとりがミイラになるな! ポルナレフ、別行動は許さんぞ!」

「なんだと!」

 

 

 止めようとするアヴドゥルとポルナレフの言い合いがだんだんとエスカレートして、空気も張り詰めたものに変わっていく。

 朝までの和やかさが幻か何かだったみたいだ。

 

 結局ポルナレフは去ってしまう。アヴドゥルでダメなら他の誰にも止めることは出来ないだろうなァ、とも思うわけ。

 

 

 とはいえ、ひたすらに空気が重い。今日の宿の手配と、現在地などを財団へ連絡するというジョースターさんのあとをついていく。

 ホテルに着いて、おそらく財団と連絡をするジョースターさんを待っていた。

 

 

「……すみません、ジョースターさん」

「どうしたアヴドゥル! ……いや言いたいことは分かっておる。行ってやれ」

「申し訳ない、ですがあの阿呆を放っておくことも出来ない…ッ!」

 

 

 そうアヴドゥルはポルナレフを追い離脱した。

 

 

「……すみません、僕もアヴドゥルさんと一緒に行きます……ッ!」

 

 

 その背中をさらに意を決した花京院が追っていく。祖父孫と後に残される。受話器を片手に目を丸くジョースターさんと無言のままの空条先輩と顔を見合わせた。

 それからジョースターさんの電話が終わるのを待ち離脱した2人のあとを追って私たちも駆け出した。

 

 

「まったくアヴドゥルも花京院も若いのォ」

「ジョースターさん顔が笑ってますよ」

「やれやれ」

 

 

 そしてあとを追い、ポルナレフを探す先で額に穴をあけ意識もなく倒れるアヴドゥルを見つけたのである。

 ジョースターさんが躊躇いなく地面に膝をつき波紋でアヴドゥルの治療をしていく。

 

 

「……ぅ、じょーす、たーさん…」

「アヴドゥル!! 気づいたか…! 何があった!」

「水溜まりの中に潜んでいた、スタンド…と銃のスタンドを持つ男と交戦、しました……」

 

 

 額から血を流しながらどうにか生命を取り留めたアヴドゥルが息も絶え絶えに状況を話してくれた。

 水溜まりの中にスタンドがいて、背中を刺されたところを西部劇のガンマンのような格好をした男の銃型のスタンドで額を撃たれた。

 それホルホースじゃん。

 なんかよう分からんけど、アレ。何かがあれば仲間になってたとか作者が言ってたとか言わなかったとかいや知らんけど。

 なんにせよ二次創作知識だから実際どうかはわからんけど…!

 

 

「うむ、これで敵はアヴドゥルを死んだと思っている、か。急じゃがちょうどいい、利用させてもらおうか」

「なるほど内密で頼みたいことがあるのですね…!」

 

 

 目に不敵な光を宿すジョースターさんへ息も絶え絶えながらアヴドゥルがニヤリと笑いを返した。

 付き合いが長いからこその阿吽だろう。

 そのまま作戦会議へ移行した大人二人を尻目に、私はソワソワとしてしまう。

 

 

「どうした」

「ポルナレフと花京院は大丈夫かなって」

「……花京院がいるならポルナレフも早々無茶はしねえだろうよ。それにアイツ()やるときには〝やる〟奴だからな」

 

 

 珍しく励ますような言葉に、ついつい口角が緩んでしまうのを手で隠した。

 最強のスタンド使いにそう言われている相手にこれ以上の心配はむしろ失礼だろうなあ。

 それに花京院とポルナレフの実力が確かなことは私だって知っている。

 ふと思い立ち、かなり高い位置にある暗めのグリーンの瞳をじっと見上げた。

 

 

「なんだ」

「船のスタンドのときも思ったんですけど……空条先輩って意外と優しいですよね」

「あ?」

「ほら、水兵が死んじゃったときアンの目を塞いでたじゃあないですか? あのとき意外と優しいところあるんだ〜って見直してたって思ったんですよねェ。な〜んて言う機会は多分これから一生こないと思うんで、いまのうちに言っときます」

「……」

 

 

 テヘと舌を出しながらいつだかに抱いた気持ちを空条先輩へと伝える。眉間に皺を作り顔をしかめる空条先輩に今度こそ堪えきれず吹き出してしまった。

 私の反応が気に食わなかったのか、空条先輩は体ごと背中を向けると帽子のつばを深く被り直してしまう。

 これは…もしかして…照れているのでは? なんて勝手に思っておくことにする。

 

 

「ンな話してる場合じゃあねえだろうが」

「先輩が花京院がいればポルナレフは平気だろって言ったんでしょ」

「やれやれ…」

 

 

 しばらくして財団が到着し、負傷したアブドゥルを連れていく。大人の作戦会議も終わったようで、こちらを振り向いたジョースターさんはいつもの陽気な笑顔を浮かべてピースをしていた。

 

 

「よし、花京院とポルナレフを追うぞ」

「ああ」

「はい」

 

 

 一転真剣な顔に変わったジョースターさんの念写で居場所を探りながら2人を今度こそ探しに向かったのである。

 

 

 

「ああ、それとアヴドゥルは死んだことになっておるから、話は合わせてくれい」

 

 

 そして追いついてすぐにポルナレフたちに迫っていたガンマン風の男へ空条先輩が殴りつけるも謎の女の登場に邪魔され逃げられてしまった。

 あのガンマンがホルホース。もし万が一味方になれそうなら、一応スカウトとかしといてもいいかもしれない。

 今はアヴドゥルをアイツが殺したことになっているから、アヴドゥルの件が落ち着いたら話してみようか、なんて思う。

 

 

「さあ! エジプトへの旅を再開しようぜ! いいか! DIOを倒すにはよ、みんなの心を一つにするんだぜ。ひとりでも勝手なことをするとよ! 奴らはそこにつけ込んでくるからよ、いいなッ!」

 

 

 お前が言うなというポルナレフの宣言だけど、アヴドゥルの犠牲で得たポルナレフなりの教訓かもしれないからねえ…。言わないでおこう。

 

 

 カルカッタから聖地ベナレスまではバスで移動する、らしい。ベナレスで車を買って、パキスタンへは陸路で向かうそうだ。

 旅慣れしてるジョースターさんに全部お任せしたい所存であります。なにはともあれ一緒に来てよかったな。

 

 

吊られた男戦

 〜完〜

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